DQ3 そして現実へ… (リュカ伝その2)
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自分らしさを持続して
<海上>
アルル達はサマンオサで、シルバーオーブに付いての情報を入手した。
シルバーオーブは『ネクロゴンドの洞窟』を抜けた先の祠に有るという…
しかしネクロゴンドは、高い山々に囲まれた場所にあり、10年ほど前まで唯一通行出来た道も、火山の影響で塞がり人の進入を拒み続ける土地と言う…
だが、ネクロゴンド地方へ進入出来る方法を知っている人物も、サマンオサには居た。
夫婦で囚われていた元兵士…現在、近衛隊長として復職したチャールズである。
彼の情報では、アリアハンの勇者オルテガと時を同じく旅立った、サマンオサの勇者『サイモン』が、その方法を見つけたと言う…
しかしサイモンは旅の途中、敵の罠に掛かり、無実であるにも拘わらず『祠の牢獄』に投獄されて、命を落としたと言われている…
そんなわけでアルル達は今、ロマリアの東…アッサラームの北の海に浮かぶ『祠の牢獄』に向かう為、ジパング北の祠から船で向かっているのだ。
「ア・ル・ル・さ・ま♥…サマンオサ行きも無駄では無かったでしょう?シルバーオーブの情報を入手出来ましたのですわよ!」
マリーはサマンオサ行きを嫌がっていたアルルをからかう様に、シルバーオーブの情報をひけらかす。
「マリー…アルルを苛めるのは止めなよ…誰だって分からなかったんだから!」
「でもでもウルフ!アルル様は『無駄な事』って言ってたんですわよ!世の中に無駄な事なんて無いんです!『急がば回れ』って諺もあるんですから!」
アルルを苛めるマリーを宥めるウルフ…
二人は『サマンオサ南の洞窟』での一件以来、急激に距離が縮まった様で、互いの名を呼び捨てにする様になった。
「分かったわよ!サマンオサへ行った事は無駄じゃ無かったわ!サマンオサの人々を救う事も出来たし……でも私が言いたいのは、幽霊船探しが無用だと言ってるの!」
「いいえ、無用な事などありませんわ!幽霊船を探索すれば、また新たな情報などが入手出来るに違い有りません!」
「憶測じゃない!」
「断言しますわ!幽霊船を探索した後、私とアルル様は今と同じ様な会話をする事になりますわ!」
船の上で口論を続けるアルルとマリー…
必然的に二人を宥める役回りなのは、互いの彼氏だ!
女性二人の間に入り、「まぁまぁ」とか「落ち着いて」とか…
そんな子供達の微笑ましい(?)光景に目を瞑り、妻を伴って人気の居ない船倉へと移動するリュカ…
「なぁに…こんな所へ連れ込んで?私達夫婦なのだから、こんな所じゃなくたって良いのよ♡」
人目を憚ってリュカと二人きり…そんな状況にテンションが上がってしまったビアンカは、自ら身体を擦り寄せてリュカの事を誘い始める。
「ビアンカ、あのね…とっても真面目な話があるんだ!」
胸を腕に押し当てても、身体を離し真面目な表情で語るリュカ…
ビアンカも直ぐに察し、神妙な面持ちに切り替える。
「何…真面目な話って?」
「うん…マリーの事なんだけど、その前に僕自身の事を話したい!」
リュカは自ら話したいと言ったのにも拘わらず、かなりの戸惑いを含みながらの語りとなっている。
「僕はね…父パパスと、母マーサの間に生まれたリュカという男だ…でも僕には、もう一つの人生が存在する………リュカとして生まれる前の人生が!」
「………リュ、リュカ?言ってる意味が…」
「つまり僕には前世の記憶が残っているんだ!…それ程突飛な人生では無かったけど、普通に学校へ行き、会社へ行き、恋をし、楽しみ、苦しみ、希望を持ち、絶望を知り、挫け、立ち直る……そんな人生の記憶が、生まれながら有ったんだ!」
「つまり…リュカはリュカじゃないって事?」
「違う!僕はリュカだ!ビアンカの事を愛しているリュカという男だ!…ビアンカは子供の頃、僕の事を見て『大人びた言動がある』って思った事無い?」
「有るわよ…」
「それは既に心が大人だったからなんだ…心は大人だけど、身体は子供…だから子供を演じていたんだ…でもビアンカを騙したかったわけじゃないよ!見た目子供が『僕の心は大人ですから』って言っても、誰も信じないだろ!?頭がおかしいと思われるだけだろ!?だから子供を演じてたんだ。ビアンカ…僕の事嫌いになっちゃった?」
真実を打ち明け、今にも泣きそうな瞳でビアンカを見つめるリュカ…
「バカ…私がリュカを嫌いになるわけないでしょ!………でも一つだけ質問が……リュカ子供の頃シスター・フレアの胸に抱き付いていたけど、あれは子供の無邪気さを演じていたの?」
「………いえ、巨乳が大好きなので………」
「あはははは、本当にスケベねぇ………うん、私の大好きなリュカだ!」
ビアンカはリュカの頭を抱き締め、自らの胸に押し当てパフパフする…
そして1時間後…
二人は服を着直し、先程の話の続きに入る。
「…で、リュカの前世の事と、マリーの事ってどう繋がるの?」
夫婦の作業を終えて、心地よい疲労感に包まれたリュカが、真面目な表情に切り替わり、娘の事を話し出す。
「結論から言うと…マリーにも前世の記憶が有るね!あの娘、心は既に大人だよ!年齢は分からないけどね」
「まさか…」
驚くビアンカ…しかしリュカは淡々と語り続ける。
「間違いないね。しかもマリーは、この世界の…いや、この物語の結末や内容を知っているね!でないと、説明の付かない事が多すぎる!」
「た、例えば…?」
「いつの間にかレッドオーブを手に入れてたし、ジパングではヒミコをヤマタノオロチだと言ったし…」
「ヒミコに関してはリュカがモンスターだと…「そうだ、モンスターとしか言って無い!本当にヤマタノオロチでビックリしたぐらいだ!」
「でも何でこの物語を知ってるの?」
「きっとマリーの前世で、この物語を読んだんだろうね…ただ、実際にはマリーという異分子が入り込んだ事で、マリーの知っている物語とは若干の相違が有るのだろうけど…節目節目では違いが無いだろうから、確信して行動していると思うよ」
「………分かったわ…リュカが言うなら本当なんでしょう…でも、それが何?前世の記憶が有るから、マリーは私達の娘じゃないなんて言わないわよね!?」
「怒るよ!僕は子供達全員に、僕なりだが愛情を注いできたつもりだ!マリーも例外じゃ無いし、これからも僕の娘として愛するつもりだ!」
「じゃぁ別に良いじゃない!あの娘の心が大人でも…」
「ダメなんだ…心が大人と言っても、肉体的成長に伴った大人であって、精神的には我が儘な子供なんだよ…それが最近になって分かってきたんだ…」
この夫婦以外、誰も居ない船倉にリュカの悲痛な呟きが木霊する…
何がダメなのか…リュカは何を言いたいのか…
ビアンカにはまだ分からない。
だが彼女にも分かる事がある…
リュカはマリーを愛してる…
掛け替えのない娘として、惜しみない愛情を注いでいる…
だから静かに話を聞くのだ…
ビアンカはリュカの事を信じているから。
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