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水の国の王は転生者

作者:Dellas
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第七十七話 王都の地下世界

 トリスタニア地下探索作戦が発動し、コマンド隊は未知の地下迷宮へと突入した。

 地下は石造りの通路が迷路の様になっていて、ウォーター・ビットのマッピング能力が無ければ瞬く間に迷ってしまう規模だった。

 コマンド隊全員に魔法のランプとウォーター・ビット入りの水筒が配られ、万が一部隊とはぐれても探索を続行できた。

 アニエス達の分隊も突入し、魔法のランプで通路を照らしながら進んだ。現在マッピングの真っ最中で、通信係を請け負ったアニエスは、ウォーター・ビットで得た情報を分隊長のデヴィットに報告していた。

「現在、地下50メイルの地点です。各分隊も異常なしとの事です」

「了解した。さらに奥へ進む」

「了解」

 アニエス達は奥へと進もうとすると、分隊員のジャックがピタリと足を止め天井を向いた。

「ジャックさん、どうしたんスか?」

「子供の声が聞こえた」

「なに?」

「何も聞こえませんでしたよ?」

 デヴィットとアニエスも足を止め、ジャックの方を向いた。

「聞き間違えじゃ無いんですか?」

「……いや、確かに聞こえた」

「風の音が子供の声に聞こえたとか……」

「いや、聞き間違えたりはしない」

 ヒューゴの問いにジャックは簡潔に答えた。

「念の為、本部に連絡しましょうか」

「そうだな、アニエス頼む」

「了解」

 アニエスは、ウォーター・ビット入りの水筒を取り出して、未確認情報として子供の存在を本部に知らせた。







                      ☆        ☆        ☆






 古い倉庫部屋の秘密の入り口から、地下に滑り落ちたアンリエッタとルイズは、真っ暗な通路を『ライト』で照らしながら地下へ地下へと降りていった。

 最初こそアンリエッタは怖がっていたものの、今では王宮での退屈を紛らわす大冒険に心を躍らせていた。

「さあ! 伝説の迷宮を争覇するわよ!」

「ジメジメしてて気持ち悪いわ」

 威勢よく言ったアンリエッタだったが、楽しい好奇心を満足させる探検は、時間が経ち地底深く進むにつれ二人に会話は無くなっていった。

 やがてアンリエッタに、ある問題が浮き上がった。
 アンリエッタは長時間『ライト』で迷宮を照らしていた為、精神切れを起こし始めていた。

「……はぁ、はぁ」

「……アン、大丈夫?」

「ちょっと休ませて」

 アンリエッタは床に腰を下ろすと『ライト』を切ってしまった。
 当然、通路は暗闇に包まれる。

「アン、真っ暗よ!」

「分かっているわよ。でも、休まないと私が精神切れを起こして倒れちゃうわ」

「ううう……ちいねえさまぁ」

 ルイズはアンリエッタにしがみ付いて、目を瞑って震えていた。

「何よルイズ。やっぱり怖いんじゃない」

「ううっ、うるさいわね! 怖いわよ! 怖くて仕方ないのよバカァ!!」

 ルイズは涙をこぼして喚き散らした。

「私も悪いと思ってるわよ……」

「やっぱり来るんじゃなかったわ!」

 暗闇の中、恐怖に震えながら30分程抱き合っていた。

 そんな時、ルイズが暗闇の中からあるものを見つけた。

「あ」

「どうしたのルイズ?」

「何か光が見えた」

「え!?」

 アンリエッタが辺りを見渡すと、通路の奥から薄っすらと光が見えた。

「誰かいるんだわ!」

「私たち助かるのね!?」

 二人は疲れ切った身体を押して光の方向へ走り出した。
 光はどんどん近づいてくる。

「誰か! そこに誰か居るの!?」

 通路の向こうの光が希望の光に見えたアンリエッタ達は、声を張り上げて光を追った。

 だが……

 スカッ

「誰か……あれぇ?」

 明るく広い空間に出たと思った矢先、アンリエッタ達は在る筈の地面が無いことに気が付いた。

「お、落ち……!」

「アン!」

 ルイズは落ちるアンリエッタの腕にしがみ付く、が……

「きゃあああぁぁぁ~~~!」

「また落ちるのぉぉ~~~!?」

 ルイズの細腕ではアンリエッタを支えられず、二人諸共巻き込まれて落ちていった。







                      ☆        ☆        ☆







 一方、王宮ではアンリエッタとルイズが行方不明になった事で騒然となっていた。

 用事を終えた戻ってきたカトレアは、二人の行方不明を聞き家臣達を集めて情報を集めていた。

「誰も二人を見た方は居ないのですか?」

「申し訳ございません」

「数人掛かりで二人を見張ってたのですが、いつの間にか見失ってしまい……」

 カトレアは使用人たちに二人の安否を聞いたが良い返事は得られない。

「ああ、なんていう事でしょう……」

「王妃殿下、ここは陛下に、ご報告をすべきかと思われます」

「そうですね、お願いします」

 カトレアは頭を下げると、家臣は恐縮しながら報告の為に部屋を出た。

「ルイズ、アンリエッタ……どうか無事でいて」

 カトレアは祈るように退出する家臣を見送ると、スカートの裾を持ち上げ窓際に走った。」

「王妃殿下どちらへ行かれるのです?」

「フレールに頼んで空から探してもらいます」

 カトレアが窓際までやって来ると、サンダーバードのフレールが忠臣の如く、素早く飛んで来た。

「フレールお願いね!」

『クェッ!』

 使い魔はルーンで主と繋がっている為か、直接命令しなくてもフレールは空へ舞い上がり、上空から二人を探し始めた。

「空はフレールに任せて、わたし達も二人を探しましょう」

「大至急、人を集めてきます」

「お願いねミシェル」

 ミシェルが人集めに部屋を出た。
 数十分後、フレールはトリスタニア上空を一回りするとカトレアの下へ戻ってきた。

『クェックェッ!』

「どうしたのフレール?」

『クェッ!』

 フレールの思念がルーンを通してカトレアの中に入ってくる。
 フレールは精霊を使役してトリスタニア市内を隈なく探らせると、地下でルイズとアンリエッタを見つけた、と思念を送ってきた。

「え!? 二人は地下に居るの?」

『クェッ!』

「王妃殿下、『彼』はなんと仰っているのですか」

「……二人は地下に居ると言っています。大至急、マクシミリアンさまへ続報を届けて下さい」

「畏まりました!」

 使用人が、マクシミリアンの居る新宮殿まで走り出し、カトレアもその後に続いて走り出した。

 ……

 ルイズとアンリエッタが行方不明の報と、その二人が地下に居るという二つの報は、同時に新宮殿の司令室にもたらされた。

 司令室はにわかに慌しくなり参謀達が、地下に潜ったコマンド隊の各分隊にルイズとアンリエッタが地下で行方不明になった旨を伝えた。

 マクシミリアンは行方不明の第一報を聞くと、助けに行きたくて居ても立ってもいられなくなったが、家臣達の諌言で踏みとどまった。

(ああクソッ! 王様ってメンドクセェェェ~~~~!!)

 飛んででも助けに行きたいマクシミリアンは、どうする事もできず心の中で当り散らす。

「陛下、先発のコマンド各分隊への通達完了いたしました」

「うん、ご苦労」

 内心では、嵐の様な騒ぎだったが、表面上は何事も無かったかのように返した。

「陛下。魔法衛士隊が到着しました!」

「分かった。用意が出来次第、地下に入るように命令してくれ」

「御意!」

 そして、司令室中央奥の上座に座ると、何やら考え出し動かなくなった。

「そうだ。後続の魔法衛士隊に追伸。二人を無事助け出して欲しい、各員の奮闘努力に期待する事大だ……とな」

「御意!」

「陛下のご期待に必ずや添ってご覧に入れます」

 ジェミニ兄弟やグリアルモントら司令室詰めの家臣達は、マクシミリアンに跪いた。
 参謀達は直ちに増援の準備を始め、編成はグリアルモントらの工兵と魔法衛士のマンティコア隊が突入する運びとなった。






                      ☆        ☆        ☆







 アニエスの分隊にもルイズとアンリエッタが地下迷宮で行方不明の情報が入った。

「前にジャックさんが聞いた子供の声は、聞き間違いじゃなかったんですね」

「そのようだな。ウォーター・ビットからの新しい命令書では探索を中断して、御二方を至急保護せよと言って来た」

「了解したっす」

「予備のウォーター・ビットを放ち情報収集をさせましょう」

「うむ、私もそれを考えていた。アニエス、ウォーター・ビットを3つ放て」

「了解」

 アニエスは三つの革製の水筒の封を開けた。
 水筒の口からウォーター・ビットが飛び出し、迷宮へと散って行った。

「各分隊も同じようにウォーター・ビットを放って偵察を開始したようです」

「よし、我々も王妹殿下の捜索に向かおう」

「了解」

 デヴィット達はウォーター・ビットから送られる情報を見ながらルイズ達の捜索を開始した。

 ……ルイズとアンリエッタの姿を求めて彼是三時間ほど過ぎただろうか。

 司令室では、各分隊のウォーター・ビットから得られた情報を照会しながらローラー作戦を実行し、地下迷宮の奥へ奥へを進み続けた。

「地上から100メイルの地面に到達しました」

「王妹殿下はまだ見つからないのか」

「未だ発見の情報はありません」

 デヴィットとアニエスが話していると、ジャックがまたも急に立ち止まった。

「ジャックさん。また何か聞こえましたか?」

「分からんが悲鳴だった」

「え!?」

「近いぞ」

 言うや否やジャックは駆け出し、デヴィット、アニエス、ヒューゴの三人は後に続いた

 湿気の強い通路を右へ左へ方向を変えながら進むと、薄っすらと明かりの灯る巨大な空洞へ出た。

「な、なんだここは!?」

 デヴィットは、地下の巨大な空間に呆気に取られた。
 某ドーム球場十個分の広さで、天井には数百数千を越す数の魔法のランプが立てられ照明となっていて、壁には何かの神殿の様な装飾が施されていた。

「一体、何百、いや何千年前の建物なんだ?」

「分かりません。ですが地下にこの様な場所があるとは聞いた事がないです」

 アニエス達は呆気に取られていると、

「誰か助けて!」

 と聴き覚えのある声が助けを求めていた。

「アンリエッタ様!!」

「!? アニエス? 助けてアニエス!!」

 一人正気に戻ったアニエスはアンリエッタの助けに応える。

「そうだ、王妹殿下をお救いせねば。アニエス、王妹殿下のお声は何処から聞こえた?」

「この神殿の向こう側です」

「遠いな」

 デヴィットらはアンリエッタ達を探す為に、魔法のランプで巨大な空間の対岸側を照らすが広すぎて薄っすらとしか分からなかった。

 デヴィットが先行して薄暗い神殿を進むと、迷宮と神殿を結ぶ出入り口から100メイルしない地点の床が無く、慌てて『レビテーション』を唱えなければ、奈落の底に真っ逆さまに落ちていたところだった。

「う、注意! 足元注意!」

「え? うわ!?」

 天井ばかり見ていた他の3人は、デヴィットの警告で、進行方向の床が無いことにようやく気が付いた。

 四人が立っていた場所の先に、石造りの桟橋のよう場所があり、四人は警戒しながら桟橋を進み、桟橋の切れ間から顔を出して下を覗くと『奈落』という言葉がピッタリな暗闇があった。

「そそ、底が見えない……!」

「足元に注意だ。落ちたら命が無いぞ」

「王妹殿下は?」

「……居られました。対岸側、10字の方向のやや下方に居られます」

 ジャックの言うとおり、アンリエッタとルイズは、奈落へと落ちる途中に出来た窪みの中に抱き合ってしがみ付いていた。
 だが、デヴィット達とアンリエッタ達との間には空洞一杯に広がる奈落の底があり、唯一の足場は風化して今にも壊れそうな石の桟橋しかなかった。

「一度迷宮に戻り、王妹殿下側の所へ迂回しますか?」

「この巨大な空洞を迂回するにはかなりの時間が掛かりそうだ。ヒューゴ、クロスボウの準備をしてくれ」

「了解っす」

「アニエスは本部に連絡、『アンリエッタ王妹殿下とルイズ・フランソーズ様を発見、これより救助活動を行う。また、地下迷宮内に巨大な人工物を発見、建造年数は不明だがかなり古く警戒を必要とする』だ。以上送れ」

「了解」

 アニエスは情報を本部へ送る。
 ヒューゴは、背負っていたリュックサックから、解体されたクロスボウと鋼鉄製のワイヤーロープが付いたの(ボルト)を取り出した。
 クロスボウでロープ付きの矢を対岸側へ撃ち付け、ロープを伝って二人を救助する算段だった。

「取り出しといてなんですが、デヴィット分隊長が魔法で飛んで救助したほうが手っ取り早いじゃ……」
 
「魔法を使用している時は片腕しか使えないからな。万が一、途中で落としてしまったら取り返しのつかないことになる」

「デヴィット分隊長。救助活動でしたら私が志願します。軽業は私の専門ですから」

「分かった。アニエス頼んだぞ。そういう訳だヒューゴ急いで用意してくれ」

「了解っす」

 言うやヒューゴはクロスボウを手早く組み立てると、矢を装填しアンリエッタとルイズの居る窪みの上方に放った。

 矢は二つの石ブロックの間に突き刺さり、見事固定された。

「よっ」

 ヒューゴは、矢がちゃんと固定されているか引っ張って確かめ固定されていると確認すると、足元の床に鉄製の杭を打ち込みロープを固定した。

 たちまち、アニエス達とアンリエッタ達の間にワイヤーロープが繋がった。

「こっちは準備完了だ」

「こららも準備完了です」

 アニエスの戦闘服には命綱とロープにぶら下がっても両手が使えるように鉄製のキーリングが付けられていた。

「よし、救助活動開始」

「了解!」

 アニエスはキーリングにロープを装着すると、スルスルとアンリエッタらの所へ降りていった。

 ……

 派手に動いてワイヤーロープを外さないように、慎重に降りるアニエス。
 やがてアニエスは、アンリエッタとルイズがしがみ付く窪みまで到達した。

「アンリエッタ様、ルイズ・フランソワーズ様、お待たせいたしました」

「アニエス!」

「ううう……!」

 ポロポロと涙を流す二人を抱きしめるアニエス。
 持ってきた予備のロープで二人を二重三重に固定し、後はヒューゴ達に命綱を引っ張って上げて貰うだけだった。

「固定完了です!」

「よし、引っ張るぞ!」

 デヴィットらは命綱を引っ張り、アンリエッタらを抱えたアニエスを引き上げ始めた。

「ううう」

「どうしたのルイズ? 私達助かるのよ?」

 中々泣き止まないルイズにアンリエッタは声を掛けた。

「ずっと私たちのこと見てる」

「見てる? なにが見てるの? 分からないわ?」

「ずっと下になにか居て、私たちを見てるんだもん!」

「下は真っ暗で何も見えないわ」

「でも、何かいるのよ!」

 アニエスは二人の会話を聞き奈落の底へ目を向ける。

「……」

 目を凝らしても何も見えない。
 ただ、奇妙な生臭い臭気が、奈落から漂ってくるのが分かった。

「……急ぎましょう。お二方はしっかり掴まっていて下さい」

「分かったわアニエス、ルイズもしっかり掴まっていなさい」

「……うん」

 改めて二人はアニエスの身体にしがみ付く。
 命綱を引っ張られながら、アニエスら三人は、空洞のちょうどど真ん中辺りまでたどり着いた。

 その時……

 ……ゴモォ

「……んん?」

 ロープを伝っていたアニエスは、奈落の底の空気が一段ほど競り上がった様な、変な感覚を受けた。

 その感覚はルイズやロープを引っ張っていたジャックも受けた様だった

「どうしたんですかジャックさん」

「……」

 ジャックは持っていた魔法のランプを奈落へ向けてかざした。
 だが、ランプの光は周辺を明るくするだけで奈落の底を見る事ができない。
 ジャックは魔法のランプを、奈落へ向けて放り捨てた。

「ああ、もったいない」

「二人とも何をやっているんだ。早く引っ張らんか」

「いえね、分隊長。ジャックさんが……」

 魔法のランプはゆっくりと奈落の底へ落ちて行き、そしてランプの光も遠く消えてゆく……と思われた。

「ランプの光が」

「止まった」

 暗闇の中へ落ちてゆくと思われた魔法のランプは、闇の中で突如止まった。

 再び、ゴモォという、ぬめった水音の不快な音が聞こえ、奈落の底から『奇妙なもの』浮き上がってきた。

「巨大スライム!?」

 ジャックが落とした魔法のランプで、奇妙なものの姿が見えた。

「なんだがやばそうだ。早いところ救助してしまおう」

「了解っす」

 三人は急いでロープを引っ張った。

「もう少しだ!」

 奈落から競り上がるスライムはとてつもなく巨大で、空洞一杯に広がる奈落の底全体から巨大スライムがせり上がって来た。
 
「アンリエッタ様、もう間もなくです!」

「ありがとうアニエス。私は大丈夫よ」

「ルイズ様ももう少しですから頑張って下さい」

「う、うん!」

 ようやく三人は桟橋のところにたどり着いた。

「ルイズから先に引っ張り上げてちょうだい。私は後で良いわ」

「畏まりました王妹殿下」

 アンリエッタに従いルイズから救助を開始する。

 ジャックは、アニエスの身体に固定されていたルイズを引き上げ桟橋の上に降ろした。

「次は王妹殿下です」

「うん、アニエスありがとう!」

 アンリエッタはアニエスに礼を言うと、ジャックに持ち上げられ、ルイズと同じように桟橋の上の降ろされた。

「救助完了! 直ちに脱出する」

「本部へ救助の完了と、巨大スライムの出現の報告を終えたっす」

「分かった。アニエス早く上がれ、脱出する!」

「了解!」

 アニエスが桟橋に手を着くのと、巨大スライムが粘液を飛ばし、張られたワイヤーロープを溶かすのは同時だった。

 溶けて切れたロープの残骸は重力に従って巨大スライムの上に落ち、瞬く間に溶かしてしまった。

「ヒューッ! 危ねぇ……」

「鋼鉄製のロープが溶けぞ!」

「急げ脱出だ! それと本部と各部隊に警報を出せ! 内容は『巨大スライムと会敵。触れるもの全てを溶かす』とな!」

 デヴィットは手早く指示を出した。

「ジャックとヒューゴはお二方を背負って地上へ脱出しろ。脇目を振るな、お二方の生存が最優先だ!」

「了解」

「了解っす」

 ジャックとヒューゴは、アンリエッタとルイズを負ぶって、再び迷宮へと脱出を始めた。

「アニエス達はどうするの? ちゃんと脱出するんでしょ?」

 アンリエッタが泣きそうな顔でジャックに聞いてきた。

「ご安心下さい。間もなく他の部隊が救援に駆けつけるでしょう」

「……分かりました。ルイズ共々、私の身柄をお預けいたします」

「ハッ! 地上まで送り届けて見せます」

 泣き顔から、凛とした表情に変わったアンリエッタに、普段は無口なジャックが珍しく雄弁に語った。

「来るぞぉぉ~~~っ!」

 デヴィットの声が空洞内に響く。
 奈落から這い上がってきた巨大スライムは、遂に桟橋にまで到達しアニエス達の所まで迫った。
 
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