水の国の王は転生者
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第七十八話 6000年前の怨念
王都トリスタニア地下を探索中に発見された謎の人工物に、有識者から強い関心が寄せられた。
「この柱の造りは、約2000年前のロタリンギア美術によく似ている……」
「かの芸術王クロヴィス2世の時代の物も多く見受けられます」
参考にと司令室に集められた考古学者達は、ウォーター・ビットから送られてきた地下神殿の画像を見て、考古学的発見の数々に興奮冷めやらぬ様子だった。
マクシミリアンは、考古学には興味があったが、今聞きたいのはそんな事ではない。
「君達を呼んだのは、この巨大スライムについて聞きたかったんだ。王都の地下にこんな化け物が居るなんて聞いた事がないぞ」
マクシミリアンは、地下の空洞を這い上がる巨大スライムの描かれた画像を手の甲で叩いた。
「これは失礼いたしました。左様でございますな……」
「古代フリース人の記述に、似たような物を見た覚えがございます」
「古代フリース人?」
マクシミリアンは鸚鵡返しに言った
「古代フリース人とは、トリステイン王国の開祖様がトリステイン王国を興す前に、この土地に住んでいた原住民でございます」
「ほう」
「もっともその古代フリース人は、開祖様に土地を追われ、何処かに姿を消したと言われております」
「……地下の人工物は古代フリース人の神殿だと?」
「いえ、それですと計算に合いません。先ほども言いましたが、地下の神殿の造りは、我が王国が建国して千年以上経った後の建造物でございます」
「……ふうん、興味深いな」
マクシミリアンは唸った。
考古学には興味があったから、巨大スライムを何とかしたら、大々的な研究を始めようと思った。
「だが、まずはこの巨大スライムを何とかしないとな。コマンド隊はどうなっている」
マクシミリアンは近くに居た参謀Aにコマンド隊の状況を聞いた。
「はっ! 現在のコマンド隊はスライムと交戦中ですが、コマンド隊の火器がスライムに通用せず効果的な攻撃方法が見つからないとの事でございます」
「場違いな工芸品が通じないっていうのか?」
「御意にございます。報告では銃弾は全てスライムの体内で止まるか貫通するだけで、スライム本体にはダメージも無いそうでございます」
「相性が悪いって事かまずいな……地下神殿と巨大スライムの出自はこの際置いておいて、魔法衛士のマンティコア隊を差し向けろ。コマンド隊にはマンティコア隊の到着まで後退させつつ遅延戦術を指示、マンティコア隊到着後はバックアップに回らせろ」
「畏まりました」
マクシミリアンの命令に参謀Aが応えた。
スライムといえば、某国民的RPGのせいで、ザコキャラと思われがちだが、実はかなり手強いモンスターだったりする。
このままではしておけない、とマクシミリアンは席を立った。
「それと、僕もこれより出陣する」
「ええっ!?」
マクシミリアンの発言に参謀Aが声を上げて驚いた。
「場違いな工芸品の武器が効かないのなら、魔法なら効果があるかもしれないし、あんな化け物を地上に出すわけには行かない。地下にいる内に退治するべきだ」
「ですが、先ほど我々に任せると仰ったばかりではございませんか」
参謀Aが、何とかマクシミリアンを留めようとするが、マクシミリアンは聞く耳を持たない。
「君達を信頼しているが状況が変わった。退治しようにも、100%魔法が通じるか分からないし、地下で大砲をぶっ放つ訳には行かないだろ?」
「おっしゃる通りでございますが……ああっ、王妃殿下!」
マクシミリアンの決定に参謀Aが苦慮していると、王妃カトレアがメイドコンビとミシェルを連れてやってきた。
「マクシミリアンさま。ルイズとアンリエッタは……」
「アンリエッタ達は救助され、現在地上を目指している」
「そうですか、良かった……」
カトレアはホッとした様に微笑んだ。
「だが、別の問題が浮上した。謎の化け物が現れんだ」
そう言ってマクシミリアンは、紙に描かれた巨大スライムの画像をカトレアに渡した。
「……このドロドロした物はなんですか?」
「地下迷宮で発見された巨大モンスターだ。報告では鋼鉄など触れるものは何でも溶かすそうだ」
「トリスタニアの地下にこんなモンスターが……」
「この化け物を地上に出すわけには行かない。僕はこれから地下迷宮に突入するつもりだ」
「マクシミリアンさま自らですか?」
「そのとおり」
参謀Aは、目立たないようにカトレアに近づいた。
ミシェルはカトレアと参謀Aとの間に割って入るが、カトレアは手を振ってそれを制した。
「王妃殿下、国王陛下とお止め下さい。陛下をお止め出来るのは王妃殿下のみでございます」
参謀Aがカトレアにマクシミリアンに止めるように乞うてきた。
もはやマクシミリアンを止められるのはカトレアだけだとこの場に居る全ての物が思った。
「後方でふんぞり返って、事の経過を見守るのが国王なら、自ら前線に立って国民を鼓舞するのも国王だ。それに、この程度の荒事、新世界で何度も体験してきたぞ」
「マクシミリアンさま……」
カトレアは少し俯いて考え事をすると、答えが決まったのかスッとマクシミリアンの方を見た。
「わたしも連れて行ってください!」
「ええぇぇぇ~~~~っ!?」
参謀Aは地球で超有名な某絵画の様な叫び声を上げた。
これぞ夫婦の阿吽の呼吸か、カトレアも一緒に地下に行くと言い出した。
「よく言ったカトレア、あんな化け物が市内に現れれば大惨事だ。一緒に来てくれるか?」
「もちろんですマクシミリアンさま」
ボロボロ涙を流す参謀Aを尻目に、マクシミリアンとカトレアは武装したセバスチャンとメイドコンビにミシェルが、先発したマンティコア隊の後を追って地下迷宮に突入した。
☆ ☆ ☆
アンリエッタ達を救出したコマンド隊だったが、巨大スライムは地上へ出る為に迷宮へ入り込み、各迷宮で戦闘か行われていた。
「本部よりマンティコア隊到着まで遅延戦術を行うように命令が出ました」
「了解した。後退しつつ遅延戦術を行う」
現場で指揮を取っていた隊長のド・ラ・レイは各分隊へ遅延戦術への変更の命令を出した。
「後退! 後退!」
「クソォ! こいつ銃が効かねぇ!」
パパパパン!
迷宮内を散発的に鳴り響く銃声。
コマンド隊が放つ銃弾は、スライムに当たっても柔らかい身体を貫通するだけで何の効果も得らず、各迷宮に散らばるコマンド隊の必死の攻撃も空しく後退するしかなかった。
……ウゾゾ
幸いスライムの動きは遅くコマンド隊の被害は皆無だが、効果的な攻撃方法が見つからなかった。
「隊長、探知榴弾を使いますか?」
「悪くないが、作られて何千年の経過した迷宮内で使えば、迷宮ごと崩れてみんな生き埋めだ」
「こんなカビと埃まみれの所で死ぬのは勘弁願いたいですね」
「もう間もなくマンティコア隊が援軍としてやってくる。魔法ならあの化け物に効くかも知れない」
「了解、もう少し踏ん張ります」
「隊長! デヴィットらの分隊が……!」
「どうした!?」
……
一方のアニエス達の分隊はというと……
「大変です! 退路にスライムが!」
「何だと……!」
アニエスらの分隊は、ルイズとアンリエッタを救助して地上に向かっていたのだったが、アニエスらの分隊のみ地下深く到達していた為に、撤退の際は各分隊と連携が取れず孤立してしまっていた。
「もう一度、地図を見て別の退路を探せ」
「了解です」
アニエスは、ウォーター・ビットで描かれた迷宮の地図を見て退路を探す。
「アニエスまだか!? これじゃ持たないぜ!」
「もう少しです! ……ええっと右右左」
アニエスが悪戦苦闘していた時、ジャックに負ぶさっていたアンリエッタが、
「一人で歩けますから、アニエスの手伝いをしてあげてください」
と言ってジャックの肩を叩いた。
ジャックはチラリとデヴィットの方を見ると、デヴィットも見ていてコクリと首を縦に振った。
「王妹殿下、すぐに逃げ出せるように準備していて下さい」
「わかりました。ルイズ、貴女も降りなさい、私達は邪魔にならないようにしていましょう」
「分かったわアン……じゃなくて姫様」
ルイズもヒューゴから降りて、アンリエッタと共に邪魔にならないように通路の隅に寄った。
「まだか、アニエス!」
デヴィットは怒鳴り気味にアニエスを急かした。
その間にもスライムは距離を縮めてくる。
「最初はこの通路を右に!」
「よし、こっちだな!?」
「王妹殿下ともお早く。アニエスはお二方に着いていてくれ」
アニエスが指示したルートを駆け、地上を目指した。
ジャックとヒューゴが戦闘に戻った事でデヴィットの負担は減ったが孤立している事に変わりは無かった。
……
一時間程かけて、アンリエッタとルイズを守りながら後退を続けたアニエスらの分隊だったが、頼みの援軍も来ず、焦燥感が増すばかりだった。
走り続けたルイズとアンリエッタは、息も絶え絶えに通路にへたり込んだ。
「はあ、はあ……もう駄目走れない」
「私も……」
その光景を見ていたデヴィットに焦りの色が見え出した。
「アニエス。お二方を抱えて走れるか?」
「はい、出来ます」
「よし、ならば特別任務だ。これからアニエスは、アンリエッタ王妹殿下とルイズ様を抱えてここから脱出しろ」
「隊長達はどうされるんですか?」
「お前達が逃げ切るまで殿を勤める」
「危険です! 一緒に逃げましょう!」
「馬鹿言っちゃいかんよ、お二方の命が最優先。それとミラン家のご令嬢の生還も優先事項の一つに入っているからな」
「……! 私もですか!?」
「そうだ、分かったら早く行け。そうでないと我々も逃げ遅れる」
デヴィットは急かすように言うと、アニエスは黙って首を縦に振った。
「了解しました。デヴィット隊長、ヒューゴさん、ジャックさん。お達者で!」
そう言うとアニエスはアンリエッタとルイズを抱えて立ち去った。
「失礼な奴だな。まるで我らが死ぬような口ぶりだ」
「俺はまだ死にたくないっすよ」
「……来るぞ」
通路の向こうからスライムが迫る。
「奴に銃は効かない。それならば『ファイア・ボール』」
デヴィットの杖から発生した火球がスライムに直撃し、ドロドロの身体を焼き焦がした。
「効いてる! 火に弱いぞ!」
暗闇の中に一つの光明を見つけたデヴィットらの士気は高い。
……
一方、アンリエッタとルイズを抱えるアニエスは、アンリエッタにナビゲートを頼み一目散に地上を目指した。
アンリエッタは、11歳と10歳の子供を担いで走るアニエスに労いの言葉を掛けた。
「アニエス大丈夫?」
「大丈夫です、アンリエッタ様。鍛えてますから」
アニエスは二人を心配させないように微笑む。
「あの、えっと……ごめんなさい」
「どうしたのルイズ?」
一緒に担がれていたルイズが突然謝り出した。
「足手まといでごめんなさい。私達がいなければこんな目に遭わずにすぐに地上へ出る事が出来たでしょうに」
「ルイズ……それは違うわ。元はといえば、私が探検しようなんて言い出したのがいけないのよ」
「姫様は悪くないわ。悪いのは私よ」
「違うわ! 悪いのは私なの!」
「悪いのは私!」
「私よ!」
「私!」
(こんな時にケンカなんてしなくていいのに)
いい加減ウンザリしてきたアニエスは、両成敗という事でこの場を収めようとした。
「それでしたら、アンリエッタ様とルイズ様の二人が悪かったという事で手を打ちませんか?」
「……悪くないわね」
「それで手を打ちましょう」
二人も納得したらしく、担がれながら笑いあった。
(やれやれ……)
アニエスは内心ため息を付いた。
そんな時だった。
進行方向の通路の天井が崩れだしたのは……
……ガラガラガラ。
「きゃあ!」
「危ない!」
完全に退路を絶たれたアニエスに、更に追い討ちをかけるように、崩れた天井からスライムがドロリと落ちてきた。
「チィ、追いつかれた!」
「あああ……」
「何あれ……中に誰か居る」
これまで戦ってきたスライムとは明らかに違う部類のスライムが現れた。
それは、巨大スライムの中に無数の人影が入っているスライムだった。
スライムが近づくにつれ、中に入った人影の正体が判明した。
「ひぃ……ガイコツ!」
「中に人の骨が……!」
そう、巨大スライムの中に5体の人の骨が入っていた。
『……ミツケタゾ』
『アイツノニオイダ!』
『ワレラノ、コキョウヲウバッタ、アイツノニオイダ!』
通路内に響く謎の声。
「な、何を言ってるの? あいつの臭いって何なの? それに故郷を奪われたって……」
「姫様、しっかりして!」
アンリエッタはスライムの中のガイコツの言葉に動揺した。
『故郷を奪われた』
というフレーズがアンリエッタの心に引っかかったのだ。
「ね、ねえ、あなた達は何処から来たの? 故郷を奪われたってどういう事?」
アンリエッタが、詳細をスライムに聞こうとすると、その呼びかけを無視してスライムが自身の一部である溶解液をアニエスたちに向けて吐いてきた。
「あぶない!」
「きゃあ!」
「きゃん!」
アニエスはアンリエッタルイズが怪我を負わないように横に倒れて、溶解液を寸での所で避けた。
「お二方とも降りてください」
「アニエスは、どうするのです!?」
「あの瓦礫のを越えてまっすぐ行けば、みんなの所に着きます。私が何とか敵の隙を作りますので、二人は全速力で瓦礫を通り抜けて下さい」
「む、無理よ! 私達にそんな事できないわ!」
「ですが、このまま来た道を戻っても迷うだけです」
「駄目よ!」
出来ないと首を横に振るルイズ。
この時の時間のロスが致命的となり、スライムの身体と瓦礫との間に僅かに空いていた退路が完全に塞がり、通路一杯にスライムの粘液が張り巡らされ退路を絶ってしまった。
(もはやこれまでか……)
万事休すのアニエスは愛用のG3アサルトライフルをスライムに向ける。
(銃が効かないのは分かっている、だがこの二人は何としても逃がさないと!)
その時、アニエスの脳裏に浮かんだのは養父と養母、そして片思いのマクシミリアンだった。
(復讐も果たした私には何の未練も無い。二人が無事なら、きっとあの方も褒めて下さるだろう)
適わぬ恋慕も何もかも、目の前のスライムにぶつけ死中に活を見出す以外にアニエスは方法を見出せなかった。
そして、リュックサック型のカバンの中の発破用に持ってきたトリステイン製ダイナマイトの位置を確かめる。
(行くぞ……!)
最速で飛び込めるように、ググッと全身の筋肉を強張らせた。
「待って! どうしてあなた達は私達を恨んでいるのですか!?」
飛び込もうとした瞬間、アンリエッタがアニエスの盾になるように立ちふさがった。
「下がってください、アンリエッタ様!」
「駄目よ姫様!」
アニエスとルイズはアンリエッタを制したが、アンリエッタは制止を聞こうとしなかった。
『リユウダト?』
『オマエタチガ、アイツトオナジニオイヲシテイルカラダ』
『オモイダサセテヤル。オマエタチノツミヲ!』
スライムの動きが止まり、彼らから6000年前の恨みが語られた。
☆ ☆ ☆
およそ6000年前、トリステイン王国が興る前のこの地には、『古代フリース人』と呼ばれる民族が住んでいた。
もっとも、その名が付いたのは、もっと時代が下ってからの話で、彼らは自分達の事を古代フリース人などと呼称しなかったが、ここは便宜上古代フリース人と呼んでいたという事にする。
古代フリース人は、貧しくてもそれなりに平和に暮らしていたが、異能を操る謎の民族が現れ、古代フリース人は居住地を追われてしまった。
異能を操る謎の民族は、古代フリース人を住んでいた土地から追い出すとその地に新たな王国を興した。言わずもがなトリステイン王国の事だ。
その後、古代フリース人はどうなったかというと、各地に散らばった古代フリース人はスライムを使役し、トリステイン王国の魔法に対抗した。
だが、散らばった古代フリース人は連携を全く取ろうとせず、結果的に各個撃破でトリスタニアの地下深く追いやられてしまった。
追い詰められた古代フリース人は、最後の手段を取った。
使役していたスライムと同化し人間を止めてしまったのだ。
それに同化と一言で表現しても、一人や二人と同化したわけではない。
残った数千人の古代フリース人が、男も女も子供も老人も民族丸々スライムと同化して、とてつもなく巨大なスライムと化した。
それから数千年、トリステイン王国と地下の巨大スライムとの戦いは人知れず続き、多くの犠牲を出しながら何とか巨大スライムを封印・調伏する事に成功した。
そして、地下の奥深くに神殿を建て、二度と人が寄り付かないように迷宮を作り、好奇心で地下神殿に足を踏み入れないように記録も削除した。
封印された巨大スライムを目覚めさせたのは、怨敵であるトリステイン王国開祖の血を引くアンリエッタとルイズが地下神殿まで迷い込んだ事が原因だった。
……
スライムとなった古代フリース人の6000年前の怨念を聞き、アニエスはなんとも言えない感情に支配された。
かつて復讐に燃えたアニエスにとって、彼ら古代フリース人は部分的には同調するし同情すべき点はある。だが、だからと言って殺されてやる義理は無い。
「そんな話、聞いたことありませんし、そんな何千年前の事で殺される謂れは無い」
アニエスはキッパリ拒絶した。
『オマエタチノコトハ、ドウデモイイ』
『イマコソ、ウラミヲハラスゾ!』
古代フリース人は、スライムの身体から触手の様なモノを出し、鞭の様にアニエスの盾になったアンリエッタに振るった。
「アンリエッタ様!」
アニエスはアンリエッタを後ろから抱くと、そのままバックステップで触手を避ける。
間一髪、触手はアンリエッタの紫色の前髪を溶かすだけで済んだ。
「ねえ、アニエス……」
「何ですかアンリエッタ様」
アンリエッタは心ここにあらず的な声色でアニエスに問うた。
「ご先祖様の犯した罪を、今を生きる私が負わなければならないの?」
「そんな事はありません。そんな事言い出したらキリが無いじゃないですか」
「でも、あの人達あんなに私の事を憎んでいるわ」
憎しみ、という感情を直接ぶつけられた事のないアンリエッタは、
『私が悪いんじゃないかしら? 死ぬほど罪深いんじゃないかしら?』
と思いだした。
「馬鹿言わないで!」
「ルイズ……」
ルイズが割って入りアンリエッタの肩を揺さぶった。
「でもルイズ、私が罪を一身に引き受けれて死ねば、あの人たちは許してくれるかも……」
「そんなわけ無いじゃない! いつも私の言う事聞かないのに、あんな化け物の言う事を聞くの!?」
ルイズの的外れ(?)な一喝が飛んだ。
「そうですよ。ルイズ様の言うとおりです。彼らは同情すべき点があるのは分かりますが、モンスターとなって人を襲うようになった彼らに同情すべき事はありません」
「どうにかならないの?」
「……残念ですが」
アニエスの非情の言葉を聞いた、アンリエッタは目を閉じた。
「そう、世の中って非情ね……」
「……姫様は優しいわね、私はそんな風に思えないわ」
「そんなんじゃないわよ……」
アンリエッタは自分が憎まれるのが嫌だから、優しい顔をしているだけにすぎなかった。
だが、幼いアンリエッタには、感情を上手くいなす知恵も口も回らなかった。
スライムが三人のおしゃべりを放っておくはずも無く、スライムから放たれた触手が三人に伸びる。
「ああっ!?」
「下がって!」
アニエスが二人の盾になろうとするが、その触手はアニエスに届くことは無かった。
『アアア!』
通路の気温は一瞬で氷点下にまで落ち、スライムが悲鳴を上げながら見る見るうちに氷漬けになった。
「どうなったの?」
「……分かりません」
何事かと、アニエス達は凍りついたスライムを見ると、凍ったスライムの向こう側からマクシミリアンが現れた。
「ギリギリ間に合ったようだな」
「お兄様!」
アンリエッタは、マクシミリアンの声を聞くとヘナヘナと腰を抜かした。
「アニエス、よく二人を守りぬいた」
「……ありがとうございます!」
アニエスは、颯爽と現れた片思いの人に赤くなった顔を見られないよう、俯いてマクシミリアンに応えた。
『エア・ハンマー!』
誰かが唱えた『エア・ハンマー』が凍ったスライムを粉々に砕いた。
「みんな無事?」
ルイズはその声を聞いた瞬間、ボロボロと涙がこぼれ落ちるのが分かった。
「ちいねえさま!」
マクシミリアンとカトレアの、トリステイン国王夫妻が魔法衛士を従え現れた。
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