イベリス
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第二十一話 勉学もその十二
「お前は埼玉を知らないんだ」
「ってすぐそこでしょ」
「もっと言えば群馬も知らないだろ」
「電車で日帰りで行けるじゃない」
その群馬もというのだ。
「通勤も出来るでしょ、群馬も」
「違う、埼玉は何か」
「西武ライオンズの本拠地?」
咲はここでこの野球チームのことを話に出した。
「昔滅茶苦茶強かったのよね」
「二十世紀の終わりはな」
「所沢に球場があってね」
「しかし東京じゃないだろ」
そこにこだわる父だった。
「まさにその辺りの草でも食べさせておけなんだ」
「何、その言葉」
「それが埼玉だ、埼玉はお父さん達の世代で言うと僻地中の僻地なんだ」
「だからお隣なのに」
咲は自分の考えから言った。
「そこまで滅茶苦茶言うことないでしょ」
「お前の感覚だとそうか」
「同じ関東だし」
「だからお父さんは生粋の東京都民なのよ」
テレビを観ている母が言って来た、時代劇チャンネルで遠山の金さんを観ている。金さんは高橋英樹である。
「それで埼玉はね」
「偏見があるの」
「というか妙に田舎だってね」
その様にというのだ。
「思ってるのよ」
「そうなのね」
「まあお母さんも東京にいられたら」
「それでいいの」
「それか神奈川だけれど」
「どうしても埼玉は駄目なの」
「お父さんもお母さんも野球はヤクルトでしょ」
本拠地は東京の神宮球場である。
「それでよ」
「埼玉はなのね」
「西武?名前は知っているけれどな」
父は酒を飲み続けつつ言った、次第に酔いが回ってきている。
「お父さんはパリーグは知らない」
「じゃあロッテは?」
「今の監督誰だった」
これが返事だった。
「バレンタインさんか」
「井口さんよ」
咲は即座に返した。
「今の監督さんは」
「そうだったか」
「西武の監督さんも知らないわね」
「広岡さんか」
父は考えつつ言った。
「確か」
「お酒かなり回ってる?」
「自覚している」
見れば酔いが急速に回ってきていた、そうした顔になっていた。
「お父さんもな」
「やっぱりそうね」
「森さんの前の人だったな」
「森さんって何時よ」
「一九八〇年代後半から一九九〇年代前半の人だ」
獅子の時代とさえ言われた西武黄金時代の時である。
「その人の前だからな」
「それじゃあね」
「その人言うならな」
「やっぱり酔い過ぎよ」
「本当に誰だった」
西武の監督はというのだ。
「辻さんだったか」
「そうよ、正解よ」
母が答えた。
「今度はね」
「だったらよかったな」
「ええ、ただ今何位か知ってる?」
「いや、知らない」
「私も知らないわ」
母もだった。
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