イベリス
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第十八話 ゴールデンウィークを前にしてその十一
「御免なさいね」
「そうだったの」
「ええ、じゃあケージの中に入れておくわね」
「私が入れておくわ」
咲が応えた。
「そうするわ」
「そうしてくれるの」
「だってケージのすぐそこから」
「ワン」
咲がモコを見つつ言うとモコも鳴いて応えた、咲はそのモコも見て笑顔で言った。
「お姉ちゃんもモコ好きなのよね」
「動物嫌いより動物好きの方がいいな」
父は娘の今の言葉にこう返した。
「その方がな」
「嫌いより好きな方がいいわね」
「自分以外の生きもの全て大嫌いな人もいるしな」
「そんな人生きていけないでしょ」
「他人に迷惑を撒き散らして害毒を垂れ流して生きるものだ」
そうした輩はというのだ。
「自分勝手で図々しくて浅ましく生きてな」
「餓鬼みたいね」
「そうだな、餓鬼だな」
そうした輩はとだ、父も頷いた。
「そうした人は」
「そうよね」
「そんな人は極端だがな」
「正直お会いしたくないタイプね」
咲は心から思った。
「親戚やクラスにいたら皆から嫌われそうね」
「職場でもな、まあそうしたタイプは本当に稀だ」
「そうそう多かったら怖いわ」
「そうだな、それで動物好きな方がな」
「動物嫌いよりましよね」
「ああ、それで愛ちゃんがモコが好きなら」
それならというのだ。
「いいことだ」
「それだけでね」
「本当にそう思う」
「嫌いより好きな方がいいわね」
「好きなら好かれるし嫌いなら嫌われるわよ」
母がここで言ってきた。
「だからさっき言ったみたいな人はね」
「皆から嫌われるわね」
「そうなるわ」
「まあそうよね」
「嫌うとね」
そうすればというのだ。
「嫌われるわ、それでモコは皆が好きでしょ」
「だからモコも皆が好きなのね」
「家族をね」
「そうよね」
「人も犬も他の生きものも同じよ」
それこそというのだ。
「心があるから」
「それで自分を好いてくれるとね」
「その相手を好きになるのよ」
「そうよね」
「それで咲もね」
「自分を好きな人なら」
「好きになるでしょ」
「ええ。ただ私恋愛とかはね」
こうしたことについても話した。
「経験ないわよ」
「それはそのうちよ」
「またあるだろ」
母だけでなく父も言ってきた。
「惚れた人がいたならな」
「それでよ」
「そんなものね、私告白とかそうしたこともしたことないし」
一度もだ、咲はこれまでの人生で自分が恋愛を経験したことはない。創作の世界で読んだり周りで聞いただけだ。
だからだ、こう言うのだった。
「そうしたことがあるのかしら」
「またあるだろ」
父は今度はこう言った。
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