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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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G編
  第89話:そして動き出す

 
前書き
読んでくださりありがとうございます。 

 
 颯人によって未来の通信機らしきものが発見されたという報告は奏によってすぐさま弦十郎へと伝わり、そして彼の口から響を含む装者全員へと周知される事となった。

「師匠、これは?」

 集められた響他装者と魔法使いの前に、発見された通信機が置かれる。見た感じ破損している様だが、原形は留めていた。

「スカイタワーから少し離れた地点より回収された、未来君の通信機だ。颯人君が見つけてくれた」

 付け足すように告げられた発見者の名前に、何も知らなかった者達の視線が集まる。視線を集める事に慣れている颯人は、気圧される事も無く笑顔で手を振って応えた。

「発信記録を追跡した結果、破損されるまでの数分間、ほぼ一定の速度で移動していた事が判明した。未来君は死んじゃいない。何者かによって連れ去られ、拉致されたと考えるのが妥当だろうが……」
「師匠! それってつまり!?」

 拉致されたというだけであるなら、未来は確実に生存している。何故拉致されたのかなど、不穏な要素・不確定要素は多々あれど、少なくとも希望は確実に存在した。

 響だけでなくクリスや翼、透までも安堵に頬を綻ばせる。

「さて、気分転換に体でも動かすか!」
「はい!」




***




 そんな訳で翌日、颯人を含めた6人は弦十郎と共に走り込みを行っていた。

「――――何でだ?」
「知るもんか。旦那に聞け旦那に」

 何故か流れで付き合わされることとなった颯人がぶつくさ文句を言いながら走り続け、その隣で奏が汗を流している。髪は運動しやすい様にと一纏めにしているが、お陰で普段は拝めない奏の首筋が見れて颯人的には満足だったりする。

「はぁ、はぁ、ま……まだ走るのかよ? はぁ……」

 このメンツで真っ先にバテたのはクリスだった。彼女は他の者に比べ運動量が元々違うからか、この中では一番体力が無かった。
 逆にこの中で一番溌溂としているのが響なのだが、その次点は意外な事に透だった。彼は響と並び弦十郎の真後ろを走っている。

「元気だなぁ、透の奴」
「透は……はぁ、はぁ……タフネスあるから……ぜぇ、ぜぇ……」
「お~い、クリス~? 大丈夫か~?」

 集団から遅れ気味なクリスに颯人と奏がやんわりと歩調を合わせる。元々運動する方ではないクリスは既にヘロヘロで、ちょっとでもバランスを崩したらコケてしまいそうだ。
 これは流石に放置してはいけないと、颯人は前の方に居る透を呼び寄せた。

「お~い、透~。あんまりクリスちゃん放っておくなよ~」

 颯人の声を掛けられ、クリスから大分離れてしまっていた事に気付いた透は走る速度を落とし彼女に並走した。
 クリスの隣まで来ると、透は心底申し訳なさそうに彼女を見た。久しぶりに戦闘に関係なく思いっきり体を動かせてテンションが上がり、加減を忘れてしまっていたらしい。その事をクリスに謝った。

「はぁ、はぁ……き、気にすんな透。ふぅ、はぁ……別に、お前は何も、あわっ!?」

 ただでさえ疲労で走るのも大変な中で、喋る事に意識を割いてしまったからかクリスがバランスを崩してしまった。そのまま前のめりにこけそうになったクリスを、透が咄嗟に支えてみせる。

「あ、とと……わ、悪い透……」

 透に抱き留められ、クリスは彼に謝った。支えてくれた事は素直に嬉しいが、お陰で彼が自分共々集団から外れてしまった。走っている間は良かったが、一度止まってしまえば体力が限界なクリスには追いつく事は難しい。
 それに透や他のメンツを突き合わせるのは申し訳ない。

「透、先行ってくれ。他の連中も……あたしは後から追いつくから……」

 自分はこれ以上透達について行けないと、1人後から追いつく事を告げるクリスだが透はそれを認めなかった。ここで彼女を置いて行くようで、今後の戦いと共に生き抜く事など出来ようか。

「え? わわっ!? と、透!?」

 透はクリスの背中と脚に手を回すと、躊躇なく彼女を横抱きにしてそのまま走り出した。華奢な少女とは言えクリス1人を抱えて走ったので、先程に比べて明らかに速度が落ちている。

「ちょっ!? 透下ろせッ!? あたしはいいからッ!?」

 クリスの抗議に構わず透はクリスを横抱き――所謂お姫様抱っこ――で走り出す。流石に華奢とは言え少女一人を抱きあげて走るのは彼でも大変なのか、先程に比べて速度は落ちているがそれでも集団に追いつくことは出来た。

 横抱きにされながら集団に追いついたクリスの姿は、当然ながら颯人達の目に留まる事になる。

「お? 何だい何だい、1人楽してるねぇクリスちゃんや?」
「お~お~、羨ましい」
「雪音、どんな気分だ?」
「クリスちゃん顔真っ赤~!」
「う、うるせぇ!?」

 辺りに弦十郎の歌と共にクリスの叫びが響き渡った。




 その後も弦十郎による特訓は続いた。

 二重飛び、中腰の姿勢で体のあちこちに水の入った器を乗せたり、(何故か)冷凍の肉を殴ったりとその特訓内容は多岐に渡る。

 変に盛り上がったのは生卵をジョッキで飲む時だ。響に翼、透が平然と飲み干す中クリスは味がお気に召さ中たのか途中でダウン。それはまだいいのだが、特に盛り上がったのは颯人と奏の2人。

「奏、どうせだからどっちが早く飲み干せるか勝負するか?」
「よっしゃ! 負けて吠え面かくなよ?」
「さ~てそりゃどっちかな? つー事で、よーい……ドン!」

 生卵が満たされたジョッキを一気に傾ける颯人と奏。下らぬことで勝負となった2人だが、その様子は微笑ましく気付けばどちらが勝つかで盛り上がったりした。

 そんなこんなでその日の特訓は終了となった。因みに生卵早飲み競争は颯人が僅差で勝利を収めた。




***




 エアキャリア内に1人の女性の優しい歌声が響いていた。セレナの歌声だ。基本エアキャリア内の自室のベッドから動けない彼女だが、それでも偶には部屋以外の光景を見たいと言う彼女の要望に応えて、ナスターシャ教授が使っている電動車椅子の簡易版が与えられていた。これのお陰で彼女はある程度自由に移動が出来る。

 今彼女が居るのは、エアキャリア内の格納庫だった。何故こんな所に居るのかと言えば、未来がここにある檻に閉じ込められていると聞いたセレナが、1人格納庫に置き去りにされた形の未来を心配してやって来たのである。

「あの……」
「――あ、はい?」

 未来には色々と聞きたいことがあった。いきなりやって来て何故歌うのかとか、分からない事は山程あるがとりあえず直近で聞きたい事は1つだった。

「何で、私を助けたんでしょう?」
「多分、放っておけなかったんだと思います。姉さん、優しいですから」
「姉さん? マリアさんが?」
「そうです。私の自慢の姉さんです」

 嘘偽りのないセレナの本心だ。例え世界に喧嘩を売るという暴挙を行おうと、セレナにとってマリアは愛すべき家族であった。

「意外でしたか? 姉さんが人助けって……」
「い、いえ……」
「ふふ……多分、何か理由があるんだと思います」
「理由?」
「分かりますよ。姉さんの事、ちょっと怖かったんですよね? 世界に宣戦布告したんですもん、当たり前です。でもそれも、皆の為を想っての事なんです。そう言う人なんですよ、姉さんって……」

 そう言ったセレナの顔は、何処か愁いを帯びていた。愛する姉が多くの人々から畏怖されてしまっている現状に、そしてそんな姉に対して何もしてやれずにいる自分に歯がゆい思いを感じているのだ。

「こんな所で何をしているんですか?」

 そこへウェル博士がやって来る。隣にはマリアを伴い、マリアはウェル博士を横から睨んでいる。

「この人が1人でこんな所に居るの、寂しいだろうと思って……」
「そうですか……」
「それより、そろそろ教えてもらえないかしら? 何故彼女をここまで連れてこさせたの?」

 あの時、崩れつつあるスカイタワーから未来を救出したのはセレナの言う通りマリアの意思だ。だがここまで連れてきたのはウェル博士の指示だった。マリアは訳も分からず未来をここまで連れてこさせられ、その理由の説明が未だにない事に不満を抱いていた。

「勿論、計画遂行の一環ですよ」

 未来の前にウェル博士がしゃがみ込む。レーザーの檻越しとは言え目前に迫った敵組織の、それも男性の顔に思わず顔を強張らせる。

「そんなに警戒しないでください。少しお話でもしませんか? きっとあなたの力になってあげられますよ」

 そう言って笑みを浮かべるウェル博士。未来は彼の口にした力になるという言葉に興味を抱いた。

「私の……力?」
「そう…………。あなたの求めるものを手に入れる力です」

 ウェル博士の言葉に耳を傾ける未来の姿に、セレナは既視感に近いものを感じた。今の彼女の様子は、誰かに似ている。

「未来さん……あなたは――」
「さ、セレナ。そろそろ部屋に戻りましょう。あなたはただでさえ体が弱ってるんだから……」
「あ…………」

 未来に向けて何かを告げる前に、マリアがセレナの車椅子を押して部屋へと連れて行く。セレナは名残惜しそうにしたが、抵抗する術はないのでマリアに促されるままに部屋へと連れて行かれてしまったのだった。




***




 それから数日後の事、事態は突如大きく動いた。

「ノイズのパターンを検知!」
「米国所属艦艇より応援の要請!」

 突然の米国艦隊からの応援要請。発令所のモニターには米国の大型空母を中核とした艦隊が存在していたが、その甲板からは無数の黒煙が立ち上っていた。カメラの映像をズームすれば、そこには無数のノイズと魔法使いが米国兵と戦闘をしている様子が映し出されていた。
 通常兵器で太刀打ちできないノイズに加え、魔法使いの攻撃も加わって米国艦隊は既にボロボロだった。モニター中では今も米国兵が必死に抵抗する中、ノイズやメイジに次々と仕留められていく様子が映し出されている。

 このままだと彼らは確実に全滅するだろう。それを黙って見ている事など出来なかった。

「この海域から遠くない! 急行するぞ!」
「皆俺の周りに集まれ。一気に飛ばすぞ」

 弦十郎の指示に慌ただしくなる発令所で、颯人の言葉に戦闘要員が集まる。
 当然響もその中に加わろうとしたのだが――――

「わ、私――」
「死ぬ気かお前ッ!?」

 一緒に現場に向かおうとした響だったが、案の定と言うかクリスにより引き留められた。

「ここに居ろって、な? お前はここから居なくなっちゃいけないんだからよ」
「そう言う事だ、響。精々あたしらが未来を連れて帰るのを楽しみに待ってな」

 クリスと奏に説得され、それでも不満そうな顔をする響だったが2人の言い分も分かるのか大人しくなった。未来が心配なのは変わらないが、彼女らの心配も分かると言った心境か。

 それでも未来が心配で食い下がる響だったが、現状響を前線に出す事はリスクでしかない為結局彼女は待機と言う事になった。

「安心しろって。あたしらで未来を見つけて連れ戻してやるから」
「……はい」

 納得いかなそうではあるが、ここでごねる程子供でもない。不承不承と言った感じだが引き下がった響の頭を、奏が優しく撫でた。

「悪いな、響」
「……いえ」
「うし、話は纏まったな……それじゃ、行くぞ!」

〈テレポート、ナーウ〉

 魔法により転移してその場から消えた颯人達。残された響は彼らの居た場所を唇を噛み締めるようにして見つめていた。 
 

 
後書き
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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