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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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G編
  第88話:希望への進展

 
前書き
読んでいただきありがとうございます! 

 
「ソーサラーさん……姉さんの事、聞きました?」

 その日、何時もの如くソーサラーがセレナに食事を持っていくと、セレナが唐突にマリアの話題を切り出した。ソーサラーはベッドテーブルに料理を並べながら、セレナの言葉に頷いて答える。

「マリア姉さん、本当はフィーネって言う人の器じゃなくって、皆にずっと嘘を吐いていたんです」

 それは先日のスカイタワー襲撃後に全員が知る事になった事実であった。そもそも先日マリアとナスターシャ教授がスカイタワーへ赴いたのは、米国政府と取引をする為だったのだ。しかし米国政府は約束を反故にし、2人を捉えようとした。

 ウェル博士がスカイタワーでノイズを召喚したのは、そんな米国政府の者達を始末する為だったのである。

 その後帰還したマリアとナスターシャ教授を前に、2人をこっそり探っていたグレムリンとウェル博士により彼女達の嘘が暴露されてしまいマリアがフィーネではない事は明らかとなってしまった。

「マリア姉さんが嘘を吐いていたって事には、確かに思う所はあります。でもそれ以上に、私、ホッとしてるんです。マリア姉さんは私の前から居無くなる事は無いんだって……」

 グレムリンとウェル博士により嘘が暴かれた後、マリアはセレナに全てを話した。その時のマリアの顔は、何処か辛そうではあったが同時に安堵しても居た。もう嘘の鎖に囚われる事は無いのだという事に、勝手な話だが肩の荷が下りた気分なのだろう。

「でも私思うんです。マリア姉さんがフィーネって言う人の器じゃないとしたら、だれが器なんだろうって」

 それはソーサラーも薄々感じていた疑問の1つだった。マリアがフィーネではないとすれば、別の誰かがフィーネであるという事になる。それは一体誰なのか?

「でも私、それ以上に気になってることがあるんです」

 突然セレナはそう言うと、ソーサラーのマントの裾を掴んだ。ベッドの上から無理矢理腕を伸ばして掴んでいるので、力も弱いし若干辛そうだ。だがその眼光は、ベッドの上から動けない弱った人間とは思えない程力強いものであった。

「ソーサラーさん…………貴方は一体誰なんですか?」

 ソーサラーの肩がピクリと動く。そんな筈は無いのに、セレナはまるでソーサラーの全てを見透かしたような目で見つめている。

「何時もソーサラーさんが作ってくれる料理……私、この料理をずっと前にも食べた覚えがあります。ただの味の話じゃありません。もっと別の――――」

 セレナの話を全て聞く事はソーサラーには出来なかった。やや強引にセレナの手を振り払うと、彼は一目散に部屋から出て行った。
 逃げるように部屋から出て行ったソーサラーを、セレナは寂しそうな目を向け今し方彼のマントを掴んでいた手を見る。

「…………ガルド、君……君なの――?」




***




 同じ頃、とあるレストランにてクリスと透、そして翼の3人が席を共にしていた。クリスは目の前に置かれたナポリタンを、口や皿の周りを汚しながら食べている。

「何か食えよ。奢るぞ?」

 レストランに入りながら何も注文しない翼に、クリスが口の周りを汚しながら問い掛けた。正直他人の事より自分の食事のマナーの方を気にして欲しい翼は、何とも言えない顔をせずにはいられない。

「夜の九時以降は食事を控えている…………と言うのは表向きで――――」

 徐に翼がクリスの隣に目を向けた。そこには当然の様に透が居て、クリスと同じく注文した料理を食べているのだが――――

「……正直、これを見たらこっちの食欲も失せると言うものだ」
「んまぁ……言いたい事は分かるよ?」

 透の前……と言うかテーブルの空いたスペースには所狭しと料理が並んでいた。ナポリタンはクリスが自分で注文した料理だが、それ以外の料理は全て透が自分で頼んだものだ。

 店のメニューを端から全部制覇しようとしているのかと思うほどの有様。透はステーキを口に含み、咀嚼しながらフライドポテトに手を伸ばし、チャーハンをかき込んだと思ったら次の瞬間にはローストチキンを噛み締める。
 一体この体のどこにこんなに入るのかと言いたくなる様子に、翼だけでなくクリスも乾いた笑いを上げずにはいられなかった。

「あ、あはは……」
「魔法使いが良く食べると言うのは颯人さんで知ってはいたが、今日そんなに魔力を使うような事が?」
「いや、透はそう言うのに関係なく食べる時は矢鱈食べるぞ?」

 今度こそ翼は開いた口が塞がらなくなった。つまり透は素で大食漢と言う事だ。見るとあれ程の料理がもう半分ほど無くなっており、今はグラタンを黙々と口に運んでいる。

 不意に透の視線が2人の方に向かう。彼は何故自分がそこまで注目されているのか分からず首を傾げていた。

「……それで? 本当に一体何の用なんだ?」

 用が無いなら帰ると席を立とうとする翼に、クリスはそっと問い掛けた。

「あ~……起こってるのか?」
「愉快でいられる道理が無い」

 言いたい事は分かる。ここ最近は本当に問題が山積みだ。F.I.Sの事は勿論、響の事も…………奏の事もである。

 スカイタワーの戦闘の際、奏は気を失った状態で発見された。未来の行方が分からなくなり、動ける者全員で捜そうと言う時に同じく連絡が取れなくなっていた彼女を颯人が見つけたのだ。
 当初は魔法使いにでもやられたのかと思っていたが、目を覚ました奏は何も覚えていなかった。

 それだけならいいのだが、目を覚ました奏はそれまでの不調が嘘の様に溌溂としていたのである。つい最近まで悪夢により寝不足とストレスで覇気が無かったというのに、それが無かったかのように元気を取り戻していた。

 何となくだが、奏の身に何かが起きている。そう感じさせるのに十分なほど奏は変化が著しかった。

 気になっている事、自分1人ではどうにもできない事を全て吐き出し終え、翼は力無く座り直した。
 それと同時に、運ばれた全ての料理を平らげた透が紙ナプキンで口元を拭いコップの水を一気に飲み干す。

「……呼び出したのは、一度一緒に飯が食いたかっただけだ」

 翼が落ち着いたのを見計らい、クリスは呼び出した理由を話した。

「腹を割って話し合うのも悪くないと思ってな。あたしら何時からこうなんだ? 目的は同じの筈なのに、てんでバラバラになっちまってる。もっと連携を取り合って――――」

 至極尤もな事を話すクリスだったが、その時出し抜けに横から透が手を伸ばしクリスの口周りをナプキンで拭いた。いい加減見ていられなくなったのだろう。

「わっぷ!? んだよ透! 今あたし結構良い事言ってるところだったんだぞ!」

 突然の透の行動に文句を言うクリスだったが、そんな彼女に透が優しい目を向ける。それだけでクリスには彼が何を言いたいのか分かってしまった。

「え? 腹を割って話すなら名前で呼べって?」
「北上…………そうだな。いい加減名前くらい呼んでもらいたいものだ」
「なぁっ!?」

 透の言葉を代弁したクリスに翼が便乗する。奇しくもこの時クリスは窓際の席に座っており、横は透に前は翼に占拠されており逃げ場がない。2人からの視線にクリスは逆に居た堪れなくなってしまった。

 縮こまったクリスに代わる様に、透はメモ帳を取り出すとペンを走らせ書いた文字を翼に見せた。

「ん? 『ごめんなさい』?……何が?」

 唐突な謝罪に、翼は目をパチクリとさせた。その疑問に答える為、透は再びメモ帳に文字を書き込む。

〔最初に会った時から色々と。皆さんには迷惑を掛けてきて、それを今までちゃんと謝った事がなかったので〕

 それは透の言葉であると同時にクリスの言葉でもあった。今まで色々とあった所為でなぁなぁで済ませていた謝罪を、今この場で打ち明けたかったのだ。だがいざ翼を前にすると、相手が年上だからかどうにもうまく言葉が口から出てこない。透はそんなクリスの内情を読み取り、先手を打って自分から謝罪したのだ。

 透の謝罪にクリスも翼と彼を交互に見ていると、透がクリスに優しい目を向けて首を傾げる。それはクリスに対し、もう大丈夫と、一歩を踏み出してみてと背中を押しているように見えた。

「えっと、その……悪かったよ。色々と……」
「……もう過ぎた事だ」
「そ、それじゃああたしの気持ちが収まらねぇ!」
「ならばその謝罪、確かに受け取った。これでお互い気持ちよく話せるな」
「お、おぅ……」

 気付けば翼は、肩の力が抜けている事に気付いた。必死に歩み寄ろうとするクリスと、その背を押す透の姿に悩みを抱えているのは自分だけではないと心で理解したのだ。

――真面目過ぎてポッキリ折れる……か――

 それは以前奏に言われた事だった。性分故仕方ないが、翼は自分でも気付かぬ内に率先して前に出ようとして色々と抱え込んでしまっていたらしい。頼るべき仲間達がすぐそこに居るというのに。

 翼はフッと笑みを浮かべて立ち上がった。

「ありがとう。雪音、北上。ほんの少しだが、気が楽になったよ」
「ん、そうか」

 翼の言葉にクリスも笑みを浮かべる。前よりも確実に距離が縮められた事を実感したのだ。

「……で、名前の方は呼んでもらえるのか?」
「ぅえっ!? いや、その……そっちはまだ、もうちょっと……」

 それでもやはり翼の事を名前で呼ぶことには恥ずかしさがあるのか、躊躇いを見せずにはいられない様子。そんなクリスの様子に翼はやれやれと肩を竦め、透はクスクスと笑った。

 と、そこで透がメニューを手にベルを押した。彼の行動に翼とクリスが目を見開く。

 驚く2人を前に、透はやって来た店員に注文したいメニューを指差した。

「こちらとこちらですね? かしこまりました、少々お待ちください!」

 さっきあれ程食べた透が、何事も無かったかのようにパフェとサンデーを頼んだというのに店員は全く気にした様子も無く離れて行く。

 店員が離れると、翼とクリスは透に詰め寄った。

「と、透まだ食うのか!?」
「さっきあれ程食べたばかりだろうに!?」

 驚き詰め寄る2人に、透は何がおかしいと言わんばかりに首を傾げた。彼としてはあの程度、限界には届かないらしい。

 思っていた以上の大食漢っぷりに、翼だけでなくクリスも圧倒された。今日が偶々矢鱈と腹が減っていたのか、普段は抑えていただけなのか。

 翼とクリスが顔を見合わせる。と、2人はどちらからともなく噴き出し笑い出した。

「「ぷっ! あはははははははっ!」」

 何がおかしいのか分からないが、とにかく笑いたくて仕方がない。何かが面白くて、自然と笑いが込み上げてきたのだ。

 楽しそうに笑う2人の様子を、透が何が何だか分からずとも笑って見守るのだった。




***




 一方二課仮設本部では、颯人がソファーに横になりながら使い魔を使役して未来の姿を探していた。もし爆発に巻き込まれて死んだのであれば、何処かに遺体が残っている筈。それが見当たらなかった以上、未来は生きてどこかに居る筈なのだ。

「どうだ、颯人? 何か手掛かりは見つかったか?」

 一見だらけているように見えて、使い魔の視界から得られる情報を余すことなく調べている颯人に奏が手にコーヒーの入ったカップを持って近付いて来た。

「サンキュ」
「ん。で、進捗はどうだ?」
「今の所進展なし。手掛り1つねぇ」
「そうか……」

 今の所未来が生きていると確信できる物は何一つ見つかっていない。その事に奏は残念そうに目を伏せる。

「……大丈夫だよな?」
「今出来る事は信じる事だけさ」

 言いながら颯人は奏から受け取ったコーヒーに口を付けた。

 直後、彼の見るガルーダからの視界にある物が映った。それを見た瞬間、彼は思わず口に含んだコーヒーを驚きのあまり噴き出した。

「ブゥッ!?」
「わっ!? 何だよ、いきなり?」
「……見つけたかもしれねぇ」
「えっ!?」

 颯人の視界に映ったもの……それは彼も持つ通信機だ。自分達の中で通信機をなくした者は居ない。

 という事は――――

「見つけたぜ、奏! 未来ちゃんの手掛りに違いねぇ!」
「よっしゃよくやった颯人! 早速旦那に知らせてくる!」
「あぁ!」

 意気揚々と弦十郎の元へと向かう奏。その姿はここ最近の覇気のない様子が嘘のようだ。

 しかし離れて行く奏の後姿を見る颯人の目は、先程とは違い何処か険しいものであった。 
 

 
後書き
と言う訳で第88話でした。

透はかなり大食漢です。一見線が太くない人がめっちゃ食べるってなんか良いですよね。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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