藪知らず

「左様であろう」
「はい、あの陣についてはです」
「知っております」
　二人もこう答えた。
「一体どういったものか」
「存じています」
「だから選んだ」
　二人を自分の供にというのだ。
「左様じゃ、だからな」
「はい、これよりですな」
「その林に入りますな」
「そうするぞ」
　やはり余裕を以て言う光圀だった、そうしてだった。
　二人を連れてその林に行った、すると。
　光圀は一旦林の周りを見回してだった、ある方角から林に向かった。そうして二人に言った。
「この林はここから入るとな」
「はい、迷いませぬな」
「そして祟られることもないですな」
「この陣はそうした陣じゃ」
　ある方角から入ると、というのだ。
「それで破れる」
「問題はその方角が何処か」
「そこの見極めですな」
「それが出来るとです」
「もう問題はありませぬ」
「左様、諸葛孔明は曹仁の陣を破ったが」
　敵将である彼のというのだ。
「それと同じじゃ」
「その諸葛孔明が生み出した八面遁甲の陣もですな」
「それと同じものでありまする」
「だからある方角から入れば」
「術を破れまする」
「そうじゃ、だから今から行くぞ」
　こう言ってだった。
　光圀はその方角から林に入った、勿論佐々と安積もそれに従った。そうして林の中に足を踏み入れて。
　中を歩いて見て回った、一見すると普通の林だが。
　佐々と安積は前を見て光圀に言った。
「大殿、あちらに」
「あちらに妙な者達がいます」
「女の様ですが」
「あの者達は」
「ふむ、人ではないな」
　光圀はその者達を見て答えた、見れば。
　異朝の唐の頃の宮女の女の服を着た高貴そうな女とそれより身分の低そうな侍女と思われる娘がいた。その二人を見てだった。
　光圀は二人に対して問うた。
「お主達がこの陣を護っておるな」
「はい」
　女が答えた。
「左様であります」
「人ではないな」
「陣を敷かれた方に使役されていた者で」　
　女は畏まって答えた。
「ここにいてもうどれだけか」
「数百年になる」
「左様ですか」
「お主達はその間ずっとここを護っておるな」
「そして中に入る者がいれば」
　その場合はというと。
「迷わせ祟りです」
「脅かしておるな」
「それが我が主の狙いだったので」
　陣を敷いた者のというのだ。
「そうしています」
「左様であるな」
「陣が解かれるまで」
「わかった。ではその陣がわしが解こう」　
　光圀はすぐにこう答えた。
「そしてお主達の役を解いてな」
「楽にして下さいますか」
「そうする、そなたもな」
　光圀は侍女である彼女にも声をかけた。
「もうここでずっと働くことはない」
「そうですか」
「だからな」
　それでというのだ。