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藪知らず

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第四章

「今から解く」
「そうしてくれますか」
「何百年もここにいてずっと働いてきた」
 光圀は感慨を込めて述べた。
「長い働きご苦労であった、ではな」
「これよりですね」
「この陣をですね」
「解く、以後は気楽に別の場所で過ごす様にな」
 こう言ってだった。 
 光圀は陣を解いた、すると宮女も侍女も彼に笑顔で礼を言ってそうして光に包まれ姿を消した。その後でだった。
 光圀は二人に話した。
「このことは他言せぬ様にな」
「あの者達の働きの為に」
「だからですか」
「陣は解かれこの林は迷わず祟らなくなったが」
 中に入ってもというのだ。
「あの者達はずっとここで働いておった、ならな」
「その場所に迂闊に入ってはですな」
「あの者達の働きを無視する様なものですな」
「だからな」
 それ故にというのだ。
「ここはな」
「はい、そうですな」
「他言せぬことですな」
「陣は解かれて林に入っても何もなくなったことはな」
 こう言ってだった。
 光圀は二人を連れてその場を後にした、そして江戸城に行くとだった。
 綱吉にことの一部始終を話した、そして彼にも言った。
「もう陣はないですが」
「それでもですな」
「あの者達はずっと働いてきたのです」
「その働きを大事に思うことですな」
「ですから」
 それ故にというのだ。
「ここはです」
「あの林にはまだ陣が敷かれている」
「そういうことにしてです」
 そのうえでというのだ。
「あの林をそのままにしておきましょう」
「誰も入られぬ様にする」
「そうしておきましょう」
「ですな、それがよいかと」
 綱吉も光圀のその考えに頷いた。
「やはり」
「はい、それでは」
「その様にします」
 こう答えてだった。
 綱吉は林の陣が解かれたことは誰にも言わなかった、そうしてだった。
 林はそのままになった、彼等以外の誰も林の陣が解かれたことは知らず誰もそこに足を踏み入れることはなかった。それは今も続いているという。


藪知らず   完


                2021・1・17 
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