魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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G編
第82話:塔の下に舞う血飛沫
前書き
どうも、黒井です。
G編の皆のトラウマがやってまいりました。さぁどうなるのか?
リディアンでの学祭が終了し、響達学生組が合流した。
3人がやって来てから、二課の装者と魔法使い達は学祭で出会った切歌と調から申し込まれた決闘の合図を待っていた。本当に合図を出してくるのか正直疑問だったが、向こうから宣言してきた以上何らかのアクションはあるだろうと踏んでいた。
颯人達は特に会話も無く、発令所で静かにその時を待つ。まだ何も起こっていないと言うのに、発令所には奇妙な緊張感が漂っている。
その緊張感を紛らわす為か、颯人は手の中のトランプを弄んでいる。勿論ただシャッフルしたりしているだけではない。絵柄を一瞬で揃えたり、全て消したり、全く別の所から出したりと手品の練習をしていた。
緊張感が漂い息苦しくなった発令所にて、颯人が見せる手品は気を紛らわせるのに適していたのか何時の間にか奏達の視線は彼に集まっていた。
その時、突如として発令所にアラームが響き渡る。颯人達の視線が一斉に発令所の大型モニターに集まる中、朔也とあおいがコンソールを操作して情報を報せた。
「ノイズの発生パターンを検知ッ!」
「古風な真似を……決闘の合図に狼煙とは」
十中八九これが決闘の合図だろう。考えてみればフィーネの連中は二課への連絡手段などない筈なので、合図を送るとしたらこういう手段に出ざるを得ない。
だがそのノイズ出現地点が少し意外だった。コンソールを操作して検知地点を特定し、朔也は思わず驚きの声を上げた。
「位置特定……ここは――」
「どうしたッ!?」
「東京番外地、特別指定封鎖区域……」
そこは彼ら二課にとって因縁のある場所であった。
「カ・ディンギル址地だとぉッ!?」
出現ポイントに弦十郎は険しい顔をし、颯人は方眉を上げると手の中にあるトランプを握り締めるようにして消した。
旧・私立リディアン音楽院の敷地は今、「カ・ディンギル址地」と呼ばれ周辺を日本政府管理下の特別指定封鎖区域とされていた。
それは3か月前のフィーネとの決戦の地であり、複数の聖遺物がぶつかり合った高レベルのエネルギーが未だ残留して草木の生育を著しく悪くしている場所であった。お陰で復興の目処は立たず、未だ荒野の状態で放置されているのが現状だ。
エネルギーの残滓を除去する計画が了子の主導で建てられているが、その目処すら立っておらず一般人の立ち入りも禁止されている。
フィーネが決闘の場所として選んだのはその場所であった。確かにここは先に述べた通り、一般人の立ち入りは許可されていない上に荒野となっているので派手に暴れるには適している。決闘の地としては適切だろう。
場所が分かっていれば移動は容易い。奏達は一斉に颯人の周りに集まった。
「そんじゃ、ちょっくら行って来るぜ」
「土産話を期待しててくれ、旦那」
「皆、気を付けろよ」
嫌な予感を感じたのか、何処か険しい表情で颯人達を見送る弦十郎。
そんな彼に颯人はサムズアップをして、魔法により奏達共々カ・ディンギル址地へと転移した。
***
颯人が転移した先は、あの決戦の日を思い出すカ・ディンギルの真下であった。特にここで一度は透を失ったかと肝を冷やしたクリスは、良い思い出が無いからか露骨に嫌そうな顔をした。
だがその顔は直ぐに敵意に染まった。
そこには既に待ち構えている人物が居たのだ。
「フン――」
待っていたのは決闘を申し込んできた切歌と調の2人でも、マリアでもソーサラーでもなかった。
颯人達から離れた場所に立っていたのはウェル博士。手にソロモンの杖を持ったウェル博士が待ち構えていたのだ。
「野郎ッ!」
クリスはソロモンの杖を持つウェル博士を、今にも噛み付きそうな顔で睨み付ける。
それに対し、ウェル博士は挨拶代わりにノイズを召喚して颯人達に向かわせた。
「おぉおぉ、ご挨拶だねぇ。分かり易くて結構」
〈シャバドゥビタッチ、ヘンシーン シャバドゥビタッチ、ヘンシーン〉
向かってくるノイズを前に、颯人は左手にフレイムウィザードリングを嵌め変身し、奏達も聖詠を唱えギアをその身に纏った。
「変身!」
〈フレイム、プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!〉
〈チェンジ、ナーウ〉
「Croitzal ronzell gungnir zizzl」
颯人はウィザード、透はメイジに変身し、ギアを纏った奏達は次々とノイズを蹴散らしていく。今度は適合係数が低下させられることも無く、全力を出して戦えている。
奏の槍がノイズを次々と薙ぎ払い、翼の剣がノイズを膾切りにしていく。決して離れ過ぎず、近すぎない絶妙な距離を取る2人は息の合ったコンビネーションで加速度的にノイズを蹴散らした。
一方響もクリス・透と共にノイズを叩きのめしていく。まるで前回のリベンジと言わんばかりだ。全力が出せれば彼女達がノイズ相手に後れを取る道理などない。
そして颯人はと言うと、数を減らす様子の無いノイズの群れを潜り抜けウェル博士に肉薄していた。ウェル博士は次から次へとノイズを召喚していたが、転移魔法が使える颯人には殆ど意味が無い。
ノイズの数は多いが、奏達ならあの程度物の数ではない。颯人は彼女達を信じて、同時に彼女達の負担を少しでも減らす為に早々にソロモンの杖を押さえるべくウェル博士に接近したのだ。
「よぉ、博士! 決闘を申し込んできたのは切歌ちゃんと調ちゃんだった筈だけどあの2人はどうしたんだい?」
「あの子達は謹慎中です。だからこうして私が出張ってきているのですよ。お友達感覚で計画遂行に支障を来たされては困りますので」
「でも、護衛を1人も置いておかないのはちょいと迂闊じゃないかねぇ? こうして近付かれたら終わりじゃん」
「そう思いますか?」
颯人に接近されていると言うのに余裕の表情を崩さないウェル博士。
その余裕の理由はすぐに分かった。颯人の背後にソーサラーが転移して来て、姿を現すと同時にハルバードを横薙ぎに振るったのだ。
背後からの攻撃に颯人は振り返る事なく切り裂かれ、その体が光となって霧散した。
その光景は予想外だったのか、ウェル博士もソーサラーも言葉を失った。
「なっ!?」
「そう言う小細工に関しちゃ、俺の方が一枚上手だぜ?」
颯人の声がウェル博士の背後から響く。同時にウェル博士は後頭部に銃口が押し付けられているのを感じた。
「後ろッ!? 何故ッ!?」
「んっんー、何でかな? 天才なら当ててみな」
このトリックはとても単純で、颯人が転移したのはウェル博士の背後だった。その後彼はコピーでウェル博士の前に自分の姿を作り出し、さもウェル博士の前に直接転移してきたかのように振舞ったのだ。
ソロモンの杖をコートの下に隠して無害な博士を装う彼の性格なら、無防備を晒すフリをして伏兵を用意してもおかしくないと考え策を練ったのである。
裏をかいたつもりが逆に裏をかかれた事に、ウェル博士は悔しそうに歯噛みする。ソーサラーはウェル博士を助けたいが、自分が何かするよりも颯人が行動する方が早い事が分かっているので何もする事が出来ない。
ウェル博士とソーサラーの動きを止めた事で、颯人の思惑は成功した。指示の無くなったノイズはあっという間に奏達により一掃され、ウェル博士とソーサラーは取り囲まれる。
後はこの2人を連行すれば良い。だがその前に聞いておかなければならない事があった。
「何を企てる、F.I.S.。ソロモンの杖、そして魔法使いと手を組み、何を成すつもりだ?」
「企てる? 人聞きの悪い。我々が望むのは、人類の救済ッ!」
翼からの問い掛けに、ウェル博士は颯人から銃口を向けられているにも拘らず天に向けて指を突き出す。その指が向いた先は、天井で輝く掛けた月。
そして月を指差しながら、彼は声高らかに言った。
「月の落下にて損なわれる、無辜の命を可能な限り救い出す事だッ!」
それはあまりにも衝撃的な言葉だった。月の落下など、言われてもおいそれと信じる事が出来るものではない。
「月の公転軌道は、各国機関が三ヶ月前から計測中ッ! 落下などと結果が出たら、黙って――」
「黙っているに決まっているじゃないですか」
あまりに衝撃的な言葉に、反論しようとする翼だがそれをウェル博士が遮った。
「対処方法の見つからない極大厄災など、更なる混乱を招くだけです。不都合な真実を隠蔽する理由など、幾らでもあるのですよッ!」
最初こそその言葉に確かに驚いたが、言われてみれば納得できる話だった。欠片なら何とかなったが、月その物の落下などどうにかできるものではない。破壊など論外だし、地球を捨てて逃げると言う事も出来ない。どうしようもない災害をヘタに公表して混乱を招くよりは、黙っておいて混乱による被害を避けるのは当然の考えであった。
そこでクリスがある事に気付いた。
「まさか、この事実を知る連中ってのは、自分達だけ助かるような算段を始めている訳じゃ――!?」
「だとしたらどうします? あなた達なら?」
クリスの言葉に、ウェル博士が問い掛ける。
そこで透は異変に気付いた。クリスの足元に奇妙な亀裂が走っている。
「対する私の答えが……ネフィリムッ!」
ウェル博士の声に応えるように、地響きと共にクリスの足元が隆起した。その瞬間透がクリスを突き飛ばすように抱き着き、直後にクリスが立っていた場所からネフィリムが飛び出してきた。
「く、すまねぇ透」
危うく真下からのネフィリムの攻撃を受けるところだったクリスは、助けてくれた透に感謝した。
だが感謝するには少し早すぎた。2人が起き上がる前に、魔法の鎖が2人を拘束したのだ。
「な、しま――!?」
「フフフフフッ……」
2人を拘束したのはメデューサだった。ウェル博士の危機を前にしても姿を隠していたメデューサは、颯人達の意識がウェル博士の話に釘付けになっている間に接近していたのだ。
「クソッ!? 身動きが、取れねぇッ! 放しやがれッ!?」
「さて、どうしてやろうか……」
「雪音ッ! 北上ッ!」
2人の危機に、翼が2人を助けるべくメデューサに刀を振り下ろした。奏もそちらに向かおうとしたが、その前にはソーサラーが立ち塞がる。
残るは颯人と翼だが、2人はネフィリムの相手で手一杯だった。
以前より大きく成長したネフィリムは、全ての能力も上昇しパワーも増強されていた。
「人を束ね、組織を編み、国を建てて、命を守護するッ! ネフィリムはその為の力ッ!」
ネフィリムは口から涎を垂らしながら、響を集中的に狙って攻撃した。汚染土壌のエネルギーを吸収していたネフィリムは、その飢餓衝動に駆られるままに目前の極上の餌である聖遺物の欠片であるシンフォギアを喰らおうと響に襲い掛かる。
それを響と颯人は揃って相手取った。響が接近して拳をネフィリムに叩き込み、颯人が後ろからガンモードのウィザーソードガンで撃ち抜く。
2人の攻撃に、しかしネフィリムは堪えた様子を見せずそれどころか更に攻勢を激しくした。激しい飢餓衝動がネフィリムの攻撃性を上げているらしい。腹を空かせた獣が凶暴性を増すようなものだ。
この事態に、颯人は早速ウィズからもらった新たな指輪を試してみようと左手の指輪を取り換えた。
「どれ、試してみますか」
〈ランド、ドラゴン。ダン・デン・ドン・ズ・ド・ゴーン! ダン・デン・ド・ゴーン!〉
颯人が使用したのは、ランドスタイルの強化形態。フレイムドラゴンと同様、颯人の中の魔力をさらに引き出した姿だ。
さらに颯人は、その力をさらに引き出す指輪を使用した。
〈チョーイイネ! スペシャル! サイコー!〉
フレイムドラゴンでは胸にドラゴンの頭を付け、強烈な火炎放射で相手を焼き尽くす魔法。しかしこの魔法の真骨頂は自身の中の魔力の源であるファントムの力を使役する事にある。
故に発揮される効果は、能力によって異なった。
このランドドラゴンの場合、それは両手に爪のついた手甲『ドラゴンリッパー』を装着する事にあった。颯人はその爪でネフィリムに斬りかかる。
「そうれいっ!」
ランドスタイルはただでさえパワーに優れた姿。それが魔力を全力で使えるとなれば、それはネフィリムと対等に戦えるだけのパワーとなる。
ドラゴンリッパーによる斬撃が、ネフィリムを叩き伏せ吹き飛ばす。その結果に彼は満足そうに頷いた。
「これならいけそうだ。響ちゃん! こいつは俺に任せて、ウェル博士の方を頼む!」
「はい!」
颯人の言葉に響は頷いてウェル博士に向かって行く。これにはウェル博士も顔に焦りを浮かべ、慌ててノイズを召喚して牽制した。
「く、来るなぁッ!?」
ノイズを何体か召喚するが、その程度で止められるほど今の響は弱くない。ノイズの群れを突破し、ウェル博士を捕縛しようと左手を伸ばした。
「ひぃっ!?」
自身の絶体絶命な状況に、ウェル博士は思わず首を竦め目を瞑る。
その時――――
〈コネクト、ナーウ〉
響とウェル博士の間に突如として魔法陣が現れる。響の左腕はその中に呑み込まれた。
「えっ?」
突然の事態に呆ける響。だがその直後、響は自身の左腕に走る激痛に顔を顰めた。
「うっ?!」
何が起こったのか? それを知るのは彼女の背後でネフィリムと戦っていた颯人だった。
出し抜けに目前に現れた魔法陣に、ジェネシスの魔法使いの攻撃を警戒し動きを止めた颯人。だが魔法陣から出てきたのは攻撃魔法では無く、響の腕だった。
それだけならまだ良かったが、問題なのは腕が出た方向。響の腕はあろう事かネフィリムの方に向けて突き出されたのだ。
まずいと思った時にはもう遅かった。ネフィリムは目の前に出された餌に躊躇なく喰らい付き、響の左腕を容赦なく食い千切った。
左腕を食い千切られ、血を噴き出しながらその場に尻餅をつく響。咄嗟に左腕を押さえる響だったが、腕から走る激痛と流れる血液に、響は悲鳴を押さえる事が出来なかった。
「う、うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
辺りに響き渡る響の絶叫。その声は颯人だけでなく、奏達の耳にも届き彼女の身に起きた悲劇を全員が知る事となる。
「た、立花ぁぁぁッ!?」
「響ぃぃぃっ!?」
翼と奏の叫びが響の悲鳴に続く。
それを遮るようにウェル博士の歓喜の声が響いた。
「いったぁぁぁ! パクついたぁぁぁ! シンフォギアをッ!! これでぇぇぇぇ!」
左腕を食い千切られ、苦しむ響。狂喜乱舞するウェル博士。奏はソーサラーとの戦闘を中断し、響の方へと向かって行く。
その時響の姿が黒く染まっていった。響の胸の傷跡を中心にして、影が広がるようにその全身を黒く染める。
初めて見る現象に奏が動きを止めていると、全身を黒く染めた響は双眸を爛々と光らせ咆哮を上げた。
それは聖遺物の暴走。生命の危機に、聖遺物が響の意識を塗り潰し破壊衝動のみで行動するようになる姿。
実はルナ・アタック最後の戦いで一瞬響が陥りそうになっていたのだが、あの時は響自身には生命の危機が無かった上に響以上の怒りをクリスが抱いていた為暴走に至る事が無かったのである。
獣と化した響は、自身の生命を脅かす危険のあるネフィリムに襲い掛かった。
「ガァァァァァァァァッ!」
ギアのエネルギーにより新たに形成された左腕を携え、颯人の横を通り過ぎネフィリムの胴に凄まじい一撃を叩き込む。
その一撃はネフィリムの体に深くめり込み、ネフィリムを後ずらせた。それだけに留まらず、響のラッシュが胴、顎、脳天とネフィリムの体に次々と突き刺さる。
勿論ネフィリムもやられてばかりではないが、今の響に痛覚は存在しないのかネフィリムの反撃を受けても意に介した様子も無く攻撃を続行した。
「止めろぉッ!? 止めるんだぁッ!? 成長したネフィリムは、これからの新世界に必要不可欠なものだッ!? それを……それを……やぁめろぉぉぉぉっ!?」
発狂して叫ぶウェル博士が響を止めようとノイズを召喚するが、それは彼女を守ろうとした颯人と奏により一蹴される。
その間に響によるネフィリムの蹂躙は続く。拳を突き刺し、心臓を引き抜き放り投げると、逃げようとするネフィリムの上に飛び上がり右腕をエネルギーで形成した槍に変化させネフィリムに突き刺した。
それがトドメとなり、ネフィリムは断末魔の叫びを上げ爆発。
その余波は翼とメデューサまで届き、2人の戦いを中断させるほどであった。
「くっ!? 今のはッ!?」
「立花――――!?」
爆発の光が治まった時、ネフィリムの姿は跡形もなくなっていた。
だが響はまだ止まらなかった。次の彼女の標的は、自分に明確な悪意を向けてきたウェル博士。暴走状態の響の煌めく双眸に睨まれ、ウェル博士は悲鳴を上げてその場から逃げようとした。
「ひゃっ、ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?」
逃げるウェル博士に襲い掛かる響。ネフィリムですら蹂躙した今の響なら、ウェル博士など物の数秒で挽肉に出来てしまう。
しかしそれを許さない者達が居た。颯人と奏である。
2人は逃げるウェル博士には目もくれず、暴走する響を止めようと彼女の前に立ち塞がる。
「おぉっと、そこまでだ響ちゃん。これ以上は流石にいけねぇぜ」
「もうお前を傷付ける奴はいない。だから落ち着け、響!」
「ウゥゥゥゥ、ゥァァアアアアアアァァァァァァッ!?!?」
理性無き咆哮を上げ、邪魔するものは全て敵と颯人と奏に襲い掛かる響。
颯人と奏はその響を前に、目配せをすると互いに頷き合い響の鎮圧に動いた。
それは一瞬の出来事だった。
響の拳を颯人のドラゴンリッパーが受け止め、弾いた所で背後に回った奏がアームドギアで後ろから羽交い絞め。一瞬響から身動きを奪った次の瞬間、懐に潜り込んだ颯人の肘鉄が響の腹に直撃していた。
「ごめんよ……」
「ガ、カ……」
パワーに優れたランドスタイルの、更にパワーを強化した姿の一点に集中させた一撃。さらには奏が背後からアームドギアで喉を押さえつけた事で、酸欠に陥り腹のダメージを合わせて響の意識を刈り取る事に成功した。
力無く倒れる響の体が、何時もの色を取り戻す。
颯人は倒れる響を受け止め、気を失っただけの彼女の様子に安堵の溜め息を吐くと奏に向けて安心させるように頷いた。
それを見て奏も安心したように溜め息を吐いた。
彼らの様子を離れた所から眺めていた翼達は、一先ず響が元に戻ってくれた事に安堵する。
一方で、メデューサは仮面の奥で苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「チィッ、ウェルめ。口先だけであっさり逃げ出すとは情けない奴」
「ま、しょうがないじゃん。あの人体はただの人間なんだし」
ウェル博士に悪態を吐くメデューサの傍に、何時の間にかグレムリンが立っていた。グレムリンは右手に嵌めていたコネクトウィザードリングを眺めながらつまらなそうに呟く。
「僕らもそろそろ帰ろう。ネフィリムもやられちゃったし、逃げたウェル博士を探さなきゃいけないしさ」
「…………フン」
グレムリンの言葉に、メデューサは忌々しそうに鼻を鳴らしつつ魔法でその場から姿を消した。それと同時にクリスと透を拘束していた鎖も消える。
「ッ! 消えた、ふぅ……」
拘束が外れ、立ち上がるクリスと透は縛られていた事で滞っていた血流を解しつつ響の元へと向かって行く。
対して翼は、先程から響達の方を見て動かないソーサラーを警戒していた。
自身にアームドギアの刀を向けてくる翼を、ソーサラーは無言で見つめ返す。翼も無言でソーサラーを睨み付けていると、彼は徐に翼に背を向けてその場を立ち去っていく。
彼を行かせるべきかどうすべきか迷う翼だったが、結局は響を優先してソーサラーを見逃す事にした。どの道自分1人では彼をどうにかするのは難しいし、それに何よりソーサラーから感じる雰囲気が何故か攻撃を躊躇させたからだ。
何と言うか、強い迷いを抱えている様な――そんな雰囲気を彼から感じた。
翼が見送る前で、ソーサラーは魔法で姿を消した。ソーサラーの姿が無くなった事に、翼は刀を下ろして小さく息を吐くと彼女も響の身を案じて彼女の元へと向かうのであった。
後書き
と言う訳で第83話でした。
響の腕は原作同様食われました。流石にあれがないと、この後の展開が不自然になりそうだったので。
因みに一応解説しますと、響の腕をネフィリムの前に繋げたのはグレムリンです。無印ではメデューサがやりましたが、今度はグレムリンがやりました。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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