魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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G編
第81話:それぞれの帰還
前書き
どうも、黒井です。
読んでいただきありがとうございます!
逃げる切歌と調を追う颯人達。
旧リディアンしか知らない奏やそもそも在学生ではない颯人と透はともかく、在学生である響達3人は学内の構造を把握しているのですぐに追い付くことが出来た。
校門近くで前後左右から切歌と調を囲む颯人達。
追い詰めた2人に、響が代表して声を掛ける。
「切歌ちゃんと、調ちゃん……だよね?」
響からの問い掛けに対し、調は答える事無く周囲を見渡しながら口を開いた。
「8対2、数の上ではそちらが圧倒的。だけど、ここで戦う事で、あなた達が失うものの事を考えて」
ここは校門近く。周囲にはリディアンの生徒は勿論、その家族や外部から来た人々が数多く居る。ここで派手に戦えば正体がバレる云々以前に関係ない一般人に多大な被害が及ぶ。
元よりここで派手に戦う気は無かったが、それを敢えて言われると相手の姑息さを感じずにはいられずクリスなどは思わず顔を顰めた。
「お前、そんな汚い事言うのかよッ!? さっき、あんなに楽しそうに歌ったばかりで――」
クリスの言葉に共感したのか、それとも純粋に調とは価値観が違うのか、切歌はクリスの言葉に一瞬調の方を見た。
そして――――
「ここで今、戦いたくないだけ……そ、そうデス、決闘デスッ! 然るべき決闘を申しこむのデスッ!!」
切歌の口にした決闘と言う言葉に、颯人は口角を上げ面白いものを見たと言うような顔をした。今日日決闘など、古臭いにも程がある。が、故にこそ面白いと思う。
単に感覚がズレているだけなのか、苦し紛れなのかは分からないが。
しかし手段が闘争だからか、この場で最も戦いを望まない響が切歌の提案に異を唱えた。
「どうしてッ!? 会えば戦わなくちゃいけないって訳……でもないでしょッ!?」
「「どっちなんだよ(デス)ッ!」」
同時に同じツッコミを入れると言う、前にも見た事のある光景に颯人は奏と顔を見合わせ肩を竦め合う。
切歌もクリスと意見が合ってしまったからか、彼女と顔を見合わせていた。
「決闘の時は、こちらから告げる。だから――」
調がそこまで口にした時、颯人達を飛び越えて2人の傍に降り立つ人物が居た。
「ッ!?」
袖の長いパーカーとスラックス。頭はキャップを目深に被り更にその上からフードを被っている為顔は伺えない。だが体格などから男性である事は伺うことが出来た。
突然乱入してきたその人物に、颯人達は勿論切歌達も驚きに目を丸くした。
「な、何デスッ!?」
「あなたは――――!?」
「貴様、何者だッ!?」
「こいつらの仲間か!?」
各々驚きを露にする少女達だったが、颯人は別の所に注目していた。
パーカーの人物の腰に巻かれたベルト、そのバックル部分に、見慣れた掌型の装飾があるのが見えたのだ。
それが意味するところは、一つしかない。
「お前……魔法使いか?」
颯人の呟きに奏達は盛大に身構えた。彼女達が敵の魔法使いと聞いて真っ先に思い浮かべるのは、敵組織であるジェネシスの魔法使い。しかも1人で来たと言う事は幹部の可能性がある。警戒するのも無理はない。
だが切歌達にとって最も身近な魔法使いは1人しか存在しなかった。
「もしかして……」
「ソーサラー、デス?」
切歌と調の声に応えず、ソーサラーと思しき男性は颯人と睨み合う。と言ってもソーサラーらしき男性はキャップを目深に被っている為目線自体は合っていないのだが。
場に似つかわしくない緊張感のある膠着。それを破ったのは他ならぬ颯人であった。
「…………はぁ」
颯人は溜め息を一つ吐くと、徐に3人に向け手をシッシと払った。言葉は無かったが、さっさと行けと言っているのが分かり切歌と調は怪訝な顔になる。
「……どう言う事?」
「お前らと考えは同じってだけだよ」
ここで戦えば周りに無用な被害が及ぶ。しかも、シンフォギアだけでなく魔法使い迄加わればそれはさらに広がる。折角新しくなった校舎もただでは済まないだろう。
そんな戦いをするつもりは颯人にも毛頭なかった。故にこの場は見逃すのだ。
颯人の気持ちを理解したからか、ソーサラーらしき男はキャップのつばを抑え軽く会釈すると2人の少女の手を取りその場を立ち去っていく。切歌と調は、ソーサラーに半ば引っ張られるようにその場を立ち去っていく。
颯人はそれを黙って見送った。
3人の姿が見えなくなると、それまで黙っていた奏が口を開いた。
「良かったのか、行かせて?」
「仕方ないだろ? あの子達の言う通り、ここでドンパチする訳にもいかないんだし」
「でも、このまま黙って見逃すのも……」
「お、追い掛けますか?」
「無駄無駄。多分少し人気の無いところに言ったら魔法で転移されるよ」
まぁ分かってはいた。颯人と奏のやり取りから、魔法使いの逃げ足の速さはこの場の全員が熟知している。特にテレポートの様な転移系の魔法を持っている様な場合、追跡は絶望的だ。
以前ソーサラーが魔法で転移したのを見ているので、颯人は3人の追跡を早々に諦めていた。
こうなると彼女達に出来る事は、彼女達の誘いに乗り決闘の合図を待つ事だけであるが――――
その時、彼らの端末に通信が入った。
『皆、揃っているか? ノイズの出現パターンを検知した。程無くして反応は消失したが、念の為に周辺の調査を行う』
弦十郎からの通信に各々返答しようとしたその時、通信機の向こうで弦十郎が驚いたような声を上げた。
『うぉっ!?』
「司令?」
「どうした旦那?」
翼と奏が何事かと問い掛けると、直ぐに通信機から返答があった。
だがそれは弦十郎からのものではなかった。
『その件に関してはこちらで対処しておいた。まぁ端的に言うと、ウェルとか言う奴がバカやってノイズを使役しただけという話だ』
「……ウィズ?」
通信に出たのはウィズだった。どうやら弦十郎から通信機を奪う様に取って代わりに答えたようだ。
突然通信に出た事もそうだが、颯人はそれ以上にウィズの声に違和感を覚えた。
「ウィズなんかあったか?」
『何故だ?』
「何か声可笑しくねえか?」
『気のせいだ。それより颯人、お前は早く戻ってこい。渡す物がある』
ウィズは伝えたい事を伝えると一方的に通信を切った。通信が切られる寸前、通信機の向こうから弦十郎が何かウィズに文句を言っているような声が聞こえたが内容までは聞き取る時間は無かった。
一方的に通信を切ったウィズに、颯人は顔を顰めて通信の切れた通信機を見た。
「何だ、ウィズの奴?」
「とりあえずアタシ達も一旦戻ろう。詳しい状況の整理とかやらないと」
「そうだな。あぁ、響ちゃん達は学際終わってから出構わねえよ」
「い、いえ! 私達も戻りますよ!?」
自由に行動できる颯人と奏、透が一足先に仮設本部に戻り響達3人には学院に残ってもらおうとした。だが当然ながら響達はこれを拒否。特に生真面目な響と翼は断固として譲ろうとはしなかった。
「でも旦那だって、きっと同じ事を言ったと思うぞ?」
「あぁ。状況が判然としてないならともかく、ウィズが何とかしてくれたってんなら急ぎの用じゃないだろうしな」
「それにいきなり3人が居なくなったら、他の生徒とかが怪しむだろ。何かあったら3人にも連絡して来てもらうからさ。な?」
2人にここまで言われては流石に引き下がるしかない。見ればクリスの方も透に説得されて渋々頷いていた。
3人を説得した颯人達は、場所を移動して仮設本部に向け転移するのだった。
***
学際からソーサラーの転移により移動した切歌と調は、安全な場所に着陸したエアキャリア内でマリアと合流を果たした。
尚、ソーサラーは転移してすぐに2人と別れているのでマリアとは合流していない。
「マリアッ!」
「大丈夫デスかッ!?」
「えぇ」
2人と合流したマリアは、彼女達に心配をかけてしまった事に加えて嘘を吐いている罪悪感から、少し顔に影を差したまま応えた。
そんなマリアに、調は心底心配そうな顔をしながら駆け寄った。
「良かった。マリアの中のフィーネが覚醒したら、もう会えなくなってしまうから……」
調はそう言ってマリアの背中に腕を回して抱き着いた。
マリアは抱き着いてきた調の背を優しく撫でる。
「フィーネの器となっても、私は私よ。セレナを残して消えるわけ無いでしょ、心配しないで」
マリアの言葉に、切歌もマリアの腕に飛び込んだ。
2人の少女がマリアに抱き着き、その2人をマリアが優しく見つめながら撫でる微笑ましい光景。
そこに変身したソーサラーがナスターシャ教授とウェル博士と共にやって来た。切歌と調は、再び鎧と仮面に身を包んだソーサラーに首を傾げた。
「あ、ソーサラーさん……」
「また変身しちゃったデス?」
何故態々顔を隠すのかと疑問を抱く2人だったが、ナスターシャ教授は2人の疑問に頓着せず次の指示を出した。
「2人とも、無事で何よりです。さぁ、追いつかれる前に出発しましょう」
ここも何時までも安全ではない。直ぐに次の拠点となる場所へ移動しなければ。その考えでの指示だったが、切歌と調は黙っていられなかった。
「待ってマムッ! アタシ達、ペンダントを取り損なってるデスッ! このまま引き下がれないデスよッ!」
「決闘すると、そう約束したから――」
調は全てを言いきる事が出来なかった。ナスターシャ教授が2人の頬を引っ叩いたからだ。
「いい加減にしなさいッ! マリアも、あなた達2人も、この戦いは遊びでは無いのですよッ!」
厳しい言葉でマリア達を叱るナスターシャ教授。
流石に厳しすぎると、ソーサラーがナスターシャ教授の肩に手を置くと矛先が彼に向いた。
「あなたもですッ! 少しこの子達を甘やかしすぎですよッ!」
ナスターシャ教授の言葉に思い当たる節はあるのか、ソーサラーはバツが悪そうに頬をかく仕草を見せた。
年少組は厳しく叱られた事に委縮し、年長組は気まずさに何も言う事が出来なくなった状況。
そこで場を諫めたのは、少し意外な事にウェル博士であった。
「そのくらいにしましょう。まだ取り返しのつかない状況では無いですし、ねぇ?」
ウェル博士の言葉にどう言う事だと言いたげにソーサラーが首を傾げると、彼は自信を感じさせる笑みと共に答えた。
「いえいえ、2人が二課の連中と交わしてきた約束……決闘にのってみたいのですよ」
笑みを共にウェル博士がそう告げると、彼の後に続く様にメデューサとグレムリンが姿を現す。
彼の笑みと現れた2人の存在に、他の面々は言い知れぬ不安を感じずにはいられなかった。
***
一方仮設本部では、颯人が帰還早々ウィズに連れられ人の居ない一室に連れて行かれていた。
有無を言わさず連れて行かれ、颯人は訳が分からないと言った顔でウィズに詳しい話を求めた。
「で、何だよいきなり? 流石にそろそろ説明して欲しいんだけどな?」
若干の苛立ちを見せながら言う颯人だったが、ウィズはそんなの何処吹く風と己のペースを維持し続けた。
「端的に言おう。少しの間私は戦闘に出れそうにない」
「はっ!?」
ウィズの口から出たまさかの言葉に、颯人は信じられないと言った顔をした。彼が知る限り、ウィズは最も強い魔法使いだ。その彼が今後しばらく戦闘で頼りに出来ないとなると、いざと言う時厳しい状況になる可能性があった。
彼に頼るのは正直癪だが、頼りたいと思わせるだけの実力が彼にはあったのだ。
「その代わり、お前にはこれを渡しておく」
言葉を失った颯人に、ウィズは懐から取り出した2つの指輪を渡した。一つは右手で扱う魔法を発動する為の指輪。そしてもう一つは、フレイムドラゴンと同様の造形をした、しかし色はランドのそれの指輪だった。
それがどんな指輪なのかは、考えるまでも無かった。
「こいつは……」
「次の指輪も今大至急作っている所だ。出来次第お前に渡す」
「……ジェネシスが大きく動くのか?」
ウィズがここまで戦力増強を急ぐという事は、つまりそう言う事だろう。ジェネシスが、ワイズマンが大きく動くのが予想されたのだ。
颯人の言葉にウィズは神妙な様子で頷いた。
頷いたウィズを見て、颯人は再び渡された指輪の1つ――ランドドラゴンウィザードリングを眺めた。
照明の明かりに照らされ輝く指輪の装飾。普通に見ればただ美しいその輝きが、今は何処か不吉なものを感じさせる光に見えた。
後書き
と言う訳で第81話でした。
素顔は晒さずとも、ソーサラーが変身前の姿を見せました。彼の立ち位置は、F.I.S.組に置いて面倒見のいいお兄さんと言ったところでしょうか。ついつい年少組を甘やかしてしまうので、今回ナスターシャ教授に叱られました。
一方颯人はランドドラゴンを入手。次回以降の戦闘で活用していく予定です。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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