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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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G編
  第71話:戦闘で説得

 
前書き
どうも、黒井です。

さて今回ですが……先に言っておきます。調ファンの皆さんごめんなさい。 

 
 あと一歩でマリアを倒せると言う時、マリアの前に立ち塞がった1人の魔法使い・ソーサラー。

 ソーサラーが姿を現した瞬間、颯人は奏と翼を守るべく2人の前に姿を現した。

「颯人!」
「あいつは俺が相手をする。2人はそのまま、マリアを――」

 颯人が奏と翼にマリアの相手を任せようとした時、翼は上から迫る気配に気づいた。ハッと上を見ると、そこには死神の鎌の様な武器を手にした少女が飛来してくるのが見えた。

「上です!?」
「げっ!?」

 翼の警告に颯人と奏は上を見上げ、危険を察すると揃ってその場を飛び退いた。結果、飛来した少女の大鎌は空を切り、攻撃を外した少女は舌打ちをしてマリアの傍まで後退した。
 それに続くようにもう1人の少女が同じように上空から飛び降りてくる。

「マリア、大丈夫デスか!?」
「えぇ、何とかね」

 大鎌を構えた少女・切歌がマリアに問い掛けると、マリアは頷いて答えた。彼女が問題ない様子に、同じく飛来した少女・調が安堵の表情を浮かべる。

「装者が、3人!?」
「おまけに魔法使いが1人、か」

 状況は少々厳しい。彼らにとってソーサラーの力は未知数だ。その上マリアを含んだ装者3人。マリアだけでも手を焼かされたのに、この上更に装者が増えるなど冗談ではない。

 それでもやらなければならないだろう。どの道相手は見逃してくれる事は無いだろうし、彼女達としてもマリア達には色々と聞かなければならないことがある。

 問題は戦力の振り分けだが――――――

「奏、翼ちゃん。悪い、俺はあの金色の相手に集中する必要がありそうだ」
「何か知ってるのか?」
「いや。だがあいつ、只者じゃねえ。気配で分かる」

 仮面で顔は見えないが、何時になく真剣な声色の颯人に、2人はソーサラーの危険性を嫌でも認識した。

 この場は彼の言う通りにしようと、2人は互いに頷き合いソーサラーの相手を颯人に任せるとマリア達の相手をしに向かった。
 2人は颯人とソーサラーを迂回するように左右に分かれて、マリア達3人の装者を挟み撃ちにする形で移動する。それに対し3人は、一塊になって何処から攻撃が来てもいい様にと身構えた。

「こちらの有利は確定しているわよ。頼みの魔法使いは助けに来れず、しかも数の上でこちらが有利。まぁ尤も? 切歌と調の助けが無くても、この程度の相手は余裕だったのだけどね」

 明らかに余裕を取り戻し態度が大きくなるマリアに、奏は渋い顔をした。が、ふと翼が視線を上に向けた事に気付き奏もそれとなく上を見て、思わず笑みを浮かべた。

「貴様らみたいなのはそうやって……」
「見下してばかりだから勝機を見逃すんだよ」

 突然の奏と翼の言葉に、思わず首を傾げるマリアだったがすぐに2人が言いたい事に気付き自分達にとっての脅威が上からやって来たことに気付いた。

「上か!」

 マリアが上を見ると同時に、ヘリから飛び降りたクリスがアームドギアをガトリングに変形させて引き金を引く」

「どしゃ降りな、10億連発!」
[BILLION MAIDEN]

 突如としてマリア達3人に降り注ぐ銃弾の雨。これは流石に避けるのは無理と考え、マリアは自分を含め切歌と調を守るようにマントで頭上を覆い身を守った。これで銃弾は防げたが、代わりにその場から動く事が出来なくなる。

 そこにクリスと共に飛び下りた響が、落雷の様に拳を打ち込んだ。

 直前に銃撃が止み、上空の様子を確認したマリアは響の姿に2人を伴ってその場を退避し難を逃れた。目標を外した響の拳はステージの床に突き刺さり、モニターを砕いた。

 響の攻撃を回避したマリアは、反撃にマントでの殴打を放ったが響はそれを回避し奏の傍に退避する。一方のクリスは翼の傍だ。

 これで戦況は4対3。一気に逆転した。

「ん? 待て雪音、北上はどうした?」

 ここで翼が、透が居ない事に気付いた。本来であれば彼もクリス達と行動を共にしている筈なのだ。

「透はさっきの戦闘で怪我して今回は不参加だ」
「北上が怪我!? 何があった!?」
「詳しい話は後だ! とにかく今は透を休ませる! 安心しろ、透が居なくてもあたしがその分働いてやる!」

 透の安否や何があったかは気になるが、今はクリスの言う通りそれどころではない。それに彼が居なくても戦況は彼女達に有利である事に変わりなはいのだ。ならば焦る必要はない。

 改めて闘志を燃やす翼とクリス。奏もやる気を奮い立たせ、装者達が今正にぶつかり合おうとしていた。

「やめようよ、こんな戦いッ!? 今日出会ったわたし達が争う理由なんて無いよッ!?」

 そこで響が全員に待ったを掛けた。

 響は元来戦いを好まない性格だ。話し合いで住むなら、それに越した事は無いと考えている。流石に魔法使い達に対しては話し合い自体がそもそも通じない状態にあると嫌でも分かっているので、こんな事は言わない。
 が、今彼女達が相手にしているのは明らかに自分達と同じ装者なのだ。それならば、話が通じるかもと考えるのは彼女にとって普通の事であった。
 何を隠そう、初対面のクリスに対しても話し合いを持ち掛けたのだ。

 あの時はクリスと翼が揃って『何を馬鹿な事を』と思ったものだが、今となってはその彼女の行動が正しかった事を翼もクリスも身をもって知っている。

 だから2人は響を止めるような事はしない。奏だって同様だ。彼女達は響の人となりをよく知っているし、彼女を信頼している。

 しかし、それでも全てが話し合いで解決するかと言えば、そうは問屋が卸さなかった。

「そんな綺麗事をッ!」
「え?」
「綺麗事で戦う奴の言う事なんか、信じられるものかデスッ!」

 調と切歌は敵意の籠った目で響を睨み付け、話を聞こうともしなかった。

 響がどんなに素晴らしい思想を持っていようとも、彼女達は所詮今日が初対面なのだ。その相手を、いきなり信じろと言うのは土台無理な話であった。

「そんな……話せば分かり合えるよッ! 戦う必要なんか――――」
「……偽善者」
「――――え?」
「この世界には、あなたのような偽善者が多すぎる」

 調はそう言うと、響への攻撃を開始した。他の装者には目もくれない。今ので完全に響に狙いを定めたようだ。頭に付いたツインテール状のパーツから放たれる小さい丸鋸が、対話を求める響に無数に襲い掛かる。
 対する響は調からの偽善者発言に、精神的に追い詰められたのかかなり防戦を強いられていた。

「ちぃ、響ッ!」

 これは不味いと響の援護をしようとする奏。翼はマリア、クリスは切歌と戦闘を開始した現状、響の援護が出来るのは奏しかいない。

 そう思っていたのだが――――――

「奏、悪いちょっと頼む!」
「はぁっ!?」

 突然颯人がそう言ってソーサラーに背を向けた。隙ありと言わんばかりにハルバードを振り下ろすソーサラーに、慌てて奏が割って入ると颯人を守るようにソーサラーの一撃を受け止めた。

「颯人どういうつもりだ!?」
「だから悪いって。暫く響ちゃんと一緒にそいつの相手頼む」
〈コネクト、プリーズ〉

 かなり一方的に奏にソーサラーの相手を押し付けると、颯人はコネクトの魔法で何かを引っ張り出した。

 一体何をするつもりなのかと思ったが、ソーサラーは生半可な相手ではないのでそちらに注意を割く事が出来ない。

 だがある意味それで良かったかもしれない。もし気付いていたら奏も流石にソーサラーの相手どころではなかっただろう。

「えっ!? えっ!?」
「し、調ッ!?」

 颯人が魔法陣から引っ張り出したのは、事もあろうに調の頭だったのだ。彼は片手で掴んだ調の頭を魔法陣から引っ張り出すと、その状態で彼女に話し掛けた。

「やぁお嬢さん。調ちゃんだっけ? 俺、明星 颯人って言うんだ。宜しく」
「な、何!? 何のつもり!?」
「まぁまぁ落ち着きなって。別に取って食おうってんじゃないよ。ただ君、これ位しないとまともに話聞いてくれなさそうだったからさ」

 そう言いながら、颯人は周囲のノイズをウィザーソードガンで撃ち抜いていく。

 調が首から上を失った光景に切歌は驚愕し、調の攻撃に曝されていた響は颯人と調の体を光景を見て困惑していた。

「えぇぇぇっ!? は、颯人さん何してるんですかッ!?」
「あぁゴメンね響ちゃん! 悪いんだけど奏と一緒にあの金ぴかの相手頼める? 俺ちょっとこの子と話あるから」
「は、はぁ?」

 困惑しながらも、奏が結構押され気味だったので響はそちらの援護に向かった。
 マリアと切歌は調の異変に気付いていたが、翼とクリスが邪魔をして調の救援に向かえずにいた。

「んでさぁ、話の続きだけども……まぁあれだ。確かにいきなり話し合いを求められても難しいのは分かるよ。特に君らの場合、何か凄く込み入った事情があるっぽいのは顔見ればすご~く…………ゴメン、やっぱ全然分かんないや」

 周囲のノイズを倒しながら颯人は調に話し掛ける。調は、何とかアームドギアで颯人を攻撃しようとするが、魔法陣が絶妙に調のアームドギアを押さえている為反撃する事が出来ない。

 なので今調に出来る事は、颯人に対して言い返す事だけであった。

「あなたふざけてるのッ!?」
「いやいや、結構真面目だよ? 要するに、君は響ちゃんを甘ちゃんの偽善者って言いたいみたいだけど、君も響ちゃんの事全然知らないでしょって、アッブネ!?」

 調と話しながら、颯人はノイズの攻撃をギリギリで回避する。調への対応に意識を割かれている為、ノイズへの対処がやや遅れてしまっているがそれでも何とかノイズを捌けていた。

「調ちゃん知らないだろうけどさ? 響ちゃんもそれはそれは辛い目に遭ってる訳なのよ。ね? 調ちゃんそれ全然知らなかったでしょ? もう語るも涙聞くも涙って言う、おっと!?……まぁそんなのがあるんだよ。安っぽい言い方かもしれないけど、わわわわっ!? 誰だって辛い過去の1つや2つはあるもんでさ」
「調の頭を返すデェェェス!!」

 調との対話を続ける颯人だったが、そこにクリスの攻撃を掻い潜った切歌が襲来した。切歌は颯人から調の頭を取り返すべく、アームドギアを振り下ろす。

「いないいないばあっ!」
「デデデデェェェェス!?」

 瞬間、颯人は調の頭を切歌に向けて突き出した。このままでは調の頭を攻撃してしまうと、切歌は慌てて攻撃を中断しそのままバランスを崩して転倒する。

 転がっていった切歌に向けて、颯人はハンカチを振ると再び調と向かい合う。

 しかし――――――

「えっとそう言う訳でさ? 君らにも色々考えがあるのは分かるんだけど、響ちゃんみたいに凄くいい子の考えを頭から否定するのだけは止めてまずはしっかり話を――――って、あれ?」
「あぅぅ~……」

 颯人が再び調に顔を向ければ、彼女は目を回していた。そりゃそうだ。今の調の状態を一言で表せば、頭だけをジェットコースターに放り込んだも同然なのだ。調と話している間も颯人はノイズの攻撃を飛んだり跳ねたりして避け、時には調の頭を上に放って一時的に両手を自由にしたりしたのだ。
 そんな扱いをされれば誰だって目を回すに決まっている。

「あちゃぁ、ゴメンね。大丈夫? お~い?」

 目を回した調の頬を、颯人は優しくぺちぺちと叩いた。因みに今調の体がどんな状態になっているかと言うと、首から上が無い状態で両手両膝を地面についている。

 これは困ったと颯人が頭をかいていると、復帰した切歌が再び調の頭を取り返そうと颯人に飛び掛かった。

「調ぇぇぇッ!? 調の頭返すデェェェス!!」
「はい」

 今度は大人しく切歌に調の頭を差し出した。差し出された調の頭を、切歌は魔法陣毎引っ手繰るようにして取り返すと急いで調の体の方に向かった。

「調、もう大丈夫デスよ! 今元に戻して……って、これどうやってくっ付ければいいデス!?」

 魔法陣同士を重ねるようにしても、調の頭は元通りにならない。どうすればいいのかと切歌が悲鳴を上げると、颯人が対処法を教えた。

「普通に上から調ちゃんの頭を押し込めば元に戻るよ?」
「上から? こうデスか!」
「ふぎゅっ!?」

 言われるままに切歌が魔法陣の中に調の頭を押し込めば、調の頭は元通り彼女の体にくっついた。

「し、調ぇ!? 大丈夫デスか!?」
「き、気持ち悪い……うぷ!?」

 頭と体が元通りになって一安心する切歌だったが、調は三半規管に大ダメージを受けたからか物凄く気分が悪そうだった。

 気分が悪そうな調と彼女を心配する切歌に、颯人が音も無く近付いた。

「いやぁ、ゴメンね? こうでもしないと話聞いてもらえないかなぁって思ったもんでさ」
「だからってこんなやり方あんまりデス!? アンタ常識無いんデスか!?」
「いや面目無い。お詫びと言っちゃなんだけどこれを上げよう」
〈コネクト、プリーズ〉

 颯人は2人に謝罪しながら、魔法陣に手を突っ込んで一つの箱を取り出した。見た所ケーキ屋の箱に見える。

「何デスかこれは?」
「これ、駅前のケーキ屋で売ってる特製プリン。1日数量限定の高級品よ」
「「高級プリン!!」」

 高級プリンと言う単語に、切歌だけでなく気分悪そうにしていた調までもが目を輝かせた。何だかんだ言っても、この年頃の少女である2人はこういう物に目が無いらしい。

「これ上げるから、今回の事は許してね?」

 そう言って両手を合わせてゴメンのジェスチャーをする颯人に、切歌と調は疑惑と敵意の籠った目を向けた。
 どうやら完全に嫌われたらしいと、颯人が仮面の奥で苦笑すると突然背後で黄緑色の閃光が煌めいた。

 何事だと背後を振り返ると、ステージ上に新たなノイズが出現していた。
 黄緑色で全身ブヨブヨ。まるで密集した芽キャベツか何かの様な見た目の、かなりグロテクスな外見のノイズであった。

 それを見て驚いたのは、ステージ近くでマリアやソーサラーと対峙している奏達だけでは無かった。

「な、何だあのノイズ!? 初めて見るぞ!?」
「……分裂増殖タイプ」
「こんなの使うなんて聞いてないデスよ!?」

 切歌と調の様子から、どうやらこのノイズの登場は彼女達にとっても予想外の展開だったようだ。

 颯人が切歌と調と共にそのノイズを見ていると、奏と響が相手をしていた筈のソーサラーが颯人に攻撃してきた。

「おっと!?」

 振るわれたハルバードをギリギリのところで回避する颯人。ソーサラーは彼を2人から引き離すと、そのままマリアと合流した。

「マム……」
『皆、ここは退きなさい』
「……分かったわ」

 通信機からの声に頷くと、マリアは両腕を合わせ空へと掲げた。それは奏がアームドギアを形成する時の動きと酷似していた。
 案の定、マリアの脳腕のガントレットが合体して射出されると、奏のアームドギアと色以外全く同じ形状の黒い一振りの槍へと変化した。

「アームドギアを温存していただと!?」
「今までは手を抜いてたって訳かよ、チクショウが!?」

 先程は全く本気では無かったという事に、奏と翼は歯噛みする。
 その2人の見ている前で、マリアはアームドギアの穂先を彼女達ではなくノイズの方に向けた。一体何をするのかと見ていると、マリアのアームドギアの先端が分割・展開しそこにエネルギーが充填され一筋の閃光がノイズに向け放たれた。

[HORIZON✝︎SPEAR]

「おいおい、自分らで出したノイズだろッ!?」

 自分で使役するノイズを自分で攻撃するという訳の分からない行動に困惑する装者達だったが、マリア達はそんなことお構いなしに撤退に移った。

「頼むわよ、ソーサラー」
〈テレポート、ナーウ〉

 マリア達はソーサラーの魔法で一瞬にしてその場から姿を消す。立て続けに行われる訳の分からない行動に、翼とクリスの困惑は加速した。

「ここで撤退だと!?」
「折角温まって来たところで、尻尾を巻くのかよッ!」

 追いかけようにも魔法で逃げられては追跡のしようがない。悔しさに地団太を踏んでいると、響がある異変に気付いた。

「あぁッ!? ノイズが!?」

 響の声に釣られて颯人達が周囲を見渡すと、マリアの攻撃で爆散し飛び散ったノイズの肉片が蠢いていた。それだけではない。マリアによって体を貫かれた本体も、泡立つようにブクブクと内側から膨らみ元の大きさに再生していった。

 先程の調と切歌の話を聞いていた颯人は、まさかと思いウィザーソードガンでノイズを撃ち抜いた。すると飛び散ったノイズの体は普通に炭となって消し飛んだが、飛び散った一部はそのまま再生し増殖してしまった。

「うげぇ、千切れたら千切れただけ増えるのかよ。面倒くせぇ」
「放っておいたら際限ないって訳か……その内ここから溢れ出すぞッ!?」
「だからって無暗に攻撃したら逆に増えちまう。クソッ!?」

 このノイズの特性に装者達は頭を悩ませた。攻撃しない訳にはいかないが、迂闊に攻撃しては数を増やしてしまう。

 しかもそこに更なる面倒が舞い込んだ。

『皆さん、聞こえますかッ!』
「緒川さん、何でしょう?」

 突然の慎次からの通信。奏は嫌な予感を感じたが、それは的中した。

『会場のすぐ外には、避難したばかりの観客達が居ますッ! そのノイズをここから出す訳には――――!』
「観客ッ!?」

 あれだけの数の観客だ。完全に会場から遠くに移動させるには時間が掛かるのも当然である。

 つまりこれで、このノイズ達が自然消滅するまで放置するという選択肢は消えた訳だ。

 攻撃することは出来ず、かと言って放置も出来ない。万策尽きたかと思われたその時、響が呟いた。

「絶唱……、絶唱ですッ!」
「あのコンビネーションは未完成なんだぞ!?」

 周りは難色を示すが、響の顔は確信と自信に満ちていた。

 それは颯人も同様だった。

「増える前に全部纏めて吹っ飛ばすってのは、確かに理に適ってる。時間も無い以上、他に手は無いか」
「颯人、本気で言ってるのか!? 失敗したらお前だってどうなるか分からないんだぞ!?」
「他に手があるなら聞くぜ?」

 他の者はともかく、奏は絶唱の負担を颯人に肩代わりしてもらっている。このコンビネーションが失敗すれば、颯人は2年前のライブの時と同様大きなダメージを受けること間違いない。だから奏としては出来れば避けたいところではあった。

 が、颯人の言う通り他に策はない。現状取れる最善がこれしかないのならば、やるしかないのである。
 現にあのノイズは今も尚増殖を繰り返している。このままでは本当に会場の外に溢れ出てしまう。

 その前に何とかしなければ。

「俺が時間を稼ぐ。その間に決めてくれ!」

 颯人が4人に近付こうとするノイズを、増殖される事も厭わず片っ端から撃ち抜いていく。

 その間に4人は手を繋ぎ、眼前のノイズの大本を見据えた。

「行きますッ! S2CA・クアッドバーストッ!」

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl――』

 4人の戦姫が心を合わせ、観客の居ないライブ会場で唄を響かせる。

 重なった唄は一つに集約し、一つの大きな力となる。

 その要となるのは、響だ。彼女一人に絶唱のエネルギーが集まっていく。
 勿論それは簡単な事ではない。現に元も負担が掛かる響の顔は苦悶に歪んでいる。

「く、うぅ……あ――!?」

 響の体に負担が掛かる。当然だ。これは今まで練習で成功した事のない技。負担の大きさに毎回耐え切れず、失敗を繰り返してきた。しかもその時は、もしもという事を考えて奏を抜きにしてやってきたのだ。

 だが今は泣き言を言っていられない。何としてでも成功させなければ、外に居る観客達が危険なのだ。
 幸いにして、颯人に目立った異常は見られない。絶唱の負担の集約自体は上手くいっている証拠だ。

 後は、安定させるだけ。

 その時、戦場にヴァイオリンの音色が響いた。まさかと思いクリスが上を見上げると、そこにはライドスクレイパーに跨ってカリヴァイオリンを弾いている透の姿があった。
 この非常時に、彼も黙って見ている事が出来ず痛む体に無理をして彼女達のサポートに回ったのだ。

 お陰でぶっつけ本番の4人同時絶唱はを安定させることに成功した。

『Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl――』

 絶唱を唄い終わった瞬間、集約されたエネルギーは強大な奔流となった。

「スパーブソングッ!」
「コンビネーションアーツッ!」
「セット、ハーモニクスッ!!」

 要となっている響の胸にある傷跡が、ギアの内側から光り輝く。

 束ねられた4つの音色は、虹色の光を放ち響の体に集束していく。
 この時点で余波で何体か消し飛んだ。

「うああああああああッ!?」
「耐えろ、立花ッ!」
「頑張れ!」
「気合いだッ! 踏ん張れッ!」

 自分の中で暴れるエネルギーに苦しむ響に、奏達の激励が飛ぶ。

 4人の絶唱を響が調律し、一つのハーモニーと化す大技。その名もS2CA・クアッドバースト。
 これまで使用されれば反動が凄まじいからと、殆ど使われる事の無かった絶唱の負担を限りなく小さくすることを可能とした技である。負担が小さくなっても、威力は変わらずそれどころか倍増した力を発揮可能と言うまさにとっておきのとっておきだ。

 ただし、その調律を可能とするのは響だけであり、それ故に負担は全て響1人に集中してしまう。

 それでも響は耐えた。これが己に出来る事と、悲鳴を上げる体に鞭打って響は己の中で暴れるエネルギーを抑え込んでみせた。

 その鋼の様な精神が負担に勝った。周囲の分裂増殖を繰り返していたノイズは全て消し飛び、残るはまるで脊髄の様にひょろっちいノイズの本体のみ。

「今だッ!」
「レディ――!!」

 響のギアのプロテクターが脚部から順に展開され、両腕を合わせると奏やマリアの様にプロテクターが一つに合体した。
 ただしそこから槍のアームドギアになる事は無い。プロテクターはそのまま右腕で変形・展開し、タービン型のナックルになった。

 虹色の光がそのナックルに集束していき、十分にエネルギーが集まったと見るや響は拳を握り構えた。

「やっちまえ響!!」

 奏の言葉を合図にしたかのように、響は跳躍すると腰の後ろのブースターでノイズの頭部まで加速した。

「これが私達の、絶唱だぁぁぁぁぁッ!!」

 拳がノイズに放たれた瞬間、ナックルの縁の4つのブレードが展開し、ナックル自体が高速回転。膨大な絶唱エネルギーがパイルバンカーの様に撃ち込まれ、ノイズをあっという間に粉砕してしまった。

 しかもそのエネルギーはノイズを殲滅するだけでは飽き足らず、虹色の竜巻となって天に上り空を美しく彩り、天高くに舞い上がっていった。





 それは当然ライブ会場の外からも見る事が出来、会場から離れたマリア達の目にも届く事になる。

「なんデスか、あのトンデモはッ!?」
「綺麗……」
「こんなバケモノもまた、私達の戦う相手……くッ」

 虹色の竜巻を見て、思い思いの感想を抱く3人の装者達。
 そんな中、ソーサラーは1人竜巻ではなく歯噛みするマリアを見つめているのだった。




***




 その光景を見ていたのは、マリア達だけでは無かった。

 ライブ会場から離れた駐車場に停まっている特殊車両。複数のモニターが供えられたその車両の中で、車椅子に座った老婆がモニターの一つに移るその光景を見ていた。
 暫くそれを眺めた後、老婆は別のモニターに目をやる。そこには赤子の様な何かが映っており、『complete』と言う表示が光っている。

 それは奏達の絶唱により放たれたフォニックゲインで起動した聖遺物。

「フッ、夜明けの光ね……」

 満足そうに口元に笑みを浮かべる彼女こそ、通信機越しにマリアに指示を出していたマムと呼ばれる人物であった。
 彼女は、事態が自分達の望む方向へと進んでいる事に喜びを隠せずにいた。

 それを後ろから眺めている者が居た。特徴的な帽子に、ポンチョを羽織った人物。ライブ会場の舞台裏で、アルドを叩きのめしたジェネシスの幹部である。

 彼は車内の暗がりからマムとモニターを見て、喜びとは別の意味合いを感じさせる笑みを浮かべていた。

 その笑みが何を意味しているのかは分からない。だがもしこの場に颯人が居れば、まず間違いなくこう考えただろう。

 こいつは絶対碌でもない事を考えている…………と。 
 

 
後書き
と言う訳で第71話でした。

前書きでも述べましたが、調ファンの皆さん本当にごめんなさい。ただ颯人だったらあのシーンを目の当たりにして、何もせずに放置する事は無いなと思ったのであんな展開になってしまいました。
この調が響の考えを否定するシーン、作品によってはオリ主がブチ切れるパターンを時折見掛けるのですが、颯人だったら怒りはせずとも響に対して何もフォローしない事は無いと思うので今回こんな感じに動いてもらいました。

次回は二課側の描写もそこそこに、フィーネ側の状況が主となります。ソーサラーとF.I.S.組の絡みもありますよ。

執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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