| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン 八葉の煌き

作者:望月
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

輝く目


聖騎士・ヒースクリフの十字盾が貫かれぬ限りー

閃光・アスナのレイピアが折れぬ限りー

剣聖・アリオスの太刀に斬れぬ物が無い限りー

血盟騎士団の最強は揺らがない。

血盟騎士団の中で三剣士と呼ばれる彼らはそんな風に言われる者達だ。




「大袈裟だよなあ。」
俺もアスナもヒースクリフ団長も無敵じゃないってのに。ぶっちゃけいい迷惑だ。確かにヒースクリフ団長の防御力は異常だとは思うが…そもそもこのゲーム死んだら蘇らない訳で、だから攻略組は全員怪物で良いと思う。無論俺も含めてね。
確かに俺もアスナもヒースクリフ団長も強い。さっき言った様に怪物揃いの攻略組の中でも。けど血盟騎士団が最強な理由には決してならない。物分りの良い人間はちゃんとそのことに気付いている。
考えても見よう、兵力では「軍」や「聖竜連合」に劣る。兵の質も確かに優れているが頭抜けている訳じゃあないしソロには血盟騎士団の平均を大きく上回る者も居る…その大半がβテスターだが。キリトなんて八葉一刀流抜きにしたら俺と互角だろう。楯も持ってない片手剣士なのに、その知識とセンスは半端じゃない。デュエルしたことは無いがこの見立てに間違いは無いだろう。低く見積もってもアスナよりは強い筈だ。
…話がずれたがとにかく血盟騎士団が最強ギルドと呼ばれるのは規模でも兵の質でもない。
最大の要因は役割分担がしっかりしていることだ。あるものは経理、あるものは戦闘、あるものは調達、皆が皆自分の役割をしっかり果たしているからだ。
それは俺たちTOP3でも同じで俺たちにも分担がある。
アスナはプレイヤーの纏め上げ、生真面目な性格か、それとも男の俺には永久に謎の乙女心か(こう本人の目の前で茶化(ちゃか)すとレイピアでサクッと突かれそうになる)議論すべき話題である。
ヒースクリフ団長は嘗てはスカウトだったが、巨大なギルドとなった今ではボス戦の切り札的な部分が強い。血盟騎士団の中でこの人に限って俺は攻略組の中で一線を画していると認めよう。その防御力は半端じゃない。オリハルコンでも身に纏ってるんじゃなかろうかと思う時まである。もっともそれは反応速度が良くて殆ど全ての攻撃を楯で防いでいるからなんだがな。
そして俺は最前線での戦闘。言うならば切り込み隊長だ。昨日は例外として基本的に6時間は最前線に潜るのが俺の日課。正直な所アスナの差し入れが無かったら「やってられないんだぜー!」と叫びたくなるほどハードである。哀しきかな、今日は恐らくその差し入れは望めまい。キリトぇ…
さて、血盟騎士団の説明はここまでにしよう。
今俺は非常に渋い顔をしている。例えるなら青汁を百杯飲み干した後の様な顔だ。HPバーが減っている訳じゃないしモンスターに囲まれているわけでもない。
できれば外れていて欲しかった情報が当たっていたのだから。
「軍の連中がなんでこんな所に居る訳?さっさとお帰り願いたいんだけど。」
「君ら一般プレイヤーのために戦っている私達に対して何と言う狼藉か!」
…さっきも話にはだしたがこれが「軍」だ。当初は攻略のために組まれた超特大ギルド「軍」は今となっては低層フロアの治安維持と勢力拡大に努める言うなればこのSAO内における警察と言えば間違いないだろうか。そいつらが急に方針転換して攻略に乗り出すと言う情報を掴んだのはつい一昨日のことだった。
アスナならきっとかっちかちのこっちこちに生真面目に対応するんだろうなと思いつつ俺は両手を広げておどけた様に言う。
「攻略組最強ギルドの副団長を一般プレイヤーとは…恐れ入るね。」
俺とてこんな言い方は正直好きではない。自分の立場をひけらかしているみたいで…けど「眼には眼を、歯には歯を」だ。相手が立場をひけらかすならこっちも同じようにするのが俺の流儀。
「何を…!」
おーおー怒ってる怒ってる。今にも警察手帳…じゃなかった、剣を抜きそうな勢いだ。さてどうするかね…おや?
「なんだ…あれ?」
視界の端に妙な黒い(もや)を見つけた。と言っても殆ど判別できないが。俺の索敵スキルの目をここまで欺けると言うことは相当に隠蔽(ハイディング)スキルを上げているプレイヤーか或いはただの地形か…後者の方は無いと断言できる。誓っても良い、毎日と言っても良いくらい最前線(ここ)に潜ってる俺はあそこに黒いものは無い。とするとプレイヤーだが果てさて…
「我々は栄えある軍であり、その行軍を邪魔するものは…オイ、貴様聞いているのか!」
「あ、ごめーん。聞いてなかった。」
「貴様…!」
「でもさ、どんな理屈があろうと後ろの兵をここから先に強行に押し進めるのはとても賛成できないな、俺は。」
「屁理屈を…私の部下は攻略程度で根を上げることは無い!」
攻略とは言ってないのに察した、か。まあまあ優秀だな。高慢きちなだけじゃあないらしい。けどさ
「嘘付けぇ、お前等の装備は確かに良いしレベルもそこいらの軍よりは高そうだけどさ…そんなに最前線(ここ)は甘くないぜ、俺の見立てによると…あと10はレベルが欲しいな。」
「それは我々が判断することであって貴様が言うことではない!」
「実力が上の人間の言うことは聞くものだよ?」
「ほう、実力が上と。では『剣聖』殿は我々全員と戦って勝ちを収められると言うのだな?」
前言撤回、高慢きちなだけじゃないと言ったけどそうじゃない。
コイツ、直情的な部分もあってプライドも高いけどたいした人材だ。交渉ってものを心得ている。
…………いや、思い直せば規律って物から最も離れた存在であるゲーマーって言う人種を纏め上げているんだ、この位は口が回らなければ話にならないのかも知れない。
コイツら全員と戦って勝てるか…結果だけいえば勝てる。以下に精鋭と言えども所詮は軍の連中、一人一人確実に潰す戦法を取れば恐れるべき数でも無い。
だが問題は俺がこいつらに剣を当てた瞬間俺は犯罪者(オレンジ)プレイヤーとなってしまうと言う事。つまりこの挑発に乗っかって戦う事などできる筈が無い。相手が俺からの決闘を受ける事なんて無いだろう。さてどうしたもんかね……
「逆に聞きたいんだけどさ、そんだけの人数が居なくちゃあ俺一人如きにも勝てない訳?」
「何…?」
「だったらなおさら認められないなあ。」
流石にこの切り口から反論されるとは思った無い…筈だ。まあ普通の人間は「勝てる」って言うだろうしこれでいけるか?


「では聞くが並の攻略組を一度に何人君は相手にできるのかね?」


…………そう上手くはいかないか。
「…10人くらいだな。」
ここで嘘をついても無駄だ。どうせ調べれば解ることでもある。
「では我々の人数は?」
その答えは12人。2なんて数は無いも同然だ。
「では我々が最前線に挑む事、異論はあるまい?」
「………わかったよ。」
そう言って俺は道を開けた。
「悪かったな。」
形だけ謝っておき、軍が迷宮エリアに入っていくのを見送る。不安はあるが相手の意見に反論できないんならどうしようもない。相手の司令官は鼻を鳴らした後ずんずんと歩いていった。
無茶しない限り向こうも大丈夫だとは思うんだが…その無茶をしそうなんだよなぁ。
……保険はかけておくか。
「……………………聞こえるか?」
そう俺は誰もいない空間に声をかけた。訂正しよう、「誰もいないはずの空間」に声をかけた。
短く返事が返ってきた。
「勿論。」
「任務だ、奴らの様子を見てきてくれ。もし無茶をするようなら俺に伝えろ。」
「御意。」
「頼むぜ。」
最後の俺の言葉に対しては返事は返ってこなかった。いやはや頼もしいねえ。
さて、俺も行きますかね……

森を抜け、迷宮区に入って歩いていると早速モンスターが襲い掛かってきた。
鎌を握った歩く鎧、名前は「リーパーメイル」直訳して死神鎧、何と言うかそのまんまなネーミングだ。そいつが俺に向かって鎌を振り上げる。鎌スキル「ナイトメアクロス」だろうな。
対して俺は刀でその鎌を弾いて防いだ後そのまま振り上げる。刀スキル「牙断」だ。ザクッという手応えが剣先から伝わってくる。
「よしっ!」
上手く相手の体勢を崩せたみたいだ。顎から打ち上げる技である「牙断」は下位スキルながらも使い勝手が良い。ならばと勝負を決めるべく放つのはお決まりの八葉一刀流。
「おらぁっ……喰らいな!」
高く跳躍した後に兜割(かぶとわ)りの要領で垂直に刀を振り下ろす「大雪斬」が見事に炸裂し、決着はついた。
「やっぱ体制崩せると速いぜ。」
一人スイッチの硬直も合わさって面白いように大技が決まるからな。これもまた俺のお気に入りの勝ちパターンの一つだ。ゆっくりと刀を鞘に納めて一人嘆息した。
「んでドロップはっと…………ショボイな。」
何のレアアイテムの名前も其処には無くがっかりして肩を降ろしながらよろよろと歩き出した。
すると突然前方から猛烈な疾風がかけてきた。
「うわああああああああああ!!!」
「きゃああああああああああ!!!」
そんな凄まじい叫び声を上げながら。
「え、ちょっと、速い。止まれえええええええ!!!」
………車に()かれるような感触だった、と言っておこう。

ギャグ漫画さながらの雪だるま状態になった俺とアスナとキリトは二人が俺に土下座した後ぷっと三人で吹き出した。
「いやあ逃げた逃げた!」
「て言うかお前らなんだったんだよアレ…モンスターよりも怖かったぞ正直。」
「いや私よりもキリト君の方がすごい逃げっぷりだったでしょ!」
そのキリトは若干不機嫌そうに黙っていた。訂正できない、けど訂正できない。そんなジレンマに悩まされている所だろう。アスナがその表情をちらちら見ながらクスクスと笑いを零す。
ひとしきり笑った後アスナは顔を引き締めた。俺も改めて訊く。
「んで?何があったんだよ。」
「この先に………ボスモンスターがいたの。」
「マジで?」
そう言って此方もまた表情を引き締めたキリトに向いた。
「マジ。」
「そっか………あの様子を見る限りじゃあよっぽどの怪物がいたな?」
「そうだな………名前は『The Gleameyes』って言って悪魔型だった。」
The Gleameyes……輝く目、ってか?
「悪魔型……初めてだな。」
「パッと見装備は大剣だけだったけど。」
「特殊攻撃アリってか?」
「うん、前に固い人置いてどんどんスイッチしてかないと。」
「盾持ち必須だな。」
俺がそういうとキリトも頷いた。するとアスナが何やら意味ありげな目でキリトを見た…そこで俺は席を立った。
「あれ、アリオス?」
「俺もちょいちょい拝んでくる。この先だよな?」
「あ、ああそうだけど。」
「んじゃ。」
そう言ってアスナの耳に口を寄せてこそっと一言。
「チャンスだぜ、落としちゃえよ。」
「………!?」
何かアスナがこっちに怒鳴ったような気がしたが、俺も先ほどのアスナやキリトと同じく敏捷度パラメータに物を言わせて脱兎の如く走り去った。向こうでお気に入りだった歌の替え歌を口にしながら。
「走るー走るー♪おれーだーけ、おーさななじみを置き去ーりにして♪」
邪魔者は退散退散……空気が読める男だぜ俺は。

「……なんで空気が読める男にこんな仕打ちをするかね。」
行きでは合わずにすんだリザードマンの大群が道をふさいでいた。
結局俺の走った方向はボスモンスターの部屋からは外れてしまっていたらしい。しょんぼりとしながら歩いた先でこの群れとであった。
「不幸だ……」
思わず口をついて某ウニ頭の少年の口癖がでた。これもまたウニ頭の少年が言った事だが喧嘩と言うのは一対三をこえると実力云々以前にまず無理だ。勿論俺もそう思うのだが幸運な事にこれは喧嘩ではない。一対三では済まない数の比率で俺に襲い掛かるトカゲ男を刀で持って草の根を刈るように薙ぎ払う、切り払う、突き捨てる。
が、それでも一向に数が減らない。
「やれやれ……トラップは踏んでない筈だけどねえ。」
宝箱トラップを踏んだときのような数の敵を見て俺は辟易とした。
「ぐるぁっ!」
「おせぇっ!」
俺の怒鳴り声とその咆哮はほぼ同時に響いた。そして俺の刀は的確に奴の弱点である胸を貫いていた。だが突き刺したという事は薙ぎ払う事ができないという事だ、トカゲ男達ははその隙を見逃すまいと一気呵成に打ちかかってくる。俺に防ぐ術は無いー
…………俺にはな。
「ナイスだ、リーシャ。」
「それ程でも、アリオス副団長。」
紫色の髪をした少女が、その華奢な体に似合わぬ肉厚の刃の大剣を持ってトカゲ男の俺への攻撃を防いでいた。
その間に俺は貫いていたトカゲ男を切り捨ててポリゴンの破片にした。
さっき俺が何も無い空間に話したがその正体がこの娘だ。「(イン)」と言う渾名を持つ血盟騎士団の一員で俺の側近でもある。防いだ大剣を片手で握り一閃して彼女もトカゲ男を粉砕した。
「流石だな。」
だがまだまだトカゲ男は残っている。どうしたもんかねと考えているとリーシャが「心配ありません」と口にした。
「それより急ぎますよ、副団長の嫌な予感は当たっていました。」
「嫌な予感………まさか軍の連中!?」
「いえ、まだ全員生き残っています。ただ………ボスに挑むつもりのようで。」
「なんだと!?」
だったら尚更このトカゲ男共を何とかしなくちゃあ………
「行って下さい副団長。」
「行って下さいってオメそれにしてもアイツらどうにかしなかったら。」
「大丈夫です私『達』でどうにかしますから。」
そう言ってリーシャは後ろを見るように言った。俺の眼に映ったのは
「ふっとんじまいな!!」
最上級ハルバード専用ソードスキル「クリムゾンゲイル」のエフェクト光の眩しさに俺は思わず眼を閉じた。
「ランディ!」
その大技でトカゲ男を一気に薙ぎ払って吹き飛ばした男の名前を呼んだ。
リーシャが俺の肩を叩く。
「救援要請はもう行なったって事です。」
「仕事が速いな……助かる!」
そう言ってトカゲ男の群れの開いた隙間に俺は「疾風」で切り込んで、群れを抜けて行った……

無我夢中で走り抜けその先で見たのは伝達通りの悪魔の姿をした巨大なボスモンスターと一方的にやられるのみの軍の連中だった。
「くそっ、遅かったか!」
俺はそう吐き捨て一気に悪魔の鼻の先まで飛び上がる。軍の連中の数はまだ12人を保っている。ならまだ間に合う、誰だろうと俺の目の前で死なせてたまるか!
「何やってんだ阿呆!さっさと結晶で脱出しやがれぇ!!」
だが軍の青年の一人は泣きそうな顔になった。
「駄目だ……結晶が使えない!」
「何だとぉ!?」
結晶無効化空間!?冗談じゃねえ!ボスの部屋がそうだった事は一度も無かった筈だぞ!くそっ、これじゃあ何とかリーシャ達が来るまで持ち堪えるしかねえのか……
「我が軍はこの程度で音を上げたりは……」
「黙れ!それ以上なんか言ってみろ、例え重犯罪者(レッド)プレイヤーになってもテメェの首叩き落してやる!」
既に俺の体力も眼に見えて減り始めた。奴の吐く吐息にも当たり判定があるようで俺の育て上げた戦闘時回復(バトルヒーリング)スキルでも追いつかない、これじゃあ耐え切るのは無理だ………だったらこれしかねえ!
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
俺は雄叫びを上げて刀を両手で持って眼にも止まらぬ超速の連撃をくりだした。16連続攻撃、八葉一刀流最上級スキルの一つ「風神烈波」が炸裂する。本来は「大雪斬」と同じく高所に飛び上がってから繰り出す技なので地上で繰り出した今威力は従来の物よりは落ちる……落ちるが
それでも威力は申し分ない!
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!!」
申し分ない――――だが、
それでもこの悪魔を倒すには至らない。
悪魔は斬馬刀を振り下ろした、さながら罪人の首を切り落とすギロチンの様に。
大技に耐え切られた今、「風神烈波」の硬直により動けない俺に回避する手段は無い。
………ここまでか。
そう覚悟して俺は眼を瞑った。間もなく斬馬刀が振り下ろされ俺はポリゴンの破片となるのだろう。それは疑いようもないこの世界の「死」だ。俺はそれを何度もこの眼で見てきてる。俺は死ぬ、死んでしまう。
……………………………耳に響いたのはポリゴンが砕ける音ではなく、金属同士がぶつかり合うとても耳障りな音だった。
「…………え?」
恐る恐る眼を開けるとそこには見慣れた背中が三つあった。
「お、お前等……」
そう呟いて俺は手を握った。現実ならきっと汗まみれだっただろうその手に汗は無い。
………俺は生きているー!
確かな確信が心の中心を貫いた。
「……ハハ。」
びっくりするくらい情けない笑いが俺の口から漏れた。気付くと体を恐ろしい倦怠感が包んでいた。敵の前だと内心で叱咤しても、とても逆らうことができず俺はゆっくりと眼を閉じて夢の世界へ旅立った。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧