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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  閑話19「それでも神として」

 
前書き
祈梨を始めとした足止めの神達+αの話です。
本編に大きく関わる訳ではないので、閑話扱いになりました。
 

 










「ぐぅうっ……!!」

 優輝達が各々死闘を繰り広げる中、足止めに残った者も戦っていた。
 その中の一人、エルナが“守る性質”による障壁の上から押される。

「お姉ちゃん!!」

「やれ!ソレラ!!」

 押されるエルナをソレラが支える。
 “守られる性質”との相互作用で、エルナは何とか踏ん張る。
 同じく影響を受けたソレラが、理力による極光を放つ。

「っ……キリがない……!」

 “性質”のおかげで、エルナは敵の“性質”ごと防ぐ事が出来る。
 だが、如何せん敵の数が多い。
 たった二人で抑えるには、常に全力で“性質”を使い続ける必要がある。

「くぅぅううっ……!!」

 元より、ズィズィミ姉妹はあまり攻撃に優れていない。
 “性質”そのものが攻撃性の低いもののため、どうしても攻撃力に欠けるのだ。

「ッ、ぜぇえええい!!」

 それでも、エルナは肉薄してきた“天使”を確実に倒す。
 “守る性質”を応用し、ソレラを“守る”ために敵を倒すという因果を利用し、“性質”を伴わせた一撃を叩き込んだのだ。
 これならば、“性質”が伴う分、不足しがちな攻撃力を補える。
 受けた攻撃が強力な分、“天使”なら一撃で倒せる程の威力を叩き出せた。

「ッッ!!」

 直後、展開した障壁にあらゆる理力の攻撃が突き刺さる。
 “性質”を伴ったそれらの攻撃は、何度も障壁を揺らす。
 それでも障壁は割れないというのは、やはり“守る性質”の所以だろう。

「ぉぉぁああああああああっ!!」

 だが、やはり数が多い。
 いくら“守る”事が出来ても、その上から押される。
 たった二人なのに突破されていないのは、ソレラが“領域”を用いて空間的、概念的、因果的に通行止めしているからだ。
 神界の神と言えど、“領域”を用いた封鎖はそう簡単に突破出来ない。
 と言うより、ソレラの“領域”を砕かない限り突破出来ないのだ。
 そして、そんなソレラをエルナが“守る”。
 それによって、決して突破出来ない防衛線を作り上げていた。

「ぜぇ……ぜぇ……!」

 しかし、多勢に無勢。
 ほとんど防戦一方な事もあり、数を減らす速度と疲労が釣り合っていない。
 敵勢力は一割減らせたかどうかだが、エルナは限界に片足を踏み入れている。
 いくらソレラの支援があっても、数の暴力には勝てなかった。

「そこだ!!」

「ッ、甘い……!」

 疲労による隙を突かれる。
 何とか防御を間に合わせ、掌底で攻撃してきた神を吹き飛ばす。

「まだまだ……!そう簡単には負けないよ……!」

「その通りです……!」

 限界?それがどうした。
 そう言わんばかりに、二人はまだまだ理力を振るう。

「合わせな、ソレラ!」

「はい!」

 重なる敵の攻撃を、エルナがまとめて受け止める。
 そして、カウンターの一撃を、ソレラと共に放つ。

「“Divine schlag(ディバインシュラーク)”!!」

「吹き飛びなぁッ!!」

 理力の閃光が弾ける。
 直後、エルナに肉薄していた神々と“天使”はまとめて吹き飛んだ。

「ッ、やっぱりここを狙ってくるか……!」

 直後に、エルナは理力の極光に晒される。
 カウンター直後を狙い、別の神々が遠距離から攻撃してきたのだ。

「ぬっ、ぎぎぎぎぎぎぎ……!」

 それを、肉体そのものでエルナは耐える。
 全ては、敵を通さないため。何よりもソレラを守るために。
 そのためならば、エルナの“領域”は何よりも強固になる。

「……狙い撃て!」

 そして、その身を以って稼いだ時間をソレラも無駄にはしない。
 “守られる性質”とはいえ、無力ではない。
 その“性質”には、ゲームで言う前衛に“守られる”後衛という概念も含まれる。
 それを利用する事で、“守られる”程に強力な支援攻撃を行える。
 正確無比に放たれた理力の閃光が、先ほど吹き飛ばした“天使”を射抜く。

「(これで……!)」

 何も完全な防戦一方ではない。
 既に限界を超えたその力で、少しずつ数を減らしている。
 消耗と釣り合っていないため、結果的に防戦一方なままなのだが、それでも時間稼ぎとしてはこれ以上ない状態だった。

「ぁあああああっ!!」

 遠距離攻撃を耐え抜いたエルナが、理力の盾を形成する。
 その盾で極光へと繰り出し、その極光をまばらに反射する。

「ふーっ、ふーっ……それで終わり?」

 息も絶え絶えに、それでもエルナは挑発するかのように笑う。
 “守る”ためならば、敵を排除するための力を持つ。
 それが彼女の“性質”だ。
 限界を超えてのその力の行使は、例え不利な状況でも逆転の可能性を秘めていた。

「舐めるなッ!!」

「ッッ……!」

 瞬間移動からの不意打ち、遠距離からの雷撃、あらゆるモノを打ち砕く一撃。
 “性質”を伴った、様々な攻撃がエルナを襲う。
 まともに食らえば、誰であれ無事では済まないだろう。

「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 それを、耐える。
 “領域”を、何よりも“守る”べき存在のために。
 エルナはそれを“防ぐ”のではなく、“守る”ために耐えた。

「お姉ちゃん……ッ……!!」

 ソレラも、そんなエルナの想いを受け取り、行動する。
 ただ支援するだけじゃない。理力を圧縮し、集束させる。
 攻撃を耐え抜いた直後の、“一手”のために。

「……まだ……まだ……!」

 集束に集束を重ね、圧縮する。
 戦闘向きの“性質”ではないため、純粋な理力のみで威力を出すしかない。
 そのため、確実に数を減らせる威力まで、理力を溜め続ける。

「ぐ、ぅううう……!!」

「ッ……ここです!!」

 溜めに溜めた理力を一点に集中させる。
 同時に、エルナが耐えきった。
 攻撃はまだ続いているが、徐々に勢いが弱まっている。
 完全に止んでからでは遅い。そのため、ソレラはこのタイミングで解き放つ。

「“σφαγή του θεός(スファギ・トゥ・テオス)”!!」

 まさに神すらも殺す極光。
 それがエルナを襲う攻撃を突き破り、神々へと襲い掛かる。
 ここまで溜めていた甲斐もあり、防がれる事なく極光を突き進む。

「しまっ……!?」

 射線上の神々が驚愕するが、もう遅い。
 回避以外に助かる術はなく、それが間に合わない者から呑み込まれていった。

「っ……かなり、減らせたようだね……!」

「はい……ですが、まだです……!」

 ソレラのその言葉と共に、残った神が不意を突いてくる。
 狙いはソレラだ。彼女さえ倒せば足止めが瓦解するので当然だろう。

「させないよ!」

 だが、当然ながらエルナが防ぐ。
 “領域”が砕けない限り、ソレラを“守る”ためならば確実に防ぐ。
 ……限界を超えてなお、戦いはまだまだ続いていく。















「そこです!」

 一方、祈梨の方も防戦を強いられていた。
 “祈り”と合わせ、結界を張る事で足止めの環境を作り出していた。
 ソレラと同じように、自身が負けない限り突破されない状態にしたのだ。
 そうなれば、当然祈梨は集中狙いされる。

「ッ……!くっ……!」

 隙を見ては反撃を繰り返すも、数の前には無力だった。
 回避や転移を合わせる事で、致命的なダメージは避けている。
 だが、時間の問題だ。
 敵も徐々に祈梨の動きに慣れてきているため、いつかは直撃を食らう。

「ッ、ぁあああああっ!?」

 そして、その時はすぐにでも訪れた。
 転移を先読みされ、回避不可の一撃が振るわれる。
 “祈り”による障壁も切り裂かれ、出来たのは苦し紛れの反撃のみ。
 救いだったのは、障壁と反撃によって直撃は逃れた事だ。

「ふッ……!!」

 吹き飛ばされ、その先で別の神が待ち受けていた。
 視界の端にそれを捉えた祈梨は、即座に“祈り”で身体強化を重ね掛けする。
 そして、追撃に合わせて祈梨も反撃を繰り出す。

「爆ぜて!!」

 さらに、溜めた“祈り”を炸裂。大爆発を引き起こす。
 目晦ましとこれ以上の追撃の阻止を兼ねたその一撃で、何とか仕切り直す。

「これで……!」

 理力の槍を回す。
 その度に“祈り”による斬撃を飛ばし、全方位に攻撃する。
 狙いは斬撃を当てる事ではない。

「(来た……!)」

 その攻撃を抜けてきた神が狙いだ。

「祈祷顕現!“天満たす、巫女の祈り(プレイヤー・メニフェステイション)”!!」

 障壁で受け止めず、その肉体で神の一撃を受け止める。
 防御をしなかった事で、僅かとは言え攻撃した神は動揺した。
 その隙を逃さず、祈梨は転移でその神を孤立させる。
 そして、()()()()()()“祈り”を開放する。

「さすがに、一人で全員抑え続ける訳がありませんよ……!こうして、洗脳を解く手段があるのならばね……!」

 眩い光が神を包む。
 祈梨は洗脳を解くための“祈り”を戦闘中ずっと溜めていたのだ。
 それをここで開放し、神を一人とはいえ味方に引き込んだ。

「っ、ぁ、……くっ……!」

「目が覚めましたか?状況は見ての通りです。……助力をお願いします」

「……ああ……!」

 目を覚ました神は、即座に状況を理解する。
 元より、洗脳されている時の記憶は大体残っている。
 そのため、今自分が何をすべきか、何と戦うべきかはとっくに理解していた。

「幸運ですね。“奮闘の性質”である貴方を真っ先に戻せたのは」

「済まない。この借りは……ここで返させてもらう……!」

 洗脳を解いた神は、祈梨が洗脳されていた際に会っていた神の一人だった。
 “奮闘の性質”。文字通り戦闘においてどうであれ奮闘出来る神だ。
 この足止めの状況下において、その“性質”はありがたかった。

「なっ……!?」

 それを見ていた洗脳されていない悪神は大きく動揺していた。
 イリスの洗脳が解ける事を考慮していなかったのだ。
 そして、その隙を“奮闘の性質”の神は逃さない。

「ふんッ!!」

 理力を伴った掌底が、空間へ突き出される。
 洗脳によって抑圧されていた“性質”を解き放つように、その一撃は凄まじかった。
 射線上にいた神と“天使”を全員吹き飛ばしたのだ。
 耐えた者もいたが、障壁は確実に割っていた。

「かはっ!?」

 そして、無防備になった神を祈梨の“祈り”が貫く。

「(正直、かなりギリギリでしたからね……。ここで味方を増やせなければ、あのまま負けていたと見て間違いないでしょう)」

 再び“祈り”を溜めながら、祈梨は防衛に努める。
 依然数では負けたままだ。
 正気に戻した神も、単純な実力はそんなに高くない。
 “性質”のおかげで善戦しているだけなので、負けるのも時間の問題だ。

「(とにかく耐え、出来る限り味方を増やす。それが、今の私のするべき事。……皆さんも頑張っているのですから、神として私も頑張りませんと)」

 先ほどと同じように防戦一方になりながらも“祈り”を溜める。
 同じ事をさせないように敵も祈梨を狙うが、“奮闘の性質”の神がそれを阻む。
 即席のコンビだが、それぞれが役目を理解しているため、良い連携を取れていた。

「まだまだ私は、私達は足掻きますよ……!この先へは進めないと思う事です!」

 反撃の極光を放ちながら、祈梨はそう宣言した。















「ぬぉおおおおおっ!!」

 所変わり、天廻の方では危なげながらも拮抗していた。
 “廻す性質”によって、天廻を無視して進もうとする神々の位置を“廻し”、それによって足止めを成していた。

「ふんッ!!」

 戦いそのものも、天廻は優輝に近いスタイルだ。
 無駄なく、的確に力を振るい、反撃ごとに敵を吹き飛ばす。

「ふーッ……!」

 天廻の“廻す性質”は、本来輪廻転生などに関わる“性質”だ。
 だが、空間などを“廻す”事で転移や一種の隔離結界を作り出せる。
 加え、その応用で敵の攻撃が直撃しないように“廻す”事も出来る。
 そのため、白兵戦で天廻を傷つけるのは至難の業だ。

「全く……老体は労わらんか……!」

 しかし、それらに力を使い続けるが故に、消耗が大きい。
 堅実な立ち回りで消耗を減らしていても、スタミナが尽きるのは時間の問題だ。
 技術等が高い代わりにスタミナが少ないのが、老体の神の特徴だ。
 天廻もそれに漏れず、既に息切れが始まっていた。

「ぉおっ!!」

 雄叫びと共に理力の杖を一突き。
 襲い掛かった“天使”を貫き、その背後の極光をも貫く。

「巡り、巡りて、全ては正常へと廻り戻る」

 座標を“廻し”、攻撃を掻い潜る。
 ついでに杖を引っ掛け、多少のダメージを与えつつ体勢も崩させる。

「その身の業を清めよ」

 そして、一人の女神の背後へと回り込み、“性質”を叩き込む。

「“輪廻清浄(りんねせいじょう)”!!」

 ぐにゃりと、円を描くように神が歪む。
 声を上げる間もなく体は捩じ切られ、しかし()()()()()

「状況は理解できておるかの?」

「……はぁい。それはもう、身に染みてわかってますよぉ……」

 そう。洗脳含めて元に戻ったのだ。
 祈梨と同じように、天廻も正気に戻す手段を持ち合わせていた。
 それによって、一人を正気に戻したのだ。

「すまんが早速回復を頼もうかの」

「お安い御用でぇ」

 正気に戻した女神は“回復の性質”。
 文字通り、回復に長けた“性質”だ。
 その力は“領域”の消耗すらも回復させてしまう程だ。

「させるか!」

「甘いのぅ」

 即座にそれを阻止しようと、別の神が女神に襲い掛かる。
 しかし、天廻が割り込み、体勢を“廻す”。
 体勢を崩した所へ理力をぶつけ、他の神々を巻き込んで吹き飛ばした。

「全ての業は巡り巡りて自らへと還る。廻り、廻る、それこそが因果」

 膨大な理力が天廻を中心に渦巻く。
 女神の回復によって理力に余裕ができたため、反撃に出たのだ。

「ほれ、お返しじゃ」

   ―――“悪因悪果(あくいんあっか)

 渦巻いていた理力は、幾重にも分かれた極光となって神々を襲う。
 それも、特に天廻を攻撃していた神を狙って。

「ッ―――!?」

 その速さと威力は相手によってバラバラだ。
 まさに悪因悪果。天廻に対し苛烈な攻撃を仕掛けた者程、それは高かった。

「本来ならば、これ程ではありゃせんよ。今回は特別仕様じゃ」

 疲労の汗を滲ませながら、天廻は言う。
 回復した分の理力も注ぎ、効果を底上げしておいたのだ。

「因果応報、全ては廻り廻りて自身に還る。……それが儂の“性質”じゃ。覚悟せい。例え儂を倒そうとも、その因果は返ってくるぞ?」

 再び“回復”してもらいながら、天廻は不敵に笑う。
 力の消耗を気にする必要がなくなった今、危ない綱渡りの必要はなくなった。

「儂らにも神としての誇りはある。……こうして数多の世界を巻き込んでおるがな……。それでも、神として儂らは貴様らを抑えて見せよう」

 そう言って、“回復”した理力を片っ端から体中に巡らせる。
 普段保有している分の理力では到底賄い切れない身体強化だ。
 消耗した分を“回復”出来る今だからこそ出来る反則技である。

「ふんッ!!」

 杖を一振り。
 それだけで、障壁を軋ませる衝撃波を繰り出した。

「恐れを知らぬ者から、かかってくるがよい」

 片手にイリスの正気を解くための理力を集束させつつ、天廻は構えた。
 “回復の性質”さえある限り、最早天廻に負けはなかった。















「そっち行きましたよー!」

「了解です……!」

 最後に、ルビアとサフィア。
 二人は、戦場を完全に結界で覆いつくしていた。
 足止めする“意志”と二人の“性質”を合わせ、無視して進めないようにしたのだ。

「はぁっ!」

「おおっと、後方注意ですよ」

 “紅玉の性質”と“蒼玉の性質”。
 ズィズィミ姉妹と同じく姉妹である二人も、お互いの“性質”を掛け合わせられる。
 それによる結界で一種の迷宮を作り出していた。

「くっ……!」

「足元が疎かですよ?」

 それは、まさに万華鏡。
 四方八方がルビー、またはサファイアのレンズに覆われた小部屋だ。
 それが無数に隣接して展開されているのが、この結界だ。
 そして、そのレンズは別の小部屋と繋ぐ“門”となっている。
 ルビアとサフィアはその“門”を自由自在に行き来し、敵軍を翻弄していた。

「生憎、これぐらいしか貴方達を止められないんで」

「悪く思わないでください」

 時折、合わせ鏡のようにルビアとサフィアは分身する。
 その事も相まって、まさに万華鏡と表せる。
 それがこの結界、“迷宮万華鏡(カレイド・ラビリンス)”だ。

「無駄ですよー無駄無駄」

 敵も負けじと攻撃を放つ。
 しかし、その攻撃はレンズに吸い込まれ、別の小部屋へと転移する。
 単純な攻撃は直接当てない限り決して命中しないのだ。

「そこです」

 敵にとって、結界内の“門”はどこに繋がるのか分からない。
 対し、スフェラ姉妹は完全に把握している。
 そのため、ルビアが挑発し、サフィアが不意打ちで仕留めるという構図が出来上がり、それによって敵の軍勢を抑えていた。

「(ここまでやって、ようやく拮抗……ですか)」

 この結界は二人の“領域”を利用している。
 これを突破される事は、イコール二人の敗北だ。
 それだけの優位性を発揮できるのだが、それでようやく互角だ。
 僅かでも油断すれば、二人の優位性は瓦解する。

「しまっ……!?」

「(故にこそ、確実に数を減らす……!)」

 結界の性質上、敵は孤立させやすい。
 それを利用し、二人はまず“天使”を倒していく。
 確実に“領域”を破壊し、数を減らしてより優位に持っていく。

「ッ!!」

 無論、敵もそれに気づかないはずがない。
 直接的な戦闘力が高い神が、すぐに二人に追いつく。
 結界を利用した変則的な移動であっても、単純な強さで追いつかれてしまう。
 すぐに別の小部屋へ移動し、さらにでたらめに移動する。

「ッ、邪魔です……!」

 行先に別の神がおり、理力と理力がぶつかり合う。
 その衝撃波が“門”を通って別の小部屋にも届く。

「サフィアちゃん!」

「ぐっ……!」

 即座にルビアがフォローに入る。
 神を怯ませ、その隙に二手に分かれて別の場所へと移動した。

「(追いつかれるのなら……!)」

 移動しながら、サフィアは極光を壁に向けて放つ。
 万華鏡の性質を持つのがこの結界だ。
 壁に向かっていく極光は、その“門”を通じて他の小部屋に転移する。
 転移した極光はさらに転移し……結果的にほとんどの部屋に極光が届く。
 命中してもしなくとも、足止めとしては十分だ。

「ッ……!」

 反撃がない訳ではない。
 先ほど追いついてきた神の他にも、肉薄してくる者はいる。
 その攻撃を躱しながら、サフィアは結界内を逃げ回る。
 ルビアも同じように立ち回り、結界内を紅と蒼が駆け回る。

「捉えましたよ!」

「ここです!」

 そんな中でも、二人は連携を取る。
 サフィアに肉薄する“天使”に、その後ろからルビアが追い付く。
 そして、すれ違いざまに二人で攻撃と反撃を叩き込んだ。

「トドメです!」

 さらにルビアが極光を放ち、トドメを刺す。
 その極光は“門”から別の小部屋に散っていく。

「ッ!」

 敵も結界に慣れてきたのか、次々と肉薄してくる。
 それを、サフィアは理力の武器を展開して捌く。
 しかし、サフィアは特別強い力を持っている訳ではない。
 白兵戦であれば、優輝どころか緋雪や奏にも負けうるだろう。
 だからこそ、攻撃を受け流し、目の前の神を退けた直後に逃げ出した。

「こうなったら……出来る限り逃げ回りますよ!」

「はい……!」

 逃げ回り、置き土産に極光を放つ。
 どの道、結界を突破するには二人を倒すか“領域”を叩き潰す力が必要だ。
 結界として展開された“領域”を叩き潰すには、それこそイリスでも無理だ。
 そのため、残る手段として術者の二人を倒す必要がある。
 裏を返せば、倒れさえしなければそれだけで二人は足止めを果たせる。

「はぁっ!」

 理力の塊で攻撃を弾いて逸らし、空いた手で極光を放つ。
 サフィアの蒼い極光が肉薄していた神を弾き飛ばし、結界内へと散っていく。
 それに応えるように、ルビアも別の場所で極光を放つ。

「(ジリ貧……いえ、上手く立ち回れば十分勝てる見込みはあります)」

 追いつかれ、引き離し、その度に結界内を極光が飛び交う。
 一見、彼女達が追い詰められているだけに見えるが、それは違う。
 完全な優位性を持つ結界内は健在だ。
 そこから先ほどと同じように数を減らせば、そのまま勝てる可能性は十分にある。

「(……彼は、虚数の彼方にある“可能性”を掴みました。であれば、私達とて万に一つ程度の“可能性”は掴んで見せませんとね……!)」

 決意を新たに、サフィアは速度と振るう理力のギアを上げる。
 “最悪、足止めすれば十分”。そんな思考など捨てて、勝ちに行く。



















「……ッ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

 そして、視点は戻り、ズィズィミ姉妹。
 大量の神の攻撃を受け続けていたエルナは、目の前の光景をただ見つめていた。

「……どうやら、間に合ったみたいだね」

 倒れ伏すのは、先ほどまでエルナを追い詰めていた神々。
 それを成したのは、新たに現れた神々だった。

「お待たせしました。……イリスの勢力は既に殲滅済みです」

 その神々は、イリスの対極に当たる神の勢力だ。
 今までイリスが優輝達とは別に戦い続けていた神々が、洗脳された神々や悪神を退け、ようやくここに辿り着いたのだ。

「よくもまぁ、たった二人で抑えたものだよ。……いや、他にもいるかな?」

「……私達以外の神が四人……いや、五人。“天使”が二人に……後は人間達が奥で戦っているよ。私達は、その足止めさ」

 エルナが簡潔に説明する。
 それを聞いて、神々の半分程が騒めく。

「人間が?まさか、この神界に人間が……」

「“無限の可能性”」

「ッ―――!?」

 その単語をエルナが口にした途端、今度はズィズィミ姉妹以外全員が驚愕した。

「……なる、ほど。彼が関わっているんですね……」

「道理で、ここに至るまで想定以上の被害の少なさで済んだのか……」

 イリスがそちらに執心だから、ここまで短期間で来れた。
 そう神々は納得し、だからこそすぐに奥に進む事に決めた。

「行きますよ。立てますか?」

「ああ。……その様子だと、奥に向かうんだね?」

「はい。どんな理由であれ、本来人間を関わらせてはなりません。元より、この世界で起きた事。この世界の者のみで解決するべきですから」

 かつての大戦では、一人の神とその“天使”が犠牲になった。
 それを繰り返さないためにも、神々は奥へと進む。

「止めはしないよ。だけど、無暗に割り込むのも止めといた方がいいよ」

「……それは……」

 “性質”同士のぶつかり合いであれば、割り込むのは難しい。
 それを抜きにしても、止めておいた方がいいとエルナは言う。

「私も信じたいのさ。人間達の“可能性”を」

「……私もです」

 ソレラも同意し、二人は奥の方に目を向ける。

「……そうですか」

 二人の目を見て、付き添った神はそれ以上問う事はなかった。
 どの道、このまま奥へ行くのは確定事項だ。
 その後どうするかは、その時決めるだけの事。
 そう断じて、神々は奥へと向かっていった。



















 
 

 
後書き
Divine schlag(ディバインシュラーク)…閑話3より再掲。神界の神ならば大抵使える技。単発式の極光のため、シンプル且つ強力。“性質”が伴わない純粋な理力による攻撃。

σφαγή του θεός(スファギ・トゥ・テオス)…“神の虐殺”。理力を溜めに溜め、さらにそれを圧縮して放つ一撃。この技名にする事で、神性特攻も入っていたりする。

天満たす、巫女の祈り(プレイヤー・メニフェステイション)…祈梨が神になってから会得した天巫女としての業。本来の最終奥義である天翔ける、巫女の祈り(プレイヤー・メニフェステイション)の上位互換で、イリスの洗脳も解く事が出来る。

“奮闘の性質”…文字通り。どんなに実力差があろうと、確実に“奮闘”出来る。なお、勝てるとは限らないので、負ける時は負ける。時間稼ぎしたい祈梨にとって、高相性の“性質”である。

輪廻清浄…疑似的な輪廻転生を一瞬で何度も繰り返す事で、対象を正常な状態に戻す技。神などであれば元の在り方に戻るだけだが、普通の人間などに発動すると記憶も全て抹消された真っ新な魂になってしまう。

“回復の性質”…文字通りの“性質”。あらゆるモノの回復だけでなく、理力や“領域”の消耗すら回復できるため、この“性質”の持ち主は基本的に一撃で“領域”を砕かないと倒せなかったりする。

悪因悪果…文字通り、悪い事をすれば全て返ってくるカウンター技。自身だけでなく、様々なモノを対象にして発動出来る。なお、受け身の技になるため使い勝手が良い訳ではない。

迷宮万華鏡(カレイド・ラビリンス)…スフェラ姉妹の“性質”を掛け合わせて展開する結界。空間内は万華鏡のように小部屋が隣接して存在し、各部屋の壁が別の部屋への“門”となっている。万華鏡なだけあり、合わせ鏡のように分身も出来る。


今回正気に戻った神二名の性格は、男性の方は基本真面目な好青年で、女性の方は言葉も物腰も柔らかなおっとり系みたいな感じです。
キャラで例えるなら、前者はFateシリーズにおける士郎とジークを足して2で割った感じです。後者はプリコネのミサト辺りをさらにおっとりさせた感じです。
なお、今後の出番は予定ありません。 
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