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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第276話「水面に舞う緋き月・後」

 
前書き
緋雪side、後編です。
前回ラストでクトゥルフ要素を出しましたが、作者は触り程度しか知らないので、SAN値を削る以外の要素はほとんど出ないです。
 

 












〈お嬢様!!〉

「ッ―――!!」

 シャルの声によって、思考の空白を認識する。
 即座に現在起きている事を緋雪は再確認した。
 “吹き飛ばされている”。それを理解した瞬間、体勢を立て直して着地する。

「っ、っぷ……!」

 悍ましいモノを見た吐き気を堪えつつ、何とか前を見据える。
 そこには、形容しがたき姿へと変えた“狂気の性質”の神がいる。

「(直視、していられない……!)」

 あまりの悍ましさに、緋雪はソレを見続ける事が出来ない。
 視線を逸らすように身を翻し……振るわれた触手を辛うじて避ける。

「シャル……!」

〈エラー……ダメです!計測不能……例え計測できても、酷く不安定です……!理力によるものではなく、明らかに“性質”が原因かと!〉

「……だろうね……!」

 元々、神様謹製以外のデバイスでは、理力等は計測出来ない。
 そのため、飽くまで“膨大なエネルギー”として認識していた。
 だが、今回の場合は、そのエネルギーすら計測出来ないのだ。
 運よく計測できても、酷く不安定な数値が返ってきており、一切が無意味だった。

「(さっきよりも攻撃に積極性がなくなっている。だから逃げ回る事で攻撃自体は躱せている。……でも……!)」

 緋雪は展開した結界内を駆け回り、転移も併せる事で攻撃を躱し続ける。
 放たれるのは、極彩色の閃光だ。
 規模も速さもかなりのモノだが、密度はそこまででもなく、速度さえ維持し続ければ今の緋雪ならば躱せた。

「ッ……!」

 魔力を槍に変え、射出する。
 それらは確かに触手に命中したが、手応えがほとんどない。
 それどころか、悍ましい色合いの体液を噴き出し、余計に吐き気を誘発させた。

「なら、まとめて薙ぎ払う……!」

   ―――“Tod Kanone(トートカノーネ)

 魔力弾では埒が明かないと踏み、緋雪は砲撃魔法を放つ。
 尤も、普通に放っては足を止めてしまうため、半自立式の術式を利用する。
 魔力を流す事で、後は自動的に発動する仕組みだ。

「(弾かれた……!)」

 半自立式なため、魔法の持続性は低い。
 それでも威力は十分なはずだった。
 だが、その砲撃は理力の障壁によって阻まれ、弾かれてしまった。

「(やっぱり、完全に戦闘方法が変わってる……!)」

 見るだけで正気を削るような冒涜的な見た目。
 遠距離は極彩色の極光、近距離は形容しがたき悍ましさの触手で攻撃してくる。
 先ほどまでが獣のようだとすれば、今はまさに異形の化け物だろう。

「っ……」

 神の姿及び極彩色の極光が目に入る度に、緋雪の正気度は削られていく。
 普段であれば、意識すれば気持ち悪さを無視できるだろう。
 だが、“性質”が原因でそれを避ける事が出来ない。

「(視界に入れないように……!)」

 そこで、敢えて懐に飛び込む。
 そして目を瞑り、気配だけで挑みかかる。
 
「ッ……!」

 冒涜的な触手が振るわれる。
 だが、物理的な攻撃など、今の緋雪には無意味だ。
 超人的な聴覚と、達人にすら追随出来る身体能力。
 その二つさえあれば、空間を掻き分ける音のみでどう来るのか分かる。

「シッ!!」

 体を反らし、屈み、軽く跳躍し、躱す。
 さらには、置き土産とばかりに魔力の刃で触手を断ち切る。

逕倥>(甘い)

「がっ……!?」

 だが、途端に緋雪は動きを鈍らせ、触手が直撃する。
 さらに追撃の極光も食らい、一度倒れ伏した。

「(そんな、甘くいくわけ、ないよね……)」

 聴覚便りになるのならば、その聴覚を利用して“狂気”を流し込めばいい。
 “性質”とは、そういうモノだった。
 どの道、五感の内どれかで“狂気”を流し込んでくるのだ。

「(視覚、聴覚……と来れば、嗅覚とかでも同じ事だろうね)」

 先ほど、緋雪が動きを鈍らせたのは神が発した超音波が原因だ。
 頭を狂わせるかのような音に、緋雪は怯んでしまっていた。
 さらには、聞き続ければ正気が削られる事もすぐに理解できた。
 そのため、緋雪はすぐさま離れようと動きを止めてしまったのだ。

「(いっそ、全部コワせば……―――)」

 掌に“破壊の瞳”を出現させる。
 そこまで来て、緋雪はハッとする。

「(今、何を考えた……!?まさか……!)」

 ズキズキと頭痛が響く。
 “意志”ですらそれを振り払う事は出来ず、気持ち悪さを助長させる。
 さらには、思考にまで“狂気”が侵食してくる。
 まるで、かつて狂気を患っていた時のような、そんな思考になる。

「くっ……!」

   ―――“破綻せよ、理よ(ツェアシュテールング)

 出現させていた“破壊の瞳”を握り潰し、目の前の空間を爆破させる。

「(もう侵食されてる……!このままだと……!)」

 空間断裂を引き起こす事で、追撃の極光を防ぐ。
 だが、一時凌ぎだ。
 すぐにその場から転移で逃げ、先ほどと同じように駆ける。
 だが、先ほどまでの精彩さはなくなっていた。

「っづ……!?」

 極光が足に命中する。
 直撃を避けたとはいえ、それだけで足が消し飛んだ。
 すぐに再生させるが、ジリジリと正気を削られた感覚が緋雪の心を蝕む。

「(呆れた……!私だけ克服したからって、甘く見てた!もっとその先の先を想定して、いくつも対策を立てておけば……!)」

 逃げつつ牽制の魔法を放ちながら、緋雪は内心自分に呆れる。
 想定以上の強さを持っている事は予想出来ていた。
 だが、そのさらに上を行かれただけの話だ。

「(……対策は、()()()()()()()()。それが通じなければ―――)」

 そこまで考え、咄嗟に片腕を犠牲に攻撃を防ぐ。
 さらに正気度が削られ、頭痛と気持ち悪さが増す。

「(―――ううん。絶対に、徹す!)」

 それでもなお、その“意志”を強くする。

「乗り越えるって、決めたんだ……!)」

 炎が消えていたシャルに、再び魔力と霊力を通す。

「狂気は、もう克服したんだ」

 白い刀身が再び展開され、赤の魔力と青の霊力が螺旋を渦巻く。

「だから、克つ!!」

   ―――“Lævateinn Überwindung(レーヴァテイン・ユヴァヴィンド)

 その大剣を振り被り、迫る極光を切り裂いた。

「どうあっても私を狂気に堕とそうとするなら……その前に倒す!!」

 星々を映す水面が揺らめく。
 波紋は衝撃波となり、神を襲う。
 同時に、光の大剣が斬撃を飛ばす。

「はぁああっ!!」

 途轍もない膂力を利用し、その大剣を高速で振るう。
 “意志”を込め、その斬撃で触手を悉く切り裂く。

「ッ……!」

 その度に、視覚で、聴覚で、嗅覚で正気を削ってくる。
 それでも“意志”を以って攻撃を続ける。

「っ、ぐ、ァ、ああっ!!」

 意識が飛びそうな程の頭痛がし、雄叫びが途切れ途切れになる。
 対し、触手もかなり切り裂き、神の本体であろう中心部に肉薄していた。

「っぐ……ふーッ、ふーッ……!」

「………」

「まだ、まだァ……!!」

 振るった一撃は、障壁で防がれる。
 緋雪の力を以ってしても、限界以上の力を使っているのだろう。
 腕の節々から血が溢れ、目は血走っている。
 頭痛や気持ち悪さに耐えるために歯を食いしばり、その結果口からも血が出ていた。

「っづぁっ!!」

 残った触手が振るわれる。
 それを、片手で殴りつけて弾く。
 さらに大剣で切り裂き、再び障壁を破ろうとする。

「がぁあああっ!!」

 障壁に大剣を突き刺し、そこから両手で無理矢理引き裂いた。
 直後、その引き裂いた穴から極光が飛ぶ。

「ッ、ッ……!」

 大剣と共に緋雪は大きく吹き飛ばされる。
 地面に叩きつけられ、一回転してから着地。
 即座に、再度突貫した。

「ぁァああアアあアああッ!!」

 再生が追い付かない事すら無視して、多重に展開された障壁に激突する。
 ()()で拳を振るう度にその障壁を割るが、如何せん数が多い。

「ッッ!!」

 “破壊の瞳”を握り、一気に障壁を割る。
 さらに、余波で罅が入った障壁に対して砲撃魔法を至近距離で放つ。
 着弾の爆炎が晴れる間もなく再度突貫し、障壁を割っていく。

縺ッ縺ッ縺ッ縺ッ(はははは)繧ゅ≧驕?>(もう遅い)!」

「ガッ……!?」

 分裂した極光が緋雪を貫く。
 頭の一部を、肩を、脇腹を、手足を消し飛ばされる。
 “バチリ”と、何かが断たれた音と共に、緋雪は吹き飛んで倒れ伏した。

「っ………!」

 緋雪は立ち上がろうとするが、欠けた腕が折れ、また倒れ伏す。

「―――?」

 それを、緋雪は認識出来なかった。
 否、明らかに“意志”による再生速度が落ちている事に気づけていなかった。
 ……もう、それを認識する正気がなくなっていた。

「……ゥ、ルルルルル……」

 最早、獣のような唸り声が漏れる程だった。
 まだ戦えはするが、この状態では勝ち目はないだろう。
 自身の“狂気”を制御出来ないのに、“狂気の性質”の干渉を防げるはずもない。

「ァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 攻撃の苛烈さは増している。
 しかし、防御も回避もしなくなっては意味がない。
 これでは以前の形態の神と立場が逆転してしまっている。

「ガ、ゥッ!?」

 再び極彩色の閃光に貫かれ、触手で吹き飛ばされる。

「(―――赤)」

 視界に“赤”が広がる。

「(赤、朱、紅、緋、あかあかアカアカあかアカアカアカアカ)」

 血の色、思考を蝕む“狂気”の色。
 様々な“赤”を緋雪が幻視する。

「ァ……は、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 気が付けば、星々を映していたはずの水面は、かつての赤に戻っていた。
 暗雲の代わりに紅い霧が立ち込め、結界内が“狂気”に満ちていく。

 克服したはずの狂気は再燃し、緋雪はそれに呑まれた。
 それに抗う術は、この場にない。





















〈―――お嬢様!!〉

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ッ―――!」

 吹き飛ばされた際に地面に刺さっていたシャルが叫んだ。
 その言葉と共に、仕込んでおいた術式が起動する。
 それは、“狂気”に囚われた際の対策として組み込んでいたモノだった。

「……ぁ……」

 術としては、緋雪自身の思い出と、彼女にとって大切な者達を想起させるモノ。
 普段であれば、感傷に浸る程度の効果しかない。

「ッッ……!!」

 だが、“狂気”に呑まれた今ならば、()()()()()()()が発揮される。
 緋雪は、拳を自らの額に殴りつけた。

「っ、ふぅ……ッ……!」

 ギリギリ、正気を取り戻す。
 自分にとって大事なモノを想起する事で自我を取り戻す。
 そんな間接的に作用させる術式だったが、ものの見事に成功した。
 しかし、それを喜ぶ時間はない。

「(このままやれば、また“狂気”に呑まれる……!)」

 即座に術式を編み、自ら五感全てを封印する。
 平衡感覚すら勘で探り、高速で動き続ける事で出来る限り攻撃を避ける。

「(……お兄ちゃんなら、他の皆なら、どうする……?)

 既に切り札である対策は使った。
 後何度か同じ事を出来るとしても、その内完全に“狂気”に呑まれてしまうだろう。

「(……今ここで、この状況を打破する手段を……!)」

 逆転の一手を必死に考える。
 しかし、一向にそれは浮かばない。

「(……ダメ。やっぱり、私と“狂気”は切っても切れない関係―――)」

 極彩色の極光が直撃し、またもや“狂気”が思考を蝕む。
 直前まで考えていた事も、そのダメージで途切れてしまった。

「(……なら、敢えて切らずに受け入れれば……?)」

 思い出したのは、無我の境地に至った事で導王流を極めた優輝の姿。
 自らと言う訳ではないが、あれも半分気絶したがために至った。
 同じように、“狂気”を受け入れてしまえばいいと思ったのだ。

「(……そうだ。もう、私は狂気を乗り越えたんだ。その“意志”があれば……!)」

 一歩、脚を踏み出す。
 その脚が触れた場所から、水面に波紋が広がる。
 血の色に染まっていた水面は、再び鏡のような水面へと戻っていく。
 否、厳密には血のような赤色のまま、鏡のように透き通った水面へとなっていた。

縺ェ縺ォ(なに)?」

「鏡の如く、透き通れ……我が心……!」

   ―――“狂花水月(きょうかすいげつ)

 緋雪の瞳が煌々と紅く光る。
 その光は、かつて狂気に呑まれた時と同じだ。
 だが、当時のように淀んだ光ではない。
 どこまでも透き通ったような、そんな綺麗な光だ。

「………!」

 跳躍し、吹き飛ばされた後地面に刺さっていたシャルを引き抜く。
 直後、再び光の刀身と赤と青の螺旋が伸びる。

豁サ縺ォ縺槭%縺ェ縺?′(死にぞこないが)!」

「ふッ!!」

 放たれた極光と触手が、細きれになる。
 荒々しくも繊細な太刀筋で、緋雪が斬り刻んだのだ。

「ッッ!」

 さらに、超高速で緋雪は駆けだす。
 触手を、極光を躱しながらもそこかしこに魔法陣の起点を刻んでいく。
 無論、神に気取られないように、何度も肉薄して近接戦も仕掛ける。

「ぐっ……!!」

 魔法陣の起点を粗方仕掛けた直後、触手を捌き切れずに防ぐ事になる。
 上空へと弾かれ、一瞬無防備になる。
 ……が、緋雪は不敵に嗤う。

「あはっ!」

   ―――“破綻せよ、理よ(ツェアシュテールング)

 魔法陣が起動し、そこから血の棘が飛び出す。
 それは余りにも大きく、四方八方から神は串刺しになる。
 内、ほとんどは障壁や触手に阻まれたが、それでも動きは止めた。
 そこを、“破壊の瞳”で狙い撃った。

縺舌♂縺(ぐぉお)!?」

「あははははははは!!」

 “破壊の瞳”による爆発のため、神は怯む。
 その隙を当然ながら逃すはずもない。
 緋雪は一気に猛攻を仕掛ける。

「無駄!無駄!無駄だよ!!」

縺ェ繝??ヲ窶ヲ(なッ……)!?」

 耳障りな音と共に、音波のようなモノが結界内に響き渡る。
 それは、以前の戦いで“狂気”に呑まれた緋雪を倒した技だった。
 制御の出来ない“狂気”に堕ちた者の“領域”を強制的に砕く、所謂即死技。
 明らかに“狂気”に満ちている緋雪には、効果抜群のはずだった。

「あはは!あっははははは!!」

 そう。今の緋雪は“狂気”に満ちている。
 笑いながら神の触手を斬り刻み、攻撃を転移で躱して即座に反撃を繰り出す。
 理知的な立ち回りを取っているが、“狂気の性質”から視れば明らかに“狂気”に満ちている。……そのはずなのだ。

「もうその“性質”は効かないよ!……我が心は水面のように……如何に“狂気”に堕ちようと、今この場ではそれでも揺らがない!」

 だというのに、緋雪は狂気に堕ちていながら正気だった。

「(狂気と正気の境界。そこに落ち着く事で、狂気すらも正気として扱う。……お兄ちゃんが武の極致に至るなら、私は狂気と正気の極致へ至る!)」

 緋雪が出した“答え”がこれだ。
 かつて優輝が導王流の極致に覚醒したのを参考に、緋雪は別のアプローチをした。
 敢えて自ら“狂気”へ歩み寄り、“狂気”を理解したのだ。
 結果、狂気と正気の境界線に立ち、“狂気”に堕ちても正気でいられた。
 術式などを用いない“意志”によるモノなので、それが瓦解する時は一瞬だろう。
 だが、自らの心を映し出すこの結界内ならば、その安定性も確実なモノとなる。

「(―――楽しい)」

 大剣を振るう。
 その度に、神の放つ極光や、触手が切り裂かれる。

「(―――楽しい!)」

 緋雪の瞳が爛々と輝き、表情は口角が上がり、満面の笑みとなっていた。

「(楽しい、楽しい、楽しい!)」

 今、狂気と正気の境にいるためか、緋雪はこれ以上ない楽しさに満ちていた。
 これまで、緋雪は模擬戦以外で戦いに楽しみを見出した事はない。
 シュネーだった頃も、笑ってはいたがそれは狂気の苦しみの中での話だ。
 しかし、今は負けられない戦いではあるが、心から楽しんでいた。

「あはははははははははは!!」

縺薙?窶ヲ窶ヲ(この……)!」

 狂気と正気にの境にいるからこその楽しさ。
 それは緋雪の動きにも影響を及ぼす。
 ありとあらゆる攻撃が力強く、鋭くなり、さらには精密さすら上がっていた。

「そこっ!!」

縺励∪縺」窶ヲ窶ヲ(しまっ……)!?」

 極光を切り裂き、触手を切り裂く。
 さらに一瞬の隙を突いて“破壊の瞳”を握り潰し、さらに活路を開く。
 そこで、ようやく神の本体が見えた。

「せぇえいっ!!」

縺後=縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ▲(がぁあああああああっ)!?」

 必死にそれを守ろうと迫る触手を即座に斬り捨て、そのまま回し蹴りで蹴り抜く。
 直撃した神は、まるで重力が横に向いて引っ張られたかのように吹き飛んだ。

「“其は、緋き雪の輝きなり(シャルラッハシュネー・シュトラール)”!!」

 さらに追撃として緋雪は極光を放つ。
 固有結界という緋雪にとっての“領域”という事もあり、完全に圧倒していた。

「ぜぁっ!!」

 極光を転移で躱される。 
 それを読んでいた緋雪は、転移でさらに回り込む。
 そのまま魔力の斬撃を爪で切り裂くように放ち、叩き落す。

「討ち克て、輝閃!!」

   ―――“Lævateinn Überwindung(レーヴァテイン・ユヴァヴィンド)

 一際強く魔力と霊力をシャルへと流し込む。
 ……決着の時だ。

「はぁあああああああっ!!」

繧。繧。繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「繧「(ァァアアアアアアアアア)!!」

 今までで一番攻撃の密度が高くなる。
 極彩色の極光が、冒涜的な触手が緋雪へ襲い掛かる。
 一つ一つの攻撃が、今の緋雪でも食らえば致命傷だ。
 それに対し、緋雪は真っ向から突き進む。

「ッッ!!」

 目の前に迫る極光を切り裂く。
 間髪入れずに迫る触手を、紙一重で躱し、側面を滑る。
 別の触手を切り裂いて迎撃し、その反動で極光を躱す。

「はぁっ!!」

 理力が衝撃波となって放たれる。
 それがわかっていたかのように緋雪は転移魔法で回避し、同時に肉薄する。
 即座に迎撃しようと触手が迫り、その悉くを斬り捨てる。

「っづ……!」

 一際大きな触手が、大剣を振り抜いた僅かな隙を突く。
 回避も防御魔法も可能だったが、緋雪はそれを両腕で受け止めた。

「ッ!」

 その触手を切り落とし、追撃を再度転移で躱す。
 攻撃はすぐに追いついてくるも、徐々に肉薄していた。

「くっ……!」

 神も転移を使い、何度も緋雪から距離を取ろうとする。
 緋雪も負けじと転移で追いつき、その応酬を繰り返す。

「掛かった!!」

縺ェ縺ォ縺」(なにっ)!?」

 だが、それも終わる。
 緋雪が仕掛けたバインドによって、一瞬とはいえ動きが止まった。
 そして、今の緋雪にはその一瞬で十分だった。

「これが私の軌跡!私の物語!全てを以って、全てを斬り裂け!!」

 緋雪の言葉と共に、結界が崩れていく。
 否、結界内の全てが緋雪とシャルに集束していく。
 結界がなくなり、外でずっと戦っていた緋雪の分身と“天使”達も現れる。
 どうやら、分身達が敗北する寸前だったようだ。
 それを見て、緋雪は一瞬安堵するが、即座に意識を戻す。

「“水面に舞え、緋色月(ミュートゥス・シャルラッハロート)”!!」

 自らの全てを込め、剣として緋雪はそれを振り下ろした。
 その輝きは、白い神界をさらに白く染め上げる程だった。

()―――――」

「“領域”、両断……!!」

 正しく極光の剣が、神を一刀両断にした。
 緋雪の全て、全身全霊が込められている一撃だ。
 それは即ち、緋雪の全ての“意志”が籠められている、
 故に、“狂気の性質”の神の“領域”は、その一撃によって両断された。

「ァァああああアア!!」

「ガァアアアアッ!!」

「………」

 残った“天使”が、死に物狂いで緋雪へ襲い掛かる。
 全身全霊の一撃を放った後のため、確かに緋雪は無防備だった。
 だが、その攻撃が届く事はない。

「一歩、遅かったね」

 主たる神の“領域”を破壊した。
 ならば、その眷属の“天使”に生きる術はなし。
 緋雪に届くその直前で、“天使”達は消え去った。

「……危なかった……」

 本音が漏れる。
 正しく紙一重の戦いだった。
 あの土壇場で、緋雪が新たな手札を思いつかなければ負けていただろう。

「司さんや奏ちゃんなら、もっと勝ちを確信してたんだろうなぁ……」

 緋雪は自分の読みの甘さに苦笑いしていた。
 油断しているつもりはなかったが、僅かな慢心でピンチになったのだから。

「……でも、だからこそ……」

 しかし、そのおかげで“負けられない”と言う強い“意志”を抱けた。
 神を倒せる程の“意志”を、発揮する事が出来たのだ。

「……お兄ちゃんを助けに行かないと」

〈お嬢様〉

 緋雪はそう言って立ち上がろうとする。
 その時、シャルが声を上げたのだが、それに返事する前に力が抜け、へたり込む。

「あ、あれ?」

〈さすがに無理をし過ぎです。休息を挟むべきかと〉

「あ、あはは……そうだね」

 想像以上に消耗が激しく、このまま行っても戦えないだろう。
 シャルにそう忠告され、緋雪も大人しく回復を待つ事にした。

「一応、敵地のど真ん中だから、油断は出来ないけどね……」

 警戒だけは緩めずに、緋雪はその場で寝転ぶ。

「(……皆は、大丈夫かな)」

 ふと、頭に思い浮かんだのは、別の場所で戦っている皆の事だ。
 優輝だけでなく、全員が勝てるか分からない戦いに挑んでいる。
 自分は勝てたが、他もそうだとは限らない。
 だからこそ、少し心配した。

「……ううん。信じなきゃ、始まらないよね。きっと大丈夫!」

 だが、すぐにその心配は振り払う。
 そのまま起き上がり、自身の両頬を叩く。

「休憩終わり!まだ回復はしてないけど……後は歩きながらで!」

 そう言って、緋雪は優輝がいる場所へ向けて歩き出した。





















 
 

 
後書き
狂花水月…名前はカービィTDXのBGMから。狂気を受け入れ、それでなお鏡のように映し出す水面の如き心を宿す。厳密には技と言うよりただの心構えに近いが、緋雪の固有結界と合わせる事で“性質”すら跳ね除ける。

水面に舞え、緋色月(ミュートゥス・シャルラッハロート)…“緋色の神話”。緋雪の全てを込めて放つ一閃。固有結界を取り込む必要があるため、使用する際は固有結界を解除しなければならない。尤も、それ相応の威力と“意志”が込められている。


前後編はここで終わりです。
次は幕間を挟んで残りの面子の話に入っていきます。 
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