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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第278話「積み重ねた想い、信念」

 
前書き
ルフィナ、ミエラ、ユーリ、サーラSide。
イリスの“天使”と優輝を模した“闇”の“人形”が相手です。
 

 












「シッ!!」

 剣が振るわれ、斬撃が二閃、三閃と迸る。
 それによって囲うように振るわれた複数の攻撃を相殺する。

「はぁっ!!」

 間髪入れずに、剣を振るったサーラは魔力を練る。
 鞭のようにしならせ、襲ってきた存在を弾き飛ばす。

「……なるほど。導王流はありませんか」

 反撃される前に転移でその場から抜け出し、サーラはそう呟く。
 その視界には、転移前の場所をユーリの魔法が襲う光景が収められていた。

「であれば、直接戦闘でも勝ち目は十分にありますね」

 またもや転移し、今度はユーリの傍に移動する。
 そして、ユーリを狙った理力の剣を防いだ。

『主様を模した“人形”と言えど、模した側面は神であった時のモノに重点を置かれているようです。扱う個体はいるかもしれませんが、使いこなす個体はいないと見て良いでしょう』

「……なるほど……」

 サーラとユーリが相手にしているのは、優輝の姿を模した“闇”だ。
 かつて、地球に襲撃した“人形”と同じ存在だが、その強さは増している。
 しかし、それでも一対一であればサーラは互角に戦えた。
 導王流があれば話は別だったが、それもない今、懸念は消えた。

「ユーリ!」

「はい!」

 ユーリの魄翼がうねり、“人形”が繰り出す理力の攻撃を相殺する。
 魄翼も相殺の際に砕け、ユーリが無防備になるが、その前にサーラが仕掛ける。

「はぁっ!!」

 渾身の一閃、続けての二連撃を放つ。
 一撃目で障壁を破壊し、追撃の二連で直接攻撃するためだ。
 目論見は上手く行き、圧縮された理力で防がれたものの、吹き飛ばした。

「させません!」

 無防備となったユーリを“闇”が襲う。
 だが、ミエラが割り込み、理力の剣で“闇”を切り裂く。

「ルフィナ!後は任せますよ!」

「いいですよ。護衛は任せてください」

 ルフィナも理力の矢で他の“人形”を牽制しつつ、ユーリの傍に来る。
 ミエラはそんなルフィナに後を頼み、サーラの近くに転移する。

「お互い、力を合わせましょう。個々で戦えば、隙を突かれます」

「……そうですね。集まっていた方が、利点は大きそうです」

 そう言いながら、ミエラとサーラで背中合わせになる。
 直後、“人形”が一斉に二人に襲い掛かった。

「はっ!!」

「遅い!!」

 火花が、魔力が、理力が散る。
 一撃一撃が必殺の威力を持ち、衝撃波を迸らせる。
 だが、一太刀とて二人には届かない。

「所詮は“人形”!主には届かないと知りなさい!」

「シッ!!」

 理力を唸らせ、“人形”を退かせる。
 そして、サーラが一人に狙いを定め、包囲に穴を開けた。

「“明けの明星”!!」

「通しません!!」

 向かう先はルフィナとユーリのいる場所。
 そちらもルフィナがカウンターで、ユーリは魄翼で攻撃を対処していた。

「はぁっ!!」

「ふッ!!」

 二人が弾いた“人形”を、サーラとミエラで切り裂き、“領域”を砕く。
 “闇”で作られた“人形”だからか、神や“天使”に比べて脆い“領域”だった。

「……さて」

 そこで小休止が入る。
 サーラ達は四人で集まり、前衛後衛の陣形を組んでいる。
 対し、今まで攻撃していた“人形”達も一度飛び退き、間合いを取って並び立つ。

「戦力の逐次追加で終わるはずがありません」

「その通りです。……イリスの“天使”が動いていません」

 イリスの“天使”はイリス本人が強いだけあって、数も質も段違いだ。
 その内のほとんどが、司が地球から放った“祈り”で消滅している。
 それでも六人、“天使”は残っている。
 そして、その“天使”達は、ここまでの戦いに参加せず、静観していた。

「つまり……本番はここからですか」

「その通りです」

「ッ―――!?」

 ユーリの呟きに、“天使”の一人が背後に回り込むと同時に答える。
 まるで闇に溶けるかのように、ごく自然過ぎる転移だった。

「くっ……!」

 即座にルフィナが理力の槍で不意打ちを防ぐ。
 そのまま反撃も繰り出すが、再び転移されて避けられる。

「後方を頼みます!」

「承知!」

 ミエラが正面、サーラが後方からの攻撃に備える。
 否、それだけでは足りない。
 神界の戦いにおいては、最早前衛後衛など関係ない。
 前後左右だけじゃなく上下からも攻撃は仕掛けられる。

「イリスの“天使”の中でも、特別戦闘に優れた個体です!」

「なるほど……!だから司さんの“祈り”で倒せなかったと……!」

 同じ神の眷属であっても、個体差はある。
 今目の前にいる六体の“天使”は、イリスの眷属の中でも強い。
 生き残っていたのも、偶然もあったとはいえその強さで避けたからだ。

「ッ!?(速い!!)」

 目を離した訳じゃない。
 だが、予想以上の速度でサーラは懐に潜り込まれた。
 転移からの理力の一撃が、サーラの剣を大きく弾く。
 そして、がら空きになった胴に第二撃が叩き込まれた。

「サーラ!!」

「ッッ……!!後ろです!ユーリ!!」

 サーラの体が吹き飛ぶ。
 しかし、ここは神界。ただで吹き飛ぶ程“意志”は弱くない。
 即座に地面に剣を突き刺し、全力で踏み止まる。
 それでも吹き飛んだ際の勢いは止まらない。
 サーラもただではやられず、勢いを利用する。
 そして、背後に迫っていた“人形”を突き刺した。

 問題は、思わず声を上げたユーリの方だ。
 意識がサーラに向いた瞬間を、“天使”は逃さない。
 サーラもそれに気づいて、声を張り上げた。

「っ……!!」

 魄翼は間に合わない。
 刹那にそう確信したユーリは防御魔法を多重に展開する。
 ユーリは戦闘に対する意識はそれこそ人並み程度しかない。
 それでもそれを補って余りある才能と力がある。
 そのため、咄嗟の防御魔法でも十層の障壁を展開した。

「ぐっ……!」

 その十層の内、九層が割られる。
 残りの一層もほぼ破られた状態で、ギリギリ防いだ。
 だが、追撃が来る。
 今度は魄翼を間に合わせるが、あっさりと魄翼が砕ける。
 それでも、時間を稼ぎ、ルフィナの横槍で“天使”は弾き飛ばされた。

「まだです!!」

 ルフィナが“天使”の一人を抑えるが、代わりに“人形”がノーマークとなる。
 ミエラとサーラも他の“天使”に抑えられ、ユーリは一人で対処する事になる。
 尤も、ユーリもこれまでで戦闘経験は積んできた。
 いくら戦闘への意識が人並み程度でも、決して無力ではない。

「はぁっ!!」

   ―――“Schwarzer Granate(シュバルツェア・グラナーテ)

 魄翼と防御魔法で“人形”の攻撃を一時的に防ぐ。
 そして、破られる前に魔力を爆発させる。
 防御、ないし飛び退く事で回避させ、さらに細かい魔力弾で周囲を攻撃する。

「シッ!!」

 吹き飛んだ“人形”の内、一体が吹き飛んだ勢いを利用したサーラに切り裂かれる。
 “天使”相手に劣勢ではあるが、連携を忘れずにこなしていた。

「“人形”は私が抑えます!」

「無理はなさらぬように!!」

 役割分担で、ユーリが“人形”を担当する。
 白兵戦で“天使”相手にユーリでは少々相性が悪い。
 一撃で魄翼も障壁も貫く攻撃力は致命的だ。
 対し、“人形”は比較的物量で攻めてくる。
 同じ物量で対抗できるユーリが抑えるのは妥当だろう。

「はぁっ!!」

 無限の魔力によって、いくつもの障壁が展開される。
 それらが割られるのと引き換えに、“人形”の攻撃を阻む。
 さらに、魄翼と無数の魔力弾、砲撃魔法の魔法陣も展開される。
 ありったけの魔力を注ぎ込んだ弾幕を展開し、物量で攻める。

「ッ!」

 それでも“人形”は抜けてくる。
 それどころか、“天使”も混じっていた。

「っ、ここです!」

 しかし、ユーリも白兵戦が出来ない訳ではない。
 魄翼を爪として振るい、剣の一太刀を砲撃魔法の薙ぎ払いで代用する。
 “人形”を弾き飛ばし、魄翼を砕かれながらも“天使”の攻撃を防ぐ。
 そして、一際強い砲撃魔法を繰り出し、“天使”を押し流す。

「ふっ!」

 さらにサーラがフォローに入り、凌ぎきれない“人形”を斬り伏せる。
 倒すには全く至らないが、これでピンチを事前に回避した。

「くっ……!」

 一方、ミエラも複数の“天使”を相手に追い詰められていた。
 一対一ならば勝つ事も出来たが、それが複数となれば難しい。
 攻撃に押され、咄嗟に飛び退いて勢いを殺す。

「ッ、はぁっ!」

 その後ろから、ルフィナも同じように押されて飛んできた。
 さらにルフィナへと追撃が放たれるが、それをカウンターで跳ね返す。
 同時に、その反動を利用して反転。ミエラを援護するようにミエラの脇から弓矢を放ち、迫ってきた“天使”を迎撃した。

「はぁぁぁ……ッ!“黒き太陽、絶望の闇(フェアツヴァイフルング・ドゥンケル)”!!」

 魄翼と弾幕を使いながら、ユーリが極大の魔力弾を生成する。
 圧縮もしているため、それでも本来の大きさよりも小さい。
 それを炸裂させ、“人形”を一気に吹き飛ばす。

「ふっ!ぐっ、ぅぅ……!!」

 爆風の中、それでも“天使”は攻撃を仕掛けてくる。
 突撃と共に放たれた一撃を、サーラは受け止めるも一気に後退させられる。
 さらに、転移で背後に回られる。

「甘いッ!!」

「ッ!?」

 だが、戦闘経験においてサーラは“天使”を上回る。
 その動きを読んでおり、振り向きざまに魔力を押し当て、カウンターを決める。
 同時に“闇”の斬撃がサーラを両断するが、“意志”で耐えた。

「致命傷前提ならば、いくらでも反撃のチャンスはありますよ……!」

 相打ちを前提としたカウンター。
 それは本来の戦いでは最終手段だ。
 だが、命を落とす傷を治せる神界ならば話は別だ。
 相手が律儀に白兵戦をしてくる今では、非常に効果的な戦法となる。

「(広げて、広げて……もっと、皆を支援出来るように……!)」

 戦況は少しずつ変化していく。
 “人形”を相手取りながら、ユーリは魔法を繰り出す範囲を広めていく。
 ほぼ近接戦だった状態から、移動要塞のように広範囲をカバーする。
 味方である他三人の魔力及び理力を指定、記憶する。
 それによって、三人以外を自動追尾及び攻撃する術式を編みこんだ。
 これで自動砲台の出来上がりだ。

「っ……はぁっ!」

 広範囲の牽制に思考を割く必要がなくなる。
 そうなれば、後は肉薄してくる“人形”や“天使”に集中できる。
 思考のリソースに余裕があれば、肉薄されても即座に迎撃が可能だ。
 実際、肉薄してきた“人形”の攻撃を障壁で相殺。魔力を爆発させて吹き飛ばした。

「ふっ!」

「はぁっ!」

 ユーリの援護を受け、ミエラとルフィナも一対一ならば競り勝てるようになった。
 一瞬の隙を突き、一太刀及びカウンターを叩き込む。

「っづ……!」

「くっ……!」

 サーラも相打ち前提のカウンターを直撃させる。
 状況は徐々に優勢になってくる。
 ……その瞬間。

「―――忘れましたか?」

「ッ……!」

「私達は“闇の性質”を持っている事を」

 ユーリの背後に“天使”の一人が転移してくる。
 即座にユーリが反撃するが、再びの転移で躱された。
 否、それだけではない。

「これ、は……!?」

 魄翼を振り抜いた所には、“闇”があった。
 その“闇”はそのままユーリへと纏わりつく。

「ユーリ!?」

「余所見の余裕があるのか?」

「くっ……!」

 サーラが助けに入ろうにも、目の前の“天使”で精一杯だ。
 その間にも、“闇”はユーリを包んでいく。

「(洗脳……!ここで来るなんて……!)」

 U-Dとして在ったユーリにとって、“闇の性質”は相性が悪い。
 前回神界に突入した時も、ほぼノーモーションでイリスに洗脳された程だ。
 そして、その“天使”も洗脳の手段は持っている。
 このままでは、ユーリは洗脳されてしまうだろう。

「ッ……、っ……!!」

 だが、それを“意志”で拒む。
 ここに来て、イリスを心酔するなど、あり得ないと。
 思考を蝕む“闇”を、必死に振り払おうとする。

「あぐっ……!?」

 しかし、“人形”がさらに追い詰めにかかる。
 “闇”への抵抗で防御が疎かになった所へ、理力の極光を直撃させた。

「(焦りは禁物。ですが……)」

「(これは……本人に託すしかありませんね)」

 ミエラとサフィラも四人の“天使”を相手に身動きが取れない。
 焦った所で隙を晒すだけなので、結果的にユーリを信じるしかなかった。

「ぁぁあああああっ!!」

 魔力の……否、エグザミアの制御が出来なくなる。
 かつての暴走のように、魔力と魄翼が暴れ狂う。
 “人形”を近づけさせないための苦肉の策だが、同時に暴走もしている。
 そのため、完全に孤立状態になる。

「仕上げです」

「ッ―――!」

 そこへ、さらに“天使”が追い打ちをかける。
 単純な実力では“天使”が上なため、転移で肉薄は容易だったのだ。
 そして、さらに追加の“闇”が送り込まれた。

「っ、ぁ………」

 視界も、思考も、何もかもが“闇”に染まっていく。
 ここまで抗えているだけ、前回よりもかなり成長しているのだろう。

「(サーラ……皆さん……すみません……)」

 しかし、その上を行くのが“闇の性質”だ。
 確実に絶望へと叩き落そうと“意志”を挫きにかかる。
 加え、先ほどから“天使”や“人形”の攻撃に晒されている。
 洗脳されるのは最早秒読みだった。





「っ、――――――」

 その時、ユーリの視界にサーラが映る。
 彼女は戦いながらも、ユーリに目を向けていた。
 そして、目が合ったのだ。
 彼女は確かにユーリを助けようと奮闘している。
 だが、その目にあったのは焦りではない。
 “ユーリを信じる”と言う確固たる想いがあった。

「(ぁ―――)」

 それを見て、ユーリの心に火が灯る。
 消えかけていた“意志”が、再燃する。

「(そう、です……!)」

 かつて、彼女は魂を自らのデバイスに宿してでも、ユーリを助けようとした。
 それほどの決意と信念が彼女にはあったのだ。
 ユーリも、それに倣おうと、憧れた。
 否、憧れだけじゃない。実際そうなろうとしたのだ。

「(誰もが、仲間を信じている。何よりも、仲間が信じる自分を信じている……!ならば、ならば私も、私も信じなければ……!)」

 “闇”は未だにユーリを蝕む。
 だが、“意志”は決して侵されない。

「(そうです。“これ”は……“これ”だけは、譲れません!!)」

 “闇”に囚われ、動けないはずの体が動く。
 そして、襲い掛かる“人形”を極光が貫いた。

「積み重ねてきた、この想い……信念……!決して折れる事は、砕ける事はありません!!私がU-D()だからこそ、これだけは譲れません!!」

 サーラの信念を見た。そして、それは決して折れる事はない。
 積み重ねたその想いは、誰にも負けはしない。
 その事実がある限り、ユーリはもう、“闇”に負けない。

「なっ……!?闇の属性を持ちながら、私の“闇”に……!?」

 魔力が迸り、ユーリを蝕む“闇”が弾け飛ぶ。
 その様子を見て、“天使”が動揺した。

「ッ、しまっ……!?」

「“我が敬愛は貴女のために(エーベルヴァイン・アンベートゥング)”!!」

 その隙を、ユーリは見逃さなかった。
 魄翼で“人形”の攻撃を相殺し、肉薄。
 そして、至近距離から極光を直撃させた。

「……さすがです。ユーリ」

 極光はそれだけでは終わらない。
 射線上には、サーラとその相手をしている“天使”がいた。

「私も、応えましょう!」

 サーラは極光をその身に受け、それを吸収する。
 元々、その極光はユーリがサーラへの想いを力に変えた一撃だ。
 言い換えればサーラのための極光。彼女を傷つけるはずがない。

「“我が忠義は貴女のために(ラクレス・ロヤリティート)”!!」

 ユーリの一撃はただ強力なだけではない。
 サーラを支援し、次の一撃に繋げるための布石なのだ。
 極光を吸収したサーラから、新たに極光が放たれる。
 それは、ユーリが吹き飛ばした“天使”に直撃し、その“領域”を破壊した。

「くっ……!」

 サーラの相手をしていた“天使”が歯噛みする。
 ここで“天使”が一人脱落したからだ。
 質と量の両方でアドバンテージを取っていたのが、両方とも消失に近づいた。
 すぐさまサーラを攻撃するが、その前にサーラが次の行動を起こしていた。

「“誓いの剣をここに(シュヴェーレン・シュヴェーアト)”……!」

「ッ……!?」

 極光が剣に集束する。
 光が剣に纏い、その一太刀で“天使”の武器と障壁を切り裂いた。

「なっ……!?」

「遅い!!」

   ―――“Neun Säbelhieb(ノイン・ゼーデルヒープ)

 一太刀で防御を全て破られた事による怯みを、サーラは見逃さない。
 一瞬で九連撃を“天使”に叩き込み、瞬時に“領域”を斬り刻んだ。

「たかが“闇”程度に、私のユーリに対する想いが、負けるはずありませんよ」

 消えていく“天使”を見ながら、サーラはそう発言する。
 なお、この発言にユーリが恥ずかしそうに照れていたが、余談である。

「……そろそろ、私達も反撃しましょうか」

「そうですね」

「っ、舐めるな……!!」

 二人の活躍を、ミエラとルフィナも見ていた。
 未だに四人の“天使”に抑えられているが、その動きに変化が訪れる。

「下手に千日手に持ち込んだのは悪手でしたね」

「どこかで流れを変えれば、こちらは容易く“可能性”を掴みますよ?」

 サーラとユーリが戦っている間、二人はずっと千日手だった。
 だが、それは同じ行動パターンを繰り返す事と同義だ。
 であれば、どこかでそのリズムを崩す事で、戦況は良くも悪くも変わる。
 後は、そこから“良い結果”の“可能性”を掴むだけだ。

「ッッ……!?」

「彼女達が勝ったのならば、こう言った行動にも出れます」

 一部の攻撃を無視した、無理矢理なカウンター。
 それが、ミエラとルフィナでそれぞれ一人ずつ“天使”に叩き込む。
 無論、そうなるともう二人の攻撃が直撃するだろう。
 この程度の捨て身、本来なら二人は行わない。

「サーラ!」

「はい!!」

 ……尤も、それはミエラとルフィナ、()()()()()()()だ。
 相手が“人形”だけとなり、サーラとユーリに余裕が生まれた。
 ユーリが自動迎撃の術式で“人形”を抑えつつ、砲撃魔法で道を作る。
 サーラがそこを通り、一気に“天使”へと肉薄した。

「くっ……!!」

 ミエラとルフィナを追撃しようとした“天使”の内、片方が迎撃に動く。
 サーラの狙いはカウンターで吹き飛んだ方の“天使”だ。
 つまり、このまま行けば、迎撃に動いた“天使”を合わせて三人の“天使”を一か所に集める事に繋がる。

「(―――かかりましたね)」

 ……それこそ、サーラの狙いだった。

「(私がこちらに来た事で孤立し、“人形”のみでユーリを抑えられると思ったのでしょう。……ですが、そんなはずないでしょう?)」

 サーラの後方には、“人形”による理力の攻撃に晒されるユーリがいた。
 だが、魄翼と障壁を多重に展開している事で防いでいる。
 何よりも、その防御は並行して別の行動が出来るように、“新たに展開する”と言う事をしていなかった。

「ルフィナ!」

「わかっていますよ!」

 自分達を追撃する“天使”の攻撃を無視し、二人が理力で結界を繰り出す。
 その結界は、サーラと共に三人の“天使”を囲う。
 ……そう、逃げられないようにするために。

「ッ、まさか……!?」

 ミエラとルフィナを追撃していた“天使”が気づく。
 だが、もう遅い。

「これが、私の、私達の積み重ねてきた想い……!」

 防御の追加展開を止める。
 それが意味する事は即ち、“次の攻撃への備え”だ。
 ユーリの両手の間には、魔力が集束していた。
 砲台を意味するその構えには、魄翼の腕も添えられていた。
 それだけ、高威力なのが見て取れる。

「“決して砕かれぬ心(アンツェアブレヒリヒ・ヘルツ)”ッッ!!」

 そして、極光が放たれた。
 紺色を纏った赤黒い極光、サーラとユーリの魔力光が混じった一撃が突き進む。

「ッ……!」

 サーラごと呑み込まんとする極光を見て、“天使”達は転移で逃げようとする。
 だが、サーラの“意志”とミエラ達の結界がそれを許さなかった。

「回避の“可能性”を潰しておきました」

「人間を嘗めた結果ですよ」

 加え、ミエラとルフィナで“可能性の性質”を使っていた。
 回避するという“可能性”そのものを潰し、確実に命中するように誘導したのだ。

「ッ――――!!?」

 せめてもの防御を“天使”達は行うが、最早無意味だ。
 ユーリの一撃はその障壁を突き破り、“領域”を削る。

「終わりです」

   ―――“Wille Aufblitzen(ヴィレ・アォフブリッツェン)

 そして、ダメ押しとばかりにサーラが“意志”を込めた一閃を叩き込んだ。
 それも、ユーリの極光を吸収し、纏わせた剣で。















「っ………!」

 残るは“天使”一人と、多数の“人形”。
 まだ数はいるが、それでも戦況はサーラ達に傾いていた。
 ユーリの一撃で“天使”の三人を葬り、何体かの“人形”も消し去っていた。
 “天使”一人ではミエラかルフィナ片方だけで抑え込まれ、残りの“人形”達もサーラとユーリだけでも倒し切れる。

「これが、人間の“可能性”です」

 結果は、もう明らかだった。

「油断はしませんよ。確実に、ここで貴女達を倒します」

 それでも彼女達は油断しない。
 前に進んだ者達を助けに行くためにも、ここで確実に後顧の憂いを断つ。
 そのつもりで、残りの敵を倒しにかかった。















 
 

 
後書き
Schwarzer Granate(シュバルツェア・グラナーテ)…“黒の手榴弾”。小規模の爆発を起こし、細かい魔力弾で周囲を攻撃する魔法。多対一での接近戦を想定している。

黒き太陽、絶望の闇(フェアツヴァイフルング・ドゥンケル)…42話より再掲。無限の魔力にものを言わせた極大魔力弾を放ち、炸裂させる魔法。魔力弾という形を取っているが、効果は殲滅魔法に分類される。

我が敬愛は貴女のために(エーベルヴァイン・アンベートゥング)我が忠義は貴女のために(ラクレス・ロヤリティート)の対となる魔法。サーラに対する敬愛を力に変えた一撃。なお、その真骨頂は攻撃後におけるサーラの強化にある。

決して砕かれぬ心(アンツェアブレヒリヒ・ヘルツ)…サーラとユーリの絆、積み重ねてきた想い、信念を乗せた極光を放つ。“意志”と魔力を織り交ぜた一撃なため、神界限定の技となる。なお、サーラはこれを受ける事でその力を斬撃として繰り出せる。


伊達に千年以上生きてきた二人ではない、と言う話です。
神界の神と比べれば生きている年数は比べようがありませんが、それでも積み重ねてきた想いや信念は負けなかった、と言う訳です。 
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