英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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第114話
~ルーレ市内~
「フフ、天使の部隊とやり合うなんて、中々得難い経験をしたみたいね。」
「姉さん……!」
「皇太子殿下達も……!」
「ふふっ、あれだけの数の天使達を強制転位させるなんて、さすがは星杯騎士団の副長ですね、トマス教官。」
ルシエル達が強制転位させられた後クロチルダは苦笑しながらアリサ達に声をかけ、クロチルダ達の登場にエマとユーシスは明るい表情を浮かべ、サラは苦笑しながらトマスを見つめた。
「やあみんな。絶妙なタイミングで合流できたみたいだね♪」
「へっ、相変わらず狙ったかのようなタイミングで現れる野郎だぜ。」
「でも今回は冗談抜きで助かりましたよね……」
「ふふっ、その様子だとそれぞれの戦場での戦いを完全に中止させられたみたいね?」
親し気に声をかけたオリヴァルト皇子の様子にアガットは口元に笑みを浮かべ、アネラスと共に苦笑したシェラザードはオリヴァルト皇子達に確認した。
「はい。シュライデン伯爵との一騎打ちに勝利した後シュライデン伯爵が全軍に降伏を呼びかけてくれたお陰で、何とかそれぞれの戦場のノルティア領邦軍は降伏して、連合軍も降伏を受け入れて戦闘を中止してもらえました。」
「”シュライデン伯爵”って誰?」
「ノルティア領邦軍の総司令と武術教練を任されている”シュライデン流槍術”の”師範代”である人物だよ。それにしても幾ら”騎神”というアドバンテージがあったとはいえ、ノルティア領邦軍を束ねる存在であり、またその実力もノルティア領邦軍最強だったあのシュライデン伯爵を破るなんて、この短い間に相当成長されましたね、皇太子殿下。」
セドリックの話を聞いてある疑問を抱いたフィーの疑問に答えたアンゼリカは感心した様子でセドリックを見つめ
「アハハ……多分シュライデン伯爵は僕がエレボニア皇太子だった為、恐らく手加減してくれた事とテスタ=ロッサの性能のお陰だと思います。紙一重とはいえ、まだまだ剣が未熟な僕が”師範代”相手に普通は勝てませんよ。」
「例えそうだとしても、伯爵もそうだがあの戦いを見ていたノルティア領邦軍のセドリックの気持ちは十分に伝わっているよ。」
アンゼリカの言葉に対してセドリックが苦笑しながら答えるとオリヴァルト皇子は静かな笑みを浮かべて指摘した。
「ええ、殿下の仰る通り……ですね……ぐ……っ!」
「大丈夫ですか、ライサンダー卿!?」
トマスもオリヴァルト皇子の意見に頷きかけたが呻き声を上げた後思わずその場で地面に跪き、その様子に気づいたロジーヌは血相を変えてトマスに声をかけた。
「まさか……”聖痕”を使った疲労によるものか?確か”影の国”でもケビン神父が”聖痕”の使用による疲労によって、今のような状況に陥ったが……」
「あの時の彼は昏睡状態に陥って、しばらくの間戦線を離脱することになってしまったが……」
「こ、”昏睡状態”!?本当に大丈夫なんですか、トマス教官!」
トマスの様子を見て心当たりがあるミュラーとオリヴァルト皇子は真剣な表情でトマスに声をかけ、二人の会話を聞いたマキアスは不安そうな表情でトマスに訊ねた。
「アハハ~、想定以上に聖痕の力を使う羽目になってちょっと疲れただけですから、心配無用ですよ~。ほら、この通り。」
トマスは苦笑した後すぐに立ち上がった。
「どうやら、あの天使達は”強制転位”させたみたいだけど……どこに転位させたのかしら?もし強制転位させた場所が魔獣の巣窟だったり運悪く幻獣と遭遇することになって、それが原因で連中から一人でも”死者”が出たら、灰獅子隊(リィン達)が完全にアタシ達を”敵”と見る事もそうだけど最悪は連合にアタシ達まで”鉄血宰相”達と同じ扱いをされる―――――要するに連合が”本気”でアタシ達を”潰し”に来る事に発展する可能性も考えられるわよ。」
「そ、それは……」
「ああ、それは大丈夫ですよ。転位させた目標地点はユミル近郊の連合軍の駐屯地です。……とはいっても、あれ程の人数に加えて彼女達は咄嗟に全身に霊力を纏って抵抗しましたから、恐らく想定よりも近い距離に転位させられているでしょうね。せめてユミルへ向かう山道の中腹……いえ、麓に転位させられるとよいのですが……」
セリーヌの指摘にエマが不安そうな表情を浮かべている中、トマスは静かな表情で答えた。
「ま、ルシエル達の転位場所は気にはなるけど、あれ程の戦闘能力に加えて連携力もあるんだからそこらの魔獣もそうだけど幻獣にも遅れを取らないと思うよ。」
「そうだよね~。それよりもルシエル達のせいで、ログナー侯爵家に突入するのが遅れたから急いだ方がいいんじゃない?」
「ああ……!ここからはアクセル全開で行くよ、みんな!」
「おおっ!!」
フィーの指摘に同意した後に呟いたミリアムの指摘に頷いたアンゼリカは号令をかけ、仲間達と共にログナー侯爵家の屋敷へと急行し始めた。
~ユミル山道・麓・ケーブルカー乗り場~
一方その頃トマスによって強制転位させられたルシエル達はユミルに向かうケーブルカーの乗り場付近に現れた。
「ここは一体……」
「ふむ……これ程の人数の天使を、それも魔力による抵抗があったにも関わらず”強制転位”させる力が人間にあるなんて、主といい、この世界の人間はつくづく興味深い存在が多いね。」
「……くっ……わたくし達は一体どこに転位させられたというのですか……!?」
転位が終わるとユリーシャは周囲を見回し、レジーニアは興味ありげな表情を浮かべてトマスを思い浮かべ、ルシエルは悔しそうに唇をかみしめた後周囲を見回し始めた。
「!ルシエル、もしかしてあれは我が主の故郷と麓を行き来する乗り物がある場所ではありませんか?」
ケーブルカー乗り場を逸早く見つけたユリーシャはケーブルカー乗り場に視線を向けてルシエルに指摘した。
「”温泉郷ユミル行きケーブルカー乗り場・麓”…………どうやら、わたくし達はユミルがある山の麓まで転位させられたみたいですわね……恐らく今からルーレに向かった所で、リィン少将達への加勢は間に合わず、決着はついているでしょうね。……………総員、先程の戦闘によるダメージの回復に務めなさい。」
「はいっ、ルシエル様!!」
ケーブルカー乗り場の近くに立てられてある看板の文字を読んで自分達の現在地を把握したルシエルは疲れた表情で溜息を吐いた後、天使達に回復の指示を出した。
「わたくしは今からレン皇女に状況を報告しますので、ユリーシャは念話でリィン少将に状況を報告してください。」
「わかりました。」
通信機を取り出したルシエルはユリーシャに指示をし、指示をされたユリーシャはリィンと念話をする為にその場で集中を始めた。
「それとレジーニア。貴女はベアトリースに今から言う事を念話で伝えてください。」
「ベアトリースに?わかった。何を伝えればいいんだい?」
「それは―――――」
ベアトリースへの伝言というルシエルの意外な指示に目を丸くしたレジーニアはルシエルに続きを促し、ルシエルはベアトリースへの伝言をレジーニアに伝え始めた。
~スピナ間道~
「―――わかった、すぐに向かう。おい、私は今からやる事ができた為、この場から離脱する。お前達はこのまま、他の部隊と共に戦後処理を手伝っておけ。」
レジーニアからの念話を受け取ったベアトリースは近くにいた飛天魔に指示を出し
「それは構わないのですが……ベアトリース様は今からどちらに?」
「ふっ……天使達を出し抜いたリィン様の学友達の相手だ。」
飛天魔の疑問に不敵な笑みを浮かべて答えたベアトリースはルーレへと飛び去った。
~レヴォリューション・ブリッジ~
「ええ………ええ……わかったわ。レヴォリューションは現在、ザクセン山道の上空に滞空しているからそちらからもレヴォリューションが確認できると思うけど……そう、確認できたのなら紅き翼との戦闘によるダメージの回復後、そのままレヴォリューションに帰還してちょうだい。ちなみに先に言っておくけど、紅き翼に出し抜かれた事に関して気を落とす必要はないわよ。そちらの事も含めてレン達にとっても色々と想定外な出来事続きだったし、例え紅き翼の目論見通りになったとしても、”ルーレ侵攻作戦”の”最優先目標であるルーレ占領の成功”は変わらないのだから、メンフィルは当然としてクロスベルもルシエルお姉さんに責任を追及するような事は絶対にしないわ。……ええ、それじゃあまた後で。」
同じ頃、レンはルシエルと通信をして、ルシエル達の今後の行動を指示した後ルシエルにフォローの言葉をかけて通信を終えた。
(今頃紅き翼のみんなはルシエルお姉さん達を出し抜けたことに喜んでいるでしょうけど……レン達からすれば、守護騎士第二位にして星杯騎士団副長――――”匣使い”が所持していると思われる古代遺物の能力を知る事ができた上、”匣使い”の動きを封じる”口実”ができたなんて”考えが甘い”紅き翼のみんなは想像もしていないでしょうね。)
通信を終えたレンはアリサ達を思い浮かべて意味ありげな笑みを浮かべていた。
~ログナー侯爵邸~
「……わかった。恐らく今から向かっても間に合わないからユリーシャとレジーニアは今回の作戦が終わるまでそのままルシエルの指示に従って行動してくれ。」
ログナー侯爵家の屋敷内で戦闘が繰り広げられている中、ユリーシャからの念話を受け取ったリィンは一端戦闘の指揮をアメリアとフランツに任せてセレーネ達と共に前線から退いて物陰でユリーシャとの念話をしていた。
「お兄様……もしかしてアリサさん達はルシエルさん達を退ける事ができたんですか?」
リィンがユリーシャとの念話を終えるとセレーネがリィンに訊ねた。
「ああ。郊外のそれぞれの戦場の戦闘を完全に中止させた殿下達による不意打ちを受けた後、トマス教官の”守護騎士”としての力でユミルへと向かう麓のケーブルカー乗り場まで強制転位させられたそうだ。」
「え……という事はセドリックがシュライデン伯爵との一騎打ちに勝ったんですか……!?」
「ハハ……幾ら騎神のアドバンテージがあったとはいえ、”師範代”相手に一人で勝利するなんて、僕も油断したらすぐに追い抜かれるかもしれないな……」
リィンの答えを聞いたアルフィンは信じられない表情で、クルトは苦笑しながらそれぞれセドリックを思い浮かべ
「そうなると彼らがログナー侯爵の逮捕の為にこの場に乱入してくるのも時間の問題でしょうね。」
「そうですわね。ログナー侯の討伐を成功させる為にも殿下達にログナー侯爵を討つ事を邪魔されない為に私達の内の何人かを紅き翼への”足止め”に当てる必要があるのでは?」
「ミルディーヌ、それは………」
「…………………」
ステラは静かな表情で呟き、意味ありげな笑みを浮かべたミュゼの提案を聞いたエリスは辛そうな表情で目を伏せて考え込んでいるリィンに視線を向けた。するとその時デュバリィ達”鉄機隊”の面々とオリエは互いの顔を見合わせて頷いた後デュバリィが代表してリィンにある事を申し出た。
「―――でしたらその役目、私達”鉄機隊”が引き受けますわ。」
「デュバリィさん……本当にいいのか?」
デュバリィの申し出を聞いたリィンは複雑そうな表情で確認した。
「ええ。貴方も知っての通り私は元々内戦の時から彼らとは敵対していたのですから、彼らと刃を交える事にも慣れていますし、彼らにも私達を邪魔するのならば正々堂々とした勝負で叩き潰すと宣言しましたので。」
「ふっ、デュバリィと何度も刃を交え、あの”劫焔”に”本気”を出させた程の”Ⅶ組”の実力には我々も興味があり、機会があれば刃を交えたいと思っていたから、我々にとってもちょうどいい機会というものだ。」
「そこに加えて”リベールの異変”で”教授”達とやりあった放蕩皇子やその懐刀、そしてリベールの遊撃士達……相手にとって不足はないわ。」
「私も例え相手が殿下達であろうと、今回の戦争に関しては皇女殿下の為、そして皇太子殿下奪還の恩を返す為にも皇女殿下側として刃を振るう事を決めていますので、私にも遠慮する必要はありません。」
「母上……」
リィンの問いかけにデュバリィ達がそれぞれ答えた後に答えたオリエの答えを聞いたクルトは複雑そうな表情を浮かべた。
「―――兄様、私も”鉄機隊”の方々と共に紅き翼を阻みたいと思っていますので、私にも迎撃の許可を。」
「な―――」
「ね、姉様……!?何故、姉様も紅き翼の皆さんを阻みたいと思っているのでしょうか……?」
するとその時エリゼが申し出、エリゼの申し出を聞いたリィンは絶句し、エリスは困惑の表情で訊ねた。
「紅き翼―――――いえ、Ⅶ組の皆さんもそうだけどオリヴァルト殿下にはこの戦争の件で個人的に言いたい事があったから、それを伝えるちょうどいい機会でもあるからよ。」
「え……エリゼお姉様がアリサさん達やオリヴァルト殿下に対して”個人的に言いたい事”、ですか?」
「ふふ、しかも”今回の戦争に関して言いたいと思った事”なのですから、内容は間違いなく殿下達にとって耳が痛い、もしくは姫様の時のようなリィン少将達―――――”シュバルツァー家”に対して改めて罪悪感を抱かせるような厳しい内容なのでしょうね。」
「エリゼさん………」
エリゼの答えを聞いたセレーネが戸惑っている中、意味ありげな笑みを浮かべたミュゼの推測を聞いたアルフィンは複雑そうな表情でエリゼを見つめ
「……………………―――――わかった。ただし、無茶だけはするなよ?――――――アルティナ、エリゼのサポートを頼む。」
「了解しました。」
一方リィンは少しの間目を伏せて考え込んだ後やがてエリゼの申し出も受けることを決めてアルティナに声をかけ、声をかけられたアルティナは頷いた。そして鉄機隊の面々とオリエとエリゼ、アルティナは紅き翼への対処の為に戦線から離脱した。
~ルーレ市内~
「アハハッ!援軍の不意打ちがあったとはいえ、用兵術もエル姉に引けを取らないルシエルが率いる天使部隊の猛攻に耐えた上出し抜くなんてやるじゃないか!」
アリサ達がログナー侯爵邸へと急行していると突如女性の声が聞こえ、声を聞いたアリサ達は立ち止まって周囲を警戒し
「こ、今度は誰……!?」
「この声は確か………」
「!あそこよ……!」
仲間達と共に周囲を警戒しているエリオットは不安そうな表情を浮かべ、声に聞き覚えがあるガイウスが真剣な表情を浮かべたその時建物の屋根で自分達を見下ろしているパティルナを見つけたサラが声を上げたその時、パティルナは跳躍してアリサ達の前に着地してアリサ達と対峙した。
「あ、貴女は確か”六銃士”の………!」
「”暴風の戦姫”パティルナ・シンク……!」
パティルナと対峙したマキアスは驚きの表情で声を上げ、フィーは警戒の表情でパティルナを睨んだ。
「ど、どうしてパティルナ将軍がこんな所に……確か貴女はザクセン山道から進軍するクロスベル帝国軍を指揮しているはずなのに……!」
「あたしも最初はそのつもりだったけどさ。あんた達が戦闘を中断させた上ノルティア領邦軍の連中を降伏させてくれたおかげで暇になったから、ルシエル達があんた達に出し抜かれた際の援軍としてルーレに潜入してあんた達が来るのを待っていたのさ。」
「ひ、”暇になったから”って……」
「貴様は”将軍”なのだから、軍を率いる立場として降伏したノルティア領邦軍への対処の為にクロスベル帝国軍を指揮しなければならない立場だろうが!?」
信じられない表情をしているトワの疑問に答えたパティルナの説明を聞いた仲間達がそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アリサはジト目になり、ユーシスは呆れた表情で指摘した。
「その点は大丈夫だよ。エル姉―――――エルミナ・エクスがいるからね。――――――エル姉の事だから後であたしの独断行動と命令違反に関して物凄く怒った上での説教をあたしにするだろうね~。まあ、それであんた達とやり合えるんだったら、あたしにとっては問題ないよ♪」
「うわ~……情報局の情報収集で”暴風の戦姫”は”血染め”みたいなタイプだって分析されていたけど、それ以上の”戦闘バカ”みたいだね~。」
「フウ……要するにヴァルターと同じ”戦いに喜びを見出すタイプ”ね……」
「チッ、戦闘民族を軍の上層部にするとか、頭がイカレてんじゃねぇのか、クロスベル帝国軍は……!」
パティルナの答えを聞いたアリサ達が再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ミリアムとクロチルダは呆れた表情でパティルナを見つめ、アッシュは舌打ちをして厳しい表情でパティルナを睨んだ。
「やれやれ、仕方ありませんね。申し訳ありませんが貴女にもこの場から強制的に離脱してもらいます―――――」
そして溜息を吐いたトマスが再び聖痕を顕してキューブ状の古代遺物を構えたその時、上空からベアトリースがトマス目掛けて奇襲した。
「―――させん!!」
「なっ!?」
「ライサンダー卿!?」
ベアトリースの奇襲にトマスが驚いている中、ロジーヌは自身の得物であるボウガンでベアトリース目掛けて素早く矢を放ったがベアトリースは全て回避してトマス目掛けて連接剣を振るった!
「くっ……!咄嗟に展開したとはいえ、古代遺物による結界にこれ程の衝撃を与えるなんて……!」
「ほう、今のを防ぐとは天使達を退けただけあって、術者として中々の使い手のようだな。」
ベアトリースの奇襲攻撃を古代遺物を利用した結界で防いだトマスだったが、攻撃を防いだ際に凄まじい衝撃が襲ってきた為思わず顔を顰め、攻撃を防がれたベアトリースは一旦上空に戻った後感心した様子でトマスを見つめた、
「貴女は一体……先程の天使達とは違うようですが……」
「六枚の翼に連接剣……――――!まさかとは思うけど……貴女、”飛天魔”なのかしら?」
ベアトリースの登場にセドリックが戸惑っている中ベアトリースの正体を察したシェラザードは真剣な表情で訊ねた。
「いかにも。我が名はベアトリース。リィン隊の部隊長を任されている者の一人にして、リィン様に仕えているリィン様の家臣だ。」
「ハアッ!?リィンの”家臣”!?」
「ま、まさか貴女もレジーニアさんのように皇太子殿下救出の件以降のリィンさん達の活動でリィンさんと契約した異種族の方なんですか……!?」
ベアトリースの名乗りを聞いたアリサ達がそれぞれ血相を変えている中セリーヌは困惑の表情で声を上げ、察しがついたエマは信じられない表情で訊ねた。
「ああ。私は現在リィン様と契約している者達の中では”二番目の新顔”だ。ちなみにレジーニアは私よりも数日程早く主と出会い、契約したとの事と聞いているから、レジーニアは私に次ぐ”三番目の新顔”でもある。」
「つまりエリンの里で我らと別れてからのリィンはレジーニアと其方と出会い、其方達と新たに”契約”を結んだという事か……」
「それに彼女で”2番目の新顔”という事は当然、”1番目の新顔”も存在しているという事になるから、私達と別れてからのリィン君は彼女とレジーニア君を含めて三人の異種族と契約した事になるのだろうね。」
「あのリア充野郎の事だから、どうせ残りの一人も”女”なんだろうな。ったく、冗談抜きで何人増やすつもりなんだよ、あのシスコンリア充剣士は!?」
ベアトリースの説明を聞いたラウラとアンゼリカは真剣な表情で呟き、クロウは疲れた表情で溜息を吐いた後悔しそうな表情で声を上げた。
「そ、それよりも”飛天魔”って確か………」
「”英雄王”の右腕―――――大将軍さんと同じ種族だったな……」
「え、”英雄王の右腕”で、それも”大将軍”ってまさか―――――」
「………”空の覇者”ファーミシルス。」
一方ベアトリースの正体を知ってある事実に気づいて不安そうな表情で呟いたアネラスと目を細めてベアトリースを睨みながら呟いたアガットの言葉を聞いてある事を察したエリオットは信じられない表情を浮かべ、フィーは警戒の表情で呟いた。
「ああ…………”飛天魔”という種族は魔族の中でも相当高位の種族で、”貴族悪魔”とも呼ばれているという話を聞いた事がある。」
「確かリウイ陛下達の話によると、”飛天魔”は一人一人が一騎当千クラスの使い手である事から、常に自分を導く強き者を求めていて”飛天魔”と”主従契約”を結ぶためにはその”飛天魔”を降す必要があるとの事だが…………」
「………リィンは貴様と戦い、貴様を降して貴様がリィンを”主”と敬う程の”力”を示したというのか?」
オリヴァルト皇子とミュラーの説明を聞いたユーシスは真剣な表情でベアトリースに訊ねた。
「その通りだ。そして私はリィン様の邪魔をしようとするお前達の相手の為にここに来たという事だ―――――ルシエルの要請と忠告を受けてな。」
「そ、そんな……!?ライサンダー卿の強制転位でユミル近郊の山に転位させられたにも関わらず、一体どうやって貴女に連絡を……」
「転位場所が想定よりも短い距離―――――通信の範囲内だったか……もしくは彼女達の中にはベアトリースさんと同じリィン君と契約しているユリーシャさんとレジーニアさんがいましたから、同じ”主”を契約している者同士の念話によるものかもしれませんね……」
「そういえばエステルに力を貸している異種族達もそれぞれ”念話”とやらでお互いに連絡を取り合えるような話を聞いた事があるわね……」
ユーシスの疑問に答えたベアトリースの答えを聞いたロジーヌは信じられない表情で声を上げ、トマスは厳しい表情で推測し、サラは真剣な表情である事実を思い返した。
「さぁ~てと。無駄話はそのくらいにして、さっさと始めようじゃないか?」
「ルシエルからは天使達を纏めて強制転位させる程の術者である貴様を最優先に制圧するべきだと助言を受けている。よって、貴様は一番最初に制圧する。”飛天魔”であるこの私に”最優先目標”とされた事を光栄に思うがいい。」
「いや~、できればそんな物騒な名誉は遠慮願いたいんですがね~。」
「後少しで侯爵邸に辿り着けるのに……!」
「ハッ、さっきと違っては相手はたった二人だ。数の差で押すぞ―――――」
パティルナは不敵な笑みを浮かべ、ベアトリースは連接剣をトマスに向けて宣言し、ベアトリースの宣言に対してトマスは冷や汗をかいて苦笑しながら答え、アッシュが戦意を高めて仲間達に戦闘を促したその時
「―――いいえ、その必要はございませんわ。」
「え―――――」
「!!」
突如女性の声が聞こえ、声に聞き覚えがあるアリサが呆け、パティルナが血相を変えたその時パティルナとベアトリース、それぞれに鋼糸が放たれ、放たれた鋼糸に対してベアトリースは連接剣を振るって払い落し、パティルナは自身の得物である投刃でその場で回転斬りを放って襲い掛かる鋼糸を切り裂いた。するとその時突如シャロンがパティルナの背後に現れ――――――
「ハッ!」
「っとぉ!」
そのままダガーでパティルナ目掛けて背後からの奇襲を行ったがパティルナは間一髪のタイミングで側面に跳躍して回避した。
「あ、貴女は……!」
「シャロン―――――ッ!」
「”シャロン”………なるほど、お前がベルフェゴール達の話に出てきた”例の人物”か。」
シャロンの登場にマキアスは信じられない表情を浮かべ、アリサは真剣な表情で声を上げ、シャロンの名を耳にしたベアトリースは真剣な表情でシャロンに視線を向けた。
「アハハッ!あたしの睨んだ通り、そこのラインフォルトの娘の故郷を落とす作戦でそいつらが関わる事もそうだけど、そいつらを助ける為にアンタも姿を現すとは思っていたけど……以前の黒の工房の本拠地でやり合った時の暗殺者としての格好じゃなくて、メイドの格好―――――”Ⅶ組の味方だった時の格好”で現れたって事は”本気”のアンタを見せてくれるんだろう!?」
「フフ、”本気”を出した所で、”暗殺者としての技能”が”本領”のわたくし如きがレーヴェ様のように戦士として天性の才能をお持ちの将軍閣下には敵わないでしょうが……―――――”アリサお嬢様”達の”目的”を達成させる為の”時間稼ぎ”程度は可能ですわ。」
「ぁ―――――」
「ハアッ!?って事はもしかしてアンタ……!」
「シャロンさんは”ラインフォルト家のメイド”に戻ってアリサさんや私達を助ける為に私達の援軍に来てくれたのですか……!?」
不敵な笑みを浮かべたパティルナの指摘に対して苦笑しながら答えたシャロンは決意の表情を浮かべて答え、シャロンの答えを聞いてシャロンが自分達の所に戻ってきた事を察した仲間達がそれぞれ血相を変えている中かつての呼び方で呼ばれたアリサは思わず呆け、シャロンの説明を聞いたサラは困惑の表情を浮かべて、エマは信じられない表情を浮かべてシャロンに訊ねた。
「会長と”ラインフォルト家のメイドとしての再契約”はしていませんから、今のわたくしは”結社の執行者”でもなく、”ラインフォルト家のメイド”でもない”ただのシャロン”ですわ。」
「だったら……だったら、”私専属のメイドとして私と契約してもらうわ!”父様の件で母様が貴女と契約する”権利”があったように、父様の娘の私にその”権利”がないとは言わせないわよ!?」
「アリサ君………」
エマの問いかけに対してシャロンが静かな表情で答えるとアリサが決意の表情を浮かべて声を上げた後シャロンに近づいてシャロンを見つめて問いかけ、その様子をアンゼリカは静かな笑みを浮かべて見守っていた。
「お嬢……様……」
アリサの言葉を聞いたシャロンは呆け
「……色々と聞きたい事はあるけど、今はアンゼリカさん達を先に行かせるために私も残って戦うから、私を手伝って……!」
「!かしこまりました……!」
自分と肩を並べて導力弓に矢を番えてパティルナを睨んだアリサの言葉を聞くと我に返り、アリサの言葉に力強く頷いて自身のダガーと鋼糸を構えた。するとその様子を見守っていたガイウスとエリオットは互いの視線を交わして頷いた後前に出てアリサ達と共にパティルナと対峙した。
「―――ならば、オレも残ろう。パティルナさんからの一方的な約束だったとはいえ、トールズで学び、内戦で得た経験……その全てをパティルナさんにぶつける事はオレにとってもお世話になった人に今のオレの力を知ってもらうちょうどいい機会でもある。」
「えへへ、相手は相当強いんだから当然回復もそうだけどアーツ役も必要だよね?だったら、僕も残るよ。」
「ガイウス……エリオット……ありがとう……!」
ガイウスとエリオットの申し出を聞いたアリサは明るい表情を浮かべて感謝の言葉を口にした。するとその時トマスとロジーヌも互いの視線を交わして頷いた後申し出た。
「でしたら、私も残りましょう。どうやらベアトリースさんは私の制圧を最優先にしているようですから、私がここに残れば彼女の足止めもできるでしょう。」
「ライサンダー卿が残るのでしたら”従騎士”の私もここに残ります。皆さんはどうか先を急いでください……!」
「承知……!」
「この場はアリサちゃん達に任せてわたし達は先に急ぐよ!」
「おおっ!!」
トマスとロジーヌの言葉にラウラは頷き、トワは号令をかけて仲間達と共にログナー侯爵家に向かい始め
「そう簡単に先に行かせると思っているのかい!?」
「リィン様達の邪魔はさせぬぞ!」
それを見たパティルナとベアトリースはそれぞれトワ達に攻撃を仕掛けようとしたがアリサ達はそれぞれに牽制攻撃を行ってトワ達への攻撃を中断させ、トワ達はアリサ達が牽制攻撃を行っている間にその場から走り去った。
「あーあ、あっさりと抜かれるなんて、あたしもまだまだだな~。」
「そう言っている割には悔しがっているようには全然見えないんですけど……」
「むしろ今から僕達の相手をするのが楽しみみたいな表情をしていますよね……?」
遠くなっていくトワ達の姿に視線を向けた後視線をアリサ達に戻したパティルナは不敵な笑みを浮かべ、パティルナの表情を見たアリサはジト目で、エリオットは表情を引き攣らせながら指摘した。
「まあね~。今回の”戦場”でのあたしの昂っていた戦意はあんた達のせいで台無しになったんだから、せめてその分を補えるくらいは楽しませなよ!」
「フフ……将軍閣下を満足させることができるかどうかはわかりませんが、お嬢様達の信頼を裏切り、刃を向けていたこんなわたくしに今もなお”愛”を与えてくれるわたくしの大切な方々を傷つけるつもりならば―――」
二人の言葉に対して答えたパティルナの答えに苦笑したシャロンは静かな表情で呟いた後全身に膨大な殺気を纏い
「”容赦なく、一片の慈悲もなく”断ち切らせていただきましょう。」
自身の得物をパティルナに向けて宣言した。
「シャロン……」
「いいね、いいねぇ!黒の工房でやりあった時とは比べ物にならないくらいやる気に溢れているじゃないか!ガイウスも遠慮なくあたしにあんたの”全て”をぶつけなよ!」
「ああ……!オレの全身全霊をもって貴女に挑ませてもらう、パティルナさん……!」
シャロンの宣言にアリサが嬉しそうな表情を浮かべている中パティルナは不敵な笑みを浮かべて全身に闘気を纏い、ガイウスはパティルナの言葉に頷いた後アリサ達と共にパティルナとの戦闘を開始した。
「人間がたった二人で”飛天魔”であるこの私を抑えられると判断するとは呆れるほどの命知らずな者達だ。」
「……確かに貴女の言う通り、人間が持つ力は弱いものです。――――――ですが、今までの話の流れからすると貴女はその”人間”であるリィン君に屈したのですから、人間は時には信じられない力を発揮することも理解しているはずです。」
一方トマスは呆れた表情で自分達を見下ろすベアトリースの宣言に対して静かな表情で答えた後真剣な表情を浮かべて指摘し
「貴様如きがリィン様を語るな!”飛天魔”であるこの私に認めさせるほどの”力”を示したリィン様を有象無象の人間達と一緒にするとは不愉快だ。私を不愉快にさせた上我が主たるリィン様を愚弄したその罪……その身をもって思い知らせてやろう……!」
「やれやれ……怒らせてしまいましたか。戦闘能力は最低でも”執行者”の中でも上位クラス――――――”剣帝”や”鉄機隊”クラスと見積もった方がいいでしょうね。ロジーヌ君もあのような強大な相手とやり合わせる状況に巻き込んでしまってすみません。」
「いえ、ライサンダー卿をサポートするのが”従騎士”たる私の役目ですから、どうかお気になさらないでください。空の女神よ……どうか我らに勝利のご加護を……!」
トマスの指摘に対して怒りの表情で反論したベアトリースは全身に凄まじい闘気を纏ってトマスを睨み、それを見たトマスは背中に”聖痕”を顕現させてロジーヌに声をかけ、声をかけられたロジーヌは謙遜した様子で答えてその場で祈りの言葉を口にした後トマスと共にベアトリースとの戦闘を開始した!
~ログナー侯爵邸・エントランス~
パティルナとベアトリースの相手をアリサ達に任せたトワ達はようやくログナー侯爵家の屋敷に到着した。
「フウ……ようやく着いたわね。」
「ええ。だけどのこの惨状から察するに、リィン君達の刃がログナー侯に届くのも時間の問題でしょうね。」
「あ………」
「……予想はしていたが、侯爵閣下を守る為に兵達は必死にここを守っていたのだろうな。」
「……………すまない、みんな…………」
「アンちゃん……」
エントランスに入ったセリーヌは安堵の溜息を吐き、エントランスの様々な場所に倒れている領邦軍の遺体に気づいて静かな表情で呟いたクロチルダの言葉を聞いたエマは不安そうな表情を浮かべ、ラウラは重々しい様子を纏って呟き、その場で黙祷して謝罪の言葉を口にしたアンゼリカの様子をトワは辛そうな表情で見守っていた。
「チッ、領邦軍の遺体しか見当たらねぇって事はシュバルツァーの兵達は消耗してねぇみたいだな。」
「……オリヴァルト殿下よりメンフィル軍が精強な理由の一つは兵の一人一人が白兵戦に優れているという話だったが……まさかこれ程とはな。」
「リィンさん達は今、この屋敷のどの辺りにいるんでしょうね……?」
領邦軍の遺体しか見当たらない事に気づいたアッシュは舌打ちをして厳しい表情で呟き、ユーシスは重々しい様子を纏って呟き、エマは不安そうな表情で呟き
「……恐らく中庭の辺りだろう。あそこなら予め障害物を配置して屋敷に突入してくるリィン君達を迎え撃つ事が最終防衛ラインになるだろうからね。」
エマの疑問に対してアンゼリカが自身の推測を答えた。
「それじゃあ、移動の最中に決めたようにあたしとサラはハイデル卿の保護の為にここからは別行動にさせてもらうわ。」
「確かハイデル卿は内戦での件であたし達が拘束した後屋敷の離れにある小屋に軟禁されているのだったわね?」
「ええ。小屋とは言っても一軒家の大きさですからすぐにわかるかと。ちなみに屋敷の離れに通じているのはあちらの通路です。」
シェラザードが別行動の申し出を口にした後に訊ねたサラの疑問に頷いたアンゼリカは二人の目的地へと続く通路に視線を向け
「わかったわ。――――――急ぐわよ、サラ!」
「ええ!生徒達の事は任せたわよ、アガット、アネラス!」
「へっ、そっちもしくじるんじゃねぇぞ!」
「気を付けてください、両先輩!!」
アガットとアネラスがシェラザードとサラに応援の言葉をかけると二人は別行動を開始した。
「さてと……それじゃあ、邪魔が入らない内に俺達もとっとと先に急ぐぜ―――――」
そしてクロウが仲間達に先に進むように促したその時
「あのような”小悪党”の為だけに貴方達にとっては貴重な戦力の”紫電”と”嵐の銀閃”を割くとは、貴方達のその”甘い”部分に関しては相変わらずのようですわね。」
女性の声が聞こえた後、声の主であるデュバリィを筆頭に鉄機隊の面々とオリエ、エリゼ、アルティナがトワ達の進路の通路から姿を現してトワ達の前に立ちはだかった―――――!
後書き
今回の話のシャロン登場時のBGMは創の軌跡の”The Road to All-Out War”か空シリーズの”The Fate Of The Fairies”のどちらかだと思ってください♪
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