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戦国異伝供書

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第百十六話 摺上原の合戦その十

「果たしてな」
「起こるかどうか」
「そのことはわからぬ」
「芦名殿が戦の前にどう動くか」
「このことがですな」
「わからぬ、しかし兵は進める」
 黒川城にというのだ。
「そうするぞ」
「わかり申した」
「それではですな」
「これから動きますな」
「その様にしますな」
「城に兵を進めるぞ」
 こう言ってだった。
 政宗はこの日は兵達に酒を飲ませ勝ちを祝わせてそうしてだった。
 よく休ませてそれからだった、軍勢を今度は黒川城に進ませた、その間芦名家の情報を聞くとであった。
「ふむ、芦名家の兵はか」
「次々に逃げてです」
「主な国人達も離れています」
「黒川城にも兵がなく」
「日増しに弱まっておるとか」
「ではな」
 それではとだ、政宗はこの時もだった。
 笑った、そうして言うのだった。
「わしの読み通りにな」
「黒川城はですか」
「戦なくですか」
「それで、ですか」
「手に入る」
 そうなるというのだ。
「これよりな」
「そうですか、では」
「まずはあの城に向かい」
「そしてですか」
「手に入れますか」
「例え戦になってもな」
 城攻めを行ってもというのだ。
「それでもだだ」
「勝てますか」
「士気が落ち数が減った兵達相手なら」
「それなら」
「何ということはない」
 それこそというのだ。
「確実に攻め落とす、だが」
「だが?」
「だがといいますと」
「まだ何かありますか」
「油断は禁物じゃ」 
 このことは鋭い目で述べた。
「戦では特にな」
「ここでそれを言われますか」
「油断してはならぬ」
「そのことを」
「両上杉はどうなった」
 関東を主導する立場だった彼等はというのだ。
「一体」
「河越の戦ですな」
「あの時ですな」
「関東の諸港を糾合し城を囲みましたが」
「八万もの大軍で」
「対する北条家の軍勢は八千であったが」
 兵力差で圧倒的な開きがあってというのだ。
「数に驕りじゃ」
「そしてでしたな」
「北条家の謀を見抜けず」
「そして油断しきり」
「その時にでしたな」
「夜襲を受けてじゃ」
 そしてというのだ。
「散々に敗れたな」
「それで扇谷上杉家は滅び」
「山内上杉家もすっかり力を失いました」
「そして他の関東の諸港も敗れてです」
「北条家が関東の覇者となりました」
「この様に油断するとじゃ」
 まさにというのだ。 
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