王になれない男
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第二章
「アイエテス王の子アプシュルトス殿は」
「別にいいではないか」
「彼は何の関係もない」
「連れて行くことはない」
「人質だ」
イアソンは仲間達に強い声で答えた、中性的なお顔立ちに見事なカールのある金髪に引き締まりかつ細い身体である。確かに外見も美しい。
だがその美しい顔立ちに酷薄なものを浮かばせて彼は言った。
「アイエテス王に対するな」
「王が追手を差し向ける」
「だからか」
「人質か」
「人質として連れて行くのか」
「何かあった時に備えてな、しかもアイエテス王は我々が黄金の羊を手に入れることに全く協力しないばかりか邪魔ばかりした」
今度は恨みを込めて言った。
「その仕返しだ」
「そんなことはどうでもいいではないか」
オルフェウスはこう注意した。
「別に」
「過ぎたことはか」
「我々は黄金の羊の毛皮を手に入れたのだ」
目的は達した、だからだというのだ。
「それならだ」
「恨みは忘れろか」
「そんなことはどうでもいいだろう」
「私は恨みは忘れない」
イアソンは仲間に言い返した。
「だからだ」
「彼を連れて行ってか」
「人質をして使いだ」
「王への恨みを晴らすか」
「邪魔をしてくれた王の子供を攫ってな」
そうして仕返しをすると言ってだった。
イアソンはアルゴ号に幼子を人質として連れて行って出港した、アイエテス王は自ら船団を率いて追ってきたが。
船に乗り込んでいたメディアは一計を案じてだった、何と。
自分の弟を父である王の目の前で縊り殺した、しかも。
苦しんで死にまだ温かいその骸をすぐに切り刻んで海の上に放り捨てた、このことにそれを見た誰もが驚愕した。
「何と・・・・・・」
「自分の弟を殺すか」
「それもその亡骸を切り刻んで海に捨てるか」
「恐ろしい女だ」
「人とは思えん」
王は絶叫しすぐに我が子のばらばらになって海の上に漂うそれを兵達に集める様に命じた、自身も海に入り集めた。
イアソンはそれを見て平然として仲間達に言った。
「今のうちだ、行くぞ」
「待て、行くのか」
「今何があったか見ただろう」
「このまま行くのか」
「小さな子供が殺されたのだぞ」
「それも亡骸をばらばらにされたのだぞ」
「そうだな、憎い相手の子がな」
イアソンはここで平然としていた。
「そうなったな」
「そういう問題か」
「あの子に何の罪があった」
「しかも姉が実の弟を殺したのだぞ」
「それが許されるのか」
「このままでいいのか」
「私達を邪魔してくれたのだ」
イアソンの言葉は変わらなかった、表情も。
「だから自業自得だ、それよりも時が出来た」
「自業自得か」
「我等を邪魔してきたからか」
「それは言えるかも知れないが」
「子供に罪があるのか」
「幼子だというのに」
「しかも実の弟をあそこまで無残に殺していいのか」
英雄達の多くはこう思った、だが。
確かに今のうちに逃げられることは確かで彼等は帆を拡げオールを漕いで進んだ、英雄達の漕ぐ力は凄く船は一気に進んだ。
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