遊戯王GX-音速の機械戦士-
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―光からの洗礼―
少し前に訪れたプロデュエリスト、エド・フェニックスの来襲は、十代の突然の乱入によりエドVS俺&十代となったことで、うやむやとなって終わることとなった。
勝者としては、うやむやとなったことが少し納得出来ないところではあるが、エドがテレビで発信したとは言っても、出来るだけ人目につかないようにした非公式のデュエルであるし、二人がかりでようやく接戦……しかも、終始エドが優位に立っていたようなデュエルのことはうやむやにされても構わなかった。
十代は、もともとそんなことをこだわる性格でもなし、まったく気にせずにオシリス・レッド寮へと帰っていき、再開を果たした……というとなんだか大仰だが……弟分たる剣山と翔に泣きつかれたようだった。
あとは、俺とエドがデュエルする旨の宣言を出したプロリーグのデュエルでの敗者、カイザー亮こと丸藤亮のことであるが……まあその、なんだ。
まったく心配する気が失せるほどに大丈夫であり、少しは敗北について考えろと言いたくなるほどだった……確かに、今から自らを鍛えて再戦しようとしているのだから、きちんと考えていると言えなくもないが。
それからは剣山と翔、どちらが十代の真の弟分か決めるデュエルだの、ついにオシリス・レッド寮を取り壊そうとしたナポレオン教頭と、それに異を唱えてその計画を阻止したクロノス教諭のデュエルだの、オベリスク・ブルーへと転校生が来るだのという、俺がつい先日まで気にしていた嫌な予感が気のせいのような、平和な学校生活が流れていた。
だが、俺はここで二つ見落としていたことがあった。
一つはとある夜の日から自らの制服を純白に染めあげ、やたらと『白』や『光』に固執するようになった同期、万丈目準に後輩の五階堂宝山の二人の人物のこと。
誰が見ても明らかに様子がおかしいのだが、彼らを問い詰めても要領を得ない会話しかしてこないために、いつしか学園の生徒は彼らを放置していた。
そして二つ目……これは気づけという方が無茶な話であるが、オベリスク・ブルーへと来る転校生のことだ。
一見して何の変哲もないことだと思われるが、このデュエル・アカデミア本校に途中入学する場合、原則としてオシリス・レッドへと入寮するという義務があるために、『オベリスク・ブルーへの転校生』というだけでも異端中の異端なのだ。
転校生でない自分たちには関係がない規則のため、知らない人物も多いが、俺には早乙女レイという前例がいたために、知っていたはずなのに見逃してしまっていた。
つまりその転校生とは、デュエル・アカデミア本校の規則を破りながら転校出来る者、もしくは規則を無視出来るように働きかけることが出来るような人物が転校してくるということだ。
俺が見逃した二つの違和感が、今、デュエル・アカデミアのオベリスク・ブルーを襲い始めた。
オベリスク・ブルー寮内のデュエル場、そこに立っているのは天上院明日香と万丈目準の二人の人物。
今回の事件の発端は、万丈目がいきなりオベリスク・ブルー寮へと入って来たかと思えば、いきなり『光の結社』とやらに勧誘を始めたのがそもそもの始まりだった。
ほとんどのオベリスク・ブルー生徒は相手にしなかったようだったが、取巻を始めとした一部エリートが、万丈目をオベリスク・ブルー寮から追いだそうとデュエルを挑み、負けた者は……万丈目と同じように制服を純白に染め始め、万丈目の言う『光の結社』に入団するという不可思議なこととなった。
それと同時期に、オベリスク・ブルー寮内で五階堂も行動を開始しており、デュエル・アカデミア本校で五指に入ると言われる元・ノース校代表の万丈目と、デュエル・アカデミア中等部トップの五階堂というタッグはとても手ごわく、俺や三沢、偶然遊びに来ていた明日香が状況を把握した頃には、ねずみ算式に『光の結社』信者は、オベリスク・ブルー寮内を埋め尽くしていた。
そして万丈目の次なる標的は明日香であり、明日香が負ければ明日香は光の結社に入り、明日香が勝てばこの騒ぎを終わらせるとしてデュエルを挑み、明日香は「負けても制服が白くなるだけ」とそれを承諾し、俺と三沢、五階堂が見守る中、万丈目と明日香のデュエルが始まった。
『デュエル!』
万丈目LP4000
明日香LP4000
「俺様のターンから、ドロー!」
万丈目の先攻からデュエルは始まり、デュエルディスクにモンスターをセットした。
「俺は《仮面竜》を守備表示で召喚!」
仮面竜
ATK1400
DEF1100
仮面を被ったような姿の赤い竜、万丈目の《アームド・ドラゴン》主軸のデッキ時の影の功労者たるリクルーターが守備表示で現れる。
これで今回の万丈目のデッキは、【アームド・ドラゴン】だと分かる。
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
「私のターン、ドロー!」
後攻となった明日香は、相変わらず強気にカードを引く。
あいつなりの、良いカードを引き寄せる為の手段なのだろうか。
「私は《サイバー・チュチュ》を召喚!」
サイバー・チュチュ
ATK1000
DEF400
短いスカート姿のバレリーナ、明日香愛用のサイバー・ガールが召喚される。
仮面竜より攻撃は低いが、その時こそがサイバー・チュチュの効果の独壇場である。
「バトル! サイバー・チュチュは、相手モンスター全ての攻撃力より低い時にダイレクトアタック出来るわ! ヌーベル・ポアント!」
仮面竜をすり抜けてのサイバー・チュチュの蹴りに、万丈目のライフは1000ポイントも削られる。若干無理をしてでも、相手のライフを削りに行くのは明日香らしい。
万丈目LP4000→3000
「カードを一枚伏せ、ターンエンド」
「まだまだだ天上院くん! 俺のターン、ドロー!」
サイバー・チュチュがダイレクトアタックをしたことにより、リクルーターである仮面竜は戦闘破壊されなかった。
よって、アームド・ドラゴンは展開出来なかったが……
「仮面竜をリリースし、《アームド・ドラゴンLV5》をアドバンス召喚する!」
アームド・ドラゴンLV5
ATK2400
DEF1700
特殊召喚方法が豊富と言えど、アドバンス召喚を出来ないわけではないアームド・ドラゴンの基本形たるLV5。
「アームド・ドラゴンLV5の効果を発動! 手札から《アームド・ドラゴンLV3》を捨て、それより攻撃力が低いサイバー・チュチュを破壊する! デストロイド・パイル!」
「チェーンして速攻魔法《プリマの光》を発動するわ。サイバー・チュチュをリリースし、デッキから《サイバー・プリマ》を守備表示で特殊召喚!」
サイバー・プリマ
ATK2300
DEF1600
アームド・ドラゴンLV5が自らの身体から放ったパイルだが、明日香のリバースカードからの光を浴びたサイバー・チュチュが進化し、サイバー・プリマとなったことでパイルを弾いた。
アームド・ドラゴンLV5の効果は、手札から捨てたモンスターより攻撃力が低いモンスターしか破壊出来ない。
「ならば、アームド・ドラゴンLV5で攻撃! アームド・バスター!」
二回目に放たれたパイルはサイバー・プリマには防げず、破壊されてしまうものの守備表示で特殊召喚したために明日香にダメージはない。
「サイバー・プリマの特殊召喚は予想外だったが、相手モンスターを戦闘破壊したことにより、アームド・ドラゴンLV5は進化する! 現れろ、《アームド・ドラゴンLV7》!」
アームド・ドラゴンLV7
ATK2800
DEF1000
アームド・ドラゴンLV5に鎧がついていき、より巨大で尖鋭的なデザインとなっていく……鎧がついたのに守備力が下がった理由は分からないが。
「俺はこれでターンエンド」
「私のターン、ドロー!」
万丈目のフィールドには、いきなりのアームド・ドラゴンLV7、生半可なモンスターでは効果で破壊されてしまうだけ……明日香はどうするか。
「私は《サイバー・プチ・エンジェル》を守備表示で召喚! 効果により《機械天使の儀式》を手札に加えるわ」
サイバー・プチ・エンジェル
ATK600
DEF900
天使族モンスター《プチテンシ》が機械化したかのようなサイバー・プチ・エンジェルにより、明日香の十八番である儀式魔法が手札に加えられる。
「行くわよ! 儀式魔法《機械天使の儀式》を発動し、手札の《エトワール・サイバー》とフィールドの《サイバー・プチ・エンジェル》を墓地に送り、《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」
サイバー・エンジェル-弁天-
ATK1800
DEF1500
《機械天使の儀式》で今回選ばれたのは、改造された和服のような服を着た明日香の儀式モンスターでのフェイバリットカード、サイバー・エンジェル-弁天-。
「サイバー・エンジェル-弁天-に《リチュアル・ウェポン》を装備し、バトル! アームド・ドラゴンLV7に攻撃よ、エンジェリック・ターン!」
リチュアル・ウェポンはレベル6の儀式モンスター限定とはいえ、上昇値はなんと破格の1500という数値。
もちろんアームド・ドラゴンLV7の攻撃力を遥かに超え、その手に持った二本の扇が美しく煌めいたかと思えば、アームド・ドラゴンLV7は切り裂かれていた。
万丈目LP3000→2500
「更に、サイバー・エンジェル-弁天-の効果発動! 相手モンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターの守備力分のダメージを与える!」
「うわあああっ!」
万丈目LP2500→1500
アームド・ドラゴンLV7が戦闘破壊されただけでなく、サイバー・エンジェル-弁天-の効果によって守備力分のバーンダメージまで受けたために、早くも万丈目のライフは初期ライフの半分以下となった。
「流石にやるな天上院くん……! だが、伏せてあった《リビングデッドの呼び声》を発動! 墓地から《アームド・ドラゴンLV3》を特殊召喚する!」
アームド・ドラゴンLV3
ATK1200
DEF900
明日香のターンのエンドフェイズでの、一番進化前たるアームド・ドラゴンLV3の特殊召喚によって、明日香の手札に《サイクロン》、またはそれに準ずるカードが無い限りは次の万丈目のターンに《アームド・ドラゴンLV5》の進化が決定する。
「……ターンエンド」
明日香は自らの手札を見つめた後に、苦々しげにエンド宣言を行った。
「俺のターン、ドロー!
……進化せよ、《アームド・ドラゴンLV5》!」
今度はデッキから特殊召喚され、再び万丈目のフィールドに特殊召喚されるアームド・ドラゴンLV5。
わざわざ攻撃力が劣るアームド・ドラゴンLV5を特殊召喚するということは、万丈目はこのターンでサイバー・エンジェル-弁天-を破壊出来るということだろうか……
「メインフェイズ、俺は《発掘作業》を発動し、一枚捨てて一枚ドロー! そして、捨てたカードは《おジャマジック》!」
俺のデッキにも入っている手札交換カード《発掘作業》により墓地に《おジャマジック》を送りつつ一枚のドローに成功する。
そして、《おジャマジック》は《リミッター・ブレイク》のような墓地に送られた時に効果を発揮するカード……!
「墓地に送られた《おジャマジック》の効果発動! おジャマ三兄弟をデッキから手札に加える!」
もはや万丈目の代名詞となりつつあるおジャマ三兄弟のカードたちではあるが、墓地にあった方が真価を発揮出来るカード群であり、手札に揃えても《融合》して《おジャマ・キング》や《おジャマ・ナイト》にしても、サイバー・エンジェル-弁天-には適わない。
『おいらたちが来たなら、大船に乗った気で「通常魔法《手札抹殺を発動! 手札を全て捨て、その枚数分ドローする!」あ~れ~……』
相変わらず俺は、精霊の声は聞こえても姿は見えず、だが……墓地に吸い込まれていく無残なおジャマ三兄弟はリアルに想像出来た……ともかくとして、これで万丈目はおジャマ三兄弟を墓地に落としつつ手札増強をしたわけだ。
「……よし、バトルだ! アームド・ドラゴンLV5でサイバー・エンジェル-弁天-を攻撃! アームド・バスター!」
「……迎撃しなさい、エンジェリック・ターン!」
攻撃力の劣る、アームド・ドラゴンLV5によるサイバー・エンジェル-弁天-への攻撃。
返り討ちにあうどころか、このまま戦闘破壊されればサイバー・エンジェル-弁天-の効果によって万丈目の敗北となる。
「速攻魔法《サイクロン》を発動! リチュアル・ウェポンを破壊する!」
当然ながら、万丈目ともあろうものがそんな自殺行為を行うはずがなく、竜巻がサイバー・エンジェル-弁天-に装備されていたリチュアル・ウェポンを吹き飛ばす。
これで、サイバー・エンジェル-弁天-の攻撃力はもともとの1800となり、アームド・ドラゴンLV5の2400には及ばずに破壊されてしまった。
明日香LP4000→3400
「アームド・ドラゴンLV5を再びアームド・ドラゴンLV7へと進化させ、ターンエンドだ!」
「私のターン、ドロー!
……《強欲な壺》を発動し、二枚ドロー!」
壺が現れて破壊されると共に、明日香はデッキからカードを二枚ドローする。
「更に《儀式の準備》を発動し、デッキからレベル6以下の《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を、墓地から《機械天使の儀式》を手札に加えるわ」
手札消費がやたら荒い儀式召喚だが、有効なサポートカードでそれを補うことも充分に可能である。
例えば今の《儀式の準備》は言わずもがなであり、デッキから手札に加えた《サイバー・エンジェル-韋駄天-》などは、ドローカードをサルベージすることで、間接的に儀式召喚をサポートしていると言える。
「魔法カード《フォトン・サンクチュアリ》を発動し、《フォトントークン》を二体特殊召喚……そして、《機械天使の儀式》を発動!」
フォトン・サンクチュアリは、攻撃力が高い二体のトークンを特殊召喚する効果ではあるが、守備表示で現れるうえに、光属性以外のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できず、シンクロ素材に出来ないという厳しい制約がある。
だが、シンクロ素材に出来なかろうが、儀式のリリース素材……それも、光属性の儀式モンスターならば何のデメリットも生じない。
「レベル4のフォトントークンを二体リリースし、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚!」
サイバー・エンジェル-荼吉尼-
ATK2700
DEF2400
サイバー・エンジェルシリーズの中で、最も攻撃力が高いシリーズの代表格、様々な武器を持った機械天使がフィールドに現れる。
そして、今の万丈目のフィールドに最適の効果を持っている……!
「サイバー・エンジェル-荼吉尼-が特殊召喚に成功した時、相手は自分のモンスターを一体破壊しなければならない!」
「くっ……俺は、アームド・ドラゴンLV7を破壊する……!」
一体選んで破壊と言っても、そもそも万丈目のフィールドにいるモンスターはアームド・ドラゴンLV7しかいない。
そのために、万丈目は否が応でもアームド・ドラゴンLV7を選択せざるを得ず、苦々しげにアームド・ドラゴンLV7を破壊対象に選択し、アームド・ドラゴンLV7はサイバー・エンジェル-荼吉尼-に切り裂かれることとなった。
「これで終わりよ! サイバー・エンジェル-荼吉尼-で、万丈目くんにダイレクトアタック!」
万丈目のフィールドにはモンスターどころかリバースカードもなく、フィールドにサイバー・エンジェル-荼吉尼-の攻撃を止められる方法は存在しない。
「俺は《速攻のかかし》を捨て、バトルフェイズを終了させてもらう!」
「なんですって!?」
だが、万丈目の手札に攻撃を防ぐ効果モンスターがあれば話は別だ。
【アームド・ドラゴン】の特性を鑑みれば、攻撃力0の《速攻のかかし》を投入する意味はないと思うが、相手はその【アームド・ドラゴン】に攻撃力0の【おジャマ】のギミックを入れている万丈目……パワーとテクニックの同居するデッキを使用するデュエリストだ。
……それに、あの《速攻のかかし》は、万丈目の兄によるデュエル・アカデミアの買収騒ぎの時に、俺が万丈目に借りパクならぬ貸しパクされたカード……すまない明日香……
「……ターンを終了するわ」
「俺のターン! ドロー!
《マジック・プランター》を発動! 永続罠である《リビングデッドの呼び声》を墓地に送り、二枚ドローする!」
効果によって蘇生した《アームド・ドラゴンLV3》を進化に使用したために、フィールドにそのまま残っていた《リビングデッドの呼び声》をドローソースとして有効活用し、万丈目は二枚ドローする。
「……魔法カード《おジャマンダラ》を発動! ライフを1000払い、来い クズども!」
万丈目LP1500→500
万丈目は若干発動したくなさそうにしたものの、それ以外に策はなかったのだろう、結局おジャマンダラの発動へと踏み切った。
ただの手札コストとして使われたおジャマ三兄弟が、再びフィールドへと舞い戻る。
『なんだよアニキ~やっぱりおいら達がひつよ』「《融合》を発動! おジャマ三兄弟を融合させる!」きゅ、究極合体~……』
……あれ、なんだろうこの既視感は……おジャマ三兄弟は出て来て即座に、万丈目が発動した融合によって生じた時空の穴に吸い込まれていった……だが、やがて巨大な影が時空の穴から現れた。
「クズどもの究極合体! 《おジャマ・キング》を守備表示で融合召喚!」
おジャマ・キング
ATK0
DEF3000
巨大な白い顔……としか言いようがない、おジャマ三兄弟の究極合体……らしい姿のおジャマ・キング。
そのステータスはおジャマ三兄弟を併せた数値であり、攻撃力は0なるも守備力は3000と、サイバー・エンジェル-荼吉尼-では突破出来ない数値となった。
「カードを二枚伏せ、ターンエンド」
「私のターン、ドロー!」
守りを固めた万丈目に対し、明日香は攻勢に出たいところであろうが……サイバー・エンジェル-荼吉尼-では、おジャマ・キングの守備力には適わず、肝心の明日香自身の手札も心もとない。
「私は《サイバー・プチ・エンジェル》を守備表示で召喚するわ。効果により、《機械天使の儀式》を手札に加える!」
結果として召喚されたのは、二体目の召喚となった《機械天使の儀式》専用サーチモンスターである、機械化プチテンシことサイバー・プチ・エンジェル。
「……私はこれでターンエンド」
「俺のターン! ドロー!」
明日香はおジャマ・キングの守備力を超えられなかったようで、万丈目のターンへと順番が回る。
しかし、攻撃力0のおジャマ・キングでは万丈目も攻勢に出れるのだろうか……
「リバースカード、《おジャマトリオ》を発動! 天上院くんのフィールドに、《おジャマトークン》を三体特殊召喚する!」
手札コストにされたり、蘇生されたと思ったらすぐ融合されたりした、あのおジャマ三兄弟と同じ姿形のトークンが明日香のフィールドへと特殊召喚される。
これで明日香のフィールドは、五体のモンスターが埋まったこととなるが……明日香のデッキは儀式デッキ、トークンを相手に与えては利用されるだけだと万丈目が分からない筈がない。
れるだけだと万丈目が分からない筈がない……というか、一回その弱点を突かれて負けたらしいし、三幻魔の時に。
融合召喚時におジャマ・キングの効果を発動しなかったことと、今のおジャマトリオを含め、もはや可能性は一つしかない。
「《おジャマッスル》を発動! 選択したおジャマ・キング以外の《おジャマ》を全て破壊し、その数だけ攻撃力を1000ポイントアップさせる! フィールドにいるおジャマは、天上院くんのおジャマトークンが三体!」
おジャマ・キングが大きく息を吸い込むと、三体のおジャマトークンが抵抗するもののおジャマ・キングに吸い込まれ、何故かおジャマ・キングの腕がムキムキとなった。
「更におジャマトークンが破壊されたことにより、合計900ポイントのダメージを天上院くんに与える!」
おジャマ・キングの身体から、先程吸い込まれてしまった、おジャマ三兄弟の……霊魂? みたいなものが現れ、明日香に体当たりを行い、当たった明日香をなんとも微妙な顔にさせた。
明日香LP3400→2500
それにしても、自分のモンスターの攻撃力をいきなり3000にしたかと思えば、更に相手ライフに900ポイントのバーンダメージを与えるコンボ……流石は万丈目だ。
「バトル! おジャマ・キングで、サイバー・エンジェル-荼吉尼-に攻撃! おジャマッスル・フライング・ボディアタック!」
おジャマトークンを吸収したおかげ(?)でせっかくムキムキになった腕を活用することはなく、サイバー・エンジェル-荼吉尼-をボディアタックで叩き潰した。
「く……」
明日香LP2500→2200
明日香の戦線を支えていた、サイバー・エンジェル-荼吉尼-が破壊されてしまったことにより、一気に万丈目へと流れが変わる。
「ターンエンドだ!」
「私のターン、ドロー!」
明日香の手札には《機械天使の儀式》と、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》があることは確認されている。
あとは、儀式の素材となるモンスターカードを引ければ良いのだが……
「……カードを一枚伏せ、ターンエンドよ」
「俺のターン! ドロー!」
明日香は残念ながらモンスターカードを引けず、それを受けて万丈目は強気にカードを引く……いや、強気なのはいつものことなのだが。
「バトル! おジャマ・キングでサイバー・プチ・エンジェルに攻撃! おジャマッスル・フライング・ボディアタック!」
元々、サポートカードでしかないために守備表示の低いサイバー・プチ・エンジェルに、おジャマッスル・フライング・ボディアタックが耐えきれるはずがなく、耐えることなくすぐに破壊されてしまう。
万丈目は追撃のダイレクトアタックといきたかっただろうが、万丈目のライフはもはや風前の灯火と言って良いわずか500。
明日香には《サイバー・エンジェル-弁天-》の存在がある以上、その程度のライフで下級モンスターを守備表示であろうとも出すのは危険である。
「俺はこれでターンエンドだ!」
「私のターン、ドロー!」
壁となっていた《サイバー・プチ・エンジェル》も破壊され、後がない明日香はカードを引く……そして、一枚の魔法カードを発動させた。
「《機械天使の儀式》を発動! 《サイバー・プリマ》を捨て、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を儀式召喚!」
サイバー・エンジェル-韋駄天-
ATK1600
DEF2000
最後に儀式召喚された、三体目のサイバー・エンジェルとなるサイバー・エンジェル-韋駄天-。
他の二体に比べて防御向きなステータスなるも、効果はサイバー・エンジェルの中でも群を抜いて優秀だ。
「サイバー・エンジェル-韋駄天-が特殊召喚に成功したために、墓地から魔法カード《リチュアル・ウェポン》を手札に加える!」
そう、特殊召喚された時という緩い条件にもかかわらず、種別を問わずに墓地から魔法カードのサルベージが出来るという優れもの。
いつもなら《強欲な壺》が選択されるところであるが、おジャマ・キングの戦闘破壊を優先したのか1500ポイントアップさせるリチュアル・ウェポンが選択される。
「甘いぞ天上院くん! サイバー・エンジェル-韋駄天-の効果にチェーンして《転生の予言》を発動! 天上院くんの墓地から《リチュアル・ウェポン》・《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》をデッキに戻す!」
墓地のカードをデッキに戻すトラップ《転生の予言》により、明日香の選択した《リチュアル・ウェポン》はデッキに戻されてしまう。
よって、サイバー・エンジェル-韋駄天-の効果は不発となってしまう。
「……ターンエンドよ」
《転生の予言》によってサイバー・エンジェル-韋駄天-の効果が不発になったことにより、明日香には出来ることはない。
そして攻撃力1600のサイバー・エンジェル-韋駄天-が攻撃表示で残るという、あまり明日香にとっては良くない状況で終了することとなった。
「俺のターン! ドロー!
《貪欲な壺》を発動する! 墓地から五枚デッキに戻し、二枚ドローする!」
ここに来ての手札増強カードを使って二枚ドローしたが、目当てのカードを引かなかったのか、万丈目は歯噛みしておジャマ・キングに攻撃を命じた。
「そしてバトルだ! おジャマ・キングでサイバー・エンジェル-韋駄天-に攻撃! おジャマッスル・フライング・ボディアタック!」
「ううっ……!」
明日香LP2200→800
ライフポイントもほぼ並び、ボードアドバンテージでは圧倒的に万丈目の方が上という状況になってしまう……明日香……!
「万丈目くんのターンが終わる前に、《奇跡の残照》を発動! 破壊された《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を特殊召喚!」
俺がお守り代わりの《サイバー・ブレイダー》と交換したトラップカードにより、戦闘で破壊されたサイバー・エンジェル-韋駄天-が墓地から特殊召喚される。
「サイバー・エンジェル-韋駄天-が特殊召喚されたため、墓地から《強欲な壺》を手札に加えるわ!」
サイバー・エンジェル-韋駄天-とサイバー・エンジェル-荼吉尼-の効果は、儀式召喚の時ではなく、特殊召喚の時。
よって問題なく、サイバー・エンジェル-韋駄天-の効果は発動する。
「《強欲な壺》か……カードを二枚伏せターンエンド!」
「私のターン、ドロー!
《強欲な壺》を発動して、二枚ドロー!」
サイバー・エンジェル-韋駄天-の効果によってサルベージした強欲な壺の効果で二枚ドローし、役目を終えた強欲な壺は破壊される。
「行くわよ万丈目くん! チューナーモンスター、《フルール・シンクロン》を召喚!」
フルール・シンクロン
ATK400
DEF200
植物のようなシンクロン、明日香のデッキに入ったチューナーモンスターであるフルール・シンクロンが召喚される。
「レベル6のサイバー・エンジェル-韋駄天-と、レベル2のフルール・シンクロンをチューニング!」
合計レベルは8……フルール・シンクロンということならば、おそらくは俺がお礼にあげたあのシンクロモンスター……!
「光速より生まれし肉体よ、革命の時は来たれり。勝利を我が手に! シンクロ召喚! きらめけ、《フルール・ド・シュヴァリエ》!」
フルール・ド・シュヴァリエ
ATK2700
DEF2300
明日香のシンクロモンスターである、サイバー・ガールの白百合の機械騎士、フルール・ド・シュヴァリエが、名前の通りに白い百合のように可憐な姿でシンクロ召喚された。
「リバースカード《奈落の落とし穴》を発動し、フルール・ド・シュヴァリエを除外する!」
「フルール・ド・シュヴァリエの効果発動! 相手ターンに一度、相手の魔法・罠カードを無効にして破壊出来る!」
フルール・ド・シュヴァリエのすぐ足元に、奈落の落とし穴が現れたものの、現れる前に既にその場から跳んでいたフルール・ド・シュヴァリエには通用しなかった。
「フルール・ド・シュヴァリエに《団結の力》を装備し、バトル! フルール・ド・シュヴァリエでおジャマ・キングに攻撃! フルール・ド・オラージュ!」
《団結の力》によって攻撃力を3300にまでアップさせ、おジャマ・キングにその手に持つ騎士の剣で斬りかかった。
「速攻魔法《融合解除》を発動! おジャマ・キングをエクストラデッキに戻し、クズどもを墓地から特殊召喚する!」
《奈落の落とし穴》でフルール・ド・シュヴァリエの効果を使用したために、もうこのターンはフルール・ド・シュヴァリエの効果を使用することは出来ない。
おジャマ・キングが融合の時に現れた時空の穴に戻っていったかと思えば、またもやおジャマ三兄弟が守備表示で万丈目のフィールドに特殊召喚された。
《おジャマジック》の時も含めれば、コレで三度目の登場だった。
『おいら、ふっかー』
「なら、おジャマ・イエローに攻撃! フルール・ド・オラージュ!」
『きゃあああ~!』
『『弟よ~!』』
たがだか守備力1000ではフルール・ド・シュヴァリエの剣には耐えきれず、おジャマ・イエローはあっさりと破壊される、が……なんだろう、声だけ聞こえるととてもシュールだった……
「カードを一枚伏せて、ターン終了よ」
「俺のターン! ドロー!」
ドローしたカードを見た瞬間、万丈目がいきなりの不適な笑みを見せ始めた。
……それほど良いカードを引いたのだろうか。
「俺はチューナーモンスター、《ヴァイロン・プリズム》を召喚!」
ヴァイロン・プリズム
ATK1500
DEF1500
万丈目が自信満々に出したモンスターは……チューナーモンスター!?
確か万丈目デッキには、シンクロモンスターは入っていないはずだろうに……!
「これぞ斎王様から賜りし、新たな力! レベル2のおジャマ・グリーンと、同じくレベル2のおジャマ・ブラックに、レベル4のヴァイロン・プリズムをチューニング!」
合計レベルは8だ。
そして、デッキの調整を手伝ってくれたお礼にあげた明日香以外には、俺は初めて見る他人が行うシンクロ召喚。
「世界を飲み込む眩き光、闇の中から輝きを放て! シンクロ召喚! 光の化身、ライトエンド・ドラゴン!」
ライトエンド・ドラゴン
ATK2600
DEF2300
光の化身……万丈目がその名をそう示す通りに、なんだか高貴な光を身体から発する光の龍……いや、高貴というよりは……破滅。
見ていると全てを飲み込んでしまいそうな……そんな光だった。
「そしてライトエンド・ドラゴンに、光の結社の象徴たる装備魔法、《白のヴェール》を装備!」
ライトエンド・ドラゴンを、その名の通りに白色のヴェールが包み込んでいく。
光の化身に光の結社の象徴……二枚とも、どんなカードなんだ?
「バトル! ライトエンド・ドラゴンで、フルール・ド・シュヴァリエに攻撃! シャイニングサプリメイション!」
「返り討ち……いえ、《聖なるバリア-ミラーフォース》を発動! ライトエンド・ドラゴンを破壊するわ……え!?」
またも攻撃力の劣るモンスターで攻撃してきた万丈目に、明日香は《ライトエンド・ドラゴン》、もしくは《白のヴェール》が戦闘時に発動する効果だと予測したのだろう、リバースカードで伏せてあった《聖なるバリア-ミラーフォース》を選択した……筈だった。
「《白のヴェール》の効果! 装備モンスターが攻撃する場合、相手フィールド上に存在する魔法・罠カードはダメージステップ終了時まで全て効果が無効化される!」
よって、明日香の発動した《聖なるバリア-ミラーフォース》と、フルール・ド・シュヴァリエに装備してあった《団結の力》も全て無効にすることになる……!
「そして、ライトエンド・ドラゴンの効果! このモンスターの攻撃力を500下げることで、相手モンスターの攻撃力を1500ポイント下げる! ライト・イクスパンション!」
それにより、ライトエンド・ドラゴンの攻撃力も2100にまで落ち込むものの……《団結の力》が無効にされたフルール・ド・シュヴァリエは、それよりも下がって1200。
「きゃあああっ!」
明日香LP800→0
ライトエンド・ドラゴンの光弾の一撃を喰らい、明日香のライフポイントは0となり……それと同時に、明日香が膝から崩れ落ちた。
「明日香ッ!」
デュエル場の明日香に急いで駆け寄ろうとしたその時、俺の肩をつかんで制止した人物がいた。
俺の背後にいた人物……それはつまり、三沢大地だ。
「離せ三沢ッ! 明日香が膝から崩れ落ちたんだぞ!」
俺の怒声にも臆せず、三沢は厳しい顔でデュエル場の明日香と万丈目の様子をうかがっていた。
「フハハハハハッ! 天上院くん。これで君も、我が光の結社の一員となるのだ!」
「――ええ、もちろんよ」
万丈目の騒がしい問いかけに対する明日香の答えは……まさかの、YES。
確かにデュエル前にそんな約束はしたが、明日香の様子は「ただ制服の色を変えるだけ」などと言っていた時とはまるで違う。
「光って素晴らしいわ……何故今まで気づかなかったのかしら」
「明日、香……?」
とにかく状況に頭がついていかず……いや、理性では分かっていたが、認めたくなくて……明日香に詰め寄ろうとした。
だがそれを、三沢が強引に引っ張って、俺は明日香から遠ざかっていく。
「だから離せ三沢……! 俺は、明日香を助けに……!」
「君とて分かっているだろう、今の明日香くんたちの様子は普通じゃない! ……悔しいが、明日香くんに気を取られているうちに逃げるんだ……!」
三沢は正論しか言っていない……だが、言っている本人の表情も苦悶の表情であり、三沢も明日香を見捨てて逃げることに感情では反対していることが分かる。
「くそッ……明日香! 絶対、絶対助けにきてやるからなッ――!」
そのまま俺と三沢はデュエル場を抜け、オベリスク・ブルー寮から出ていって脱出した……
後書き
……もうすぐバレンタインだというのに、ヒロイン悪堕ちという。
まあそもそも、そんな企画をたてられる気がしませんが。
では、また次回。
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