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恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS

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第八十八話 張譲、切り捨てられるのことその八

 しかしそれがなくなりだ。彼は危機を察していたのだった。
 その中でだ。彼もなのだった。
「こうなっては仕方がない」
「落ち延びられてですね」
「また機会を窺う」
 諦めてはいなかった。そこまで往生際はよくないのだ。
「そして何時か」
「貴方らしいですね」
 于吉は彼の言葉を聞いてだ。微笑んで述べた。
「そうしたところは」
「褒めているのか?それとも」
「いえ、褒めているのですよ」
 そうだとだ。于吉は答えてからだ。
 杯、黄金のそれを差し出してだ。張譲に勧めるのだった。
「如何でしょうか」
「酒か」
「どうですか、一杯」
「生憎だが」
 鋭い目になってだ。張譲は于吉に告げる。
「僕は他人の勧めた杯や料理は毒味をしないと口にはしない」
「おやおや、用心深いですね」
「後宮で宦官として生きていくには当然のことだ」
 陰謀渦巻く中で生きているからこそだ。そうしたことも身に着けているのだ。
 その話をしてからだ。彼は言うのであった。
「だからだ。そのままではだ」
「飲まれませんね」
「そうだ。飲まない」
 きっぱりと断って言うのだった。
「どうしてもというのならだ」
「わかりました。それではです」
 于吉は右手に持つその杯を己の口に近付けてだ。そのうえでだ。
 一口飲んでからだ。張譲に話すのだった。
「これで如何でしょうか」
「毒はないのだな」
「はい、毒は」
 それはないというのだ。毒はだ。
「御安心下さい」
「わかった。それではだ」
 張譲は彼が毒味をしたのを見届けてからだ。そのうえでだ。
 その杯を受け取り飲む。それからあらためて于吉に話した。
「少なくとも金はある」
「食べるのには困らないだけの」
「一生遊んで生きられるだけのだ」
 それだけのものがあるというのだ。
「だからだ。今は身を隠す」
「そうされるといいですね」
「人質のことも。考えてみれば」
「考えてみれば?」
「始末する手間が省けたか」
 こんなことを言うのであった。
「そう考えればいいか」
「用済みになればだったのですね」
「消すつもりだった」
 彼にとっては道具でしかなかったのだ。人質という道具だったのだ。
 その道具がなくなったことをだ。張譲はこう話すのだった。
「だがその手間が省けていいとすべきか」
「そう、用済みならばですね」
「その通りだ。そう考えるとしよう」
「そうそう、用済みなのですよ」
 ここでだ。于吉の顔がだ。
 思わせぶりな笑みになってだ。こんなことを言うのであった。
「あの娘は貴方にとって用済みになればですね」
「最初からそのつもりだった。擁州の者達を動かす手駒だった」
「用がなくなった手駒は捨てるだけですね」
「それだけだ。いつもそうしている」
「いつもですね」
「悪いことか?それが政だ」
「否定はしません。ただです」
 ここでだった。于吉はその口調も変えてきたのだった。
 そのうえでだ。彼は張譲にこうも話すのだった。
「それは私もなのですね」
「貴殿もだと?」
「はい、私も同じです」
 こう言うのである。何かを含んだ笑みで。
「私もまた。用済みになった駒はです」
「捨てるというのか」
「貴方と違って命を奪う様なことはしませんが」
「それは僕のことか?」
 話の中でだ。張譲はこのことを察してだ。
 目を鋭くさせてだ。于吉に問うのだった。
 
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