魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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無印編
第57話:地下での攻防
前書き
読んでくださりありがとうございます。
弦十郎とフィーネが戦い始めた頃、本部の司令室は情報の整理に必死だった。地上の避難誘導は何とか完了したが、自衛隊の被害は大きく避難誘導完了後彼らは撤退していた。
残された彼らはスカイタワーに向かった装者達、そして現在上でノイズとメイジ相手に奮闘している颯人を情報面サポートしている真っ最中でだった。
その時、突然司令室の入り口が吹き飛んだ。何事かと朔也とあおいが席を立ち入り口を見ると、そこから数人の琥珀メイジが雪崩れ込んできた。仮面で顔は見えないが、殺意に満ちた目をしている事が2人には分かる。
「う、うわぁっ!?」
「くっ!」
ここまで敵が乗り込んできた事に朔也は思わず悲鳴を上げ、あおいは咄嗟に護身用の拳銃を抜いた。これが魔法使い相手には無力に等しい事は彼女自身分かってはいるが、何もしないよりはマシだ。
そう思っていたのだが――――――
「ここは関係者以外立ち入り禁止だぜ!」
魔法で直接司令室に転移してきた颯人が、姿を現すと同時に琥珀メイジ達に飛び掛かる。
敵のメイジは全部で5人。まず手近に居た奴をウィザーソードガンで切り伏せる。
2人が反撃に転じてきたので、それを捌きつつ視線を横に向けると1人のメイジがあおい達に近付いていた。颯人が足止めされている隙に無力な彼女達を始末するつもりなのか、それとも人質にでもするつもりなのか。
とにかくこのまま放置はまずい。あおいも必死に拳銃で反撃しているが、メイジは意にも介さない。
「ちっ!?」
させじと颯人はガンオードのウィザーソードガンでメイジを撃つが、その一瞬の隙に放たれたライドスクレイパーの一撃でウィザーソードガンが宙を舞った。颯人は手を離れた武器を回収する間もなく、今相手をしているメイジ2人から半歩距離を取りながら指輪を付け替えハンドオーサーに翳した。
〈チョーイイネ! キックストライク、サイコー!〉
「そらぁッ!!」
強化された回し蹴りで距離を詰めようとしてきたメイジ2人を蹴り飛ばし倒す颯人。しかしこの技は連発が出来ない。それを分かっている残りのメイジ2人が、今が好機と襲い掛かる。対する颯人は今回し蹴りをした直後で無防備、しかも無手だ。防御も回避も儘ならない。
そう思っていただろうメイジの片割れは、轟音と共に襲い掛かった横合いからの殴りつけるような衝撃に意表を突かれた。
「ぐっ?!」
「ッ!?」
何事かともう1人が轟音のした方を見ると、彼らにとっては予想外な事に朔也が硝煙を上げたショットガンを構えているのが見えた。まさか司令室に詰めている彼らがこんな物を取り出してくるとは思っても見なかったのでメイジは驚愕に動きを止める。
「い、つつ……備えあれば、か?」
これは以前のデュランダル移送作戦で得た教訓だった。幾ら通常攻撃が当たる相手とは言え、変身したメイジ相手に拳銃弾程度では牽制にもならない。例え倒せずとも動きを止めるだけでもと考えるなら、最低でもショットガン以上の武器は備えておく必要があると弦十郎が上に掛け合って調達しておいたのだ。
使わないに越したことはないが、もしもという事もあると朔也達銃後の者達も使用の為に必要な訓練を済ませている。が、やはり咄嗟に使うと普段味合わない衝撃を受けるからか、朔也の腕が悲鳴を上げていた。
しかし彼の行動には大きな意味があった。颯人が体勢を立て直すだけの時間を稼げたのだから。
〈コネクト、プリーズ〉
「ッ!? しま――」
〈キャモナ・シューティング・シェイクハンズ。フレイム! シューティングストライク! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー!〉
「遅い!!」
素早く魔法で投擲したウィザーソードガンを手元に引っ張り出すと、銃弾に炎の魔力を纏わせ2人のメイジを立て続けに撃ち抜いた。メイジ2人が倒れた事で司令室に襲撃を掛けてきた魔法使いは全て倒れ、颯人を含め司令室に居た者達は一息つく余裕が出来た。
だが颯人は即座に気を引き締めると、オペレーターの2人に話し掛けた。
「皆、大丈夫?」
「あぁ、何とかね」
「助かったわ、ありがとう」
2人は窮地を救いに駆けつけてくれた颯人に感謝した。だが対する颯人の雰囲気はいいモノではなかった。仮面で顔が隠れているが、苦虫を噛み潰したような顔を彼がしているだろうことを特にあおいは察していた。
「礼を言われるのはまだ早いかな。何しろ本部内にメイジが何人も入り込んじまったから」
颯人の言葉に朔也とあおいは顔を強張らせた。あんな連中が本部内に他にも入り込んでいるのだから無理もない。
颯人はウィズ、アルドと共に地上でノイズとメイジを相手に奮闘していたのだが、とにかくノイズの数が多く何とか地上のノイズは始末できたがメイジには本部に入られてしまったのだ。
このままでは本部に居る非戦闘員や本部と繋がる地下に居る避難民が襲われる。ちょうどアルドが慎次と共に地下に下りたのと時を同じくして、颯人とウィズも地下に下りていたのだ。
「今ウィズも別の場所で本部内に入り込んだメイジを相手にしてるから、皆はここを動かないで。出来ればカメラで本部の中に入り込んだメイジの居場所とか教えてくれると助かる」
「分かったわ。こっちからナビゲートするから、そっちは頼んだわよ」
「もしまた魔法使いがこっちに来たら、こいつで何とか足止めするから」
あおいと朔也の言葉に、颯人は単純な戦力としてのそれとは異なる頼もしさを感じて頷き、司令室から出て本部内のメイジ討伐に動いた。
本部内を駆け抜け、途中司令室以外の場所に居た二課職員に襲い掛かるメイジが居たらそいつを叩きのめしていく。
その途中でウィズと合流した。
「む? 颯人、アルドとは会ったか?」
「いや? そっちは?」
「会っていれば聞いていない。先程から連絡を取ろうとしているのだが、応答しないんだ」
「ん~……もしかしたら一足先にこっち下りてきて手が離せなくなってるのかも?」
「そう考えるのが妥当だな。見掛けたら手を貸してやってくれ」
「分かった」
互いに情報交換をし、再び別行動に移ろうとする2人。ところが、何を思ったのかウィズは突然立ち止まると颯人を呼び止めた。
「あぁ、そうだ。忘れるところだったな。颯人、こいつを持って行け」
徐に投げ渡された指輪を、颯人は難無くキャッチする。フレイムウィザードリングに酷似したその指輪を、颯人はしげしげと眺めた。
「新しい指輪? 何だこれ?」
「念の為持っておけ。そいつは今までの指輪とは少し違う。使えるかどうかはお前次第だ」
「ふ~ん……ま、ありがたく頂いとくよ」
颯人は渡された指輪を左腰に着いた指輪用のホルダーに取り付けた。それを見てウィズは彼に背を向けながら声を掛ける。
「颯人。今回の戦いは今までとは一味違う。その事を肝に銘じておけ」
「何時に無く心配性だな?」
「分かったのか?」
「へいへい。精々気を付けますよっと」
適当に頷きウィズと別れ、颯人は再び本部内に乗り込んできたメイジを探して廊下を駆けた。
その時、彼の通信機にあおいからの連絡が入る。
『颯人君聞こえる? その先で司令が、その、了子さんと戦闘をしているのだけど……』
「援護しろって事? おっちゃんならタイマンだったら何とかなるだろ? それとも人質取られて動けなくなってる?」
『いえ、そうじゃないの。そこに別のメイジが近付いているわ。しかも白い仮面のが』
フィーネの実力の程を知らない颯人だが、白メイジ2人を同時に相手にするのは不味い。連中ならどこかから人質を引っ張ってきて弦十郎の動きを止めさせるくらい普通にやる。
「了解、任せな!」
通信機越しにあおいに返すと、颯人は走る速度を気持ち上げて指示された場所に辿り着いた。
そこで颯人は金色のネフシュタンの鎧を纏ったフィーネを、持ち前の膂力で圧倒している弦十郎の姿を確認した。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
「がはぁっ?!」
弦十郎の気合の籠った拳が、フィーネの剥き出しの腹に突き刺さる。ネフシュタンの鎧により強化られた肉体が、痛みに悲鳴を上げ壁に叩き付けられる。フィーネが叩き付けられた壁は、まるで隕石が落下した地面の様に綺麗に凹んでいた。
その光景に颯人は思わず仮面の奥で引き攣った笑みを浮かべる。
「うわぁ、マジかよ」
以前模擬戦をした時に弦十郎の常識外れの力は嫌と言う程知ったつもりだったが、あんなのは序の口だったらしい。何だかこのまま放っておいても良いんじゃないかと思えてしまう。
そう思った彼の視界に、慎次と未来、そしてアルドの姿が映った。見た所慎次とアルドは怪我をしているらしい。
彼らの姿を確認すると同時に、角を曲がって白メイジ2人がやってきた。あおいの情報通りだ。
「くっ! 手を貸せ!?」
白メイジ2人が来たことに味方が増えたと見たフィーネは、なりふり構わず助けを求めた。
そうはさせじと颯人が白メイジ2人に攻撃を仕掛ける。
「させるかよ!!」
ウィザーソードガンをソードモードにして白メイジ2人の前に立ち塞がる。白メイジ2人は、1人が颯人を相手にすべく身構えたがもう1人は颯人の横をすり抜けて慎次とアルド、未来の方へと向かった。3人の内誰かを人質にして、颯人と弦十郎を纏めて無力化しようと言う算段だろう。
「おっと!」
自分の横をすり抜けようとした白メイジの肩を掴み引き留めつつ、もう1人のメイジの攻撃をウィザーソードガンで防ぐ。
〈チェイン、ナーウ〉
「ッ!?」
だが攻撃を防ぐ為に自分の横をすり抜けようとしたメイジから目を離したのがいけなかった。颯人の視線が自分からそれていて且つ、慎次とアルドが動けない状態なのを良い事にそいつは未来を直接狙うと言う行動に出た。
まずいと思う颯人だったが、意識が未来の方に向いた瞬間彼を攻撃していたメイジが羽交い絞めにして邪魔をする。
「くっ!?」
「あぁっ!?」
未来が拘束される寸前、彼女をアルドが突き飛ばし代わりに鎖で拘束された。その光景に思わず上がった未来の声に気を取られて、弦十郎の意識がそちらに向いてしまった。
「貰った!!」
その隙を見逃さず、フィーネは弦十郎の脇腹を蹴り飛ばす。人間を超える膂力で蹴られ、体勢を崩す弦十郎。それを好機と見て、追撃すべくフィーネが接近する。
弦十郎はそれを待っていた。フィーネが追撃しようと接近してきた瞬間、体勢を立て直した彼はフィーネの懐に入り込みカウンターで鉄山靠を叩き込む。正に重機関車による突進もかくやと言う一撃に、フィーネは身動きが取れなくなる。
「ぐはぁっ?!」
「終わりだッ!!」
動きを止めたフィーネに、今度はこちらの番と言わんばかりに飛び掛かる弦十郎。その光景を見ていた誰もが、彼の勝利を疑わなかった。
しかし――――――
「弦十郎君!?」
「あ――――!?!?」
瞬間、フィーネがその顔を了子としてのそれに変え了子として彼の名を呼んだ。
それは彼の心を大きく揺さぶるには十分であり、勝負を極めようとしていた弦十郎に大きな隙を作らせた。
フィーネの鎖鞭が伸び、弦十郎の脇腹を貫く。
「うぐっ?!」
「いやぁぁぁぁぁっ!?」
「し、司令!?」
「おっちゃん!?」
脇腹を突かれ、血を流す弦十郎を見て未来が悲鳴を上げる。
勝ち誇るフィーネだったが、弦十郎は最後の力を振り絞り立ち上がるとフィーネの腹に拳を叩き込んだ。
「おぉぉっ!!」
「あっ!? ぐあっ?!」
弦十郎の最後の一撃をまともに喰らい、扉に向けて飛ばされた。その際彼の脇腹に刺さっていた鎖鞭が引き抜け、傷口から血が流れ出る。
「ぐ、うぅ……」
「ッ! 今だ!」
「させません!」
最早弦十郎は虫の息だ。今なら勝てると白メイジの1人が動いたが、その前に少しは動けるようになったアルドが立ち塞がりハーメルケインで突いた。その一撃は決定打とはならなかったが、それでも動きを阻害し颯人が行動するだけの時間は稼いでくれた。
〈キャモナ・スラッシュ・シェイクハンド。フレイム、スラッシュストライク! ヒーヒーヒー! ヒーヒーヒー!〉
「はぁっ!!」
「うわっ?!」
「ぐぅっ?!」
アルドが稼いでくれた一瞬の隙に、颯人はスラッシュストライクを発動し2人の白メイジを倒す事に成功する。
しかしその間にフィーネにはアビスに向かってしまった。颯人はフィーネが入っていった扉を見て歯噛みして悔しがる。
「くそ、結局行かせちまった。アルド、緒川さん。ここは任せた。俺はあっちを追う」
「分かりました。颯人君、気を付けて」
「心配はおっちゃんの方に向けてやんな」
颯人はそれだけを告げてフィーネの後を追おうとした。
だがその彼の背に、アルドが声を掛けて引き留める。
「待ちなさい、颯人」
「っと、とと! 何?」
突然呼び止められ、勢いを殺された颯人は少し不満そうな声を上げる。アルドはそれに構わず、ハーメルケインを杖にして颯人に近付くと懐から金属製の小箱を取り出した。
「颯人、一旦変身を解除しなさい」
「何で……って、質問する時間も惜しいか」
言われるがままに颯人が元の姿に戻ると、アルドは小箱から赤と緑の液体が入ったアンプルを取り出し中身を小瓶に入れて振り交ぜ注射器に移した。
次のアルドの行動を察した颯人は露骨に嫌そうな顔をする。
「おいおい、まさかとは思うが……」
「大人でしょう。注射一本で文句言わないの」
「注射云々じゃなくて、その中身の問題なの。明らかに人に打っちゃ不味い色してるぞ?」
濁ってはいないが、普通に病院で治療を受ける時には絶対目にする事の無い色をした薬液だ。どんな効果があっても体に入れたいものではない。
そんな颯人の考えなど気にした様子も無く、アルドは颯人の腕を取ると服の袖を捲り容赦なく注射を打った。逆手に持った注射器で本当に容赦なく針を刺され、走った痛みに思わず顔を顰める。
「いづっ?! で、何これ?」
「ここまでの戦いで多少なりとも体力を消耗しているでしょうから、それを回復させる薬を打ちました。効果はすぐに現れます」
果たして彼女の言う通り、効果は直ぐに出た。先程までの戦いで彼女の言う通り確かに感じていた疲労が、あっという間に消えていく。
何度か手を握っては開いてを繰り返したり、肩を回して調子を確かめた。
「なるほど、確かに軽い」
「ウィズには勿論連絡を取りますが、間に合う保証はありません。これで全力を出せるでしょうが、1人で彼女相手に勝負を挑むのは非常に危険です。無茶はしないように」
「サンキューな。んじゃ、行ってくる」
アルドに礼を述べ、颯人は改めてフィーネの後を追った。向かうは二課本部の最奥区画アビス。そこに保管されているデュランダル。
扉の奥に消える颯人を見送り、アルドは一つ息を吐くと慎次と共に弦十郎に肩を貸しその場を離れるのだった。
後書き
と言う訳で第57話でした。
メイジ相手には武器が一応通用するという事で、二課が多少なりとも武装強化して備えています。それでも相手が相手なので怯ませる程度の効果しかありませんが、一瞬気を引く程度の活躍は出来ます。
因みに藤尭が使ったショットガンの銃弾は散弾ではなくスラッグ弾です。あんな所で散弾使ったらいらぬ被害が出てしまいますし。
それと原作との大きな差異で、声を掛けられて隙を晒したのは弦十郎と了子を入れ替えました。理由は後の布石ですので今は伏せておきます。
(*諸事情により展開を変えました。申し訳ありません)
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします。
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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