魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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無印編
第56話:燃える学び舎
前書き
読んでくださりありがとうございます。
奏達がスカイタワーに向かうノイズ群と戦闘をしていた頃、それは突然起こった。
「司令!? 本部直上、リディアン音学院にノイズ反応です!?」
「ッ!? 数はッ!」
「は、反応多数! 物凄い数です!? 更に……」
監視カメラで学院の様子を確認すると、ノイズだけでなくメイジの姿も確認できた。大小様々なノイズに混じって、ライドスクレイパーに跨って空を飛んだメイジが何人も居た。
カメラに映るノイズとメイジの連合に、弦十郎は険しい顔になる。
「くっ、避難誘導を急げ! 颯人君は迎撃を!」
「はいよ!」
このままでは学院の生徒だけでなく、周辺の街の住民に多大な被害が出てしまう。弦十郎は二課司令として、1人でも多く救う為に手早く指示を出した。
それと同時に颯人に迎撃の指示を出す。自衛隊には避難誘導を優先して行ってもらわなければならない。
とは言え敵は大群。颯人1人に任せるのは正直酷である。
しかしその点に関してはあまり心配していなかった。何故ならば──────
***
地上に出た颯人は、道中で変身していた為外に出て即座に戦闘に入った。ガンモードのウィザーソードガンで目に映ったノイズを片っ端から撃ち抜いていく。ノイズ程度なら、これだけで事足りる。
問題はその数と、ノイズだけでなくメイジも混じっている事だ。勝てるかどうかはともかくとして、あちらは避難誘導を主に行っている自衛隊の通常兵器でも対抗は出来る。
しかしノイズ以上に狡猾だった。
現に今も、颯人がノイズを迎撃しようとするのを妨害してきていた。自衛隊の装備ではノイズに対抗できないのを理解しているからこそ、颯人の邪魔をしようとしているのである。事実、メイジの妨害を受けてノイズへの対応が疎かになってしまい何体ものノイズを素通りさせてしまった。
まぁ元々相手の数の方が圧倒的に多かったので、メイジが居ようが居まいがノイズが素通りする事を防ぐことは出来なかったかもしれない。
だが颯人はあまり焦りを感じてはいなかった。
「こう言う時くらいは頼らせろよな? ウィズ」
颯人がそう呟くと同時に、無数の魔法陣があちこちに現れノイズとメイジを吹き飛ばした。
「……チッ、やはり数が多すぎるな」
颯人の後方、校舎の屋上から地上を見下ろすように佇んでいたウィズは、狙っていたほどの──しかしある程度予想はしていた──結果が出なかった事に思わず舌打ちをしていた。
再びエクスプロージョンの魔法で複数纏めて吹き飛ばそうとしたウィズだったが、そうはさせまいとメイジが数人飛来した。ご丁寧に幹部候補の白メイジだ。それが全部で6人、ライドスクレイパーを手に取り囲んでいる。
ピンキリとは言え曲がりなりにも将来の幹部として期待を掛けられた魔法使い達、その実力は決して低くはないだろう。しかもこいつらは琥珀メイジ以上に強い自我を持っている。つまりより狡猾な戦闘を仕掛けてくるのだ。
しかし────
「フン…………白程度で」
〈コネクト、ナーウ〉
ウィズは特に気にした様子も無くハーメルケインを取り出すと、軽く左右の白メイジを一瞥すると素早い動きで振り返り背後に立つ白メイジ2人を一瞬で切り伏せてしまった。
あまりにも鋭い攻撃に一瞬呆ける残りの白メイジ。しかし彼らも幹部候補と目を掛けられた者達。次の瞬間には4人で連携してウィズに攻撃を開始した。
1人が足を狙ってきたのを跳んで回避したウィズに、別の白メイジが刺突を放つ。ウィズはそれを空中で弾くと、弾かれたライドスクレイパーの穂先は軌道を変え別方向からウィズに攻撃を仕掛けていた白メイジに直撃。ならばと最後の1人がチェインの魔法でウィズを拘束しようとすれば、彼は魔法の鎖が飛んでくる瞬間最初に自分に攻撃を仕掛けてきた白メイジを引っ張って身代わりにした。
仲間を拘束してしまった白メイジにハーメルケインを投げつけ怯ませると、ウィズは再びエクスプロージョンの魔法を使用。4人の白メイジを纏めて倒してしまった。
「ふぅ……無駄に時間を使ってしまった」
いとも容易く幹部候補を6人倒したウィズは、倒れている白メイジの1人に近付くと自分の右手の指輪を交換し、そいつのハンドオーサーに翳した。
〈プリーズ、ナーウ〉
詠唱と同時に白メイジからウィズに流れ込む魔力。戦闘で消耗した魔力を白メイジから補充しているのだ。
流石に倒した白メイジ1人からは取れる魔力の量も高が知れていたが、それが6人ともなれば話は違ってくる。全力のエクスプロージョンが少なくとも2回は余裕で使えるだけの魔力が補充できた。
魔力量に余裕が出来た事に満足そうに頷くと、顔を上げ学園中に蔓延るノイズ……特に自衛隊に襲い掛かろうとしているノイズを集中的に狙って今日三度目となるエクスプロージョンを使用した。
〈エクスプロージョン、ナーウ〉
先程以上の広範囲への局所的爆発が次々とノイズを吹き飛ばす。中にはそれに巻き込まれて吹き飛ばされるメイジも居た。
しかしそれでも敵はまだまだ多い。ウィズの援護もあって自衛隊の避難誘導はある程度進んでいるようだが、それでも自衛隊の隊員や校舎への被害は少なくない。事実ウィズが見ている前では、メイジの魔法が炸裂したのか校舎の一部が派手に炎を上げて崩れ落ちた。
その光景を見て舌打ちするウィズ。もう一度エクスプロージョンで吹き飛ばそうかと思ったが、校舎内に大分入られてしまったのか建物内に多数のノイズの姿が見て取れた。そしてそれに追い掛け回される学生と、学生たちを守ろうと奮闘する自衛隊の隊員達の姿も。
勝ち目などないと分かっているにも拘らず、職務を遂行し1人でも多くの学生を救うべく命を散らす彼らの姿に、ウィズは溜め息と共に軽く頭を振ると手近の建物内に入りノイズを片っ端からハーメルケインで切り裂いた。
「イヤァァァァァッ!?」
その時、彼の耳に少女の悲鳴が届いた。かなり近い。
ウィズがその声に向かって走ると、そこでは3人の少女が今正にクロールノイズに襲われそうになっている所だった。その前に見える炭の塵の山は、彼女らの友人かそれとも彼女らを守ろうとした自衛隊の隊員だろうか。
ウィズは考えるよりも先に行動した。狭い校舎内の壁を利用して三角飛びの要領でノイズと少女達の間に割って入ると、ハーメルケインを一閃してノイズを倒した。
突然目の前に現れた、明らかに普通ではない姿の人物に3人の少女──響と未来の学友である弓美・創世・詩織は呆然となった。
「な、何?」
「自衛隊……じゃ、ないよね?」
「魔法使い?」
座り込んでしまっている弓美に続き創世、詩織が見たままの感想を口にする。彼女達が驚くのも無理はない。明らかに普通ではない格好をした人物が、あっさりとノイズを倒してしまったのだから。
「……何をしている、さっさと逃げろ」
ウィズは呆けている3人に素っ気なく告げると、そのままノイズの掃討とメイジの迎撃に移った。
離れていく彼の背を相変わらず呆然と見つめていた3人だが、ハッと再起動した詩織が弓美に肩を貸し立ち上がらせると創世の腰を引っ叩いて彼女も再起動させた。
「何時までもぼーっとしている場合ではありません! あの方が仰った様に、私達も早く安全な場所に逃げなくては!?」
詩織に喝を入れられて、2人は慌てて彼女と共にその場を離れた。
それと時を同じくして、アルドは慎次・未来と共に二課本部に向かうエレベーターに乗り込んでいた。彼女も颯人やウィズ同様、校舎に入り込んだノイズやメイジを相手に奮闘していたのだが、その途中で偶然にも未来を連れて避難しようとする慎次と遭遇。その2人にノイズが攻撃を仕掛けようとしていたのでそれを迎撃し、そのまま流れで彼女も共に地下へと向かう事になったのだ。
メイジだけが相手なら慎次に未来を任せて地上の敵に専念するのだが、ノイズも居るとなると警戒するに越したことはない。
「────はい。これから未来さんをシェルターまで案内します」
『分かった、気を付けてくれ』
「大丈夫です、アルドさんも一緒ですから。それより司令、やはりカ・ディンギルとは────」
「ッ!? 伏せて!!」
慎次が何事かを口にしようとしたその時、何かに気付いたアルドが未来と慎次を押し倒した。
「きゃっ!?」
「アルドさん、何をっ!?」
突然の彼女の行動に驚く2人だったが、その直後エレベーターの天井を突き破り何者かが入り込んできた。その何者かは2人を庇ったアルドを踏みつけ、咄嗟に反撃しようとした慎次の首を掴んで締め付けた。
「がはっ!?」
「うぅ……」
『どうした緒川ッ!?』
通信機越しに天井が突き破られる音と2人の苦悶の声が聞こえたからか、弦十郎の心配する声が通信機から響く。しかし当然2人にはそれに答える余裕はない。
「こうも早く悟られるとは…………何が切っ掛けだ?」
天井から入ってきたのは腰まで伸びた金髪に黄金のネフシュタンの鎧を纏った女性──櫻井 了子ことフィーネだった。
フィーネはアルドの背を踏みつけ押え付けつつ、真相に辿り着いた慎次を問い詰める。
「ヒントは、アルドさんとウィズさんがくれました」
「カ・ディンギルとは、古代シュメールの、言葉、で、くぅ……『高みの存在』……転じて、『天を仰ぐほどの塔』、を……意味する言葉です」
カ・ディンギルが何を意味しているかは、先程颯人とウィズが連絡を取った際に二課に知らされていた。ウィズもアルドもそれらに関する知識は豊富であり、その言葉の意味を知っていたのだ。
「ほぉ? 知っていたのか?」
「これでも、知識には自信がありまして……あっ!? あぁ、かっ?!」
アルドの言葉に、フィーネは踏みつける力を強くすることで応えた。肺が押し潰され、呼吸が儘ならないアルドの口から苦悶の声が零れる。
悶えるアルドを無視して、フィーネは慎次に続きを促す。
「それで? カ・ディンギルの意味が分かったとして何処で正体に気付いた?」
「簡単な事です。塔なんて目立つ物を、誰にも知られずに建造するには、地下へと伸ばすしかありません。そして了子さんがフィーネであるとすれば、そんな事が出来るのは特異災害対策機動部二課、そのエレベーターシャフトしかありません」
「そうか。はやりあの2人は確実に始末しておくべきだったな。漏洩した情報を逆手に、上手くいなせたと思ったのだが……」
フィーネが己の不手際に忌々し気に溜め息を吐くと同時に、エレベーターがフロアに到着する。
ドアが開いた瞬間、慎次はフィーネの手を振り解きエレベーターから飛び出すと懐から取り出した拳銃を発砲。同時にアルドが銀のハーメルケインを振り上げ、フィーネに突き刺そうとした。
しかしどちらも生身の部分を狙ったにも拘らず、銃弾も刃も皮膚を破るどころか傷付ける事すらなかった。
「くっ!? やはり模造品では、がっ?!」
「ネフシュタン!? ぐっ!?」
フィーネは踏みつけていたアルドを慎次に向けて蹴飛ばし、慎次は咄嗟にアルドを受け止めて無防備になってしまった。
そこにネフシュタンの鎖鞭が巻き付き、2人を纏めて締め付ける。
「ぐぁぁぁぁぁっ!?」
「ぐぅっ!? あ、あぁぁぁっ!?」
「緒川さん!?」
目の前で締め上げられ苦悶の声を上げる2人を見て、未来が堪らず悲鳴のような声を上げる。
「み、未来さん……逃げ、て……」
「くっ、このっ!」
「ッ!? だ、駄目です!?」
慎次の警告を聞かずにフィーネに立ち向かう未来を、アルドが宥めようとするも彼女は聞く耳持たなかった。彼女は誓ったのだ。響の帰る場所を守ってみせると。それをこんなところで逃げてはいられない。
それに純粋に、慎次とアルドを見捨てるなんて出来なかった。
未来は全体重をかけてフィーネの背に向けて体当たりを行うが、やはりと言うかフィーネは微動だにしない。
それでも煩わしくは思ったのか、恐ろしく冷めた目で未来を人睨みした。今迄に向けられた事の無いその視線に、未来は思わず身が竦んだ。
「ひっ!?」
蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなる未来。フィーネは締め上げていた慎次とアルドを降ろすと、未来の顎に指を添えた。
「麗しいな。お前達を利用してきた者を守ろうと言うのか?」
「利用?」
フィーネの言葉に、怯えながらも未来は首を傾げる。それを見てフィーネは嘲る様な目を未来と、慎次に向けながら言葉を続けた。
「何故、二課本部がリディアンの地下にあるのか? 聖遺物に関する歌や音楽のデータを、お前達被験者から集めていたのだ。その点、風鳴 翼と天羽 奏は偶像として、生徒を集めるのによく役立ってくれたよ。フフフ、フハハハハ!」
高笑いしながら踵を返し、目的のデュランダルが保管された区画に向かうフィーネ。
その背に向けて、勇気を振り絞った未来の毅然とした声が飛ぶ。
「嘘を吐いても、本当の事が言えなくても、誰かの生命を守る為に、自分の生命を危険に晒してる人が居ます!! 私はそんな人を、そんな人達を信じてる!!」
未来がそう啖呵を切ると、フィーネは舌打ちを一つして未来に近付き彼女の頬を引っ叩いた。それは反論できないから力尽くで黙らせたと言うよりは、邪魔者を適当に退かしたような行動だった。
更に追い打ちで未来の襟首を掴んで持ち上げると、もう一度叩いて床へと落とした。
二度も叩かれて床に倒れた未来を、フィーネは心底面白くなさそうに見つめる。
「……興が冷める」
倒れた3人を一瞥し、フィーネは改めてデュランダルが保管された区画へと向かう。最奥区画アビスへと続く扉を開く為の端末に近付き、ロックを開く為の了子の通信機を端末に近付けようとしたその瞬間、倒れていたアルドが立ち上がりフィーネに斬りかかると同時に慎次の拳銃が通信機を撃ち抜いた。
「行かせません!!」
背後から斬りかかるアルドだったが、フィーネはそれを防御する事も無くその身で受け止めた。アルドのハーメルケインは先程同様フィーネの体を切り裂く事はなく、受け止められた際に出来た隙に腹部を殴打され壁に叩き付けられた。
「が、はっ?!」
「アルドさん!?」
壁に叩き付けられ、その場に力無く倒れるアルドに慎次が声を掛けるが彼女は微動だにしない。接近戦を担当してくれたアルドがダウンした事と、拳銃が通用しない事に慎次は銃撃を諦め直接戦闘の構えを取った。
とは言え所詮ただの人間、取るに足らない相手だ。それでも足元に転がる石ころ程度には邪魔になるだろうと、フィーネは鎖鞭を構えて迎え撃つ体勢を取った。
そこに──────
「待ちな、了子」
「ん?」
何処からともなく声が響いたかと思うと、轟音を立てて天井が崩れ落ちそこから弦十郎が下りてきた。とんでもない所からのとんでもない登場方法に、未来は目を見開く。
と同時に、音と振動で目を覚ましたのかアルドが痛む体に鞭打ちながら起き上がった。
フィーネにとってもこの登場の仕方は少し予想外だったのか、呆けた顔をしたがすぐにその表情を獰猛な笑みに変えた。
「私をまだ、その名で呼ぶか」
「女に手を上げるのは気が引けるが、これ以上好きにさせる訳にはいかないんでな」
拳を構える弦十郎を見て、慎次は未来とアルドを退避させた。このままでは巻き添えを食う。
「正直、今でも信じられん。いや、信じたくないと言った方が良いな。お前が俺達を裏切っていた、と言うのはな」
己の拳を見て顔を顰める弦十郎。本心の言葉なのだろう。彼の表情から、彼が感じている辛さが伝わってくる。
「だがもう迷わん! 例えお前が敵に回ろうと、俺にはやらねばならん使命がある!」
「フン! 志は大したものだ。だがそれだけで只の人間であるお前が私に勝てると?」
「応とも! 色々聞きたい事はあるがそう言うのは全部後だ! 一汗かいた後で、話をじっくり聞かせてもらおうか!!」
その言葉を合図に、弦十郎が床を蹴りフィーネが鎖鞭を振るった。
拳と鎖鞭がぶつかり合い、信じられないような音が辺りに響いた。
後書き
と言う訳で第56話でした。
スカイタワーでの戦いの裏での、学院での戦いです。
作中でアルドがポロっと口にしていますが、彼女が使っているハーメルケインはレプリカです。ウィズが使ってる奴をアルドが模倣して作ったものです。ただの剣に比べると強力ですが、所詮模造品は模造品なので性能は大幅に劣ります。
執筆の糧となりますので、感想その他よろしくお願いします。
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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