日本国召喚~Country survival~
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邂逅編
第6話 エジェイ会戦
前書き
今回、SF兵器が沢山出てきます。
西暦2029年/中央暦1639年4月26日 クワ・トイネ公国西部 エジェイより西に10kmの地点
要塞都市エジェイから西に10km離れた地点に、南北に100km程張られた長大な防衛線が広がる。
鉄条網や地雷原、深さ2メートル程度の空堀と高さ1メートル、幅5メートル程度の土塁、土塁の中間地点に掘られた深さ1メートル程度の塹壕、そして半円形の土塁で守られた砲台などからなる防衛線に、陸上自衛隊第16旅団と特生自衛隊第1即応機動大隊、クワ・トイネ公国陸軍西方方面師団の姿があった。
他の地点には台湾と韓国両陸軍が展開して防衛線を張っており、公国西部の守りは厳重になっていた。
「偵察機からの報告によれば、ロウリア王国陸軍はギムに司令部を設置し、そこから東に20kmの位置に前線基地を設営。 周辺の集落から略奪を繰り返しながら、前線基地とともに前進している模様です」
防衛線の奥側に設けられた天幕内部に設けられた司令部で、陸自第16旅団司令の大内田和樹陸将補は特生自衛隊第1即応機動大隊隊長の磯山則之二等陸佐やクワ・トイネ公国西方方面師団長のノウ将軍とともに会議を開いていた。
「兵站は基本的に現地からの略奪で成り立っている模様ですね…戦後復興の観点から敢えて放置していましたが、これでは兵糧攻めも難しそうですね…」
「だがその復興も国民が生き残ってこそ成し得る事だ。モイジ率いるギム守備隊は総戦力の半数を失いながらも市民10万と日本人移民5万をエジェイへ避難させる事に成功している。彼には感謝してもしきれんよ」
大内田とノウがそう話し合う中、磯山はタブレット端末を片手に説明をする。
「ここから南東の方角から、1000程度の兵士が多数の魔獣を引き連れて接近・展開している事が周辺捜索用UAVによる偵察で明らかとなりました。恐らくこちらに奇襲を仕掛ける魂胆なのでしょう」
「となると、相手の配置次第でどの様に戦力を振り分けるかが問題となるが、北部はノウ将軍配下の西方方面師団とに、南部は特自即機1に担当してもらう事としよう。 間もなくダイダルの空自基地が完成する、それまでに陸上兵力を足止め出来れば、空からの攻撃で敵軍を麻痺させる事も出来るだろう」
こうして、日本側はロウリア王国軍の侵攻を食い止めるべく、広範囲に複数の部隊を設置し、迎え撃つ事を決定した。
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1週間後 防衛線から西に10km地点
ロウリア王国東方征伐軍40万のうち20万は、ギムからエジェイへと続く主要街道を通って東進し、エジェイまであと20kmという位置にまで到達していた。
「間もなくエジェイに着く。あと1日で我らはエジェイに到達する事が出来るのだ…」
東方征伐軍の主力たる王国東部諸侯団のリーダー、マルク・ジン・ジューンフィルア伯爵は、そう呟きながら東の方角を睨む。
東部諸侯団の総戦力は歩兵6万に重装騎兵2万、騎兵1万に特化兵8千、その他各種特殊兵科に属する部隊を合わせて10万にも及ぶ大軍は、クワ・トイネ公国の貧弱な軍勢を容易く屠る事も可能な軍勢である様に思えた。
侵攻当初は防衛線を張り、第三文明圏でも有している国は限りなく少ないとされる銃や火砲でクワ・トイネ公国軍が抵抗してきたが、圧倒的とも呼べる大軍を以てこれを叩き潰し、クワ・トイネ公国軍は多大な損害を被りながら後退し、そのまま東へ追い詰めている。このままいけば我が軍はたいして甚大な損害を被る事無くエジェイへ攻め入る事が出来るだろう。
その確信を胸に抱いて進撃を続けていたが、突如、目前に簡易的な城塞らしきものが見えたという情報が入り、軍は侵攻のペースを落とさざるを得なくなった。
しかし、アデムを介してパンドールから東進の催促が来ている以上、ロウリア王国軍上層部に睨まれるわけにもいかない。そのため、リスクを冒してでも前進するしか道はなかった。
そうして2km程進んだその時、突如、真上から甲高い飛翔音が聞こえてきて、ジューンフィルア達は揃って真上を見上げた。
「何だ…?」
ジューンフィルアがそう呟いた直後、突如、その場に轟音が響き渡り、同時に平原の一部が青白い炎に包まれた。
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『MLRS、命中しました。敵軍の4割を消滅させた模様』
防衛線司令部に報告が行き渡り、大内田は一瞬瞑目してから口を開く。
「4割削れたか…しかしいつ見ても『Tプラス』は恐ろしい威力だな」
大内田の呟きに、他の自衛官や他国軍将官も同感とばかりに頷く。
M270多連装ロケット発射機システムから発射されたロケット弾に装備されていた、自衛隊が有する現時点で最大火力を持つ兵器、『Tプラス』弾頭がロウリア王国軍の真上で炸裂したのだ。
テルミット反応を使って高熱を発する焼夷爆薬に、燃焼を倍加させる特殊溶液を加えた二液混合式爆薬は、半径3km圏内を摂氏6千度の超高熱で焼却し、一つの黒く焦げた円形の地点を生じさせる。
今自衛隊と対峙しているロウリア王国軍がその大惨事に茫然となる中、別の戦線では戦端が開かれていた。
台湾陸軍のM109自走砲や韓国陸軍のK9自走砲が火を噴き、進撃を開始していたロウリア王国軍は敵の姿を見る間も無く155ミリ砲弾の雨に叩き潰される。そして南東部の戦場では、特生自衛隊第1即応機動大隊がロウリア王国軍の魔獣部隊と交戦を開始していた。
「発射始め!」
磯山の号令と同時に、数門のパラボラアンテナから青白い稲光が飛び、複数のルアキューレやリントヴルムをはじけ飛ばせる。同時に自走砲に似た車両が轟音とともに砲撃を放ち、それを食らった魔獣は木端微塵に吹き飛ぶ。
正式名称『特殊生物対策自衛隊』、通称特生自衛隊の主力装備たる16式メーサー殺獣光線車のメーサー光線と、19式155ミリ自走電磁加速砲の砲撃は瞬く間に魔獣の群れを叩き潰していき、急激にその数を減らしていく。
『こちら第1即応機動大隊、敵部隊を撃破。現在追撃の準備に取り掛かっています』
「各戦場は順調に進んでいる様だな…」
大内田がそう呟く中、後方の基地と連絡を取っていた通信士が報告を上げてきた。
「大内田司令、ダイダル基地の空自より入電です。間もなく敵軍本部に向けて空爆を仕掛けるとの事です」
「ついにか…」
大内田がそう呟く中、戦場の真上を複数の機影が飛び去って行く。陸自隊員達は未だに来ない敵軍に備えつつ、ギムに居座る敵軍を掃討するために飛んで行った味方を見送るのだった。
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同刻 ギム ロウリア王国軍前線司令部
ギム占領後、パンドールは前線司令部をギムの方に移し、そこから作戦指示を飛ばしていた。
しかし魔信で声は伝えられても、現地の光景は直接見に行ったものしか理解する事が出来ない。先程から通信が途絶している東部諸侯団の現状を知るべく、パンドールは12騎のワイバーンを前線偵察に動員していた。
「まだ、前線の情報が入ってこないのですか?」
ギム領主の屋敷に設置された前線司令部で、アデムは苛立ちを隠す事無く通信兵に尋ねる。その様子に対し、パンドールは随分と穏やかな様子で声をかける。
「そう焦らぬともよいではないか、オーガスタよ。数ではこちらの方が圧倒的優勢なのだ、そう焦らずに彼らの勝利の報告を待とうではないか。だが…増援は欲しい所だな。それと君には一つ、頼みがある」
パンドールはそう言いながら、一つの巻物をアデムに手渡す。
「砲弾と火薬の消費量が、こちらの想定よりも若干多い。優勢とは言え物資が不足しているという情報は迂闊に魔信で伝えられぬからな。敵側にその通信を傍受される可能性もある、増援要請とともに直接王都に戻ってこの情報を王都に伝えてくれ」
「…分かりました。しかし大砲というものは、威力はありますが、その分消費も激しいものですな。これ程の武器を多量に使いこなせねば、列強には程遠いものとなりますな」
「同感だな」
アデムは巻物を受け取ってその場から離れていき、数人の部下とともに馬で西へ移動する。パンドールとその部下達はそれを見送りつつ、空を眺めた。
上空には数十騎のワイバーンが展開し、ギム上空を守っている。噂によればフィルアデス大陸固有種の銀鱗種と交配させたものを魔法強化による強制育成と身体改造魔法で兵器としての能力を向上させたロード種を導入したとの噂があるが、真相を知るのは一部の上層部のみ。今の自分達が知っても意味のない事なので、パンドールは余り気にしていなかった。
「実に力強い編隊だ。如何に優れた陸軍戦力を持っていても、この戦力を排除する事など不可能だろう」
パンドールがそう満足げに呟いた直後、空に広がる雲の隙間が一瞬瞬く。直後、何処からともなく光の槍の様なものが飛んできて、上空に展開しているワイバーンに次々と命中した。
ズドドドドドォォォォォ…
「なっ…!?」
突如、防空任務に就いていたワイバーンが轟音とともに次々と炎に呑まれ、バラバラになりながら墜落していく様子に、パンドール達は揃って驚愕を露にする。
地上の者達がただ愕然となって立ち尽くす中、ダイダル基地から発進した4機の〈F-2〉は、味方の〈F-15J改〉がギム上空に展開していた敵ワイバーンを排除したのを確認しつつ、ダイダル基地の航空管制塔からの指示を受ける。
『Cleared attack』
『Copy. Cleared attack』
『Fire. Ready…now』
4機の主翼下から連続でMk82・500ポンドLJDAMが投下され、その多くが城の近くにある天幕や倉庫に降り注ぎ、爆発。瞬時に数千の歩兵を吹き飛ばす。
続いてもう4機がギム領主の屋敷に向けて爆弾を投下し始め、爆発。パンドールは部下達とともに信じ難い程の閃光や爆轟に呑まれていった。
その日、日・台・韓・クワ連合軍はロウリア王国軍に対して反攻作戦を実施。ロウリア王国軍は10万以上の将兵と100騎近くのワイバーンを喪失し、侵攻計画が頓挫。それどころかギムの前線司令部が壊滅したため、東部諸侯の私兵の連合軍を主体としていた部隊は総崩れを起こし、後退を開始。当然ながら連合軍はこれを見逃す筈もなく、戦術輸送機による空挺作戦と機械化部隊の迅速な迂回によってギム以西に突入。ギムの奪還と敵軍残党の包囲、そしてロウリア王国東部の一時的な占領を同時に成し得た。
余りに奇跡的に過ぎる迅速な作戦行動によって、連合軍は敵軍の反撃を封じる事に成功した。しかし、戦争の結末を左右する日本の本命はロウリア王国東部には存在しなかった。
何故なら、本命は今まさに、戦争を終結させるべく、ある場所に向かっていたからである。
後書き
次回、間もなく決着がつきます。
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