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日本国召喚~Country survival~

作者:相模艦長
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邂逅編
  第5話 ロディフィル海海戦

 
前書き
昨日は色々と事情があって更新できんかった…
では改めて、ドンパチ、はっじまーるよー。 

 
西暦2029年/中央暦1639年4月25日 ロデニウス大陸北部海域 ロディフィル海

 ロデニウス大陸とフィルアデス大陸の間に広がる大海、ロディフィル海。朝日が空と海を照らす中、大量の帆船が東の方角に向かって進んでいく。ロウリア王国海軍の東方征伐艦隊、4,400隻の大艦隊である。

「壮観な光景だ。実に美しい」

 艦隊旗艦を務める砲艦「偉大なるロウリア」号の船楼で、シャークンが呟いた。
 見渡す限り、船が海を覆い尽くしている。船が多すぎて、海面が見えないほどだ。それぞれの船が、大量の水夫と揚陸兵を乗せ、マイハークに向かって進んで行く。
 大量の帆船が白い帆を朝日に輝かせながら、魔法具『風神の涙』のエンチャントとともに風をいっぱいに受けて進んでいく様は、美しい以外の表現が見つからない。
 10年もの期間をかけ、準備した戦力。パーパルディア皇国からの援助も受けて、ようやく完成した大艦隊。これだけの艦隊を防ぐ手立ては、ロデニウスにはない。いや、もしかすると、パーパルディア皇国でさえ制圧できそうな気がする。

(…だが、この火砲を積んだ砲艦でさえも、艦全体を強固な鉄板を覆った装甲艦や、洋上でワイバーンを運用する竜母には敵わない。国力も、技術力も、そして軍事力の全ても、余りにもパーパルディア皇国に対して弱すぎる)

 一瞬顔を覗かせた野心を、シャークンは理性で打ち消した。仮にも自分達に対して大々的な支援をしてきた相手、第三文明圏の列強国に挑むのは、余りにリスクが高い。
 その考えと野心を振り払うように、彼は艦隊の進行方向、つまり東の海を見た。とその時、遥か向こうから羽音の様な轟音が聞こえ始め、シャークン達は揃って真上を見上げる。
すると、そこに1つの白く巨大な羽虫が現れ、何処からともなく声を飛ばして警告を発してきた。

『こちらは、日本国海上自衛隊である! ロウリア艦隊に告ぐ、貴艦らはクワ・トイネ公国の領海内に侵入している! 我が国及び台湾、韓国諸海軍はクワ・トイネ公国及びクイラ王国支援のために参戦している! 直ちに戦闘を中止し、転進されたし!』

 本来ならば発光信号や無線によって送る警告であるが、数千年前から魔導通信機が普及しているこの世界では発光信号は概念すらなく、無線も電波の概念自体持たない相手には通用しない。そのため本来海上保安庁辺りが行いそうなスピーカーによる警告を行う事になった1機の〈SH-60K〉は、パイロット達が相手の魔法攻撃に怯える中、ひたすらに警告を発する。

「ニ、ニホン国だと!?」

「あんな化け物を使役しているのか?」

 将兵達が相手の警告に不安を抱き始める中、シャークンは交信用装備の予備品として持っていた魔導拡声器で〈SH-60K〉に向けて返答する。

「ニホン軍騎よ、こちらはロウリア海軍東方征伐艦隊提督のシャークン・ジン・カルディアである! 我が軍は国王陛下からの命に従い、クワ・トイネ公国を落とし、ロデニウス大陸を統一せんとする意志の下に、戦場に赴こうとしている! その意思を邪魔せんとするならば、我が艦隊は貴国の艦隊に対しても刃を向けねばならない! ロデニウス大陸に生きる者としての未来を賭けた戦いに関わりを持たぬ者こそ下がるがよい!」

 シャークンの言葉を聞き、〈SH-60K〉はこれ以上の説得は困難だと判断したのか、直ぐにその場から飛び去って行く。それを見つめるシャークンは、一抹の不安を抱えながら通信士に指示を出す。

「本国の司令部に上空支援を要請しろ! 恐らく敵はこちらの把握していない魔獣を使役して航空戦力にしている可能性もある!」

「は…はっ!」

 シャークンの要請は直ちに首都ジン・ハークの王国軍司令部に届けられ、付近の飛竜騎士団基地から次々と上空支援用のワイバーンが離陸していく。そして合計100騎のワイバーンが空中に展開し、時速“350km”の巡航速度でロウリア艦隊の上空に向かう。
 そしてその数十分後、艦隊に乗る兵士達は、水平線の向こうに敵の姿を捉えた。

「な、何だ、あれは!?」

 将兵達の間に再び動揺が走る。まだ自分達からは20kmは離れているであろう水平線の上に、距離感を見誤る程の『巨大な灰色の艦』が16隻も鎮座していたのだ。敵の姿を目の当たりにしたシャークンは、手元に持っていた魔導通信機を通じて、各艦に指示を出した。

「全艦に告ぐ、速力上げ! 敵はたったの十数隻だ、面で迫って包囲し、物量を活かして撃破せよ!」

 指揮官シャークンの命令を受けて、各艦の装備する『風神の涙』の出力が上げられ、それによって強化された風の力を得た帆走軍艦の群れは、15ノットを超える速力で日本艦隊へと近づく。直後、空から幾つもの炸裂音が響き渡り、パラパラと何かが降り注いできた。

「…なっ!?」

 降り注いできたものを見て、シャークン達の顔が引きつる。それはワイバーンや竜騎士だったものであり、無数のパーツにバラバラになって降ってきたそれらは海面にぼとぼとと音を立てながら落ちていき、無数の魚類や海魔が跳ねる。それは絶え間なく続き、ようやく何騎かが雲の合間から現れたと思えば、光の槍に貫かれて爆発し、木端微塵に吹き飛んだ。

「な…もしや、ワイバーンが、全滅したのか…?」

 シャークンが声を震わせながらそう呟く中、日本・台湾・韓国連合艦隊旗艦「つくば」の艦橋では、艦隊司令の水上昭一(みずかみ よういち)海将補が、クワ・トイネ公国海軍観戦武官のブルーアイ・クワ・フィッシャー二等佐官とともに、戦闘指揮所(CIC)からの報告を受け取っていた。

『航空隊、敵ワイバーンの半数を撃墜しました』

「残りは艦艇で対処する。航空隊各機は後退し、着艦・補給を実施せよ」

「…も、ものすごい迅速かつ圧倒的な攻撃ですね…敵の姿を見る事なく一方的に叩くとは…」

 日本艦隊の戦闘を見ていたブルーアイの言葉に、水上はただ静かに真正面を見据えながら口を開く。

「我が方は数において圧倒的に劣っています。 質で十分に渡り合うためには、視界外から一方的に攻撃を仕掛ける他ありませんので…」

 水上がブルーアイに向けてそう答えた直後、CICから報告が上がってきた。

『「ふじ」、「あいづ」、対空戦闘開始します』

 「つくば」の左右に展開する2隻の護衛艦、ミサイル護衛艦「ふじ」と「つくば」は、それぞれ同時にSM-2MR『スタンダード』ミサイルを放つ。
 1980年代後半の旧ソ連海軍と中国海軍強化を受けて建造されたイージスシステム搭載ミサイル護衛艦であるふじ型ミサイル護衛艦とあいづ型ミサイル護衛艦は、こんごう型ミサイル護衛艦と異なりミサイル発射装置は即応性に優れたMk41VLSではなく、旧来のMk26連装発射機であるものの、ミサイルやジェット機よりも圧倒的に遅く、数も100騎程度から「つくば」航空隊によって40騎程にまで減らされたワイバーン相手には十分に足り得る迎撃能力を発揮した。
 加えて対空戦闘能力の方に重点が置かれているふじ型は後部甲板にMk29八連装ミサイル発射機を備えており、こちらは従来のRIM-7M『シースパロー』からRIM-162『発展型シースパロー(ESSM)』に更新されていたため、射程距離と威力、そして弾数において不足は無かった。
台湾艦隊からも同様に艦対空ミサイルが発射され、敵艦隊からの応戦を想定していなかったワイバーンは次々とミサイルの餌食になっていく。
 戦闘開始から僅か10分で、ワイバーン100騎は瞬く間に消え去り、制空権は完全に日本側のものとなる。そして連合艦隊は次に、敵艦隊に照準を定める。

『各艦、標的の振り分けが完了しました。敵艦隊との距離、15kmです』

 15kmというロデニウス諸国の海軍にとって圧倒的な長距離であるにも関わらず、すでに臨戦態勢に入っているという事に、ブルーアイが改めて軍事力の隔絶した差を実感している中、水上は命令を発した。

「前衛を中心に砲撃せよ。さらに航空隊は艦隊両翼に攻撃を仕掛け、半包囲攻撃の形に整えよ。 後方までも攻撃すれば袋のネズミとなり、相手はさらに抵抗を強める可能性がある。敢えて逃げ道を設けるのだ」

『了解!』

「艦隊各艦…攻撃始め!」

 水上の命令一過、各艦の12.7センチ砲と7.6センチ砲が火を噴き、猛烈な砲火がロウリア艦隊に降り注ぐ。そして近代的な射撃管制システムに裏付けられた高い命中精度は、水柱が上がる度に多くの帆船を海底へと叩き込んでいった。

「ぜ、前衛第3・第4戦隊、全滅!両翼に展開する戦隊も、上空からの攻撃を受けて壊滅!我が方の損害、甚大なり!」

 「偉大なるロウリア」号の船楼に通信士からの報告が飛び込み、シャークンはただ険しい表情を浮かべてその場に立ち尽くす。

「…最早、我が方にこれ以上の戦闘続行は困難、か。全艦直ちに反転!これ以上の損害を被る前に退くのだ!責任は全て私が取る!急げ、これ以上船も、兵も沈めさせるな!」

 シャークンの指示に従い、ロウリア艦隊は大急ぎで舵を切り、反転と後退を始める。その様子は「つくば」艦橋からもよく見えていた。

「ロウリア艦隊、反転を開始しました!」

「ようやく退く気になってくれたか…艦隊各艦は直ちに洋上の漂流者救助に当たれ!」

 水上の指示に従い、連合艦隊は前進しつつ搭載艇を降ろし始める。そして搭載艇は先行し、洋上で木片にしがみ付いているロウリア兵達を引き揚げていく。

「フィッシャー二佐、確かロウリア王国との間で戦時条約の類は締結されていなかった筈ですよね?この場合捕虜の取り扱いは我が国及び台湾が旧世界にて結んでいたものとなりますが、よろしいでしょうか?」

「え?ええ…それについては問題ありません」

 ブルーアイから確認をもらった水上は、部下に幾つかの指示を出しつつ、救助活動の進められている海域を見つめる。
 この日、後に『ロディフィル海海戦』と呼ばれる事になる海戦にて、日・台連合艦隊16隻はロウリア王国東方征伐艦隊4400隻と交戦し、そのうち1400隻を撃沈。同時にワイバーン100騎を殲滅し、ロデニウス大陸北部の制海権を制空権を確保する事に成功した。
 こうして戦争の序盤でロウリア王国を躓かせる事に成功した日本は、台湾や韓国とともにロウリア王国からこれ以上戦争を行う気概を奪うべく、次の一手を打ち始めるのだった。 
 

 
後書き
海戦のシーンが、予定以上にあっさりとしたものになった…
次回、戦場は陸へ。 
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