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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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MR編
  百六十話 屍者の軍勢を打ち破れ

 
前書き
はいどうもです!

というわけで、今回はユウキのためにも反撃を始めていきます。久々に弐話以上の時間をかけたこのボス戦も後半。

では、どうぞ! 

 
「よぉ、状況どうだいお二人さん、なんか手がかりくれーはつかめたか?」
ユウキと、何故かつついてきたアスナから離れて、中衛として状況把握に努めていたはずのアイリとシリカの下へと駆けよっていく、軽く片手を上げて近づくリョウを二人は一瞬見止めると、何故か瞬時に視線を外し、そっぽを向いた。

「……?おい?」
「……いえ、別に」
「……状況は変わりありませんが」
「リョウさんはもっとお楽しみじゃなくて良かったんですか」
一切リョウを視界に入れることなく、ただただやたらとよそよそしい態度と口調で言う二人に、訳が分からずにリョウは首を傾げた。

「……?なんかお前ら滅茶苦茶棒読みじゃね?」
「いえ?全然?」
「気のせいですよ?」
「「つーん……」」
「つーんて、何の擬音だお前ら……」
そう言っても一切答えようとしない二人に、困り果てたように頬を掻くリョウの下に、不意にほがらかな声が響いてきた。

「いやー、参った参った、まともに打ち込んでたら日が暮れてもおわらないなアレ」
「おうキリト、ボスは?固まったままか結局」
「あぁ、うんとも寸とも言わないな……まぁあのMobの数でボスまで動いてたらどうしようも無くなるけどさ」
「ちげぇね」
苦笑して頷くと同時、リョウは突然武器を取り出してきりとの後方に目を向ける。彼の行動から何かを察したように……あるいは、察するまでも無く、キリトもまた武器を構えて突然振り向いた。

「で?早々に敗北宣言か?」
「いやそう言うつもりはないけどさ、言ったろ?普通にやっても攻撃が通らないんだよ。破壊不能オブジェクト一歩手前って感じ、だっ!」
「そりゃま、たっ!!」
集団を離れて接近してきたMobを一蹴しつつ二人は会話を続ける。混乱こそあったものの、中衛の下に上がってきていたMobの処理は殆ど終わり、状況は一度ブレイクタイムと言った様相になっていた、どうやらこのボス戦におけるMob達には大まかな配置のような物があるらしく、中衛を攻めてきていたMobを処理すると、ボス周辺のMob達はボスを守るように周囲にたむろするばかりで積極的に襲ってくる様子が無い。と言ってもすぐに攻撃用にMobがリポップするのだろうが……そうなる前に、何か手を考えなければならない。

「で、実際のとこどうなんだよ?何か見つけたか?」
「「つーん……」」
「おーい……」
「……はぁ、本当になーんにも、だよ」
相変わらずの二人の様子に流石にリョウが困り果てたような顔をすると、不意にアイリがどこか諦めたような、あるいは少しだけ満足したような顔でそう言った。

「Mobが邪魔なのもあるけど、急に暗くなりすぎたよこのステージ、おかげでフィールドギミック探そうとしても全然はかどらないんだもん」
「確かになぁ……」
「単なる演出かと思いきやついでに妨害も兼ねてるってか?んっとに良い性格してるぜこのダンジョン考えた奴……」
「……そうですよねやっぱり……」
何かが腑に落ちたような、納得したような顔でそう言ったシリカの顔を、リョウは肩を竦めながら覗き込む。

「お、やっぱお前もそう思ってたか?」
「いえ、それもなんですけど……確かに暗すぎると思うんです。あの松明」
言いながらシリカが指したのは、部屋の外壁部に沿うように設置された松明だった。

「そう言う話だな?……いや、それ以上になんか気になってんのか?」
「はい、その……あの松明、青くなる前と火の大きさはあんまり変わってない気がするんです。なのにあんなに暗くなるのって、演出だとしても変だと思うんです。それに、これって気の所為かもしれないんですけど……」
言いながらシリカは炎を指す指を、左右に動かして見せる。

「あの炎、場所によって火の大きさは同じなのに明るさが違う気がするんです」
「え……」
「マジか?」
驚いたようにリョウ達三人が一斉に周囲の松明に注目する。ややあって、唖然としたようにアイリが言った。

「ホントだ……シリカちゃん気の所為じゃないよそれ……」
彼女の言う通り、壁にかかる松明の明るさが、所に寄って明らかに異なっている個所が何か所かあった。炎の大きさは変わらないにも関わらず、不自然なほど光量の違うそれは、確かに何か意図的なものを感じさせる。

「なるほどな、そもそも下のMobもあれから目を逸らさせるための布石っツー訳か……よく気が付いたじゃねぇかシリカ」
「えっ!?え、えへへ……」
前衛に立っていた三人は周囲のMobの対処に一杯一杯になっていた所為もあるだろう、全体を見回しながら色々な役割をこなさなければならなかったシリカは視野が広くなりやすい条件が整っていた所為もあったかもしれない。ただ何よりも、リョウやキリトも知らない所で仲間達と沢山の冒険を重ねていたシリカ自身のプレイヤーとしての観察力が状況に光明を見出したような気がして、少し筋違いとは思いながらもリョウはニヤリと笑った。

「試してみる価値はありそうだ、シリカ、作戦はあるか?」
「え、えっと……探る方法は考えてあります、なので援護をお願いしたいんですけど……」
自分よりも圧倒的に高いMMOプレイヤーとしての経験値を持つ者達を窺うようにシリカは三人を見る、しかし当の三人はその様子を不思議そうな顔で見返した後、呆れたように少しだけ吹き出した。

「そこは“お願い”じゃないと思うな~?」
「あぁ、良い目の付け所だってみんな思ってるよ。自信持っていいと思うぞ、シリカ」
「あ……」
つられて安心したように微笑むシリカに、背中越しに促す言葉と

「どうしたよ、さっさと号令出しな、“リーダー”?」
「キュクゥ!」
「……!はいっ!」
相棒の声と共に、少女は大きく息を吸った。

「皆さん!これから周囲の松明に攻撃を仕掛けて反応を見ます!リョウさん達前衛三人は接近してくるMobの対処を、私とサチさんとアスナさんは、多焦点追尾型(マルチホーミング)系の魔法で、兎に角多くの松明に攻撃をお願いします!!」
「了解だ!」
「Ja(ヤー)!!」
「あいよっと」
「OK!」
「わかった!やってみるね!」
各報告からの威勢のいい返答にコクリと頷いて、最後にシリカはユウキをみた、相変わらず地面に拘束されたままのユウキは首だけよ横向けてこちらを不安げに見ていて、その顔を晴らすように、シリカは再び声を張り上げる!

「ユウキさん!直ぐに助けます!だからもうちょっとだけ待っててくださいね!!」
「……うん、お願い……お願いします!!」
小さな風切り音を響かせて竜使いの少女はその切先を振り上げる。不気味に揺らめく部屋の全てに宣戦布告するように、彼女は言った。

「反撃開始です!!」

────

ガシャガシャとやかましいスケルトンの足音と共に、悲鳴じみた高音の咆哮を上げるアストラルが迫りくる。歪なパーカッションとヴォーカルをひきつれて薄暗闇の中突き進むその軍勢を、キリトとリョウが真っ向から阻んだ。

「っと!ハイハイ押さないで押さないでっと!オラァ!押すなってんだよカルシウム共が!!」」
「シリカ!まだか!?」
詠唱中のシリカやサチたちの下へと突出したMobの集団を到達させないために前衛に立った二人が後方で詠唱するシリカに向けて呼びかける、詠唱を続けたまま困ったような顔をするシリカの代わりに直援に付いていたアイリが呆れたように怒鳴り返してきた。

「詠唱してるんだから聞いても返せるわけないでしょ~?大分来てるよ!後はボスの近くに在るやつだけ!」
「了解!」
「のんびりで良いぜ~」
そう言ったリョウによって軽く振り回された斬馬刀で、接近していたスケルトンが斬り伏せられると同時、振り回した勢いそのままに繰り出される中段回し蹴りが、そのスケルトンの後ろから剣を振り上げて接近していたもう一体の脇腹の骨を砕き散らす。突き込まれた槍を中ほどから叩き落して一息に間合いを詰めて切り込むキリトと共に、その表情には余裕があった。このボス戦の特徴として石化したボスの肉体に近づくほど、Mobの数が増える傾向があるらしい。少なくとも詠唱と発射に専念している限りは集団から溢れて突出し、偶々タゲを取ってしまった数体を「間引く」だけで良い為、先ほどまでの大攻勢を耐えきった二人にはさほど難しいことでも無い。

それから数秒、数えで三度目となる大規模な支援砲撃が二人の後ろから飛び出した。風と氷の砲弾が美しい放物線を描いて飛行し、狙いあまたずボスの左右や後方の壁面に灯る松明に着弾する。総計で12の砲弾が着弾した先、範囲型の者も含めてその範囲内に在った10の松明が一斉に揺れる。この部屋に在る松明はこれらで全てだ、もしシリカの予想が外れているのなら、あくまでもオブジェクトとしての役割しか持たない松明はそれらの攻撃の属性や威力に関係なくユラユラと燃え続ける……はずだった。

「あっ……!?」
突然、シリカが大きな声を上げた。砕けた石材から舞い上がった煙と、キラキラと暗闇の中でわずかな炎の光を反射して舞う氷の粒の向こうから小さな青い火の玉が飛び出した。

「おぉ!大正解!」
「や、やった……!」
「「ビンゴォ!!」」
キリトとリョウが大声でガッツポーズをするのに隠れて、シリカも小さく拳を握った。

飛び出した火の玉には、ボスや他のMobと同じく名前とHPバーが表示されている。固有名は、[Wisp of soul]──魂の鬼火。それまで一切微動だにしなかったそれが嘘のようにひゅるひゅると音をたててランダムな軌道を描きボスの本体である石像に向けて接近していくと、そのままその周囲を石像を守るようにくるくると回遊し始める。

「まだ解決には至らないか……!」
「けどまぁ、明らかにギミック一つ進行だ!とりあえず、次はアレに攻撃だろ!シリカ!!」
「ハイっ!サチさん、砲撃お願いします!」
「うん!」
広いボス部屋のなか、戦列の最後方に居るサチが再び詠唱を開始する。状況は前進した筈だが、Mobの動きに変化は無い。少々長めの詠唱は妨げられることなく完遂され、暴風に寄って編まれた緑色の砲弾が解放される。

風魔法 《ストーム・モーター》

着弾したその場所で、爆発的な暴風とかまいたちが吹き荒れる。周囲に居たMobの何体かがその薄緑色の刃に切り裂かれ、吹き飛ばされるのがメンバーの視界の奥に映った。しかし……

「……!ダメ……」
「成程、こういう対策もしてるわけか……」
肝心のボスと周囲のウィスプの周りだけが、その破壊的な暴風から逃れていた。破壊との境界になっているのはその周囲に展開された薄く光る透明な光の膜だ。その膜と内と外で、黒衣の魔女がもたらした破壊の爪痕の存在がはっきりと分かれていた。

「魔法スキル無効化……?」
疑問の声を上げるシリカの横で、アイリが一瞬眉を顰めると、ハッとした様子で言った。

「私、前にあれと同じようなボススキル見た事あるよ!完全に同じかは分からないけど、土魔法に物理攻撃無効系の壁あるでしょ、あれの逆タイプの防御スキル!」
「って事は……」
「魔法では破壊できずに物理攻撃だけで破壊するタイプの防壁か……!」
成程、ボスの近くから一向に動く気配の無い取り巻き達はそう言う事かとキリトはため息交じりに納得した。要はあのMob達の壁を突破しなければ、ボスの防壁は破壊できない訳だ。そしてその障害となる取り巻きの城壁ともいうべき肉壁は、現状のメンバーの火力を持ってしても適当に加減した攻撃で突破できる厚さではなくなっている。突破のためには、此方が有する火力を一気に、かつ一か所に集中投下する必要がある。

「一点突破掛けるとして、槍の穂先はどうする?」
「そりゃあ……魔法の防壁って言ってもそこそこの耐久値はあるだろうし、一番瞬間火力がある人が行くべきだろ」
「だよねー」
振っておいて初めから答えは分かっていたのだろう。楽し気にケラケラと笑ってアイリは手を伸ばす。つられるようにキリトもその背中に手を伸ばして──

「それじゃ」
「まぁ」
「リョウ任せた!!」
「兄貴任せた!!」
思いっきりぶっ叩いた。

「へっ……あいよ」
巨大な斬馬刀を担ぎなおすリョウの横顔は、見慣れた顔でニヤリと笑っていた。

────

「今残ってるMPで撃てる一番範囲と火力の在る砲撃をします!打った後しばらくMP回復に時間がかかるから、支援が止まります!」
「Ja!遠慮せずやっちゃってー!」
「アイリ、武器切り替えとけよ、今は範囲攻撃の方が入用だ」
「はーい」
軽い調子で返しながら、アイリは右手を振ってウィンドウを呼び出すと指が霞むほどのスピードでそれらを操作していく。およそシステムが認識するギリギリの速さで為されたそれが終わった瞬間、アイリの腰に在った片手剣の鞘が小さな音を立てて消えたかと思うと、代わりにそれよりも二回りは大きいかという刀身の太刀がその背に出現する。留め具から外れたそれを諸手に持って下段に構えたアイリは獰猛に笑って眼前の敵を見据えた。

「なんだ、やっぱ刀の方が肌に合うかよ?」
「どっちが、ってものじゃないけどねー。でも、カタナ好きだよ?綺麗だしよく斬れるしね……!」
武器スキルのModで取ることの出来る、クイックチェンジ。これを用いた状況による武器の使い分けが、ALOにおけるアイリの持ち味だ。
GGOに居た頃から、アイリは状況に応じて幾つかの武装を使い分けていた。はっきり自覚しているという訳では無いが、多分そもそものきっかけはアイリ自身のリアルが関係しているのだろうと、彼女自身は思っていた。
アイリこと天松美雨の生家には、母屋の他にやや古い道場がある。なんでも涼人と和人の実家である桐ケ谷家にもあるそうだが、話を聞く限り年代的には美雨の家の物の方が大分古い。何しろ祖母の話が確かなら何度か改装や修繕は重ねているその道場は戦前……江戸時代から存在しているのだ。明治維新以降に関東を襲った大震災や戦時中の大空襲の中も運よく残った古いその道場は、アイリの先祖が自らが収めた武術を収める為に作られたものだった。一応は古流武術に分類されるらしいその武術はアイリ自身も一応は母から教わっているのだけれど、現代の剣道や薙刀道と言った代表的な競技武術とは体の使い方やコンセプトが違い過ぎて、現実で役に立ったことは無い……ただその武術が、小太刀と刀の二種類を使う武術だったので美雨……アイリの中では、状況に応じて使い分けが効く武術と言うものが一つの武器を極める類の武術よりもポピュラーだった。

「で、どう切り込もっか?支援の着弾次第だけど、やっぱり硬い層が薄そうだし少し右側から行く?」
「……お前のそう言う興奮してる癖にフツーに冷静なとこ偶にこえぇわ」
「褒めるなよ~」
「こえぇっつったんだよ」
肩をたたくアイリにあきれ顔で応じるリョウにキリトがふと首を傾げた。

「そう言えば、アイリってGGOの頃からそうだったのか?」
「そうだぞお前、GGOでこいつとPVPしてみろ超怖えから」
「褒めるなってば~」
「こえぇってんだよ耳イカれてんのか」
「ひっどい!?」
とはいえ、別にVRゲームをするようになった当初からその考え方で戦っていたという訳では無くて……SAO時代はずっと片手剣を使っていたし、SAOサバイバーになった後に遠距離武器に興味を持って始めたGGOでも初めはライフルを中心に軽量の武器を用いての中距離におけるランガンをメインのスタイルに据えていた。特に考えがあったわけではなく……単純にそちらの方が良いと言われていたから。
右に倣えと言う訳では無いけれど、FPSはそういうものなのだろうと納得して始めて……ものの数日で飽きた。
SAOの時に使っていた片手剣に盾と言うスタイルは、盾はともかく剣は自分に合っていた、そしてライフルで遠くから撃つというスタイルが存外自分の趣味に合わないのだと言う事を、アイリはこの時初めて知った。それでもわざわざ買ってしまったゲームデータが勿体なくてなし崩し的に続けていたその頃に、とある動画を見た……相手の目の色が分かるような至近距離でハンドガンを振り回して体術と銃さばきで次々に敵を屠っていく男の姿が描かれたその動画で、アイリは銃を使った戦いにも近接戦と言う概念がある事を知ったのだ。
後にして考えてみると、銃を用いた近接戦という言葉においてアイリの理解は近代戦の常識から言えば大分ズレていたのだけれど……それが分かれば後は早かった。サブマシンガンやハンドガンと色々な武器を試して「離れた敵を倒せる近接戦」のノウハウを磨いて、けれど正面戦闘になってから接近する難しさを知って、現実的な所との兼ね合いの果てにクイックチェンジによるスタイルの切り替えにたどり着いた。
GGOにおいてはアサルトライフルとサブマシンガン&近接武装の組み合わせ。そしてここALOでは……取り回しのいい片手剣と、威力&範囲重視の太刀を用いた二面で勝負。本当は例の武術のノウハウが使える短剣なんかも使いたいのだけれど、其方はまだスキル上げの最中だ。

「ま、其れはともかくアイデアは正論だわな、入り口作るわ」
「OK」
「りょーかい!」
アイリが威勢よく還すのと同時、彼女の背後の暗闇からカラフルな閃光が伸びあがる。シリカたち三人が放った広範囲を攻撃範囲に収める魔法の支援砲撃が反撃の狼煙となって放物線を描き……着弾した。

「んじゃ、フォローたのまぁ!」
「オッケー!」
密閉された室内に反響する大音響の爆発音を聞きながら、攻撃の影響が消える前に飛び込んだリョウの身体が接敵する瞬間の踏み込みで急旋回する。横一線に延ばされた斬馬刀が暴風を引きながら攻撃の軌道に入った瞬間、刀身が緑色に輝いた。

「セェ羅あああああああぁァァァァァァァッッ!!!!」

薙刀 範囲連撃技 《乱嵐流(らんらんりゅう)

緑色の尾を引きながら旋回するリョウの身体が周囲に居たエネミーを片っ端から吹き飛ばす。爆進する死の旋風は周囲に砕け散ったモンスター達のポリゴン片を帯びながら数メートルも進んで、制止すると同時に開いたMob達の穴に立て続けに二つの影が駆けこんだ。

「こっちで動きを止める!とどめ頼む!」
「おっまかせ!!」
「フッ!!」
黒い人影が空中に向けて跳ね上がる。勢いよく前方宙がえりへと移行したキリトが逆手に持ち替えた剣が青紫色のスパークを放ちながら着地と同時に地面へと突き刺さった。

片手剣 重範囲攻撃技 《ライトニング・フォール》

突き刺さった剣から周囲に向けて奔った紫電が周囲の骸骨やミイラにまとわりつき、付与された麻痺効果によって小刻みに痙攣したMob達が一斉に硬直する。HPを半分ほど削られたMob達が壁になり、二人に近づくMobの波を押し止めた隙に後に続くアイリが走りこんだ。

「ふっ……」
刀身の太刀を正面から腰に回すように大きく引く。蒼白のライトエフェクトが刀身に灯るのと同時、一歩踏み出しながら裂帛の気合と共に少女が叫ぶ。

「飛べッッ!!!」

カタナ 範囲連撃技 《大旋風車(おおつむじかざぐるま》

アイリの姿が一瞬霞み彼女の周囲に蒼色の閃光が奔ると、蒼色の風が彼女の周囲を取り巻くように舞い上がる。その風に吹き飛ばされるように、彼女の周囲に居たMob達が一斉に高く吹き飛んだ。
水平の一閃に見えた彼女の斬撃は、実は二連撃の打ち上げ技だ。一撃目に下段を繰り出して足を崩し、浮かせた身体を二撃目で爆風と共に真上に向けて吹き飛ばしているのである。

「もいっちょ……!」
そして跳ね上げたMob達が地面に落下するよりも前に、硬直から回復したアイリは次のソードスキルの構えに入る。肩に大きく引いて構えた姿勢の太刀に今度は薄緑色の光が灯り、彼女の目線の高さまで跳ね上がった敵の身体が落下してきた……瞬間。

「だいこんおろし!!」
「何言ってんだお前」

カタナ 範囲連撃技 《大巻颪(だいかんおろし)

先程とは真逆、下に向けて吹き込む突風と共に繰り出されるこの水平切りは、周囲に対して地面に圧し付ける事による移動阻害効果を発生させる。しかしそれはあくまで地上の敵に使った場合の話……では空中の敵に対して使用するとどうなるかというと?

「びたーん!」
下方向に向けて突然吹き付けた突風に圧され、アイリによって斬られダメージを負った敵が猛烈な勢いで地面に対して叩きつけられる。僅かに残ったHPをその衝撃で何体かがHPを完全に削り切られて消滅した。

「いいよリョウ!」
「はいよっと……!」
景気よく響くアイリの声に背を叩かれるように、少し長めの技後硬直から既に回復したリョウが再び一歩前へ。構えは上段、横にした状態で大きく振り上げた斬馬刀を頭上で急速に旋回させる。回転する刃がライトイエローに発光し、踏み出すと同時にスキルが発動、寸前までとは比較にならない推進力で以って蹂躙する突撃が前へと躍り出た。

薙刀 九連撃技 《斬傘車(きりがさぐるま)

()ぉけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぃ!!!!」
侵攻する彼の進路上に居るMob達がその刃に触れた傍から弾き飛ばされていく。黄色の光が不規則な円形の螺旋を描きながら彼の後を追って、分厚い防衛網の終わりが漸く見えたかと言う頃……

「憤ッッ!!!」
終いに正面を一閃。前方に居た残る敵をその一撃で以って吹き飛ばし、結局、進路上に居た全ての敵を消滅させて死の突進はようやく終わる。
恐るべき突破力である其れはしかし、同時に技後硬直が長くしかも相手に背を向けて制止する事に鳴る諸刃の剣だ。或いは本当の人間が相手であるならばその迫力と威容に怯み体制を立て直す暇もあるのだろうが、相手はプログラムによって動くモンスター達である。吹き飛ばされた仲間の事も、次にそうなるとも知れぬ自分の身も特に意に止めた様子も無く、背を向けて制止した目標に対して一斉に殺到する。

「キリト!アイリ!」
それを背にしながら男は、“右足を振り上げた”。

「ちょっと“跳べ”!!」
「っと!」
「わっ!」
言われるまま、キリトとアイリが出来る限りの筋力で以って空中に身を躍らせる、直後。大地が震えた。

足技 範囲妨害技 《大震脚》

一定以下の装備重量の対象が範囲内に居る時一時的に相手を拘束、あるいは強制転倒させるこの技は使用者の筋力値に寄って範囲と対象となる重量の範囲が決まる。リョウの筋力値によって放たれたそれは最早彼自身を震源とする一種の地震と化していた。彼の周囲だけではない、防衛線を構築していたMob達が片端から一斉に足を取られ地面に倒れ倒れた仲間の上に別のMobが倒れ伏す。
そして後方で起きているその惨状を確認する事も無く、リョウは再び地面を蹴る。

「(さぁって)」
右手に携えた斬馬刀をくるりと180度回転させる。右を上手に左で柄の下部を受け止めそのまま上段に大きく振り上げる。アヌビスとウィスプ達を覆う光の膜まで三歩の距離、振り上げた刃が紅蓮に染まり──

「……割れろ」

薙刀 重単発技 《剛断》

薄く発行する光の膜と紅蓮の光を放つ重撃が激突し、一瞬互いの力が拮抗する────そして次の一瞬で、それは瓦解した。

「────ッ!!」
声にならない絶叫を上げて、アヌビスの身体へとウィスプ達が還っていく。右の肩口から胸までをバッサリとそれも無防備に斬られ、アヌビスのHPが目に見えて大きく減少した。ただ同時に身体の自由を取り戻した狗頭の守護神は石化した後も手放すこと無く携えていた三叉槍を構え直すと、石化前と変わらぬ神速で技後硬直によって動きを止めているリョウに向かって突き出す。先ほどのように大震脚に寄って妨害しようにも、ボスモンスターのように元来大型の体躯を持つモンスターに対しては効果が薄い為動きを止めるのは望み薄である。しかして自身に先端を向けるその穂先を一瞥もせず、リョウは笑っていた。
呼吸一拍、吸った息は声となり……吐き出す。

「“ユウキ、来い”!!」
「よっ……くも……」
青白い光が、宙を割いた。地上を移動するのではどうあがいても詰め切れない距離を紫色の燐光をまき散らして疾駆した影が、驚異的なスピードの上段斬りで以って、確実にリョウの身体を捉えるはずだったアヌビスの三叉槍を叩き落す。

「やって……くれたなーー!!」

片手剣 最上位連撃技 《ノヴァ・アセンション》

殆どの剣技に対して先手を取るとされる片手剣最速の初撃に始まる超速の連撃が、アヌビスの全身を捉え最後の一撃がその巨体を大きく後退させる。と同時に飛び込んできた小柄な影……ユウキの背に生えた翅を包んでいた燐光が消滅し、リョウの目の前に着地した。

「よぉ、よくわかったじゃねえか」
「へへー、“すっ飛んで来い”って言われたもんね、っていうか、言われるまで忘れてたんだけど」
ALOの妖精たちには、それぞれ種族ごとの特性として個別の能力を有している。その中でも闇妖精であるインプは初期能力として暗視能力と短時間の暗中飛行能力を有しているのだ。ALOにおける妖精の飛行能力は、日光あるいは月光からくる魔力をリソースにしているという設定になっている為、通常屋内ダンジョンの内部や地下世界であるヨツンヘイムでは飛行不能に陥るという設定なのだが……そのインプが有する初期スキルと、スプリガンの持つトレジャーハントの上位スキルだけは例外なのである。その能力を使用すれば一瞬で距離を詰められるとユウキが気付いてくれるかどうかについては、一種の賭けだったが……。

「そいつはまだまだ仕様に疎い証拠だな、ゲームの仕様を使いこなしてこそゲーマーってもんだぜ?」
「はーい」
クスクスと笑いながら先程までとは打って変わって楽し気に構え直すユウキの隣に並んで構えながら、ニヤリと笑ってリョウは問い掛ける。

「で?スッキリしたかよ?」
「うん!すっごくした!!ありがとリョウ!」
「そいつは結構。さてと……んじゃあ、神様──」
何とか体制を立て直し槍を構えるアヌビスに、背丈の大きく違う二人の人影が揃って剣先を向ける。もう同じ手は喰らわない、それ以前に同じ手など使わせないと言わんばかりに殆ど削り切ったHPを見ながらも油断の無い空気を纏いながら、男は告げた。

「──旅立つ準備は出来たかね?」
 
 

 
後書き
はい、おつかれさまでした!

RPGって色々なギミックがありますよね。特にダンジョンにあるギミックなんかはまだ考える余裕があるので楽なんですが、難しいのは戦闘中に解かなければならないギミック。相手の性質や設定に対する理解が深くないと解けないようになっているものもあるので、ダンジョンアタックではNPCの話などもちゃんと聞いて、情報を集めるようにしています。

ちなみに今度アニメ化が発表されましたSAOPなんかだと、そういう部分がかなり凝った描写で文章化されているので、おすすめですよ!

ではっ! 
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