魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Saga13戦導の武神~King of armed force~
†††Sideアイリ†††
第52無人世界トライキスでの一件から2ヵ月。あれからも管理外世界で“T.C.”のメンバーと交戦しながらも、魔力を持った物品や動物の防衛に果たした。回収、または預かった物品は魔法もスキルも通用しない(対魔術もマイスター達が施した)本局の保管庫に預けてるから、裏切り者が出ない限りは安全だ。
でも動物たちはなかなか護りきることが出来ない。アイリたち特騎隊が居なくなった後で現場に戻ってきたメンバーや新手によって魔力を奪われるってパターンばっかり。その世界の固有種が多い所為で本局や管理局施設に保護も出来ないから、どうしても特騎隊がその世界を離れたらやられるわけだね。
(この戦いもいつになったら終わるのやら・・・)
いまだに“T.C.”の全容は見えてないし、メンバーの中には魔導師じゃ絶対に勝てない魔術師がいるし、マイスターが人間だった頃に生きてた魔術師が使ってた魔術の使用者が在籍してるのも厄介だよね。葬柩王フォード。夢幻王プリムス。マイスター達“アンスール”と同じ、王族の魔術師だ。ただ、あの2人が生まれ変わりかクローンか、そのあたりはまでハッキリしてないけど、マイスターはシャル達みたいな生まれ変わりって考えてる。
(もう1つ、考えられることがある。100%ありえないって解ってるけどね・・・)
マイスターの創成結界の1つ、“英雄の居館ヴァルハラ”に登録されてる“異界英雄エインヘリヤル”だ。でもマイスターがそんなことする必要性は全くないし、何よりマイスターが判らないわけないよね。“エインヘリヤル”を召喚する際にはいろいろと魔術を行使しないといけないもん。もしマイスターが知らないうちに操られたりして“エインヘリヤル”を召喚したとしても、マイスターなら“エインヘリヤル”だって気付く。
(マイスターが操られるなんてことも絶対にない。アイリが毎日付いてるんだから)
それが判ってるからこそマイスターも、生まれ変わりっていう結論を受け入れた。それはそれで奇跡的なんだよね。人間だった頃のマイスターと関わりの深い人間の生まれ変わりがこんなに多いなんて。誰かが仕組んでるって思えちゃうよね。
「アイリ。次の仕事のミーティングだ、行くぞ」
「ヤー!」
特騎隊のオフィス近くの休憩室で休んでたところ、マイスターが呼びに来てくれた。空になった紙コップをゴミ箱に入れて、マイスターの右腕にギュッと抱き付いた。ここがアイリの特等席なのだ。マイスターはそんなアイリを振り払うことなく、2人一緒にオフィスへ向かう。
「マイスター。トーマがフッケバイン一家に拉致されて、現場に居合わせたシグナムとアギトお姉ちゃん、アリサが傷を負ったって話だけど、大丈夫かな・・・?」
はやてを部隊長とした特務の6番、特務六課はフッケバイン一家の逮捕を任務にしてる部隊だ。そんな六課に所属してるシグナム達が第23管理世界ルヴェラで捜査中、連中と遭遇したみたい。魔導師なシグナム達にとって連中のエクリプスウィルスによる魔力分断は毒のようなものだけど、すずかたち第零技術部が開発してた魔力を使わない装備のおかげで渡り合えたようだ。
「スバル達が少し心配だな。ロッサの話だと、トーマがエクリプスウィルスに感染したそうだ。だからフッケバインに拉致されてしまったわけだ。手を貸してやりたいが、こちらはこちらで手一杯だからな」
トーマ、トーマ・アヴェニールは、スバル達ナカジマ家と懇意にしてる男の子で、フッケバイン一家(連中は偽者の手によるものだって言ってたけど)によって故郷を滅ぼされた過去を持ってる。マイスターの数少ない同性の友達だ。2ヵ月くらい前から始めた、デバイスの“スティード”との旅は楽しいみたいで、旅先の写真をよく送ってくれてるんだよね。そんなトーマが感染、そして拉致なんて。マイスターも内心穏やかじゃないと思う。
「(それでもアイリ達に出来ることはほとんどない。トーマやフッケバイン一家のことは、はやて達を信じて任せるしかない)・・・うん。物は護れてるけど、生き物はその場では護れても最後には魔力盗られちゃうしね」
「その辺りは上の方も大目に見てくれている。あとはメンバーを1人でも多く逮捕して、そこから本拠地やリーダーを割り出して、そして逮捕しないとな」
「うん、だね」
オフィスに着いて、マイスターは副隊長デスクに、アイリは自分のデスクに移動。近くのルミナ達とお喋りしながら待つこと数分。シャルが「はーい。全員着席~」ってオフィスに入ってきた。自分の部隊長デスクの前にまで来て、「次の任務先が決定した」ってみんなのデスクにモニターを展開。
「今回の目的は、こちら! クリスタルスカル!」
モニターに表示されたのは、水晶を頭部の骨の形に形成した物だった。他のスタッフから「綺麗!」とか「なぜ骸骨?」とか「高そう・・・」とか、いろんな感想が挙がった。で、マイスターは「まさか、次の任務先は・・・地球か!」ってシャルに振り向いた。
「残念ハズレ! 地球のクリスタルスカルも有名だけど、魔力の欠片も無いことは子どもの頃から知ってる。でしょ?」
「それはまぁそうだが・・・。つまらんなぁ」
「はいはい、不貞腐れない。みんなにはまだ伝えてなかったけど、現在本局、各支局、各地上本部の観測室が改めて無人世界を精査して、強大な魔力を保有してる物品の有無を再調査してるの。第52無人世界トライキスも以前に調査されたけど、神器を確認できてなかった。つまり調査が足りなかったってこと。それを踏まえて微弱な魔力反応でも感知できるように頑張ってくれてる。で、そのおかげで第1無人世界ファーストから魔力反応を出来た」
ファースト。名前の通り1番目に指定された無人世界だ。本局とミッドの間に位置してる世界で、シャーリーンで出なくても本局のトランスポートで移動できる距離だ。ただ、「いきなり無人世界? 管理外世界はまだたくさんあるけど?」ってセレスが言うように、昨日まで行ってたのは第58管理外世界アーガスなんだけど、管理外世界は現在86番まである。その中に魔力保有物や生物は居るはず・・・。
「管理外世界の50番台後半からは本局との距離がありすぎる。その管理外世界に近い局施設を利用することは出来るけど、最終的にはシャーリーンで移動して、トランスポートで入界することになる。その時間が無駄すぎるってわけ」
「残る管理外世界に行くための航程はどれも1週間以上のものばかりだな。往復を考えれば、確かにT.C.を自由にさせてしまう時間を多くしてしまう。それだけは避けないとな」
「そういうわけで、上はこう考えた。犠牲もやむなしと。近い距離にある無人世界での決戦を、上は望んでる。わたし達はその期待に応えないといけない。その初戦が第1無人世界ファーストで新たに確認されたクリスタルスカルの確保」
シャルの話にアイリもそうだけど、マイスターやルミナ達も「確保?」って聞き返した。モニターにクリスタルスカルが映し出されてるってことはソレを撮影した局員が居て、実物の前に立ったってことだ。その局員が確保すればよかったのにって話になってくる。
「触れなかったそうよ。魔法を駆使して触れようとしてもダメ。スキルでどうにかしようとしてもダメ。魔導師でもスキル保有者でもない、魔力非保有の局員でも触れなかったみたい。つまりは触ることの出来る対象じゃなかった。じゃあ誰が触れる?」
「魔術師・・・!」
「そういうことよ、ミヤビ。このクリスタルスカルは魔術によって作られたと見ていい。で、神秘に反応して触れるようになる・・・と考えられる」
「ねえ、ルシル。魔術によって作られたんなら神器よねコレ?」
「うーん・・・。俺の知識の中には無いし、パッと見だと何とも言えないな。ただ、さほど驚異のある物じゃないと思うぞ。ま、実物を見て感じてからだな」
クラリスにそう答えたマイスターは手元のキーボードを操作して、「では本任務の内容を確認する」って、みんなのモニターにスケジュールを表示させた。スケジュールによれば、これからマイスターたち前線組と、後衛組の内アイリとセラティナがトランスポートを使ってファーストへ移動。そこでクリスタルスカルを回収、そして帰還だ。順調に進めば30分も掛からない。
「ではこれより特騎隊は、第1無人世界ファーストにて任務を遂行する。オフィスに残るスタッフは、各自の仕事を片しておくように」
シャルの指示にアイリ達は立ち上がって「了解!」って敬礼した。
†††Sideアイリ⇒ルシリオン†††
本局のトランスポートからここ第1無人世界ファーストへとやって来た俺たち特騎隊。俺が人間だった頃はこの世界は防衛衛星だったな。当時は次元航行船なんて便利な技術は無く、転移門での世界間移動しかなかった。だから自世界と多世界の間に侵略阻止用の衛星を置くことは常識だった。
(今思えば、魔術の力で他所から衛星を軌道上に引っ張ってくるなんてふざけた話だな)
「「お疲れ様です! お待ちしておりました!」」
そんな俺たちを出迎えたのは本局武装隊。部隊番号は確か3391。挨拶をくれた隊長と副隊長に俺たちも「お疲れ様です!」と敬礼を返した。クリスタルスカルの監視部隊として派遣されており、俺たちが回収することで任務を完了とする隊だ。
「ではご案内いたします。こちらへ」
隊員2名がクリスタルスカルへの案内をしてくれるようだ。彼らの視線の先には人ひとり入れるかどうかの小さな穴。穴の周囲には砕かれた岩の破片が散らばっている。どうやら岩が入り口を防いでいたようだ。
「ナイト2、ナイト6、エイダー2、エイダー4。4人に回収の任を命じる。残りはわたしと共に周囲を警戒」
俺とミヤビとアイリとセラティナが回収班、シャル達が入り口の防衛班になるようだ。俺たちはシャルに「了解!」と応じ、回収班である俺たちは、案内役の2人に付いて穴の中に進入する。縄梯子で深い深い穴を降り、人の手によるものではない天然の地下道へと到着した。案内役の2人が魔法で明かりを作ってくれていることで、真っ暗になることはなかった。
「ルシル副隊長・・・」
「ああ。地上に居た時にも僅かに感じ取れていた魔力反応が、地下道に降り立ったらさらに強く感じられるようになった。大物だぞ」
「こちらです。上と下、両方に注意しながら付いて来てください」
地下道を進むこと3分ほど。ようやくたどり着いたのは何らかの儀式場。最初の調査に設置された物か、魔力灯が壁面に沿って数基とあった。
「動物の骨だけじゃなくて人骨まで・・・」
「無造作に積み重ねられてるってことは、生け贄とされたのかもしれませんね」
セラティナとミヤビが眉をひそめた。それほどまでに数えきれないほどの骨が四方に山となっていた。生け贄に捧げられた人たちとすればとんでもない悪行だ。俺が人間だった頃は生け贄儀式は普通にあったから、2人ほど怒りを覚えない。
「こちらが回収目的のクリスタルスカルです」
「私たちではやはり・・・触れません」
もうボロボロな祭壇の上に鎮座しているクリスタルスカル。隊員の1人が触れようとすると、見えない力場で手が押し返される。セラティナがその様子に「触れないようにするための結界だね」と、魔術師化したうえでクリスタルスカルに手を伸ばした。すると隊員とは違い、彼女は何の抵抗も受けずに触ることが出来た。
「おお!」
「さすが特務零課の魔導師! こんなにもあっさりと!」
「セラティナ。とりあえず結界で護っておいてくれ」
「了解」
――小型運搬領域――
桃色のキューブ状の結界に覆われたクリスタルスカルが、手の平サイズにまで圧縮された。セラティナは「ルシルが持っておいて」と俺にキューブを差し出してきたから、「判った」と受け取る。防護服のポケットにしまい込み、「さぁ戻ろう」と告げた。
「呆気なかったですね。T.C.の妨害などがあると思っていましたが・・・」
「ああ。しかし油断はしないように。待ち伏せは考えられるからな」
「了解です」
儀式場を出、来た道を歩いて戻っていたそんなとき、ドォーン!と頭上――地上から響く轟音と衝撃が三度、俺たちを襲った。俺はすぐに「こちらナイト2! ナイト1、状況は!?」と通信を繋いだ。明らかに異常事態、敵襲だ。やはり待ち伏せ、もしくは遅刻。どちらにせよ“T.C.”がやって来たのだろう。
『こちらナイト1! T.C.の幹部と思しき魔術師が出現!』
幹部。それは特騎隊内部で決めた事柄で、フォード(仮)、プリウス(仮)の2人のように、幻術魔法などで個々人のトラウマの姿に見えない、特別なメンバーのことを指す。つまり今、地上でシャル達と交戦している“T.C.”メンバーも、大戦当時に活躍した魔術師の生まれ変わりかもしれない、ということだ。
『こいつ、マジで強い! 出来るだけ早く戻ってきて!』
「わ、判った! すぐに向かう!」
シャルとの通信を切り、俺はアイリと「ユニゾン・イン!」を果たし、ミヤビも火力と速度を両立するべく炎鬼の赤い角と風鬼の翠の角を額から生やした。セラティナも魔術師化を保ち、いつでも戦闘できるようにしている。
「すまない。私たちは先行する」
「「はっ! ご武運を!」」
敬礼で見送ってくれる2人の隊員にこちらも敬礼で返し、俺たちは地下道を走り、地上へ通じる穴を梯子ではなく飛行魔法で一気に通過する。そのまま上空へと上がり、戦場の状況を確認。武装隊は避難し、シャル達がたった1人の魔術師を相手に戦闘中。
「おいおい。やっぱりお前の生まれ変わりもいるのか・・・!」
『マイスター? あの人、知ってるの?』
シャル達と交戦している魔術師の外見が、俺の知る男のものと完全に一致。使っている魔術も判る。四王のうち3人目の確認だ。ワックスで固めたきっちりとした七三分けの黒髪、柔和な赤い瞳。首の下から膝上までを覆う黒いタイツの上にキトンを纏っている。何も履かない素足。やはり間違いない。
――闇よ誘え汝の宵手――
とにかく、シャル達が一方的な防戦に追い込まれている戦況を一度リセットする必要がある。そのために発動したのは、対象の影を利用して作る平たい影の手カムエル。利用する影はもちろんあの男のもの。自分の足元にある影から伸びる触手に拘束されたあの男は、「むお!? この魔術は・・・!」と声を上げ、魔力反応を探知して空に居る俺を見た。
「前世の記憶が表面に現れているのなら、貴様と俺の相性の悪さは理解できるだろう! レオン・レイ・ヴァナヘイム!」
あの男、レオン目掛けて急降下しつつ起動した“エヴェストルム”を神器化させ、腹で叩きのめそうと振りかぶる。レオン(仮)は「ああ、解っているとも! ただし!」と全身から赤褐色の魔力を放出してカムエルを消し飛ばした。
――エヘクトル――
魔力波に煽られて体勢が崩されたところで、右腕全体に魔力付加した状態での正拳突きを繰り出してきたレオン(仮)。“エヴェストルム”と奴の拳が激突して、「くぁ・・・!」突進からの一撃であったにもかかわらず俺が弾き飛ばされてしまった。
――ピオネロ――
――コード・ケムエル――
空中で体勢を立て直すより早く奴の突進が俺を襲うが、アイリが『させない!』といくつもの円いシールドを複数並べた防性術式を展開。レオン(仮)の肩が激突。アイリのシールドは一瞬で粉砕されて、盾として構えた“エヴェストルム”とも激突。そして砕かれた。
「ぅぐ!」
『マイスター!!』
一切の防御を無視して突き進んできたレオン(仮)の突進。ギリギリで全身を魔力で覆うパンツァーガイストを発動できたから直撃は免れたがトラックに撥ねられたかのように弾き飛ばされ、さらに地面をゴロゴロと転がる。そんな俺を「ちょっ、大丈夫!?」とルミナが抱き止めてくれたことでようやく止まった。
「あ、ああ、なんとか。あぁくそ。たった一撃で全身が軋む」
「アイツのこと知ってる風だったけど、アイツのこと教えて」
ミヤビとセラティナも戦闘に参加し始めたが、レオン(仮)はミヤビの一撃を受けてもよろけもせず、セラティナの結界を膂力のみで粉砕している。シャルの“トロイメライ”も素手で殴り返し、セレスの凍結すらも通用せず、クラリスの召喚獣・黒馬アレクサンドロスを片手で投げ飛ばす。フォード(仮)と違って本当にオリジナルと戦っているような感じだ。
「レオン・レイ・ヴァナヘイム。自己バフで完結する戦闘スタイルの武闘家だ」
『あの筋肉、まるでドラゴ〇ボールの変身後のブ〇リーだよね』
「ぶふっ。コホン。中遠距離の攻撃手段を一切持たず、己の肉体のみで戦う魔術師だ。高位の神器クラスの硬度と神秘レベルにまで鍛えられた鋼の肉体、バフによる自己強化。今は持っていないが高位神器による徹底防御。その強さからして戦導の武神、武勇王と称された、人類最強の肉体と畏怖されていた。生半可な魔術も神器も通用しない、まさしく怪物だった男だ」
アイリの例えに噴き出してしまったが咳払いして仕切り直し。武勇王レオンは、四王の中で最強と言っても過言じゃなかった。真っ向から戦えるのは俺たち“アンスール”の中でも俺、ステア、ジークのみだったからな。
「そこまで言う? あなたのオリジナルやその仲間は、どうやって倒し――」
「休憩中申し訳ないが、行かせてもらうぞ!」
振るわれる大きな右拳から逃れるために俺とルミナは別方向に後退し、ただの魔力付加パンチで強大な魔力爆発を起こし、巨大なクレーターを作るレオン(仮)よりさらに距離を開ける。その様にアイリが『はあ!?』と驚きの声を上げた。
「くそが・・・! 記憶・体格・魔術だけでなく、その火力まで受け継いでいるとはな!!」
降り注ぐ瓦礫や砂塵で視界が悪くなる中、奴が「リターンマッチだ、神器王!」と再度俺に向かって突っ込んできた。
「おい! T.C.は局員を襲ってはいけないんじゃないのか!」
――屈服させよ汝の恐怖――
「しかしお前は持っているのだろう? 我らの目的を! それをいただこうと思うのだ!」
レオン(仮)の両側から出現させた巨拳イロウエルで挟撃するが、奴はデコピン1発でイロウエルを粉砕。両手が左右に開いた今、「シーリングバインド!」を同時に13個と発動して奴を拘束する。だがすぐにバインドが引き千切られ始めた。
「今のお前と我との相性など在って無いようなもの! かつてこの身を貫いた神器の雨! それを使わぬお前なんぞに負けはしない!」
「当たり前だ! 神器を使う上級術式はどれも殺害用のものばかり! 使えるものか!」
――深淵へ誘いたる微睡の水霧――
レオンはかつての大戦で、俺が殺した相手だ。戦争じゃないんだ。殺す必要もないし、殺すわけにもいかない。目の前の男はあくまで前世の記憶に体を使われているに過ぎない。捕えてもまた逃げられるだろうが、今は無力化さえすれば俺たちの勝ちだ。というわけで、選んだ術式は下級水流系の対象を強制的に眠らせる霧を発生させるラフェルニオン。
「セラティナ!」
「うんっ!」
――一方通行の聖域――
残るバインドも4つまで減っていたところでセラティナが結界を展開してくれた。即効性のある眠りの霧と共に結界に閉じ込められたレオン(仮)は、「おのれ・・・」とウトウトし始めた。さすがの奴も眠気と魔力生成阻害の結界の中では堪らないだろう。
「大戦時は実行する必要もなかった、神器王と結界王による生け捕りコンボだ」
――撒き散らせ汝の疫病――
さらに対象を病気に罹らせる霧を発生させるハダルニエルを結界の中に充満させる。とりあえず、しばらくの間は戦闘不能になってもらおう。今回は上手くいったが、次はもっと警戒してくるだろうからこのコンボが通用するとは思えない。なら少しでも前線に出る機会を減らしてやりたい。
「あらあら。あの木偶人形使いとは違って、レオン陛下がこんな間抜けを晒すとは思いもしませんでしたわ」
「来たな、逃がし屋!」
レオン(仮)にボロボロにされてへたり込んでいるシャル達の間を優雅に歩いてくる少女、“T.C.”の幹部と認定しているプリムス(仮)だ。これまでに俺たちは“T.C.”メンバーを捕獲し、連行できるところまで行ってはプリムス(仮)の幻影術式で逃げられている。
「し、心配ご無用、プリムス陛下・・・。この程度で、わ、我は墜ちんよ・・・」
ボギッと自らの指をへし折るレオン(仮)はそれで眠気を吹き飛ばしたのだろうが、すでにいくつかの病気に罹っている。どんな病状化はランダムであるため判らないが、先程までのような圧倒差はないはずだ。
「それは頼もしいですわ! では少々見学をば」
「ああ、見ていたまえ。必ずやターゲットを持ち帰ろうぞ!」
筋肉を膨張させて俺の仕掛けたバインドを粉砕し、新たにバインドを発動するより早く奴は結界を殴って破壊、再び自由の身になった。
――パトリオタ――
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
全身から冗談じゃないレベルの魔力を放出するレオン(仮)に、俺たちは固唾を吞んだ。みるみるうちに奴の顔色が良くなり、放出されていた魔力が抑えられていく。そして魔力は薄っすらと奴を覆った。
「仕切り直しか・・・」
『だね』
骨折すらも治したレオン(仮)と、俺は改めて対峙した。
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