魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Saga12幼い狂気~Queen of illusion~
†††Sideイリス†††
わたし達の城から逃げてくれやがった“T.C.”のメンバーを追ってたどり着いた第52無人世界トライキス。無人世界の1つと現在は定められてるけど、ルシルが“T.C.”に打った発信機の信号をたどった先に在ったのは山を削って造られた宮殿跡。何があったのかは知らないけど、かつては人が住んでいた世界なんだ。
『近いぞ。直線距離にして100mもない』
そんな宮殿跡の地下へと降りたわたし達は、ルシルのナビに従って真っ暗闇なフロアをコソコソと移動中。100mも十分遠いと思うけど、魔導師や魔術師となればその距離は近いも遠いもなくなる。魔力反応はどうしても発しちゃうし感知されちゃうしね。
『その角を曲がればさほど大きくない部屋に出る。その奥だ』
『全騎、交戦準備。セラティナは全力で結界を』
わたしの指示に『了解!』って応じてくれたみんなの顔を一度見てから、角からバッと飛び出した。短い廊下の先に、ルシルの言ってた小さな部屋があったんだけど・・・。真正面の壁には大きな穴が開いてた。
「馬鹿な・・・! そんなところに隠し通路なんて・・・!」
思念通話じゃなくて口で驚きの声をあげたルシルに、『ちょっ、ちょっ、静かに!』わたしは慌ててルシルの口を手で塞いだ。
『す、すまん。いやしかし・・・こんなもの俺の――オリジナルの記憶にないぞ』
『ん? オリジナルの記憶ってことは、ここは魔術時代の遺跡みたいな感じなの?』
『あ、ああ。騎士シャルロッテや、アリスも訪れたことがある世界だ』
セラティナの疑問への返答に、わたしとセラティナは『へぇ~!』って感嘆。シャルロッテ様も訪れてるのか~。長い休みを取れるようになったらまた来てみようっと。
『とにかく、オリジナルの記憶にこんな隠し通路は無かったから、その先がどうなっているかは俺にも判らない。気を付けて行こう』
そう言ってルシルは率先して先頭に立ってくれた。クリアリングを行いながら隠し通路を進み、『あれが最後の角だ』いよいよ目的の場所の前に到着。それぞれデバイスを握り直し、『行くぞ!』の掛け声で同時に角から飛び出す。
「居た!・・・けど」
破壊された鉄扉の奥に拡がる部屋の中心に、わたし達が捕らえてた緑髪のアイツは確かに居た。だけど様子がおかしい。うーうー呻いてるし、アイツの足元には、わたしのトラウマである「プラダマンテ・・・!」の姿をした連中が何人も倒れ伏してるし・・・。つまり“T.C.”のメンバーだ。誰があんな真似を? 決まってる。理容剃刀のような長方形の刃と、ドリルみたいなスパイクを有する槍斧を持つアイツだ。
「あ、ありえない・・・なんで、その神器がこんなところにある・・・!?」
「ルシル・・・?」
アイツの持つ槍斧を見て顔を真っ青にしたルシル。それだけでヤバい物だってことは察することが出来た。アイツがこっちに振り向こうとしたからわたし達は角に隠れてやり過ごす。ルシルは“エヴェストルム”を待機携帯の指環に戻して、『俺が奴を墜とす。みんなは他を頼む』って言った。
『他って・・・』
『他のT.C.は気を失ってるっぽいけど・・・』
『もしかしてフリ? 実は起きてるとか・・・!』
『さすが犯罪者、汚い』
『いや違う。奴が持っている神器は、族化傀軍ターイラッハ・イーンアブトゥの親器であるティシュミホールと言うんだが・・・』
『神器・・・! ていうか親器? じゃあ子器もある・・・?』
『ああ、ある。ターイラッハ・イーンアブトゥは、親器ティシュミホールよって子器ポースツァを生み出すという能力を持った魔造兵装8位だ』
『子器を生み出す? 具体的にどうやって?』
『神器としての能力発動中にティシュミホールに傷を付けられたら、傷を負わされた人間、あらゆる生物の意識が、ティシュミホールと所有者の支配下に置かれる。神器ターイラッハ・イーンアブトゥ、家族感染という銘の通りだな。切ってしまえば、あの神器の神秘以下のものであれば例外なく操り、家族を作る。・・・正直、こんな高位の神器が残っているなんて想定外だった。セラティナの結界もあまり役に立たないかもしれない』
『そんな、アリスの結界が・・・』
『そんなヤバい神器とどう戦えって? ルシルがビビるくらいだから、あの神器の持つ神秘は私たちより上なんでしょ?』
『親器のティッシュ?はすごいのは判ったけど、子器のピッツァ?はどれだけすごいの?』
『ティシュミホールとポースツァな、クラリス。親器については俺が何とかする。俺の神秘と神器なら対抗できる。子器のランクは、ただの武器であれば番外位クラスの神器になり、元が神器であれば神秘が格落ちする。実はそんなに高いわけじゃないから、みんなの魔術と神秘で対抗できるはずだ』
『ルシル副隊長が戦ってる間、私たちはどうすれば・・・?』
『ここからは見えないだけで、支配下に置かれている子器を持った敵が居るかもしれない。そいつらの対処を頼む』
ルシルからの大まかな役割分担を聞いたことで、今度こそ“T.C.”を捕まえるために行動開始。クリスタルのような両刃の剣身を持つ大剣2本を柄頭で連結したような槍、“グングニル”を左手に携えたルシルが『行くぞ!』って部屋の中央に立つアイツに向かって駆け出した。わたし達も続いて部屋に突入。
「結界行きます! 多層封獄結界!」
直径で80mはあろう円ホールで、壁面に沿って棺桶が立て掛けられてた。何千年も前なのに今なお綺麗な床にはいろんな種類の魔法陣が描かれてる。“T.C.”が最初に立っていたところには台座。あそこに突き立ってたんだね神器。セラティナはそんなホールを結界で覆ってくれた。
「っ! に、に、にくぅぅ・・・肉ぅぅぅ・・・斬らせろぉぉぉぉぉ!!」
“T.C.”が血走った眼でルシルを睨んで、よだれを垂れ流しながら“ティシュミホール”を横薙ぎに振り払った。対するルシルは「哀れだな。邪心に呑まれているじゃないか!」“グングニル”を振り上げて、“ティシュミホール”を上方に向かって弾き返した。
(きも・・・!)
「イリス! 余所見しない!」
「あ、ごめん!」
ルミナに叱られた。部屋の中には“T.C.”だけじゃなくて、柩から出てきた7体の骸骨が剣やら槍やら斧やら槌やらを持ってわたし達に襲い掛かってきた。わたしは振るわれる槌の一撃を受けずに回避して、「ごめんルシル! この人?たちの武器ってヤバい!?」って聞いた。
「ソレらは・・・大丈夫だ、君らでもイケる!」
神器に最も詳しいルシルからのお墨付きを確認したわたしは、「蹴散らせ!」ってみんなに指示を出して、一斉に攻勢に出る。わたしが相手にするのは、骨格だけで生前は屈強な戦士だったことを察せられる骸骨剣士1体。
「っく! 骸骨なのに強いんだけど!?」
神器“トロイメライ”を双刀形態にして、手数で骸骨剣士を眠らせてあげようと思ったんだけど、剣筋を完全に見切られてるから掠る程度のダメージしか与えられない。
「武器にさえ注意すればいいだけだし、私としては楽で助かるんだけけど?」
ルミナは戦斧を振り回す高身長の骸骨兵士と戦闘・・・というか戯れ中。高速で振るわれる戦斧を避けたり、腹をアッパーで上方に弾くことで逸らしたり、いろいろな手段でルミナは防御。
「あ、私も割と楽に勝てそうですよ」
ミヤビは防御力が最もある地鬼形態で、槌持ちの骸骨戦士と真っ向からのド突き合い。ミヤビは拳で槌を殴り弾いては本体に攻撃を加えてた。あの子、本当にかったいな~。番外位らしいけど神器であることに変わりないのに・・・。
「イリスだけハズレを引いたんじゃない?」
クラリスは“シュトルムシュタール”を槍と根に分離させて、独楽みたいに回転攻撃。相手の短槍2槍流の骸骨を防戦一方にしてた。
「私はもうこれ以上の結界は張れないよ!」
セラティナは小さなキューブ状の結界で、残り2体の骸骨戦士の四肢を捕らえて動けないようにしてくれてた。
「対して強くはないけどタフすぎる! 骸骨が崩れることなく動き回ってるのもムカつく! 魔術師じゃないっぽいし、私が一斉凍結封印を行う!」
『全騎! セレスが凍結魔術を放つ! セレスの合図を待て!』
セレスはわたしが思念通話で指示を出して、発案者のセレス、あと余裕がないのかルシルを除いた、他のみんなからの『了解!』を確認。
『すまん、了解だ!』
刺突を行うために突進してきた“T.C.”の懐に潜り込み、そのまま担ぎ上げてからの床に叩き付けたルシルも遅れて返事をくれた。起き上がろうとしてたアイツを床に縫い付けるように、ルシルは両腕と腰と両脚にバインドを発動。
「斬らせろぉ! 肉ぅ、生きた肉ぅ! 骨も筋肉も内臓も斬って斬って斬ってぇ! 血のシャワーを浴びたいんだよぉぉぉ!!」
「後でキッチリ解放してやるから、今は眠れ」
『跳んで!』
――愚かしき者に美しき粛清を――
ルシルが“T.C.”を封じた後、それを確認したセレスの合図と同時にジャンプしたわたし達は、一瞬にして床が凍り付く様を見届けた。着地の際に転ばないように注意しながら床に降り立って、骸骨兵士たちを確認する。セレスの凍結魔術によって骸骨兵士たちは完全に凍結されていて、“T.C.”も胸から下が凍り付いてた。
「あ・・・が・・・」
「よう。意識は取り戻せたか?」
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!」
“T.C.”は叫び声を上げて足掻き始めた。凍り付いてる“ティシュミホール”から魔力が放出されて、氷にヒビを入れた。“ティシュミホール”を持つアイツの手に向かってセレスが螺旋状の杭「ディアブロ・クエルノ!」を放って、手首を貫いた。
それでも魔力の放出は収まらず、まずい、とわたし達が思った瞬間にはルシルが動いてた。ルシルは振り上げた“グングニル”を“ティシュミホール”目掛けて勢いよく振り下ろした。“グングニル”の穂先は氷を割り、さらに“ティシュミホール”の柄を叩き折った。その衝撃は床を、わたし達を揺らした。
「び、ビックリしました・・・」
物理的な振動もそうだけど、“グングニル”から放たれた魔力波もまた凄まじくて、わたし達はペタリと床に座り込んだ。特にミヤビは初めての衝撃だったみたいで目を丸くしてる。ルシルはそんなわたし達に「すまんすまん」って謝った。
「神器、破壊したの?」
「いや柄を折って一時的に機能不全に陥らせただけだ。それに、ランクが1ケタ台の神器はそう簡単に破壊できない上に再生能力も保有している。一時しのぎに過ぎないよ」
ルシルは“T.C.”の手から折れた柄を奪い取り、“ティシュミホール”のヘッド部分も氷の破片を取り除いて持ち上げた。
「あの、大丈夫なのですかルシル副隊長? T.C.の様子から見るに、その神器を持つと性格がその・・・」
「ん? あぁ、自画自賛はあまりしたくないけど高位の魔術師であれば、なんとか耐えられるよ。ま、機能不全に陥っている今だからこそ大丈夫、と言った感じだ。ランク1ケタ台の魔造兵装は本来、人間が使うような神器じゃない。コイツの変貌ぶりを見たら解ると思うが、狂気に飲まれることが普通だ。が・・・」
チラッとわたしを見たルシルに、「え、なに? わたしが何?」ってたじろく。熱い視線なら大歓迎だけど、なんか微妙な感じであんまし嬉しくないよ。
「騎士シャルロッテは魔造兵装最後の1桁の神器、断刀キルシュブリューテを使いこなしていたって呆れているんだ。オリジナルは、人間がキルシュブリューテを使いこなしていた騎士シャルロッテに恐怖を抱いたそうだぞ」
「そうなの? わたしも使ったことあるけど、なんにもなかったよ?」
「君の場合はやはり、騎士シャルロッテの生まれ変わりだというのが一番だろうな。キルシュブリューテに認められた騎士シャルロッテの魂と魔力だ。抵抗力がMAXでもおかしくない」
「なるほど」
そう言えば、母様や御祖母様は、“キルシュブリューテ”を長い時間持っていられなかったみたいだった。シャルロッテ様の意識が“キルシュブリューテ”に宿っていても、魔造兵装としての狂気は完全に除けないんだね。
「とにかく、任務は果たした。骸骨の人たちもティシュミホールの機能が落ちたことで再び物言わぬ死体となっているはずだ。セレス」
「ん」
セレスが魔術を解除すると、氷が急速に解凍され始めた。ルシルは改めて“T.C.”を、リングタイプのシーリングバインドで拘束した。それを見届けた後にルミナが「私が運ぶよ。ルシルは神器をお願い」って提案して、アイツを肩に担ごうとした。
「あ、ルミナ先輩。私が担ぎます」
「ミヤビは魔術師と真っ向から戦えるからダメ。ここは私がやるから、ミヤビはイリス達と臨戦態勢を維持でお願い」
「了解です!」
ルミナが“T.C.”を担ぎ、ルシルが神器を回収。骸骨たちの持つ武器は、“ティシュミホール”の能力によって一時的に神器化したただの武器であることも確認して、このままここに放置することを決めた。
「よしっ。特騎隊、任務完了。外に出て、シャーリーンに転送帰艦。本局へ戻る」
ルミナとルシルを真ん中に、わたしとクラリスが先頭、セレスとミヤビが後尾で通路を進んだ。途中でシャーリーンと通信して、宮殿から出た直後に転送するように指示を出しておいた。地下は何事もなく終わり、次は地上1階を移動。宮殿の奥からエントランスまで緊張しながら進んだけど、結局なにも起きなかった。
「これから外に出る。T.C.をシャーリーンから逃がした新手が再び逃亡を手助けする可能性がある。警戒せよ」
緊張化が高まる中でエントランスより飛び出ようとしたその時・・・
「おーほっほっほっほ!!」
そんな高笑いがどこからともなく聞こえてきた。ルミナとルシルを護るように2人に背を向けるようにして円陣を組んで、全方位への警戒を行う。
「愚かな愚かな木偶人形使い! せっかく逃がしてあげたのに、新しい任務も与えたのに、神器の狂気に呑まれて、神器も回収できず、派遣された下僕を打ち倒し、また敵に敗北して、また無様に捕まって!」
エントランスの真正面に1人の女の子が空からふわりと降り立って、「やはり貴方は使えないですわね!」って言って、両手を腰に当てて仁王立ち。レモン色の髪はワンサイドアップ。オレンジ色の瞳はツリ目でくりっとしてる。格好はお嬢様、お姫様と言った感じのドレス。武器の類は無いっぽい。
(っ! まただ、シャルロッテ様から怒りの感情が流れてくる・・・)
「お初にお目にかかりますわ! わたくしは――」
「ヨツンヘイム連合主導4界、夢幻世界ウトガルドの歴代最年少の女王、夢幻王プリムス・バラクーダ・ウトガルド・・・の生まれ変わりか」
「夢げ――って、ちょっと! そこの貴方! これからわたくしが名乗ろうとしていたことを先に言わないでくださる!?」
10歳そこらくらいの女の子が、キィー!と悔しそうに地団太を踏んでる。その様子にわたし達はどうしようかと困惑してたけど、ルシルとセラティナはそうじゃなかった。
「シーリングバインド!」
「一方通行の聖域!」
ルシルが魔力生成阻害のバインドを鎖状で発動して、セラティナも同様の効果を持つ結界を発動。ルシルが言うプリムスの生まれ変わりっていう女の子が、呆気なくバインドに拘束されて、結界にも閉じ込められた・・・かと思えば、女の子の姿が消失した・
「残念ですわね! 大ハズレですわ!」
声は信じられないことに背後から聞こえてきた。バッと振り返ってみれば、支柱に背を預けて立つあの子が居た。ミヤビが「転移!?」って驚くけど、ルシルが「いや違う。アレは幻術だ」首を横に振った。
「正解ですわ! わたくしはむ――」
「夢幻王は、幻術魔術に特化した彼女の二つ名だ。気を付けろ、彼女は強い」
「幻王・・・って! また! また、わたくしの言葉を遮りましたわね! なんて無礼な! いいですわ! そこの役立たずと神器の回収だけに留めておこうと思いましたけど、少し遊んで差し上げますわ!」
――破滅の猛獣――
女の子の側に現れたのは山羊と馬の3つの頭を持ち、胴体はたぶん狼、尻尾というかそっちには鰐と獅子の頭があった。胴体もよく見れば、後ろ足じゃなくて全部前足だ。2頭のキメラが背中合わせに融合してるような奴だった。
「ルシル!」
「幻術だ! 実際にそこには存在していないが、夢幻王の生み出す幻影は精神干渉力がすさまじい! 肉体は無傷でも精神が死ねば、肉体の方も死ぬ! 俺とセラティナで抑える! その間にみんなはシャーリーンへ!」
「りょ、了解!」
少し顔の蒼いセラティナが気丈に返事して、ルシルの側に付いた。わたしは「シャーリーン! 至急転送を! ルシルとセラティナ、わたしは留まる!」って指示。
「おーほっほっほっほ! 我らの王より局員も民間人も殺さないように厳命されているので、殺しはしませんわよ♪」
女の子が右手をサッと振り払うと、幻影だっていうキメラが雄叫びを上げて突進してきた。わたし達は急いで外へと飛び出して、固まって突進を食らう間抜けを起こさないために散開した。キメラは誰をターゲットにするかキョロキョロと見回してるんだけど、本当に幻なわけ? 存在感がすごくて、実際に触れそう。
「ですがまぁ、骨折くらいは覚悟してくださいましね♪」
『転送準備が完了しました! ポイント指定を願います!』
「ルミナを中心に転送準備! セレス、クラリス、ミヤビ! ルミナの元に集まって!」
キメラはルシルをターゲットにしたようで、獅子と鰐の口から熱線が放たれた。ルシルに回避された熱線は数十mと離れた地面に着弾したけど、爆発することなく消失した。なるほど。本当に幻なんだ。
『ナイト3、ナイト4、ナイト5、ナイト6を転送します!』
「逃がしませんわよ! 殲滅の凶獣園♪」
ルミナ達を包囲するように出現したのは、いろんな外見をした数十体のキメラ達。転送はまだ始まってないのに、ルミナ達に突進した。わたしは「転移中止!」の指示を出す。
「ルシル、セラティナ! わたしとセラティナでキメラの幻をどうにかするから、ルシルは術者をお願い」
「ダメなんだ! 幻である以上、セラティナの結界も意味をなさない! ただ、見えているだけなんだから! 存在しないものは結界で弾けないし、君の攻撃も意味はない!」
「それなのに攻撃を受けたと錯覚すれば精神、そして肉体にダメージが入るみたい!」
「うわ、もうホントに最悪じゃん」
「うふふ~♪ その表情、素敵ですわ~♪ わたくしの楽しみは、わたくしの幻術を目の当たりにして絶望する敵を見ることですわ!」
「相変わらず性格が悪いと、アリスが怒ってるよ!」
――一方通行の聖域――
――清楚なる私よ彼方へ――
セラティナが高速かつ連続で展開する結界から女の子は回避できずに捕獲された。と思えば、すでに別のところに居る。そんなことを繰り返しながら女の子は「あら、アリスと意思疎通できるのね!」って満面の笑みを浮かべた。
「お久しぶりですわ、結界王アリス! わたくしのことを覚えていてくださって嬉しいですわ! あの頃のようにお茶をしましょ? クレマ・カタラナを一緒にいただきながら♪」
「冗談じゃない!ってアリスは言ってる。アリスは、あなた達の命令で故郷から拉致されて、薬で洗脳されてたみたいじゃない! よくもまぁいけしゃあしゃあと!」
――多殻結界――
「だって貴女が言うことを聞いてくださらないんですもの。仕方のないことですわ」
何十個っていう30㎝四方のキューブが女の子の体のあちこちに出現。あのキューブに触れた対象をその場に拘束するっていう結界だ。女の子の姿がすぅっと陽炎のように揺らめいて消えた。キメラもそうだけど、女の子自身も幻に見えないレベルの存在感だ。
(正直、ティアナのフェイク・シルエットがお遊戯に見えちゃう。あの子に超失礼だけど・・・)
とにかく、キメラ達に対しては逃げ惑うことしか対処法はなくて、どうにかするには術者のあの子を止めるしかない。それは判った。でも、「ああんもう! 鬱陶しい!!」ってわたしの怒り爆発。女の子をひたすら追い駆け回して、それが実は幻だった。なんてことを繰り返してると・・・。
「あら、もう時間ですわ。戯れはここまでにして、本格的に撤退させてもらいますわね」
――尽滅の蹂躙軍――
それは本当に一瞬だった。瞬きの間にわたしの目の前に何百人っていうわたしたち特騎隊とフォード(仮)が出現。わたしの幻だけでも40人は居そう。
「さらに行きますわよ!」
――可憐なる私よ此処に――
女の子の幻も何十人と生み出された。幻たちが一斉に動き出して、「のわわ!?」その人波に呑まれてしまった。それでどれが本物か判らなくなった。
「やられた! ごめん! T.C.を奪われた!」
「どれが本物か判んな~い!」
ルミナの報告にわたしは頭を抱えた。やろうと思えばいつでもフォード(仮)を奪い返すことが出来たわけだ。舌打ちしたいのを我慢して「ルシル! 神器は!?」って確認する。神器だけでも回収できれば負けじゃない。
「大丈夫だ! 絶対に奪わせない!」
――瞬神の飛翔――
ルシルが空戦形態になって空へと上がったのを、ルシルの幻に囲まれながら確認した。ルシルに揉みくちゃにされて、妙な気分になり始めたとことで幻たちが一斉に消えた。この場に居るのはわたしたち特騎隊だけで、女の子とフォード(仮)はどこにも居なかった。
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