魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Saga11-B勝敗の行方~victory or defeat~
†††Sideルシリオン†††
シャルと分かれ、俺は“T.C.”メンバーの1人が拘禁されている居房区画へと向かう。目的はもちろん事情聴取だ。公的ではなく私的なものだが、それでも答えてもらおう。“シャーリー”の後部に位置する居房区画に着き、メンバーが拘禁されている独房の前に置かれているベンチに座るセラティナとアイリを視認。
「あ、ルシル! 報告は終わったの?」
「ああ。お疲れ、セラティナ。監視は俺が引き継ぐよ」
「え? でも、術者である私が結界からあんまり離れるのは・・・」
「それについては問題ないよ。魔術でのシーリングバインドで拘束するから」
魔力生成阻害を行うという点では一方通行の聖域と同じだし、消費魔力や維持に必要な魔力も少ないとなれば、今はセラティナを休ませることを第一に俺が監視を担当するのがベストのはず。セラティナは少し悩んだ末、「じゃあ、お願い。実はもうヘトヘトで・・・」と苦笑いを浮かべた。
「任せてくれ。アイリ、ユニゾンだ」
「ヤー!」
「「ユニゾン・イン」」
アイリとのユニゾンを済ませ、“魔力炉《システム》”を活性化させて魔術師化する。そしてシーリングバインドをチェーンモードで発動準備。連行前に下級水流系術式の1つ、眠りの霧ラフェルニオンによって眠らされた“T.C.”メンバーを睨む。
「アイリ」
『いつでも!』
「『シーリングバインド!』」
ベッドに横たわる“T.C.”を鎖状のバインドでグルグル巻きにして拘束。それを確認したセラティナはようやく結界を解除することが出来て、「ふぅ」と安堵の一息を吐いた。
「ルシル。例のデバイス、この人にまだ使ってないから、ルシルがやっておいて」
「了解」
「ふわぁ、眠い。おやすみ~」
『おやすみ~♪』
「お疲れ様」
セラティナが居房区画より出ていったのを確認した俺は、近くのデスクの引き出しからPSS拳銃をモデルとした特殊デバイスと、弾丸が収められている頑強なケースを取り出す。ケースから取り出してデバイスに装填するのは注射器のような弾丸。中身はナノマシンを含んだ液体で、注入された箇所の表皮内にナノチップを形成。それが発信機となる。
表皮の細胞が生まれ変わる機能ターンオーバーは、およそ45日サイクル。その間であれば発信機は機能しているが、45日以上は垢と一緒に排出されるため、もう追跡できない。自然と排出されるとはいえ体内に異物を入れるという方法であるため、使用にはいろいろと申請・手続きが必要だ。しかし俺たち特騎隊はその任務上、逃亡を許せないような相手が多い。それゆえに申請も手続きも必要なく、事前に使用許可を取っていればいつでも使えるようなっている。
(最後の大隊のような、転移スキルで移動する犯罪者のために開発された技術だな)
そんな新技術を最初に使えるというのは光栄な事じゃないか。牢の中に入り、今なおスヤスヤと眠っている“T.C.”の太腿に銃口を向け、しっかりと狙ってからトリガーを引く。放たれた注射弾はプスッと奴の太腿に突き刺さった。注入からチップ生成までの時間は30秒から60秒。その時間が経過するまで待ってから注射弾を抜く。
「呪われし者に汝の施しを」
次は治癒ではなく状態異常術式の解除効果のラファエルを発動。俺の魔力光サファイアブルーの魔力が“T.C.”の全身を包んで、数秒とせずに消失する。奴は「ん・・・むぅ・・・」呻き声を少しあげた後、「んあ?」目を覚ました。目元を擦りたいのか腕を動かそうとしたが、拘束されていることでそれは叶わず。
「気分はどうだ? T.C.」
「はっ。最悪に決まってんだろ。T.C.最初の敗北だけでなく逮捕って? 最大級のクソっぷりだっつうんだよ!」
この男が使っていた魔術は、“アンスール”時代にて何度も交戦したヨツンヘイム連合、その指導者である四王の一角、葬柩王フォード・テルスター・スリュムヘイムと同じものだった。ただ、スリュムヘイムの植物操作系は基本的なものでもあるため、その練度で術者のレベルを計るしかない。
(少しの間しか見られなかったが、フォードに比べれば圧倒的に格下だった。ただ、顔立ちがそっくりで、あの頭の悪い喋り方も同じだ)
――あの侵入者も、わたしやクラリス達みたいに前世の記憶を持ってるんじゃない? もしくは生まれ変わり。フォードって言ったっけ? 何千年も前の人間が生きてるわけがない。例え魔術師であっても。違う?――
連行中にシャルに言われたことを思い返す。シャルの記憶を持ち、外見が全く同じのイリス。グレーテルの記憶を持ち、外見がそっくりなクラリス。同様にチェルシーに似たアンジェリエ。そして、まさかのアリスの記憶と魔術を受け継いでいたセラティナ。それに、魔術関連じゃないがアインハルトやジークリンデやファビアも似たようなものだ。これだけ生まれ変わりや前世の記憶持ちが居るのだから、目の前のこの男もきっと・・・。
「そうか。まぁお前が最悪だろうが知ったことじゃない。答えろ。お前が何者なのか。どれだけ時間を掛けても構わない。待とう」
「判んねぇかなぁ。T.C.について話すことはなんもねぇんだよぉ」
「ならおまえ自身の話だ。お前の使っている魔術は、スリュムヘイムの植物操作系。現在に存在しているはずのないものだ。どこで教わった?」
スリュムヘイムは“ラグナロク”によって完全崩壊した世界で、子孫が生き延びたはずもなく。フォードだって妃を向かえないまま、ステアとアリスのコンビネーションによって戦死した。となれば、やはり生まれ変わりか。クローンを疑ったが、当時にクローン技術は無かった。
「フォード・テルスター・スリュムヘイム。お前なのか?」
「・・・。知らねぇな、そんな奴」
「(コイツ、知っているな。さて、どうやって引き出すか・・・)フォードよ、憶えているか? お前の父、先代スリュムヘイム王が大兵力を率いてアールヴヘイムに侵攻した戦闘。無謀にも当時すでに若いながらも炎熱系最強と謳われていたステアに挑み、無様に返り討ちに遭って炭にされた愚か者のこと」
「・・・」
目の前の男がフォードの生まれ変わりで記憶を受け継いでいるのなら、自分の父親の死を侮辱した俺に怒りを覚えるだろう。気持ちの良いものじゃないが、この男のことを少しでも知らないといけない。コイツを出発点に“T.C.”を探っていこう。
「さっきから何言ってんだ、あんた。スリュムヘイムとか王とかステアとか、どれもこれも知らないっつうの」
「そうか。なら、少し俺の話に付き合ってくれ。互いに沈黙だと苦痛だろ?」
何の返事もしないコイツに向かって、俺は「まずはそうだな。さっき話したフォードという男がだな」と話し始めた。最初にフォードを確認したのはムスペルヘイム侵略戦。そこでフォードは、父の仇であるステアに一目惚れして、気持ちの悪いストーカーになった。
「笑わせるだろ? その時は父親の仇と知らなかったとはいえ敵軍の幹部に婚姻を迫るとか!」
「・・・別に普通じゃね? 知らなかったんだしさ」
「いやいや。敵だぞ? しかも戦闘の真っただ中。さらに言えば一方的にやられ、まさに殺されそうになっていた時にだぞ? あり得ない」
やれやれと肩を竦めて嘆息すれば、コイツは舌打ちをしてそっぽを向いた。それから俺は、ステアの参加する戦闘にのみに限りフォードが前線に出るようになったこと、仲間と共闘してステアを追い詰めたにも関わらずトトメではなく求婚し、そして俺たち“アンスール”の反撃を受けて敗走をしたこと、ステアに執心していることでスリュムヘイムの部下から呆れられていたこと、スリュムヘイムを見限って優良な魔術師がヨツンヘイム・ヴァナヘイム・ウトガルドに流れたこと、四王内で馬鹿にされていたこと、などを伝えていく。
「なぁ、あんた。俺様と全く無関係な話をずっとしてて飽きねぇのか? 俺様は眠くなってきたぜ?」
「そうか? 俺が話すたびにお前の背中から感じるぞ? 顔を見えずともお前の感情が揺れ動いているのが」
「言ってろ、間抜け」
続けて俺が知るフォードという王の失敗談を話し続ける。フォードは大戦時、特に前線に出現することが多い王として有名だった。何せステアが戦場に立てば100%現れるんだからな。他に重要な作戦時などにもよく顔を出していたし、四王で最も言葉を交わした男だった。
「――で、だ。そんな気持ちの悪いフォードとの戦いもいよいよ終盤だ。聖域ヴィーズグリーズでの大決戦」
「・・・言うな」
「1週間と続くことになった決戦の6日目。そう。フォードが戦死した日だ」
「うっせぇよ」
「顔を合わせるたびにステアに求婚していたフォードは、決戦ということもあってとうとう殺す気でステアと衝突した。彼女が他の誰かに殺される前に、自分が彼女より強いことを証明するために、彼女のすべてを手に入れるために、あの男は全身全霊を以て戦った」
「黙れ」
「偶然にも俺・・・のオリジナルは、2人の闘いを見守れる位置で雑魚狩りをしていたからな」
炎熱系と植物操作系の相性は火を見るより明らか。これまでと同じ、ステアの苛烈な魔術に対して不利な属性でも真っ向から挑み、互角にやり合っていた。そして同時に展開される創世結界。炎と植物という2つ世界が侵食し合おうと衝突する様は、本当に見ごたえのあるものだった。何せ創世結界同士の衝突なんて簡単に見られるものじゃないからな。
「フォードは確かに強かった。他の王や臣下に馬鹿にされようが、ストーカーで気持ち悪かろうが、魔術師としての腕は超一流。植物操作系の魔術においてはまさに最強。敵ではあるが一応は敬意を持っていたんだぞ?」
「・・・」
「嬉しいか? 神器王からのお褒めの言葉は?」
「っざけんな! 誰が嬉しがるかよ、ボケ! ステアと仲良くやってる様を見せつけられて大っ嫌いなんだよ! 禿げろ、捥げろ、女になれ、つうか死ね!」
もう誤魔化すつもりはないのだろうか。俺の方を向き、すごい剣幕で罵ってきた。俺の内に居るアイリが『禿げはいいけど、捥げるのだけはダメ絶対!』と怒り返した。禿げるのも嫌だな~。
「お前さ、やっぱりフォードの記憶持ってるだろ? いやフォード本人か? 前世のお前が、生まれ変わりの体を使って話したり動いたり、戦ったりしているんだろ?」
「・・・」
「もう観念して白状したらどうだ? フォード。生まれ変わってもこんな馬鹿な真似をして。お前が借りているだろう体の持ち主を犯罪者にして、心は痛まないのか? お前と同じように生まれ変わった者たちは、犯罪に走るようなことはしなかったぞ」
「ぷはっ! くははははははは!! 面白いな、面白いぞ、面白すぎる!」
「そうか。何が面白いかは判らないが、機嫌が良くなって何よりだ。良くなったついでにいろいろ話してもらおうか」
「ダメだ、笑うの止められねぇ! ははははは!! こ、ここまでぷくくく、やべぇ、最高だぁ!」
笑い続ける奴の様子にアイリが『マイスター。ちょっと黙らせよ? 不愉快すぎ』と苛立ちを見せる。俺としてもあまり気持ちの良いものじゃないし、何よりさっさと認めさせてやりたい。そして可能ならフォードの記憶と魔術を封印しておきたい。魔術を悪用されないために、フォードの転生体である彼の人生をめちゃくちゃにさせないために。
「滑稽だなぁ! 哀れだなぁ! 知っている側が、知らない側を見るのがこんなにも楽しくて、面白いものだなんて知らなったぜ!」
「いったい何を・・・?」
「お前は俺様を追い詰めていると考えているようだがそいつは違うぜ。お前をどん底に突き落せる手段が俺様にある」
その眼を見れば嘘ではないと思うが、俺が何を知らないって? お前が俺の何を知っていると? ならばそれを含めて教えてもらおうじゃないか。だから「言ってみろ。本当に俺をどん底に落とせると思うならな」と笑ってやる。
「いいぜぇ。お前の顔が曇るのを見届けてやんよぉ! お前はなぁ! k――」
「っ!?」『え・・・?』
奴が何かを言いかけたその時、奴の口にポンっと穴が開いた。向こう側が見えない、まるでブラックホールのような真っ黒な穴だ。俺とアイリが驚いているその僅かな間に、口に空いた穴へと奴の体が吸い込まれ始めた。
「アイリ!」
『ヤヴォール! ロートス・アンカー!』
何をしろ、と指示しなくても俺の意を汲み、アイリは俺の前面にベルカ魔法陣を展開し、先端が蓮の形をした氷のアンカー8本を射出。穴に吸い込まれそうになっている奴の両脚にグルグルと魔力縄が絡みつき、先端のアンカー8つが腰の辺りで重なり合ってガキン!とロック。
「チェーンバインド!」
俺も続けて鎖状のデバイスで奴の体を拘束するが、そんなもの無駄だと言うように奴の体がグニャリと歪んで、俺とアイリのバインドから逃れた。奴の体が渦を巻くようにして穴に吸い込まれていくのを、俺とアイリは黙って見届けるしか出来なかった。奴の体が完全に穴の中に消え失せ、穴も収縮を始めた。
「せめて・・・!」
――発見せよ汝の聖眼――
カメラ効果を持つ魔力スフィア――イシュリエルを1基、ねじ込むように撃ち込んだと同時に穴は閉じた。結局逃げられてしまった。だが、これで終わりなんかじゃない。
「全艦に緊急連絡。T.C.メンバーが転移スキルによって艦内より脱走。発信機チップを撃ち込んであるため、追跡は可能であると判断。零課副長権限を行使し、シャーリーンの針路変更を指示。ブリッジ!」
『ブリッジ了解! 針路指示願います!』
発信機からの信号を展開したモニターで確認する。現在シャーリーンは第25管理外世界ヴォルキスの衛星軌道上で停泊している。そこから発信機の信号をたどり、「第52無人世界トライキスへ!」と指示を出す。
『了解!』
「特騎隊全騎。エントランストランスポートへ集合。シャル、起きているか?」
ルミナ達からの『了解!』に遅れて、シャルの『もちろん! ちょうどドライヤー掛け終わったから!』と、サウンドオンリーと表示されたモニターからバタバタ慌ただしい音が続く。彼女たちとの通信を切り、俺もトランスポートへ向かう。
(座標は変わっていないな。皮膚の下に発信機があるとは思わないだろう)
万が一察知されたとしても皮膚の上から見えないため外科手術で取り除けないし、有機質であるから魔法や金属探知にも引っ掛からない。撃ち込めたその瞬間、俺たちの勝利は確定した。ただ問題があるとすれば、それは効果範囲。スカラボ特製とは言っても限界がある。その範囲から出ないことを祈るしかない。
「みんな揃ってるね」
俺とアイリがエントランストランスポートに着いてから1分とせずにシャル達が揃った。シャル
と俺の前に整列しているアイリ達を見る。短すぎてちゃんと休息できたか不安だったが、疲労などおくびにも出さない。本当に頼りになる騎士たちだ。
「ルシル」
「ああ。発信機の信号は相変わらず第52無人世界トライキスからだ。1ヵ所に留まっているようなら不安しかないが、世界内で移動しているのを確認できた」
「そういうわけだから、これからトライキスに降下。T.C.をもう一度捕まえる。転移スキル持ちの別のメンバーが居ると思うから、降下後にT.C.を確認したらセラティナ、結界をお願い」
「了解!」
『トライキスへの転送準備が整いました。セインテスト副隊長、座標をお願いします』
ブリッジからの通信に俺は座標を伝え、10秒後に一斉転送を行うことになった。俺たちは魔術師化、騎士服への変身、デバイスの起動と、戦闘準備をすべて終えた。そうして俺たちはトライキスへと転送。
今でこそ局はこの世界にトライキスと名を付けたが、かつては別の名前だった。スパリンスヘイズ。土石系魔術を得意とする魔術師を多く輩出した、“アンスール”の地帝カーネルや雷帝ジークヘルグの治めてた世界ニダヴェリールの同盟国だ。
(今となっては無人の、荒野と岩石地帯しかない、寂しい世界となっているな・・・)
さて、問題の“T.C.”だが・・・。見回しただけでは視認できない。発信機の信号を確認するため手元にモニターを展開し、「こっちだ!」と信号を目指して駆け出す。たどり着いたのは山を削って造り出された宮殿跡。所々が崩壊しており、かつての荘厳さは失われている。
「信号はこの中からだ」
「・・・かなり風化が酷い。下手に戦闘をしたら崩壊するかも」
「そこは私の結界で抑えるよ」
「なら大丈夫か。んじゃ、行こうか」
シャルを先頭に宮殿跡に進入する。人間だった頃にジーク達と共に訪れたことがあるが、当時の面影は本当に残っていないな。
「(確か地下への階段が向こうに・・・)みんな、こっちだ」
記憶の中の宮殿――ログステインの内部を思い起こす。ログステイン宮殿はスパリンスヘイズ軍の本部として使用されていた。“T.C.”の反応がある地下は確か・・・武器庫のはずだ。大戦後に子ども達と見て回って、神器や危険物などはすべて回収し終えた記憶がある。
(なら連中は何を狙ってここへ来た・・・?)
階段を降り、真っ暗な地下に足を踏み入れる。信号は地下の奥からだな。灯りなんてものがないため、それぞれ暗視魔法を発動している。魔力反応を探知される可能性は高いが、火を起こしては明かりで気付かれるだろうし、何も対策しなければ何も見えずまともに移動も出来ないだろう。
『ねえ。進むにつれて、割とヤバい魔力を感じるようになったんだけど・・・』
『私も。絶対に何かある』
『きっとソレがT.C.の狙いなんだろうね』
『なら奪われるわけにはいかない。せっかくの1勝をチャラになんて・・・』
『私の結界で逃亡なんて絶対にさせない』
『メンバーだって捕まえちゃうんだから!』
シャル達の意気込みを念話を通じて聞く。俺も感じている神器特有の魔力に全身がピリピリと痺れる感覚を得ていた。ここまで感じ取れる魔力となれば高位の神器だろうが、どうやって? いつの間に?という疑問が生まれる。少なくとも“アンスール”全滅以降だ。
(とにかく、こんなまずい魔力を放つ神器を奪われるわけにはいかない)
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