魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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無印編
第47話:隠れ家突入
前書き
どうも、黒井です。
読んでくださる方達に最大限の感謝を。
*2020.9.1:展開があまりよろしくなさそうなので、後半を始めとした一部に改訂を行いました。
ウィズの隠れ家捜索の方針が決定してから、颯人は奏が見た事も無いほど使い魔と共有した視界に集中していた。
彼曰く、今回の認識阻害魔法は使い魔の視線は誤魔化せなくても、それを通して見る颯人自身の目には多少なりとも影響する可能性があるのだとか。なので例え使い魔越しであっても見逃す可能性があるので、かなり集中して見る必要があるのだそうだ。
視界共有のカードを視線だけで射貫くのではと言う程集中している颯人に、声を掛けられるものは誰も居ない。奏ですら、全神経を集中させた様子の颯人にやや心配そうな顔をしている。
と、その時────
「ッ!! 見つけたぁッ!!」
突然カッと目を見開いてそう叫ぶと、近くに置いてあった地図を引っ張りマジックペンで目的の場所に目印を書く。
当然彼の叫びはその場にいた全員の耳に届き、自由に動ける者は全員颯人の周りに殺到した。その中には弦十郎も居る。
「本当か!? 何処だ!?」
「ここだよ、ここ! 間違いない!」
颯人が指差した場所は、リディアンから──即ち二課本部からそれほど離れていない所にあった。それを見て弦十郎は即座に行動に移った。
「よし、すぐに行くぞ!」
「おっしゃぁっ!!…………と、言いたいところだけど」
「ん?」
気合十分にウィズの隠れ家に向かおうとした弦十郎だったが、ここで突然颯人が彼の行く手を阻んだ。
一体どうしたのかと弦十郎が首を傾げると、颯人はビシッと指を立てて告げた。
「俺1人で行く」
「な、何故だ!?」
「理由は簡単。何が起こるか分かんねぇから」
これから向かう場所は、魔法使いであるウィズの颯人も知らない隠れ家である。過激な罠は仕掛けられていないだろうが、用心するに越したことはない。
「それに、ジェネシスの連中もあの2人の事は探してる筈だ。おっちゃんが強いとは言え、バッタリ遭遇して戦闘に巻き込まれたらどうなるか分かったもんじゃない」
「むぅ……」
弦十郎としては、途中で諦めざるを得なかった仕事に片を付け、クリスを迎えに行くと言う意味で同行したかった。しかし颯人の言う事にも一理ある。
一度それを認めてしまうと、司令官としての立場が自ら現場に向かわせることに異を唱え始めた。司令官とは現場に出向く者ではなく、後方でどっしり構える者の事を言うのだ。
「……分かった。ここは颯人君に任せよう。ただ、ウィズに会えたら通信機を繋いでくれないか? 直接会う事は出来なくても、話だけはしたい」
「了解。精々良い報告を期待しててくれ」
「1人で大丈夫か? なんならアタシも一緒に……」
「いいっていいって、ここ空っぽにする訳にもいかないし。皆は此処で待っててくんなって」
***
二課本部を1人で出て暫く、颯人は目的のアパートを見つけた。三階建ての、如何にもな感じの木造建築アパート。エレベーターは無く、階段で上の階に上っていく。二階はまだ周囲の景色の高さが足りていないので、最上階である三階まで上がる。
「さ~てと、窓から覗き込んだ感じだと…………確か……」
颯人は部屋を一つ一つ、指差しながら廊下を進んでいく。元より古めかしいアパートだからか、入居者もあまり多くはなく空き部屋が多い。
あと少しで一番端の部屋に辿り着きそうになり────
「ととっ!? 危ねぇ、スルーするところだった」
徐に立ち止まると、通り過ぎそうになった部屋の前に立った。表札が無い所を見ると入居者は居ない事になっているそうだが、ここがウィズの隠れ家らしい。
「にひひひひっ! 不自然にならない程度に強さを押さえた認識阻害の結界を張ったようだが、場所をある程度特定された状態で捜されちゃあ効果なかったみたいだな」
ウィズを出し抜けたと見て、愉快そうに笑う颯人。
とりあえずインターホンを何度か押してみるが、当然の様に反応が無かったのでドアノブに手を掛ける。
が、鍵が掛かっているのかノブを捻ってドアを引いても開かない。
どうやら結界を超えて来た者が出た場合に備えてカギを掛けていたようだ。
「でもこの程度なら、と」
〈コネクト、プリーズ〉
颯人は慌てず魔法陣に手を突っ込んだ。すると数秒とせず、ドアから鍵を開ける音が聞こえてきた。どうやら魔法でドアの向こう側に手を出し、内側から鍵を開けたらしい。
改めてドアを開け、颯人は部屋に入った。
部屋の中は静まり返っていた。一見すると空き部屋のようにも思えるが、よく見ると先に見える部屋には先程まで人が居た事を感じさせる痕跡が見て取れた。明らかにここには誰か、勝手に住み着いている者が居る。
失礼を承知で土足で上がり、慎重に歩く颯人。
颯人はゆっくり歩き、リビングに足を踏み入れようとした。
瞬間、出し抜けに死角から刃が飛び出し首筋に突き付けられる。
「動くな……ん? お前は……」
一方刃を突き付けている人物──ウィズの方も相手が颯人である事に気付き、ハーメルケインを下ろした。
「どうやってこの場所を見つけた?」
「こっちには頼りになる味方が居てね」
「お前と言う奴は、全く……」
「へへっ……おっと、そうだった」
苛立ち混じりに溜め息を吐くウィズを余所に、颯人は通信機を取り出し弦十郎に繋いだ。
『もしもし、颯人君か?』
「は~い、こちらエージェント颯人。ターゲットに接触完了だ」
通信は直ぐにつながり、弦十郎が応答したのをみて通信をこの場の全員に聞こえる様にスピーカーモードにした。
一方ウィズは、溜め息を一つ吐くとアルドに向けて顎をしゃくった。それで何かを察したのか、彼女は1人別室に引っ込んでいく。
「ん? ウィズ、あの女の人誰?」
「あぁ、颯人は直接合った事は無かったか。アルドだ。お前が使っている指輪を作ってくれている」
「そうなの!?」
「感謝しろよ?…………で? そもそもお前は何をしにここまで来た? まさか世間話をしに来た訳でもないだろう」
そのウィズの問い掛けに答えたのは、颯人ではなく通信機の向こうに居る弦十郎だった。
『俺達の目的は、そこに居る2人だ』
弦十郎の言葉に颯人が目を向けた先では、様子が気になるのか透とクリスが顔を覗かせていた。
ウィズにとって少し意外だったのは、弦十郎が透の事も目的としている事だった。
「風鳴 弦十郎……確か帰国直後に行方を眩ませた雪音 クリスを捜索した捜査員の生き残りでもあったな」
『そこまで調べていたか』
「だが解せないな。彼女に興味があったのはシンフォギアの適合者として注目していたからだろう? それが何故、北上 透にまで興味を持つ? 二課では魔法使いが居ても持て余すだろう」
実際、了子の頭脳を以てしても颯人の魔法に関しては殆ど分からず仕舞いであった。ウィズの言う通り、透を引き入れても戦力として以上に価値は無い。
「純粋に戦力としてか?」
『いや、違う。俺にやりたい事はもっと単純な事だ。2人を救い出す』
「……え?」
思っても見なかった弦十郎の言葉に、クリスは思わず声を上げる。
『引き受けた仕事をやり遂げるのは、大人の務めだからな』
「──ッ!? 大人!? はん! 大人の務めと来たかッ! 子供の事なんて何とも思っちゃいない、余計なこと以外何もしてくれない大人が偉そうなこと言うなッ!?」
弦十郎の言葉が、クリスの心の地雷を踏み激昂させる。
クリスの事情を知らない颯人は、この件に下手に首を突っ込むと火に油を注ぐだけと判断し彼女の怒りが静まるまで傍観する事を決めた。
だんまりを決め込む颯人を余所に、弦十郎は通信機越しにクリスの言葉に対して首を左右に振り否と口にした。
『余計な事と言うが、では今君達がそうしていられるのは何故だ?』
「うッ!?」
『察するに、ウィズが君達を悪い魔法使い達から匿ってくれたんだろう? それに傷の手当なんかもしてくれた。違うか?』
「う、うるせぇっ!?」
痛いところを突かれて、動揺を隠せないクリスだったが弦十郎は更に畳み掛ける。
『確かに君達を酷い目に遭わせたのは大人なのだろう。だが、全ての大人が君達の敵という訳ではない。そこに居るウィズ、それに今は離れているが俺も君達の力になりたいと思っている』
「そんな言葉を、信じろってのかよ!?」
『信じてくれ…………頼む』
通信機越しだから定かではないが、恐らく弦十郎は二課本部で通信機に向かって頭を下げているだろう。颯人にはもちろん、ウィズにも、透にも、クリスにすらそれが分かった。
最早クリスの頭の中は怒りを通り越して混乱しっぱなしだった。フィーネに裏切られた事で大人は全て敵という認識をしていたクリスに対する、ここ数日のアルドからの献身的な世話と顔が見えずとも分かる弦十郎の心からの思い遣り。
自らの価値観の揺らぎに、クリスは意識せず透に縋り付いた。
その時、別室に引っ込んでいたアルドが再び姿を現した。アルドは部屋から出てくると、ウィズに向けて頷きかける。
「……どうやらここまでのようだな」
アルドの頷きを見て、ウィズは懐に手を突っ込むとクリスのギアペンダントと透の残りのウィザードリングを取り出し2人に向けて放った。
2人はギアと指輪を返されるや、即座に窓に向かって駆け出した。
〈コネクト、ナーウ〉
ベランダから飛び出しながら、透が取り出したライドスクレイパーに2人で乗ってそのまま何処かへ飛んでいく2人。
彼らの背を見送った颯人は、溜め息を一つ吐いて通信機の向こうの弦十郎に状況を伝えた。
「おっちゃん、残念ながら2人には逃げられちまった」
『そう、か。あの2人とはまだ話したい事があったのだが……』
「それは次の機会にでも取っときなって。そんじゃ」
颯人は通信を切り、ベランダに出て2人が飛んでいった空を眺めながらウィズに問い掛けた。
「何で逃がしちまったんだ?」
「もう聞きたい事は無くなったんでな。聞く事を聞いたら解放すると言う約束を果たしたまでだ」
「律儀だねぇ」
ウィズに適当に相槌を打ちながら振り返ると、アルドの手には何やら大荷物が抱えられている。それを見て颯人は目を丸くした。
「あれ? 何その荷物?」
「お前にここを見つけられた以上、もうここには居られないから別の隠れ家に移るだけだ」
「あ~、そいつは失礼しました」
あの大荷物はウィズの言葉から察するに、アルドが指輪を作る為の器具何かが入っているのだろう。ウィズを出し抜きたかった颯人だが、あの様子にはちょっと悪かったと言う気もしなくもない。
しかし彼にだって言い分はあった。
「でもよぉ、ウィズはもうちょっと周りと連携を取るべきじゃねぇのか?」
「……何だと?」
「だってよぉ、もう奏達もジェネシスの連中には敵として見られちまったんだぜ? 同じ敵を相手にするなら、もちっと足並み揃えられるようにした方が良いとは思わね?」
敢えて仲間になれとは言わない。心を開く気が無い者が一緒に居ても、最悪足を引っ張るだけで終わるからだ。
だがそれは別として、せめてもう少し連絡位は取り合った方が良いのではないかと言うのが颯人の意見であった。
「この間の通信魔法みたいな奴をさ……」
「…………ふん」
〈テレポート、ナーウ〉
ウィズは颯人の言葉には答えず、小さく鼻を鳴らして魔法でアルドと共にその場から消えてしまった。
颯人は暫し誰も居なくなった室内を見つめていた。その表情からは、彼の考えを読み取ることは出来ない。
どれだけそうしていたのか、徐に歩き出し静かな足音を響かせながら部屋から出ていく。
その際――――――
「みんな、もっと素直になればいいのにねぇ」
誰に言うとでもなく紡がれたその言葉は、直後にドアを閉められた薄暗い室内に消えていった。
それはまるで、行き場の無い言葉を聞く者が誰も居ない部屋の中に放り捨てたようでもあった。
後書き
と言う訳で第47話でした。
ウィズが隠れ家にしていた部屋に関してですが、アパートの管理人はウィズが居る事を知っていました。より具体的に言えば、変身していない状態のウィズが管理人に金を握らせて黙らせていました。なので颯人達が管理人に問い詰めても管理人は知らんぷりです。
執筆の糧となりますので、感想その他お待ちしています。
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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