仮想空間の歌う少年
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あの顔合わせの後、ALOからログアウトして学校から出されていた演習形式の問題集を1時間ほどやり、外が真っ暗になっていたので時計をみると短針がちょうど7を指していた。
「…ん。こんな時間か。」
僕はささっと問題集を片付けて、詩乃の部屋にいつも通りベランダから入る。
「しーの!ごはん作ろう!」
「プライバシーの欠片もないわね。」
そう言ってため息をついて詩乃が出迎える。…なんか慣れてきたな…。そんなこと考えながら一緒に夕食を作っていると不意に詩乃の家の電話が鳴った。
「詩乃!電話鳴ってるよ!」
「んー!」
そう言って詩乃はエプロンを取って電話を取りに行く。僕はその姿をしっかりと確認…正直に言うとエプロン姿の詩乃が可愛い過ぎて3秒間見惚れていたのは秘密だ。
「…なんか多いな。」
今日はチンジャオロースを作っていたのだが…昨日スーパーの特売をやっていたので大量に食材を買い込み、今日は少し多く作り過ぎていた。…こりゃ明日の朝ごはんもチンジャオロースかなとため息混じりに考えていると。
「ねえ…佳。」
「どうしたの?」
受話器を持ちながら詩乃がキッチンに入って来たので僕はチンジャオロースを炒めながら聞き返す。
「明日奈が…なんか深刻そうなんだけど。」
「どういうこと?」
「とりあえず変わって。」
僕は詩乃が受話器を受け取り、アイコンタクトを取り詩乃がフライパンを取る。
それを確認して僕は受話器に耳を当てる。
「もしもし?」
『…。佳君?』
電話越しから聞こえたのは弱々しい明日奈の声だった。さっきまでのフロアボス攻略に知恵を絞っていた『閃光』の剣士アスナとは思えなかった。僕はかける言葉が見つからず。
「えっと…大丈夫?」
『…どうしよう…。私…。』
曖昧な問いになってしまった。それ以前に
…話が通じない。
すると遠くの方で電車が通る音が聞こえた。僕は少し考えて。
「…今どこ?」
シンプルに、答えがある問いを明日菜に問う。
おそらく電車の音がしたから外にいるのは確かだった。
『上野駅の近く…。』
「わかった。ちょい待ってな。」
僕はそう言って通話を切る。そうすると詩乃が心配そうに見てきた。
「大丈夫だった?明日奈。」
「ヤバいかもね…。
詩乃。料理作り終わった?」
「とりあえず。」
そう言って詩乃が指差す先には作り終わったチンジャオロースが山盛りで乗っていた。僕はそれを見て頭を掻き。
「あー。作り過ぎだな…。
っと。それより詩乃。今から僕と一緒に出かけられる?」
「明日奈の事?」
詩乃が腕を組んで真剣そうな表情をする。僕はそれを見て。
「うん。とりあえず電話越しで聞く限りでは明日奈ちょい参ってるようだからね。迎えにいこう?」
「了解。」
そう言ってささっと僕達は準備をして。上野駅へと向かい始めた。
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僕達は上野駅に着き、改札を出るとすぐに明日奈を確認することができた。
僕達は明日奈に近づき。
「こんばんは。明日奈。」
「シノのん…。佳君…。」
明日奈はもう泣きそうになって僕達を見ていた。
僕はいつもの笑顔で明日奈の肩に手をポンと置いて。
「とりあえず僕達のアパートに行こう?ちょうど詩乃がチンジャオロース作り過ぎて…。」
「佳でしょ。作り過ぎたの。」
「う…ごめんなさい…。
とりあえず行こう?」
「うん…。」
帰り道。明日奈は口を余り開く事は無かった。当然と言えば当然なんだろうけど。
そうして僕達は詩乃の部屋に着く。
「お邪魔します…。」
「入って入って♪少し物が散乱してるけど。」
「佳がいろいろこっちにもってくるからでしょ!」
詩乃がそう言って怒るが僕は無視し、とりあえずリビングの床に座らせる。
「えっと…。」
「ぐすっ…。」
「⁉︎」
見ると明日奈が泣いていた。僕は慌てて詩乃を呼ぶ。その時にはもう明日奈は泣き崩れそうになっていた。
「詩乃!ちょっと来て‼︎大至急!」
「何よ…。って
…佳。何、明日奈を泣かせてるのよ。」
明日奈が泣いているのを見てジト目で見てくる詩乃。僕は慌てて手を大げさに振って否定する。
「違うよ!誤解だよ!oh!NO!NO!最悪の事態だ♪」
「…とりあえず話してみて明日奈。佳はほっといて。」
「酷い。」
「口チャック。」
「はい。」
そう詩乃が冷たい声で言って。僕が黙ると明日奈は泣きながらもゆっくり喋ってくれた。
…どうやら明日奈のお母さんと今の学校の事についてケンカした、明日奈的には今の学校にいたいみたいなんだけど明日奈のお母さん自体は環境が良くないとかどうのこうので転校させたい。こんな感じかな。まとめると。
「なるほどね。」
「でもこんな弱気なところ…キリト君に見せられないから…。」
そうやって明日奈は泣き止みながらも目を伏せていると詩乃が明日奈の肩をポンポンと叩き。
「大丈夫よ。私達は明日奈に救われたんだから、何時でも頼っていいからね。」
「う…。2人共…。」
そうするとまた明日奈は泣き出したので僕達は苦笑しつつも泣き止むまでそばに居続けた。
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