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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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三十九 好敵手

 
前書き
前々回と前回のカブトの回想から、ようやく現実の話へ戻ってきました。
サクラといのが対峙する場面と、大蛇丸を逆に乗っ取ったサスケとカブトが対峙している場面からです。
前々々回の続きからになります。短いですが、ご容赦ください。

 

 
崩壊した廃墟に、舞う桜。

それはどこか幻想的な光景だが、時折、刃物と刃物がかち合うかのような金属音が、この場が戦場だという現実を突きつけていた。

桜吹雪の中、金色の髪と桜色の髪が踊る。
巨大な猫を足場に繰り広げられる戦闘は、波風ナル・奈良シカマル・ヤマトの介入を決して許さない。
二人だけの不可侵な戦はおよそ、くノ一同士の争いとは思えないほど激しいものだった。


「こ、のお…!!なによ、その馬鹿力!?」

数多の武器を投擲する。
忍社会においても屈指の忍具取り扱いの店から購入した武器は一般の忍具より遥かに殺傷力が高いはずなのだが、それらを己のライバルは尽く弾いてゆく。

それも、素手でだ。

飛んできたクナイを腕力で弾き、瓦礫を蹴って勢いを削ぎ、更には粉砕してゆく山中いのを、春野サクラは信じられない面持ちで見遣った。


「ア、ンタこそ…!!いつからこれほど高度な幻術、使えるようになったのよ!?」

投擲された武器を弾こうとして拳を繰り出す。瞬間、目の前の武器が桜の花びらへ変わる。
幻術だと理解した瞬間、桜の花弁の間を縫って飛んできた本物の武器を、いのは慌ててかわす。

頬を掠めて背後へ飛び去る武器を眼で追いながら、いのはチッと舌打ちした。頬に流れる一筋の血を拭う。
同時に、サクラが口寄せした猫又がいのを襲う。巨大な猫の猛攻を避けながら、いのは印を結んだ。

「すっこんでなさい!!【心乱身の術】!!」
「させるか!!【魔幻・樹縛殺】!!」

敵の精神を狂わせる術を食らわせようとするいのに対し、サクラが即座に術をし返す。
途端、いのの腕に大樹の蔓が絡みつく。大樹が絡みついて縛られる幻像を視せられているのだ。

かつて木ノ葉でサクラが、幻術のエキスパートである夕日紅から教わった術である。

【心乱身の術】の印を結び終わる前に、動きを止められたいのが唇を噛み締める。
猫又の精神を狂わせて手駒に出来なかった事を悔いるよりも先に、彼女は幻術からの解放を最優先とした。

「舐めるな!!」

己の馬鹿力で、自らの太ももを殴る。折れてはいないが相当の痛みがいのを襲った。
力技だが、効果的な方法で痛覚によりサクラの【魔幻・樹縛殺】から無事抜け出せたいのは、バックステップでサクラから距離を取る。


「力に物を言わせてるわね…いつからそんな暴力女になったのかしら?」
「あ~ら?それはこっちの台詞よ。数に物を言わせて武器を投げるわ、幻術を潜ませるわ…いつからそんなせこい女になったのかしら?」


サクラといのの言葉の応酬に、完全に蚊帳の外だったナル・シカマル・ヤマトは内心震え上がる。


「サクラちゃんといの…こえぇ…!!」
「ナル…おめーは頼むから、あーゆー感じにはなってくれるなよ。めんどくせーから」

貌を引き攣らせるナルに、シカマルは心の底から懇願した。










大蛇丸が根城にしているアジトを突き止め、そこに潜入した波風ナル・奈良シカマル・ヤマト。
そこで、木ノ葉の里を抜けた春野サクラと衝突していた矢先、山中いのが介入してきたのだ。
それからはすっかり置いてきぼりにされた三人は、くノ一同士の戦闘の傍観を余儀なくされていた。

「あの子がサクラの相手をしてくれるなら、僕達はサスケくんを捜すことを優先したほうが良いのではないかい?」

うちはサスケがスパイとして大蛇丸の許へ下ったことを知らないヤマトがそう提案する。
同じく知らないナルは当初の目的を思い出して、ハッとした顔で、アジトの奥を睨んだ。

アジトの一部はサクラが口寄せした猫又によって崩壊しているが、辛うじて崩壊を免れている場所はまだ残っている。
蛇の鱗を思わせる長い廊下。
その奥を透かすように睨むナルの隣で、この場で唯一、サスケが木ノ葉のスパイだと知っているシカマルは内心、困り果てた。


サスケを連れ戻すことを目的とするナルとヤマトに反して、シカマルの役目はサスケが潜入捜査を続行できるようにうまく根回しする事だ。
現時点でサスケがスパイだと知っているのは、五代目火影である綱手と、五代目風影の我愛羅、そしてシカマルのみ。
サスケがスパイだとバレないように、真実を知っているシカマルが上手く誘導せよ、というのが五代目火影からのお達しだ。

サスケがスパイだとバレる可能性をなんとか回避せねばならない自分の責任を思って、シカマルは溜息をついた。


「それに、『根』のサイのことも気にかかる」

偽の死体で惑わされかけたものの、『根』の一員でありダンゾウの部下であるサイが大蛇丸とカブトの後を追い駆けていったというのは事実だ。
結局あれからサイの姿は見ていないが、大蛇丸の動向を窺っていた彼が現在このアジトに同じく潜入している可能性は高い。それに、サクラといのの戦闘が過激になってきているにもかかわらず、大蛇丸が何の音沙汰も無いのが逆に不気味だ。


「ひとまず、この場はあの…いのという子に任せて我々は────」
「サスケくんのところへ行こうっての?」


刹那、ヤマトがナルとシカマルを庇うように、印を素早く結んで腕を掲げた。
ヤマトの腕が大樹に変わると同時に、クナイが飛んでくる。それらは瞬時に変化させたヤマトの樹の腕に突き刺さった。

「馬鹿ね!行かせるわけないじゃない!!」

自分もまだ想い人であるサスケに出会えてないのに、という八つ当たり気味な口調で、サクラが猫又に合図する。
サクラの指示に従い、巨大な猫が身体のわりに俊敏な動きで、アジトの廊下へ続く道の前に立ちはだかった。

「そう簡単には行かせてくれないか…」

腕に刺さったクナイを振り落とし、ヤマトが肩を竦める。
同じく戦闘体勢に入ったナルとシカマルの目の前で、猫又が巨大な爪を振り翳した。


迫り来る爪。
地面まで削る猛威は、その瞬間、金色の髪を翻すくノ一によって、止められる。


サクラが眼を見張る中、猫又の爪を真剣白刃取りの如く、掴み取ったいのは、腕に力を込めた。


「うおらあぁあぁあああぁ!!!!」

地面を踏ん張る足が、猫又の巨躯の重さでへこむ。
だがそれを物ともせず、いのは巨大な猫を宙へ放り投げた。

大きく弧を描いて空高く放り出された猫が落下してくる。


ズウウゥゥゥウウン!!!!!!と大きな地鳴りを轟かせて墜落した猫又が目を回す。
それを一瞥し、いのはふんっと鼻を鳴らした。ポニーテールが揺れる。

「いい加減、おとなしく引っ込んでなさい」

目を回した猫又がぼうんっと大きな白煙と化す。
口寄せの術が解けて消えてゆく様を見送りながら、いのはサクラに改めて向き合った。


「お仕置きの時間よ、サクラ。目を覚まさせてあげる」


拳を握り、宣言するいのを目の当たりにして、サクラは瞠目する。
いのの言葉ではなく、金色の髪を結ぶリボンを、彼女は凝視していた。


それは、忍者学校時代、かつていじめられっ子だったサクラがいのからもらったリボン。
忍者学校卒業後、対等なライバルとして認めてほしい、とサクラがいのに返したソレは、今現在、いのの金色の髪を結んでいる。
サクラの動揺を誘うには十分な、燃えるような赤。


かつてはサクラの物であった赤色のリボンが、いのの髪を結んでいる。
ポニーテールの金に映える赤を前にして、サクラは尻込みした。

脳裏に、いじめられっ子だったサクラを庇ってくれた幼きいのの姿が過ぎる。


「歯を食いしばりなさい…!!!!」


だからサクラは、いのの渾身の拳を避けることが出来なかった。




















ズウウゥゥゥウウン!!!!!!
激しく大きな音。

こちらにまで振動で伝わってくる地鳴りに、サスケは動揺した。


「…どうやら、あちらで何か起こっているようだね…大方、木ノ葉かな?」
「なに…っ」

蛇の鱗を思わせる長い廊下。
かつて大蛇丸の自室であった部屋の前で、対峙していたサスケはカブトの一言で眉を顰めた。


大蛇丸に強襲され、【不屍転生】で器にされそうになったものの、写輪眼の瞳力で術を跳ね返したサスケ。
一番の脅威であった敵を覚めることのない眠りにつかせ、逆に乗っ取ることに成功したサスケだが、彼は浮かない顔でカブトを注視していた。

それもそのはず。
てっきり主人を乗っ取られた仇討ちでもするのかと思ったカブトが、何故かサスケに感謝しているのだから。


「さっきの物言いからして、お前の主人は別にいるということか?」
「さて?君にはもう関係ないことだろう?」

警戒心を露わに睨み据えるサスケを、カブトは飄々とした顔で見返した。
回想に耽り、かつての本当の主であるうずまきナルトとの出会いを思い返していたカブトは、意味ありげに視線を轟音が聞こえてきた方向へ向ける。


「それより…いいのかい?君のかつてのお仲間は」

押し黙り、動こうとしないサスケが腰に手をやる。
腰の刀の柄に指が触れる直前、カブトは言葉を続けた。

「僕の巻物に保管しておいた十五・六歳の男の遺体…それのストックが足りなくなってね。だから南アジト監獄の彼女を呼び寄せたんだよ」

サスケの指がピクリと反応する。
里を抜けた自分について来て、南アジト監獄を任された同じ木ノ葉の彼女を思い出し、サスケは益々顔を険しくさせた。

「元・木ノ葉で抜け忍が、仲間だった木ノ葉の忍びと鉢合わせしたら…」


カブトの言葉の続きを、サスケは待たなかった。
すれ違い様に、チッと舌打ちする。

足早に立ち去り、轟音がした方向へ向かうサスケの後ろ姿を見送り、カブトはやれやれと肩を竦めた。

木ノ葉の忍びとサクラが対戦しているこの騒ぎに乗じて、サスケに大蛇丸を乗っ取らせたことだけでなく、この場から立ち去ってもらえるようにサスケを誘導させた彼は、軽く息を吐く。


不意に、聞こえてきた話し声を耳にして、カブトは壁際に身を寄せ、息を潜めた。
話の内容を興味深げに聞く。

壁際で身を潜ませながら、思案顔を浮かべていたカブトは心の内で静かに謝罪した。


(すみません、君の許へまだ帰るわけにはいかなくなったようだよ────ナルトくん)



一途にナルトに従う故に、彼の為になるであろう事柄は率先して行う。
だからこそ、カブトはあえて姿を現した。

『根』の創始者────ダンゾウを打倒する計画を企てているサイとシンの前に。





「その話…僕にも詳しく教えてくれないかい?」
 
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