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レーヴァティン

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第百六十七話 近江に入りその九

「これまでもそうだったな」
「虐殺も奴隷も嫌いじゃったな」
「民になる者をそうしてどうする、それにだ」
「おまんの考えとしてもじゃな」
「俺は外道は嬲り殺しにするが」
 それでもというのだ。
「何の罪もない者にそうして何が面白い」
「それで奴隷もじゃな」
「何がいい」
 こちらにはこう言った。
「働き手ならだ」
「普通に民がおるのう」
「本朝では奴隷は早いうちになくなった」
「太閤さんも嫌いじゃったしのう」
「豊臣秀吉公は他国で奴隷にされていた民を買い戻した程だ」
 そして民を売っていたのがキリスト教の宣教師だと聞いてキリスト教を禁じた、全ては民を護る為であったのだ。
「そして奴隷がいなくともだ」
「日本は何の問題もなかったのう」
「奴隷など不要だ」
 この制度自体がというのだ。
「だから俺は城を攻め落としてもだ」
「捕虜を売り飛ばさんのじゃな」
「そのまま家臣か民かだ」
「兵としてじゃな」
「用いる」
 その様にするというのだ。
「これからもな」
「そうじゃな」
「だが血生臭い噂はな」
 英雄そして幕府の軍勢のそれはだ。
「相手を恐れさせ戦う前に降ればそうならないと思わせるからな」
「いいのう」
「それはな」
 それが噂で出ることはというのだ。
「止めない」
「否定も肯定もせんのじゃな」
「噂は全てな」
「そういうことじゃな」
「それではな」
「これからもじゃな」
「兵を進めていく」
「今度は彦根城じゃな」
「彦根城も大きいね」
 ここでこう言ったのは奈央だった。
「随分と」
「そうだな、だが大軍ともなるとな」
「入りきれないね」
「俺達は十万の軍勢を率いているが」
 二十万のうちの十万だ、残り十万は伊勢から尾張に向けて進軍しているのだ。
「その十万もな」
「何とか入られる位で」
「ここで城の外にも布陣するか」
「城に入りきれないだけの大軍だね」
「それが来ているとな」
 その様にというのだ。
「演出するか」
「それでだね」
「余計に大軍だとな」
「相手に思わせるね」
「そうだ」
 それだというのだ。
「要するにな」
「とにかく噂と演出ね」
「そうだな、相手をとにかくだ」
「戦わずして降らせる」
「それに徹する、この安土城にもだ」 
 英雄は今自分達がいる安土城の天主閣から下を見た、見ればその十万の大軍が城の外にもいる。恐ろしい大軍だ。
 その大軍を見つつだ、奈央にさらに言った。
「外に出しているがもう一つやるか」
「もう一つ?」
「ここにも東海や甲信の者達がいる」 
 密偵が来ている、それを前提としての言葉だ。
「だからだ」
「わかったわ、それでなのね」
「そうだ、夜の陣の灯りをだ」
「増やすのね」
「倍にな」
 それだけというのだ。 
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