| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

GATE ショッカー 彼の地にて、斯く戦えり

作者:日本男児
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第16話 千堂のパーフェクトしょっかー教室

 
前書き
新作ライダー『仮面ライダーセイバー』がとうとう発表されましたね!!! 
本作にも登場させたいけど……どう繋げるか……。


それと今回は今更ながら捏造設定がひどいですが…それでもいいと言う方はどうぞ!
 

 
ピニャとボーゼスが大首領と謁見している頃、千堂は記者会見を終えたレレイ達と博物館に来ていた。ちなみに自称「案内役」の増沢は博物館の外で戦闘員達と不審な人物がいないか警備をしている。

そもそも千堂達が博物館に来ているのはロウリィがショッカーの歴史や宗教について知りたいと言ったためだ。

上層部からはよほどの機密に関わる場所でなければ彼女達の望む場所に連れて行くようにと言われていたので意外とスムーズに手配は進んだ。
敵国の皇女であるピニャ達と異なり、いわゆるお客様待遇である。


最初こそ千堂はこの世界の歴史的建造物や宗教施設を訪れようかとも思ったがすぐに脳内で却下した。

歴史的建造物はともかくとしても宗教に関してはキリスト教や仏教、イスラム教を始め、ゲルダム教やドーブー教、卍教など日本世界以上に様々な宗教・宗派が乱立している。そのためそれら全ての宗教施設を見て回るのは不可能と千堂は判断した。それにそれらの宗教団体が異世界の亜神であるロウリィを快く迎えてくれるとは考えにくかったからだ。



(なんというか……大ショッカースクール時代の修学旅行を思い出すなぁ)


博物館前で千堂はレレイ達を見てそう思った。
少女達を連れて博物館や名所を巡る。それはまるで修学旅行を思わせた。
少女達が生徒ならさしずめ自分は引率の教師といったところなのだろうが。



「それにしても…ショッカーライダーと大幹部展ねぇ。いつの間に開催されたんだか……」


普段は日本エリアやショッカーの歴史に重きを置いた展示をしているこの博物館は今回、特別展を開催しているようだった。

子供達の憧れでもあるショッカーライダー関連の展示ともなれば本来なら子供や家族連れやコアなショッカーライダーファンでいっぱいになるであろう筈のこの特別展も異世界からの来賓が来るということで政府が急遽、この近辺の人払いをしたためスタッフなどを除けば殆ど貸切状態である。


館内に入ってすぐ、ショッカーライダーの展示が始まった。
順路通り展示物を見て回るがどれも見る者の興味をそそるものばかりだった。ライダー達の専用マシン、変身ベルトだってある……全て本物ではなくレプリカだが。
しかも見ていて飽きない展示のされ方や分かりやすい解説をしているのでついつい引き込まれてしまう。
それはレレイ達も同じようだった。

レレイはショッカーライダーについての説明書きを注意深く読んでいた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ショッカーライダー

ショッカー最強クラスの存在であり、秩序の守護者達。
元々はショッカー最大の裏切り者であり大罪人である本郷猛と一文字隼人に使われた技術をベースにして作られたエリート怪人のみを指す言葉だったが現在ではミラーモンスターと契約して変身する者やガイアメモリで変身する者、アストロスイッチで変身する者、フルボトルで変身する者など様々なライダーが現れた。

彼らの強さは大幹部に匹敵するとも言われており、子供達の憧れの的でもある。変身者の中には普段は一般市民として過ごす者もいれば、警官としてショッカー警察に所属している者もいる。
また彼らの権利や生活は「ショッカーライダー登録法」で保護・保証されており、軍やショッカー警察の要請が入ればすぐに現場に駆け付け、不穏分子と戦うのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「そんなに強いの?このショッカーライダーって?」


ロウリィが千堂に尋ねた。戦いの神に仕える使徒ゆえに気になったのだろう。千堂はそれに対して少し、神妙な顔つきで答えた。


「ああ、ライダーによって能力や強さは違うけど『時間経過で防御力が上昇し、時間操作ができる』のもいれば『自身の力を自由に設定できる』のもいるし、『他のライダーを召喚できる』のもいるな。それに『パンチ一撃で一帯を無に返すことができる』なんてザラにいるぞ?」


それを聞いえロウリィは勿論、レレイやテュカですら口をパクパクとさせる。
彼らの性能が魔法・ドラゴンありの異世界から見ても規格外を通り越して、『超超超ド級チート』レベルの強さを誇っていたからだ。



「え?ライダーってこの世界の亜神か何か?」
「それを生み出したショッカーはもはや神では?」


レレイとテュカが狼狽える中、ロウリィが少し意地悪な笑みを浮かべて尋ねた。
 

「千堂と戦ったらどっちが強いのォ?」


「ハ…ハハ……どうだろうなぁ?」


千堂は困ったような引きつった笑みを浮かべて苦笑してしまう。


旧型のショッカーライダーやナノロボットで作ったショッカーライダーなら苦戦しつつも倒せるかもしれないが他のライダー達は別格だ。
さっき言ったように超超超ド級チート性能を持つ彼らを相手に戦ったとしたら自分なんか即座に瞬殺されてしまうだろうし、そもそも大幹部クラスでないとマトモに戦うことすらままならないのではないかとさえ思う。

まぁ、政府や大首領様に『戦え』と命令されれば絶対に勝つように戦略を磨いたり、正面からぶつからずに"工夫"を凝らして戦ってみせるが……。



それから千堂達は大幹部のコーナーに移動した。そこでは大幹部達の所持品(レプリカ)や直筆の手紙や命令書などが展示されていた。

特にショッカーの全大幹部の肖像画が壁一面にズラリと並んでいる様は圧巻の一言に尽きる。

 

「なんか、皆、怖い顔してるけど…」
「ねぇ、ここに飾ってある人達ってひょっとしてショッカーの偉い人の絵?」


「そう、『大幹部』という大首領様の次にこの世界で崇められている御方達だ」


千堂は尊敬と崇拝の眼差しでそれらの肖像画を見つめる。彼ら、大幹部はいわば大首領様に仕える『神官』。この世界ではそんな方々に尊敬の念を抱かない方がおかしいのだ。



「ふーん、じゃあ、あの変わった頭の飾りをした人は何ていうの?」


ロウリィはツタンカーメンを思わせる被り物をした男が描かれた肖像画を指差して尋ねた。


「ああ、その御方達は地獄大使と言って…」


「地獄!?なんか怖い名前!!」


「いやいやそんなことないぞ!!それに『地獄大使』っていうのはあくまで公式の"敬称"であって本名はダモン様というからな!!」


千堂は偉大なる大幹部、地獄大使のイメージを守るべく必死に熱弁する。
確かに大幹部達は見た目や名前が多少、恐ろしい方が多いがショッカー、ひいてはこの世界にに与えた功績は計り知れない。そのことを知ってもらいたかった。


「でどんな人なの?」


ちょうどロウリィが尋ねてきたのでこれはチャンスだと思い、説明しようとする。


「この話をする時には彼の従兄弟である『暗闇大使』ことガモン様の話もセットでする必要があるが……」


千堂は顎に手を当ててどう話せば分かりやすく地獄大使の『偉業』が伝わるかを考えた。

一方、レレイ達、異世界の3人の少女達は『地獄』や『暗闇』という明らかに不穏な単語が連発していることにこれからの説明に一抹の不安を感じていた。


「うーん、俺は軍人だからな。断片的だったり、大まかにしか話せないから地獄大使様の凄さを上手く伝えることができるかは分からない……が」


これは異世界人のショッカーのイメージに関わる重大な仕事である。また、ここでレレイ達相手に分かりやすい説明ができないようならこれから日本世界で行われる記者会見の質疑応答役など到底、不可能だろう。

千堂は自分を奮い立たせると少し咳払いをしてから静かに語りだした。


「……これから話すのは2人の男が自分達の運命を…そして世界を変えるべく立ち上がった話」
 

レレイ達にとっては意外だった。
もっとおどろおどろしい感じの話かと思ったが千堂が思いの外、面白そうな始まり方をしたからだ。いい意味で思っていたのとは違っていた。


「地獄大使ことダモン様と暗闇大使ことガモン様は従兄弟同士だったんだ」


なるほど、親戚同士なのか、どうりで名前が似てる訳だ。レレイは納得した。だがこの時点ではまだそこまで関心を持っていないようだった。


「彼らはスラム…異世界でいうところの貧民街で生まれ育ったんだ。それ故に幼い頃から侮蔑と迫害にまみれた生活をしてきたらしい。また、彼らの両親は幼い頃に既に他界していて頼れる相手は互いを除いていなかった。
だから2人は……どんなに辛い時でも従兄弟同士で、唯一の肉親として一緒に力を合わせて生きていこうと決意したそうだ」


帝国にも帝都に"悪所"と呼ばれる貧民街があるため、幾分か想像しやすかった。
幼い2人の少年が手を取り合って懸命に貧民街で生きる様を思い浮かべると異世界から来た3人はなんとも言えない哀しい気持ちになった。想像以上に過酷な暮らしをしていたのだろう。
気づけば3人は千堂の話に引き込まれていた。


「更に彼らは貧しいながらも独学で勉学に励んでいた。特にダモン様は現在でも毒蛇の研究に関しては並の学者じゃ太刀打ちできない程の博識らしい」


勉学にも秀でていたのか……。レレイの脳裏には明日を生きられるかも知れない貧しい環境にも関わらず涙ぐましい努力で勉学に打ちこむ少年達の姿が浮かんだ。だが千堂はまだ続けて話そうとした。どうやらそれ以外にも凄い逸話があるらしい。


3人の視線が一気に千堂に集まる。


「それから数年後、彼らは大人になると故郷を捨てて某国に渡った。その国はとんでもない圧政を敷いてて、民衆はいつも苦しめられていた。それを見かねたダモン様はガモン様と共に革命を成すべく解放軍に参加したんだ。そして2人は解放軍の中で将軍にまでに成り上がったそうだな。
……人から差別され、苦しみ続けた彼らだからこそ他人の苦しみに人一倍敏感だったのかもな」


貧民街出身の少年達が正義に燃えて民衆を助けるために革命を起こすべく将軍にまで成り上がるなんて。テュカが感嘆の声を漏らした。彼女だけではない。ロウリィやレレイも地獄大使とその従兄弟…暗闇大使のサクセスストーリーに興奮しているようにも見えた。


「また、彼らはめちゃくちゃ強かったらしくて敵からは『力の悪魔』、『知恵の悪魔』と呼ばれていたらしい」


なるほど、地獄大使や暗闇大使と呼ばれる所以はきっとそこにあるのだろう。レレイはそう思った。


「…でもそんな彼らにも終わりの時がやってきたんだ。ある日、いつものように民衆の為に前線で戦闘の指揮を取っていると密かに敵側に寝返っていた側近の裏切りにあって二人共、亡くなってしまったんだ」


「「「え!?!?」」」


いきなり話の主人公であるダモンとガモンが死んでしまい、テュカとレレイは唖然と目を丸くする。これからどうなるのか想像もできなかった。
また、ロウリィの方は恐らく最も信頼していたであろう側近に殺された彼らの心情を推し量っていた。

最期に2人は何を思って亡くなったのだろうかと。



「2人の死後、その崇高で気高い精神は解放軍の全将兵に受け継がれ、破竹の勢いで首都に向けて進軍し、圧政を敷いていた独裁者を打倒することに成功した。ちなみに今でもその国…ガモン共和国のあった地域は2人を軍神と崇めてるそうだ」


千堂の目はどこか明後日の方向を向いていた。彼の目には革命達成で歓喜に湧く"旧ガモン共和国"の民衆達が映っていた。


「そして彼らの功績を知り、『優秀』と判断なされた大首領様は創設してまだ間もないショッカーの技術力を使い、2人を蘇生させて大幹部の地位をお与えになった」


戦の神の使徒であるロウリィは曲がりなりにも戦死者である地獄大使と暗闇大使を蘇生させたことに複雑そうな表情をしていたが残りの2人はえらく関心している様子だった。


「そして地獄大使、暗闇大使となった彼らは幼い頃の自分達や某国の民衆達を苦しめた世界中に蔓延る権力社会を打倒すべく立ち上がったというわけだ。彼らの卓越した指揮もあってショッカーの進める世界統一事業や不穏分子との戦闘では多くの成功や勝利を収めたというから驚きだな」


それから千堂は少し身振り手振りを加えて少し、芝居がかった感じで話しのラストパートを語った。


「そして世界統一後、ショッカーの世界統一宣言式典で大幹部達にそれまでの功績を讃えられて称号が贈られたんだが…。地獄大使・暗闇大使の2人には『どんな逆境にも挫けない誠実な忠臣』の称号が贈られた。……そして2人はかつてのスラム出身の少年としてではなく……腐敗した世界から人々を解放した英雄として世界から崇められるようになったのだった」


千堂がふと、レレイ達の方に向き直るとロウリィを除いて彼女達は俯いた状態で肩を震わせていた。
途端に千堂は不安になってしまった。自分の説明が分かりづらかったのだろうか。


「どうした?説明が教科書的過ぎて分かりにくかったかな?」


よく見るとレレイは少しだけ苦い物を噛んだような神妙な顔をしており、テュカに至っては感極まって涙を流していたのである。
静かな語り口で話された大幹部の知られざる過去は彼女らのショッカーに対するイメージを爆上げしていた。
尤も千堂からすればこの世界の一般常識を語ったに過ぎないのだが…。


「分かりにくくなんてない!彼らの偉業がなぞるように分かった!」


「あっちの白い服と黒マントのおじいさんは!?どんな人なの!?」


テュカは別の肖像画を指差して、少し興奮気味に千堂に尋ねる。余程、地獄大使の説明が面白かったらしく、他の人物についても聞きたいのだろう。
千堂はその肖像画に描かれている人物をジッと見つめて話し始めた。


「その御方は『肉親を守る為に戦った悲劇の賢者』。イワン・タワノビッチ様、公式の敬称は『死神博士』。旧日本国の首都 東京に生まれ、病弱な妹を救うためにはどんな努力も惜しまなかったとか…」


妹を救う為に戦った賢者か……。先程の地獄大使や暗闇大使が世界を変える為に戦ったのに対してこちらは親族の為とより親近感と好感が持てた。
きっと素晴らしい人徳者なのだろう。


「それに妹を救う目的の為なら医学や生物学は勿論、占星術や催眠術などのオカルト方面も貪欲に学んでいたと言う。またショッカーに招かれた後は得意の改造技術で多くの優秀な人材を怪人にしたそうだ」


努力を惜しまず、ありとあらゆる学問を学ぶ進取の精神にレレイは感銘を受けた。
尤も医学、生物学ならまだしも占星術や催眠術で妹の命を救えるとは到底、思えなかったが……。


「ちなみに改造人間となってからは宇宙から隕石を降らせることができるって話だが…」


「「「プッ!!」」」


これには3人とも吹き出した。いきなり非現実なパワーワードが飛び出したからだ。





それからロウリィがふと、『規律を重んじる厳格な完璧主義者』の肖像画に視線を移して「あら?」と少し高い声を上げた。
というのもその絵にはロウリィ達がオ・ンドゥルゴ基地で何度か会ったことがある人物が描かれていたからだ。


「あれ?このおじさまは基地にいた…」


「ああ、ゾル大佐だ」


「え!?あのおじさんも大幹部なの!?」


レレイやテュカからすればゾル大佐は服装の乱れや風紀に小うるさい少し偉いおじさんくらいにしか見えないが千堂ら、ショッカー側の人間にしてみれば人間国宝、いやそれ以上の人物である。



「ゾル大佐は昔あった西の大国(ナチスドイツ)に仕えていた軍の大佐で祖国を守る為に必死に戦った英雄だ。その当時、自ら志願して改造人間となり、鬼将として敵軍に俄然と立ち向かった。
彼が変身した狼男の姿は敵を震え上がらせたというからいかに大佐が強いかが分かるな。結局、大佐の祖国は敗戦し、滅んでしまったが大首領様に『優秀』と判断された大佐は生き残った部下達と共にショッカーに招かれたそうだ。
今、着ている軍服と階級もその時のものを引き継いでるんだとか」


「なるほどォ、オジサマもかなり強かったのねェ。それに軍服と階級をそのまま使うなんて余程、自分の祖国に誇りを持っていたのねェ」


そうだな…、と千堂は落ち着いた優しい口調で言って続けた。


「統一直前までは敗戦国側の将ということもあって戦勝国側による一方的な情報操作で極悪人扱いされていたんだそうだ…が、統一後はショッカーの尽力で厳格に規律を重んじ、対侵略勢力から祖国を守ろうとした英雄として名誉回復が果たされたわけだ」



『極悪人扱いをされていた戦争の英雄が名誉挽回し、人々からまた崇められるようになった』


地獄大使らに勝るとも劣らない成功譚である。それを聞いて彼女らのゾル大佐に対する尊敬度が上がった。 

自らの預かり知らぬところで評価が爆上がりしていると知ったらさすがのゾル大佐も面食らうかも知れないが……。


その後も千堂達は展示を見て周り、時に『解説』を挟みながら一行は楽しい一時を過ごした。
――――――――――――――――――――――――
外に出ると戦闘員達の乗った数台の白バイを先頭として政府公用車が停車していた。よく見ると助手席には増沢がいち早く乗り込んでいた。


「ここでお別れのようだな」


博物館の外で千堂はレレイ達に別れの言葉を言った。
レレイとテュカは驚いたような顔をした。


「「えっ?センドウは?」」


「俺は日本に行く用事があるからこの世界に留まるよ、またオ・ンドゥルゴで会おうな」


レレイは少し、不安げで残念そうな顔をした

「次はいつ、会える?」と小さな声で尋ねた。
 

「次は日本から帰ってからになるから1週間ぐらいかな」


一瞬、レレイはいっそう残念そうな顔をしたがらすぐに気を取り直していつものようなクールな調子に戻った。
……ロウリィはまるで面白いものを見ているかのようにニヤニヤと笑っていたが。


一時の沈黙がその場を支配する。


「……そう、じゃあまたその時に会おう」


「ああ!じゃあ、またな!!」


千堂は手を降って優しく見送る。
レレイ達が静かに乗り込むと車列は発進し、みるみる内に遠くに行ってしまい、小さくなって見えなくなる。



―――――――――――――――――――――――

数十分ほど千堂は博物館前の広場を散歩しながら深呼吸をして背伸びをした。


ふと、空を見上げる。 


やはり自分が生まれ育ったこの世界が一番、落ち着く。 
確かにレレイ達の住む異世界も魅力はあり、刺激や驚きには尽きないが慣れ親しんだ空気や価値観、そして偉大で何よりも正しく公平なショッカー(正義)があるこの世界が自分には合っていると思う。
 

それまで当たり前であったこの世界の常識も異世界に行ってその目で見て比較したからこそ、自分のいる世界……ひいてはショッカーという存在のありがたみや素晴らしさに改めて気づけた。


ショッカーのあるこの世界を誇る気持ち……統一前の昔風の言葉で言うなら『愛国心』というやつだろうか。


向こうの世界では本来、尊いはずの人の命がまるで紙のように簡単に飛ぶ。それは炎龍との戦いやイタリカでの戦いで犠牲になった異世界の民衆のことを思い出せばよく分かることだ。

だが炎龍に襲われたコダ村避難民の生き残りや占領下のイタリカ市民達はショッカー(正義)の下で徐々に希望を取り戻し、前を向いて幸せに生きているという。


そう、ショッカーが関わることで世界の悪い部分は取り除かれ、人々は平和で公平に、そして何より幸せに生きることができるのだ。



自分は数十日後に日本国へと向かう。しかもショッカーの素晴らしさ・公正さを彼の世界に伝えるという使命を背負って。 


日本国のある世界は未だに200ヶ国以上の国々に分裂し、争いを繰り返している混沌の世界だ。傲慢と取られるかも知れないがショッカーが日本と交わることでイタリカやコダ村避難民のように少しでも彼の世界が『正義』の名のもとによりよい方向に進んでくれたらいい。


千堂はそう思っていた。







ビー!ビー!ビー!




突如、飛電ライズフォンがけたたましく鳴って現実に引き戻された。この音は軍の非常通話を表す音で緊急時にはこれを使って通話するようになっていた。



「た、隊長ですか!?!?」


電話の向こうの相手は加頭だった。息せき切った様子でかなり慌てているのが声から伝わった。


「加頭か?どうした?軍の非常通話まで使って…」


「大変なんです!!レレイさん達の乗った政府公用車の車列が不穏分子(テロリスト)の襲撃を受けているそうです!!!」


その内容に千堂は驚き、目を剥いた。


「何だとッ!?」


「既に戦闘員の多くが倒されているそうです!!自分はピニャ殿下とボーゼスさんを安全な場所に避難させてから向かいますから隊長は先に向かってください!!!」


「分かった!!すぐに向かう!!!」


千堂は飛電ライズフォンの通話をブチッ!と切ると2,3メートルほど高く飛び跳ねると歩道から車道に出て、車と車の間を器用に避けながら物凄い速さで走り出した。


……その時の千堂の表情は歪み、怒りに満ちているのが誰の目からも明らかだった。 
 

 
後書き
はい、お待たせしました!!怪人態が決定したので次回ようやく千堂が力の一端を見せます!!
多くの回答、ありがとうございました!!


ここから先、長文です。すみません。↓

補足説明
今回、大幹部達やショッカーが美化されている描写や千堂がショッカーを正義と信じてやまない描写を多く書きましたが、
ショッカーを絶対正義と考えるのはあの世界の『一般常識』であり、大首領の忠臣たる大幹部を讃えるのもあの世界では『当たり前』です。
そのため、あの世界の人民からすればショッカーが行ったのは世界征服ではなく、『世界統一』ないし『腐敗していた旧世界秩序からの解放』となるわけです。

またショッカー世界の人民達は政府による幼い頃からの洗脳教育により、征服前の世界について悪い側面ばかり取り上げたねじ曲がった見方をするように仕向けられています。
1+1が2であることや林檎が赤色であることが当たり前で疑ってかかる人がいないようにショッカー世界ではショッカーが行うこと、話すことが正しいということを疑う人民はいません。

よって一般の民衆から見てショッカーが征服する前の旧世界といえば
『いくら優秀でも公平に評価されず出身や性別で差別され、民主主義と言う名の衆愚政治がまかり通りっており、各国の無計画な工業化の為に自然環境に毒を垂れ流し、超大国同士が自国の面子の為に核ミサイルを向け合った狂った世界』でしかないわけです。

さらに歴史教育では若者の不穏分子化を防ぐ為に旧世界の悪行・蛮行をより特筆して教育するようになっています。

しかしショッカーの統治にもいい点はあります。
政府が強大なリーダーシップを発揮し、『正義』の名のもとに思想統一がなされ、独裁的にスピーディーに政策・軍事行動を行える。また人民を人的資源と称して公平に評価・監理をしている。
それらの点が作中の日本国との決定的な違いです。


国民が自由に政治的発言ができるが自国の歴史や国防政策を否定し、スパイ天国な「日本国」と独裁的で政府が認める思想以外の一切の思想的自由を許さないが文明レベルが高くて人的資源として皆、平等な「ショッカー世界」、どっちに生まれればより、幸せなんでしょうか……。未だに私自身、答えが出せていません。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧