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GATE ショッカー 彼の地にて、斯く戦えり

作者:日本男児
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第17話 千堂の力 前編

 
前書き
千堂の怪人態ですが『狼』に決定しました。
今回は長くなるので前編と後編に分けます。
後編はもう少しお待ちを……
早くて今週中、遅くとも今月末までには投稿します。
 

 
帰りの車内にて、レレイの頭の中は千堂のことでいっぱいだった。

千堂は私達、コダ村避難民をたまに変な目で見る。
それは故郷と家族を失った者に対する哀れみの目でもなければ、奇異の目でもない。
まるで逆境から立ち上がろうとする者を応援するときのような優しさの込もった目だ。

その目を向けられる度、彼が一体何を想い、何を感じているのか知りたくなる。
最初はただの興味だった。相手は異世界から来た軍人。ただそれだけだった……はずなのに。

レレイは後悔していた。
もっと彼と…千堂と話していたかった、同じ空間にいたかった。
数週間後にまた会おうと彼は別れ際に言ったが正直、数週間も待てない。
いますぐにでも会いたい……。


そんなことを考えながら車窓の外を眺める。沿道には異世界からの客人を一目見ようと沢山の人だかりが出来ていた。
圧倒的な視線の数に最初こそ驚いたが千堂と別れた直後からずっとこんな調子だったため、もう慣れきってしまった。

そんな中、沿道の人々の中から一人の男が姿を見せた。
その男は大きめのゴルフバッグのような袋を肩に担いでいた、
ただの見物人にしてはどこか妙だった。
レレイは男を注視した。男は人影に隠れてこっそり袋から¨茶色の太い棒状のもの゙¨を取り出した。
それに見覚えがあった。オ・ンドゥルゴ基地に似たものがあった。確か『ロケットランチャー』とかいったはずだ。

そして男はさり気なく、ごく自然な動きでその先端をこちらに向けた。


レレイは男が何をしようとしているかやっと理解した。


その刹那―。


バシュッ!!!


男が何かを発射すると前方を進行していた戦闘員の乗った白バイが突如、爆発に見舞われ、そのまま路上に横転した。


不穏分子(テロリスト)だ!!!」

沿道にいた人々はパニックになり、散り散りに逃げ回る。制服の警官達は突然のことに慌てふためいた。逃げ惑う市民の波が警官の行動を邪魔した。
そのせいで警備に僅かな隙が生まれ、レレイ達の政府公用車の周囲の守りが緩くなってしまった。
そこにどこからともなく大型トラックが数台、白バイの車列に勢いよく突っ込んできた。辺りに金属やガラスが捻じ曲がる音が響き渡る。
さらにトラックの後方には灰色のワンボックスカーが一台、随伴していた。

「伏せてろ!!!」

公用車の助手席にいた増沢が叫ぶとレレイ達はサッと席にうずくまるようにして伏せた。


それぞれのトラックの荷台が開け放たれ、中から自動小銃を構えた四十〜五十人程の男達が飛び出してくる。
彼らは政府公用車を護る戦闘員達や警官隊に対して銃撃戦を開始した。


彼らの目的はただ1つ、「レレイ達の身柄を奪うこと」である。


「行け!!征服者から異世界の少女達を解放するのだ!!!」

「「「ウォォォォォォォォ!!!」」」


パパパパパパパ!!!!


「イィーーッ!!」
「ギィィッーー!!」


警官達は勿論、流石の戦闘員達も小銃の弾幕射撃を受けてはマトモに抵抗することすらできなかった。ましてや敵は対改造人間用の銃弾を使用していたのだ。怪人より戦力的にも能力的にも格下な戦闘員達は次々と断末魔を上げて倒れていく。


「く、くそう!何だってこんな事に!」


増沢は車内から勢いよく降りて、瞬時にジャケットの下に隠していた拳銃を抜くと、男の1人を撃ち抜く。


パァン!!


「グワァ!」


増沢は全身に返り血を浴びながらもなんとか1人を射殺することに成功する。しかし敵は人海戦術で次から次へと湧いてくる。


「このショッカーの犬めぇぇ!!!」


タァーーーン!!!


「ウッ!!!」

不穏分子の1人に増沢は肩を撃たれった。真っ赤な血が放射状に飛び散る。生身の人間にも関わらず改造人間用の銃弾で撃たれてしまった増沢はその場でうずくまるようにして倒れて意識を失ってしまった。


「マスザワ!!!」

ロウリィが叫ぶ。


気づけば公用車は不穏分子達に取り囲まれていた。


「大人しく出てこい。我々も手荒なことはしたくない」

そう言いながら男達はジリジリと近づいてくる。


「「ロウリィ……」」


テュカとレレイは不安そうな顔をしてロウリィを見つめる。


「私に任せて……」


ロウリィはハルバードを構える車のドアを乱暴に開けて外に飛び出した。
危機を感じたメンバーの一人は即座に車から距離を置いた。それから即座に対改造人間用の銃弾をロウリィに叩き込む。
しかし亜神であるロウリィは凶弾を喰らってもすぐに再生する。
そしてその男との距離を詰めて……

バシュッ!!!


「ヒィィィィ!!腕がァァ!!」

腕を切りつけられ、男は血を吹き出しながら倒れこむ。


「よ、よくも部下を!!このアマぁ!!」


仲間が殺されて逆上した別の男が飛び出す。彼はこの襲撃部隊の隊長だった。彼は切り札であるガイアメモリを取り出して起動すると自分の首筋に突き刺した。


『ライアー!!』


彼はライアー・ドーパントに変身した。そして口から吹き出しのような形をした針をロウリィに放つ。
言葉の針がロウリィに刺さると突如として彼女の足がガクガクと震える。足元がおぼつかず、必死で踏ん張ってないとすぐに転んでしまいそうだった。


「な、何で……??」


ロウリィ自身、訳が分からなかった。

恐ろしい……目の前の男達が恐ろしい…。そんな感情に心が支配されていた。
あまりの恐怖にハルバードをその場に落とした。


「あの女には『我々が怖くて本能的に抵抗できない』という嘘の針を刺した!これで抵抗できまい!!」


そして隊長は苦し気に呻くロウリィにヅカヅカと近づくと喉を鷲掴みにした。


「このクソ女!よくも!よくも俺の部下を!」


『亜神』だか何だか知らないが目の前の少女に自由と闘争心に燃えるかわいい部下が殺された。
そのことに怒りが抑えられなかった。
隊長はそのままロウリィに殴る蹴るの暴行を加えた。


隊長の蛮行を見かねた部下の1人が止めに入る。


「隊長!殺さないでくださいよ!!」


「わ、分かってるさ……畜生!!」

バッとロウリィの喉から手を放した。しかし怒りは収まらず八つ当たりと言わんばかりに戦闘員の死体に蹴りを入れる。
ライアー・ドーパントは忌々しい忌々しい物を見る目でロウリィを見ると一旦変身解除して部下に命じた。


「運び出せ!!!」


不穏分子達はロウリィとレレイ、テュカを無理矢理、ワンボックスカーに乗せるとトラックと共に去って行ってしまった。



―――――――――――――――――――

数分後……人の気配がなくなった襲撃地に¨高速¨で駆け付けた者がいた。
―千堂である。

千堂は現場を見回し…そして激怒した。
現場は予想以上に凄惨だった。
銃痕が空いたバイクが転がり、辺りには戦闘員達が死屍累々と倒れていた。
皆、一様に血の海に溺れており、周囲にはむせ返るような鉄の匂いが充満していた。

レレイ達の姿はすでになく、連れ去られたことは明白だった。
千堂は道路を見つめる。一体の戦闘員の遺体が目に入った。

"彼"は体中が銃弾で蜂の巣になっていた。必死にレレイ達を守ろうとしたのが見ただけで伝わった。
彼に駆け寄ると開いた瞳を閉じさせ、手を握る。


「君達の無念は俺が晴らす……安心して眠るといい」


そう、優しく声をかけるとその場にいた戦闘員達はほぼ同時に泡となって消えた。


次にレレイ達の乗っていた政府公用車の方へと近づく。公用車の傍には増沢が血を流して倒れていた。
千堂は増沢の首筋に手を当てて脈を測る。脈はまだあった。

―生きている。だが虫の息だ。


(助けるにはこれしかない!!)


千堂は増沢の腕を乱暴に掴むと間髪入れずに噛みついた。
尖った犬歯が肉に食い込み、鮮血が口内に流れる。

すると傷口がみるみる塞がっていった。
身体の免疫力・再生力が急速に向上していっているのだ。
増沢は重たそうに目を開けて意識を取り戻した。

突然のことに最初、目の前の男も敵かと思い、増沢は倒れた状態のまま銃を向けるがその姿を見て千堂だと分かるとゆっくりと銃を下ろした。


「千堂か……俺に何をした?」


「ウルフビールスを注入したんだ。瀕死のお前を救うにはこれしかなかった」


「ウルフ……ビールスだと?」


ウルフビールス。大幹部のゾル大佐が変身する黄金狼男が保菌する特殊ウィルスだ。
しかもそれを注入された人間は人狼化し、保菌者の犬笛に操られるという恐ろしい特性を持っていた。それを持つということ…それは千堂が『狼の改造人間』であるということを意味した。


「そう。俺の能力の一つだ。尤もゾル大佐の持つウルフビールスとは違って新型なもんで特性が少し違うがな……」


そう言うと千堂はどこからともなく注射器を取り出して自身の血液を抽出すると増沢の首筋に注射する。


「痛ッ!?何をする!?」


「何って……血清だよ」
 

「血清?」


「そう。よく言うだろ?『生物兵器を作る時にはワクチンも一緒に作れ』ってな。このウィルスの場合、感染しても俺の血液中に流れる血清成分を抽入すれば人狼化は防げる」

増沢は不思議そうに腕の噛み跡を見つめる。


「それで……レレイ達はどこに?」


「すまない。気を失っていたもんで俺にもさっぱり……」


「そうか……」


千堂は失意の中、公用車の隅に目をやった。そして"とある物"を見つけた。



「増沢さん、あれは……ロウリィの…」


千堂は地面に打ち捨てられたロウリィのハルバードを指差す。


「ああ、間違いなく神官のお嬢ちゃんの斧だ。奴らめ、さすがに武器だけは置いていったか「ちょっと失礼するぞ!!」ッ!?何をする!?」
  

千堂はハルバードの元に駆寄ると、なんと取手の匂いを嗅ぎ始めた。いや、より正確にいえば取手に付着したロウリィの匂いを嗅いでいた。


「千堂!お前、この非常時になんてハレンチな!!」


増沢は顔を真っ赤にしてまくし立てる。


「勘違いするな!!これは必要なことなんだ!!」
 

「何をどう必要としたら斧の取手を嗅ぐんだ!!」


増沢がもっともらしいことを言う中、ひとしきり匂いを嗅いだ後、千堂は立ち直って深呼吸をするように大きく周囲の空気を吸い込む。
千堂は風によって運ばれてくるその匂いの源を自身の"嗅覚"を頼りに少女達の現在地を探っているのだ。
そして目をカッと見開くとボツリと呟いた。


「見つけた……。南西の方角、時速90キロで移動中……か。」


そう言うと千堂はまたも"高速"で駆け出し、不穏分子の追跡とレレイ達の救出に向かった。 


「………結局、何がしたかったんだ?あいつは?」


増沢は一人、大きな勘違いをしたまま取り残されてしまった。 
 

 
後書き
次回!!とうとう千堂が怪人態に変身します!!独自設定多めですが……お楽しみに!!
それと今回がこんなちょい胸糞回なので次回はカタルシス多めでお送りします。


千堂の能力 その1

新型ウルフビールスa型。

ゾル大佐の黄金狼男の保有するウルフビールスに改良を加えて制作した新型のウルフビールス。
これに感染したものは人狼化し、保菌者である千堂の脳波を通じて思うがままに操られる。しかし、あまり距離が離れすぎるとコントロール不能に陥り、暴走してしまうというデメリットがある。
また感染を防ぐには血清を打つ必要があるが人狼化を防げたとしてもごく稀に『身体能力の上昇』や『保菌者に対する異常なまでの崇拝』などの副作用が起こる場合がある。 
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