GATE ショッカー 彼の地にて、斯く戦えり
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第15話 会談〜そして謁見〜
前書き
今回はショッカーの思想が話を通してのメインとなっています。
いわゆる説明回的なやつです。
※本作は全体主義や選民思想を肯定するものではありません。
ショッカー外務省 会議室
千堂達が記者会見を行っている裏ではピニャとボーゼスが加頭と共にショッカー外務省に来ていた。
彼女らの目的はショッカー側の外交官と会談を行うことである。
今回の会談はあくまで講話を目的としたものではなく、講話に向けてのピニャ個人の意見や帝国のより詳しい内情、ショッカーが確保している捕虜などについて話す予定だ。
現在、戦況は帝国にとって不利ではあるが今回の会談で少しでもそれを挽回しようと意気込んだ。
やがてショッカー側の外交官が入室し、事実上の帝国とショッカーの極秘会談が始まった。最初の口火はショッカー側の外交官が切り出した。
「ようこそ、ピニャ殿下。ここまで来てくださったことをショッカー外務省を代表して感謝します」
外交官は微笑みを浮かべて歓迎の言葉を述べているが目元は一切、笑っていなかった。外交官からすれば敵国の皇女に対して俄然とした態度で接しているだけなのだがピニャからすれば相手が何を考えているのか分からず、ただただ不気味なだけだった。
外交官はここで本題に入った。
「しかし、帝国はとんでもないことをしてくれましたねぇ。帝国の銀座侵攻で死亡が確認されたこちら側の人民の総数はおよそ6000人。これについて帝国は我々にどう対応されるおつもりですか?」
(そんなこと自分に聞かれても…)
これがピニャの正直な反応だった。そもそもショッカー・日本という両世界の侵攻を決定したのは皇帝と元老院であってピニャではないし、自分に今後の帝国の戦争方針や戦後補償を決めることはできない……が。
「ギンザで働いた此度の帝国軍による蛮行、誠に申し訳ございませんでした」
ピニャは深々と頭を下げて謝罪した。帝国に非があるのは明らかだったからだ。自分にはそれしかできないし、それが精一杯だった。
通常、敵国の皇族が自国軍の蛮行について頭を下げたというだけで『誠意ある謝罪』としてはかなり大きな意味を持つのだが外交官はそれを見ても依然、厳しい姿勢のままだった。
「ピニャ殿下、我々が求めているのは貴方個人の謝罪ではなく、帝国という国家による謝罪と賠償です。今、ここで貴方が謝罪したところで情勢は何も変わりません」
ピニャがうなだれるが外交官はそれを無視してショッカー側が確保している捕虜を議題に上げた。
「まず捕虜の取り扱いに関してですが…捕虜は日本エリア内の無人島の臨時収容所に収容しています」
(きた……身代金の話だな)
帝国に限らず異世界側の国家にとって捕虜とは捕らえた側がその処遇を自由に決めるものであった。大抵は奴隷にするか、敵方に捕まっていた味方或いは身代金と引き換えにする等々、その扱い方には人道意識の欠片もない。
ピニャは帝国がショッカーの兵士を一人でも捕らえることができたという情報を聞いたことがなかった為、ショッカーの外交官が捕虜の話を切り出したのは身代金を要求するためだと思ったのだ。
「現在の収容者は約7千人です」
(7千人だと!!そんなにいるのか!?身代金が幾らになるか想像もつかない!)
「身代金はいくらですか?」
ピニャは震える声で尋ねた。
それに対して外交官は意外という顔で答えた。
「いえいえ、我々は身代金など要求したりしませんよ。この世界にはそういった習慣はありませんから」
外交官は続けた。
「彼らの待遇に関してですが…比較的、人道的に扱ってるので安心してください……反抗的な者を除いてですが」
するとさっきまでの反応が嘘のようにピニャは急に立ち上がって叫ぶように言った。
「数人だけでも返還してもらえますか?門に出征した兵士に貴族の子息が多いのです」
これには外交官も驚いたのか表情が強張った。
ピニャからすればこの提案は有力貴族の子息の返還を優先して行うことで彼らに恩を売ることができ、それによって講話交渉もスムーズに進む。そう考えてピニャは提案したのだった。
しかし、ショッカー側の返答はピニャの予想を裏切るものだった。
「この場では決断することができないので上層部に仰ぐ必要がありますが……現状での返還はおそらく無理でしょうね」
「え?」
狼狽するピニャを他所に外交官はさらに衝撃的な言葉を告げた。
「さらに…このままの状況が続けば我々は彼らを処刑しなければなりません」
「「な、なぜですか!?」」
ピニャとボーゼスは外交官の口から『捕虜の処刑』というとんでもない言葉が出てきたことに驚いた。
「当たり前です。帝国との間に捕虜に関する取り決めがないですから。そもそも国交すら結んでませんしね。それに彼らは我々、ショッカーに反抗的な思想を持つ『不穏分子』です。国内法に基づいて処刑するのは当然だと思いますが?」
ショッカーに世界が征服されてから既に100年。旧クライシス帝国や旧ドグマ王国などのごく稀な例外を除いてショッカーの他に『国家』は存在せず、ましてや『国際法』や『国際条約』などに至っては歴史用語でしか聞くことがなくなっていた。
よってショッカー世界に戦時国際法や国際条約はない。世界統一直後に全ての国際条約は「ショッカーの掲げる新世界には不要」として政府によって段階的に破棄されたからだ。
そしてその国際条約の中には捕虜の人道的な取り扱いを定めた『ジュネーブ条約』も含まれていた。
したがってこのままでは国内法に基づいて捕虜達は強制収容所に送られ一生をそこで過ごすか、思想犯として処刑されるかどこかの研究所で使い捨てのモルモットになるかの三択しかない。
余談ではあるがショッカーが生物兵器や化学兵器、生体兵器の開発を容易に行えるのは彼らの科学技術のレベルの高さの他に国際条約による縛りを受けていないことやショッカーを咎める"対等な他国"の存在がないことも関係していた。
「そんな…彼らは国の為に戦った兵士なのに…。残酷な……」
「残酷?他所の世界に汚い土足で乗り込んでショッカーの"人的資源"たる人民、それも無抵抗の市民を虐殺するよりはマシだと私は思いますがね」
尤も帝国に対する貴重な外交カードである捕虜をショッカーが処刑する可能性はほぼ無いが外交官は言葉に含みを持たせることでピニャに圧力をかける。
「もうここからはお互い本音で話しましょうか。我々、ショッカーは帝国を極めて危険な思想を持つ国家ないしテロ組織と見なしています」
「え……?」
ピニャは外交官の言っていることが理解できなかった。
(帝国が……危険…だと……!!??)
「帝国はヒト至上主義を掲げて亜人を虐げ、貴族や皇族による専制政治を行っています。また勝手に皇帝を立て、異世界の覇者を気取り、他国に対して横柄な態度をとっているそうじゃないですか。そんな政治状況では貴国と講話したところで反ショッカー的な態度を変わらず取り続けるでしょう。それでは状況はなんら変わりません」
「そ、そんな!貴方方は帝政を廃止しろとでも言うのですか!?」
「そこまでは言いません……が、我々から見れば帝国は覇権主義的で好戦的な亜人差別国家なわけです。そんな国家が隣にいて安心できるわけがないじゃないですか。せめて覇権主義的な政策やヒト至上主義は改めてもらわないと」
確かに民主主義や人道観念のない異世界では帝政や王政で民衆を締め付け、その不満のはけ口を亜人差別へと向けるのが『当たり前』なのだがその当たり前はショッカー世界では到底、通用するものではなかった。
ほんの一握りの指導層が広大な領土を少数で支配するという点では帝国とショッカーは同じでもその支配の方法が根本的に異なる。
帝国はヒト至上主義による亜人の差別意識で貴族から平民までを半ば強引にまとめあげている。それに対してショッカーは人民を『人的資源』と見なし、その中でも特に優秀な者をより優秀な存在…すなわち改造人間にしてショッカーの意のままに世界のあるゆる分野を支配するという支配方法をとっている。
一見すれば、ショッカーの方が冷酷な恐怖政治を行っているように見えるが逆に言えば『人的資源』として優秀なら性別や出自、種族に関係なく出世・活躍することができ、その反対に当人が無能ならいくら親が有能でも要職から更迭されるのである意味、徹底した平等主義を貫いているという見方もできる。
奴隷制度が存在し、皇族や世襲議員によって政治的腐敗が進んでいる帝国よりも反対勢力の粛清こそすれど異種族すら人的資源として公平に扱うショッカーの方が人道的で公平かつ合理的なのは言うまでもなかった。
それからも会談はショッカー側のペースで進んでいった。やがて会談も終わりに差し掛かると外交官は急に優しい口調になった。
「まあ、我々も鬼畜ではありません。殿下が"我々の望む"講話に向けて働いてさえくれれば助けることもできるかも知れませんね……帝国も、捕虜も」
ピニャは外交官の言った『我々の望む』という部分が引っかかったがそれを聞く勇気がなかった。
果たして彼らの望むのは領土の割譲だろうか、政治体制の変革だろうか……。
やがて会談は終わり、全員が会議室から退室する。ピニャとボーゼスは未だに呆然としていた。それを見かねた加頭が声をかけようとしたそんな時、加頭の電話がなった。
加頭が携帯を取り出して電話に出る。
「はい、加頭です」
電話の相手は政府高官だった。そしてその高官は加頭にやんごとなき連絡をする。
「……はい、はい……!?それは本当ですか!!??」
さっきまでとは明らかに打って変わって驚き、震える声で加頭は答える。
「はい、はい………わ、分かりました。本人達に伝えます」
加頭は通話を終えると内容のあまりの衝撃に呆然としてしまった。それを見たピニャが不思議そうに尋ねる。
「加頭殿?どうされたのだ?」
「ピニャ殿下……落ち着いて聞いてください。先程、政府上層部から連絡があり……だ、だ…だい」
緊張のあまり、うまく言えない。ピニャはそれを見て余程の事態なのだと理解した。
「だ、だだ、だ………フゥ、ハァハァ」
加頭は落ち着きを取り戻そうと深呼吸をする。そしてゆっくりとその驚愕の内容を話し始めた。
「"大首領様が殿下にお会いしたい"と連絡がありました!!!」
その言葉に今度はピニャが凍りつく。
ショッカー大首領……ショッカーの頂点に君臨するこの世界の支配者。帝国で言うところの皇帝に当たる者に突然、謁見することになり、動揺を隠せなかった。今度はピニャ達が慌ててしまった。
「加頭殿!妾達は、妾達はどうしたらいいのだ!!」
「と、とにかく既に親衛隊所属の送迎車がここに向っているそうです!私も途中までは付き添いができるそうですからどうかご安心を…!!」
加頭がなんとかピニャをなだめてから数分後、黒塗りの政府専用の公用リムジンが数台並んでショッカー外務省の前に停車した。
黒いサングラスをつけ、スーツを着た警護係が乗っていた。彼らは無表情のまま3人を乗車させ、車を発進させた。
「して、加頭殿、大首領とはどのような人物なのだ?」
車内でピニャは加頭に尋ねた。これから会う人物……それもショッカーの指導者がどんな人物なのか知りたかったからだ。それに対して加頭は少し考える素振りを見せた。
「そうですね、誰もが敬愛する偉大なる神の如き至高の御方とでも言いましょうか。全人民及びこの世界の絶対的なリーダーであり、『正義の化身』として世界中で崇められている御方でもあります」
「そ、そんなに……!!!」
軍人ならともかく一般の民衆までもが一国の君主にそこまでの忠誠を見せるものだろうか。帝国では皇帝が民衆からそこまでの支持を集めることがないため、ショッカー大首領の統率力、指導力の高さを伺い知った。思えばオ・ンドゥルゴ基地で会談した男(暗闇大使)も首領をまるで神のように崇めるような発言をしていた。
そして加頭は一息おいてピニャの方を向いて言った。
「しかしこれだけははっきり言えます。これから殿下が大首領様に謁見するということは殿下、いえ帝国にとってまさしく未知の体験になるでしょう。くれぐれも言動には気をつけてください」
―――――――――――――――――――――――――
やがてリムジンの車列は大首領の住まう宮殿に到着した。
ローマのパンテオン宮殿をモチーフとしたその宮殿は直径250メートル、高さ220メートル。容積2500万立方メートルというとてつもなく巨大な作りであった。
大ショッカー党本部とはまた違った巨大さにピニャ達、異世界の客人は驚きを隠せなかった。帝国の皇城でもここまでの荘厳さは持ち合わせていない。ショッカー大首領の莫大な権力の一端を知り、ピニャはあんぐりと口を開け、ボーゼスは目を回した。
また、一見、平然としているように見える加頭も内心ではかなり緊張していた。ピニャ達の手前、動揺を見せるわけにはいかないので落ち着き払った様子ではあるがここは世界の支配者…大首領の住む宮殿である。ここに入るのが許されているのは世界広しといえど大幹部や武装親衛隊などショッカーの中でも限られた者しかいない。ここで何か失態を犯せば文字通り、首が飛ぶことになる。
リムジンを降りた一行はボディチェックを始めとした厳しいセキュリティチェックを受けてようやく巨大な正門を潜って敷地内に入った。
ピニャ、ボーゼス、加頭のそれぞれが意を決して宮殿の内部に入る。内部に入るとそこは半球状のメインホールとなっており、世界中から集めたであろう美術品やショッカーの名だたる大幹部達の禍々しい胸像が隅々にかつ無数に置かれている。
まるで神の根城。そんな雰囲気が漂っていた。
それから廊下を渡り、宮殿のちょうど中腹地点まで歩くとスーツ姿の親衛隊員の一人が3人に話しかけた。
「ここから先は帝国皇女、ピニャ・コ・ラーダ殿下とボーゼス・コ・パレスティー殿のみお通しすることとなっております。また、金属類はここで預からせてもらいます」
「加頭殿は来ないのか?」
ピニャはどこか不安気に加頭を見た。
しかし正式に招待されているのがピニャとボーゼスだけである以上、ただの付き添いに過ぎない加頭にはどうすることもできない。
「残念ですが自分はここで待つしかないようです。ここから先は正式に招待されている殿下しか行けません……どうかお気をつけて」
加頭という心強い味方を失ってしまい、ピニャは失意の中、進む羽目になった。
それからピニャとボーゼスは長く続く廊下をたった二人だけで歩いた。廊下は奥に進むにつれて薄暗くなっていった。それだけでも不快なのにここは敵国の指導者の宮殿であるという事実……それを女性だけで歩いているというだけで不安感が増し、生きた心地がしなかった。
しばらく歩くと重厚そうな豪華な装飾の扉が見えてきた。そしてその扉の前では白いスーツの上に黒いマントを羽織った白髪混じりの男が待ち構えていた。
「ピニャ殿下だな?私は怪人作りの名人、死神博士。この奥の部屋が大首領様の謁見の間だ。ついてこい」
死神博士は簡単な挨拶を済ませると重厚な扉を開けて謁見の間に入る。
室内はさっきの廊下以上に薄暗く、レッドカーペットが敷かれ、その周囲に等間隔に配置された燭台の炎が辺りをボンヤリと照らしていた。そして部屋の奥には赤と黒を基調とした玉座があり、玉座の頂点には羽を広げた鷲の彫刻が鎮座していた。
さらに部屋の両端には武装親衛隊所属の怪人達も数十人、整列しており、敵国の皇女であるピニャ達に向けて強烈なまでに敵意のこもった視線を放っていた。
殺意にも似た視線を向けられ、ピニャは恐怖を押し殺しながら玉座の前まで案内され、死神博士による大首領と謁見する際の礼儀作法講座を聞いていた。
「いいか?大首領様がお話になっている時は話を遮ってはいけない。さらに、重要なことだが素顔を見ようとしないこと。失礼無きようにな」
死神博士がピニャ達をジロリと睨むように見て念を押した。すると謁見の間の扉を勢いよく開け、黒い軍服を纏った親衛隊員の1人が叫んだ。
「大首領様がお入りに!!!」
その言葉と共にピニャ達以外の室内にいた全員がかかとを打ち合わせてピシッと姿勢を整えたのを見て、ピニャ達も少し遅れて同じように姿勢を整えた。
(来たか!ショッカーの支配者が!どのような人物なのだ?)
ドン!!!!
突如としてドス黒い漆黒のオーラが室内を包み込み、ピニャとボーゼスはそれに飲み込まれそうになる。思わずたじろいでしまった。親衛隊員達が放っていた殺気とではミジンコと富士山くらい明確かつ圧倒的な差があった。
ピニャ達はすぐに下を向き、まるでお辞儀のような体勢をとった。とてもじゃないがこのオーラを放つ張本人を直視することなどできなかった。
例えるならば"抗うことの出来ない絶対的な恐怖"。まるで心臓を絶対零度の手で握りつぶされているのではないかと思うぐらいに身体が硬直してしまった。
あまりの恐ろしさにここが外交の場でなければ恥も何もかもかなぐり捨てて裸足で逃げ出すほどだ。
コツ、コツ―。
大首領の足音が室内に響き渡り、ピニャの数メートル前の玉座でピタリと止まった。
「「「「イッー!!!!」」」」
死神博士や親衛隊員らがショッカー式敬礼をして忠誠を示すがピニャ達は背筋を凍らせて下を向いたままだった。
「面をあげよ」
大首領が低い声でそう言うとピニャとボーゼスはビクリと肩を跳ね、恐る恐る顔を上げた。
そこには依然、強大な漆黒のオーラを放ち続けるショッカー世界の支配者の姿があった。
立て襟付の赤いマントに同色の三角巾というそのミステリアスな出で立ちは帝国の皇帝が纏うようなきらびやかな衣装とは大きく異なっていたが首領の放つ"覇気"も相まって恐怖心を何倍にも煽り立てた。
大首領は三角頭巾で素顔を隠してはいるがジッとピニャ達を見つめているのが視線を胸元に移していても分かった。
ピニャとボーゼスの身体は小刻みにカタカタと震え、決して言葉にはできないが失禁する一歩手前まで来ていた。
「さて……ピニャ殿下よ、遠路はるばる大義であった」
一番最初にかけられた言葉が労いの言葉だったことにピニャは拍子抜けした。大首領は意外と優しい性格なのではと思い、恐怖に怯えながら小さな希望を抱いてしまった。しかし、それもすぐに現実に引き戻された。
「……だがな、私にはどうしようも許せないことがあるのだ」
「ぇ?」
「帝国は"私"の世界に土足で踏み込み、ショッカーの貴重な"人的資源"を奪っていった。低文明の異世界人の分際でありながらこれがどれほど身の程知らずなことか分かるか?」
ピニャは答えられなかった。大首領の声は明らかに怒気を孕んでいたからだ。
ここで何か言えばこの場で無惨に殺されてしまうのではないかとすら思った。そして―、ツゥッとピニャの頬を冷たい液体が伝う。恐怖のあまり、涙が出ていたのだ。
「私の世界で最も価値のある資源は人的資源…つまり人間だ。我がショッカーは選ばれた優秀な人間を改造し、怪人にすることであるゆる分野で常に進歩を続けているのだ」
(狂ってる……!!人間が資源だというのか。それではまるで消耗品ではないか……やはりショッカーと帝国では価値観や倫理観が違い過ぎる!!)
「よって帝国がその資源を虐殺したことはこの世界にとって大きな損失となったわけだ。それ相応の埋め合わせはさせてもらうぞ」
生きとし生きる者の命を安安と資源と断じる大首領の言葉でショッカーがやはり異世界国家なのだと改めて実感させられた。そしてそう感じたのと同時にショッカーの真の強さ…そして恐ろしさを理解した。
(妾は勘違いをしていた……ショッカーの真の恐ろしさは圧倒的な軍事力や技術力なんかではない!!)
ピニャは生唾を飲み干す。
ショッカーの真の恐ろしさ、それは―
(大首領の放つ絶対的な恐怖だ!!)
恐怖や畏怖……それは時としてカリスマ性や指導力と同じくらい国家の指導者に必要な要素の1つである。
ヒトや獣人、グロンギ、オルフェノク、アンデッドなどなど……。帝国と同じく様々な種族がひしめくこの世界を統一し、ここまでの独裁体制を築いて統治できているのはひとえにショッカーの指導者…すなわち大首領の指導力、統率力の高さにあると思っていた。
だが実態はそんなものではないとこうして実物を目にして理解した。
彼の持つそれは到底、カリスマ性や指導力という言葉では形容してもしきれないぐらい禍々しく、遥かに強大なものだった。強いて言うならば『絶対的な恐怖観念の塊』といったところだろうか。
そしてこのショッカーの世界では大首領はカリスマ性のある強権的な指導者の恐怖による"権威"で怪人達をコントロールし、その怪人達が人民を支配しているのだ。ところがその支配されているはずの人民達はこのショッカー大首領に恐怖心を抱くどころか『正義の化身』として敬愛し、奉り、忠誠を誓っているという。ピニャにはそれが信じられなかった。
(狂ってる…!!こんなバケモノをどう見たら正義の化身に見えるというのだ!)
自分達を資源扱いする存在を崇め奉るこの世界の人民の思考が理解できなかった。いや、理解できてしまえば既にショッカー側の狂ってしまった人間になってしまうような気がした。
ピニャは目の前の"怪物"が帝国、ひいては異世界全ての生殺与奪権を握っているのではないかと考えると恐ろしくてたまらなかった。
後書き
次回、ショッカー世界滞在最終日!
千堂は訪日に向けて動き出す。
そしてその裏では……。
千堂の怪人態のアンケートですが今のところ、『狼』に票が集まっているようですね。まだ受け付けるのでドンドン応募してください。
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