テイルズオブザワールド レディアントマイソロジー3 ―そして、僕の伝説―
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第三十五話
「――はい、もう大丈夫みたいですね」
「――ぁ、うん。ありがとう、アニー」
――アドリビトムの医務室にて、大怪我による長い長い医務室生活からようやく解放される瞬間を僕は実感していた。
いや、今回は本当に長かった。
そんな僕の様子を見てアニーは呆れたように溜め息を漏らした。
「…衛司さんの『ありがとう』を聞いたのはこれで何回目ですかね」
「ぅ…。本当にすみません。自覚はあるんだけどー…」
「余計に質が悪いです。…怪我をするな、とは言えませんけど…もう少し自分の身体を大事にしてください」
僕の言葉にアニーはより一層深い溜め息の後、真剣な表情でそう言葉を出した。僕はそれに頷いて応えた。
「うん…わかった。…なるべく怪我をしないようには頑張るよ」
「そういう意味でも無いんですけどね…。衛司さんには言って聞かない事はもう分かってましたけど。…ただ、次大怪我して帰ってきた時には治してあげませんからね」
「ぅ…それは勘弁です」
アニーの深い溜め息と出した言葉に、僕は思わず苦笑いを浮かべてそう言って、アニーに一礼してから医務室を出た。
「――…本当に、何もなければいいんですけど」
――医務室を出た僕に、アニーのその言葉が届く事はなかった。
―――――――――――――
――僕が寝込んでしまっている間に進展が二つあった。
まず一つは封印次元の材料の一つであるツリガネトンボ草…その化石を入手した事。
ウィルの提案で、化石とはいえ僅かにでもドクメントが採取できるかもしれない、という考えからだ。現在はその化石からドクメントを採取できるか調べてる最中らしい。
もう一つはラザリスのキバ、それの調査であった。
これについてもドクメントの採取には成功したようだけど…なんでもキバが出現した場所の魔物が異質な姿に変化しているのが見られたらしく、話によるとキバを通してラザリスの世界のドクメントが流れ込んでいるのかもしれない、とか。
そして…メリアがジョアンさん達を助けた時の力を試したらしいけど…キバはその力を使っても消すことが出来なかったらしい。
――ただそれについて一番不安だったのは……
「――皆、久しぶ――」
「――…衛司ーっ!!」
「――ぐべはぁっ!?」
この…元気に僕の腹部に突っ込んできたメリアが…倒れてしまったという事。
今でこそここまで元気みたいだけど…多分倒れてしまったのはディセンダーの力の使用量が今まで以上に多かったからだろう。
「…はぁ……ともあれ、大丈夫そうで良かったよ」
「……~♪」
「――あら、復活おめでとう衛司」
メリアの様子を見て一安心し、優しくメリアの頭を撫でていると、此方を見ていたアンジュからそう声があがった。
「あ、ありがとうアンジュ。見ての通りなんとか復活できたよ」
「えぇ、見て分かるわ。復活、イチャついてるものね」
「ちょ、アンジュさん…?」
始めは安心したように笑っていたが、僕のメリアの頭を撫でている、という現状を見てニヤニヤとした笑みに変わってきたアンジュに苦笑いしてしまう。
いや、別にメリアとはそういう関係じゃ……――
「あーあー、今カノンノが依頼に行かずに此処にいたらそれはそれは面白いものが見れただろうなー」
「ちょ、なんでそこでカノンノが出るんですかっ!」
「あらあら、なんでかしらねー」
そう、後ろに『♪』が付きそうな様子で話すアンジュに、僕は首を振って言う。
べ、別にカノンノの名前を出す必要は無いと思うんだけど……
『(――主、初々しいですね――)』
「(ヴォルトはちょっと黙ってて)」
僕の中で、キャラが軽く壊れかけない事を言ってるヴォルトにとりあえずそう即答しといた。
「はぁ…もう……アンジュ、とりあえず依頼なんかある?かなり空いたから出来るだけ感覚を戻したいんだけど…」
「そうね……じゃあこの採取依頼でもお願いしとこうかしら。採取場所はコンフェイト大森林の入口に入って少ししたらの場所だし、ちょうどいいでしょ」
やや諦めがちに溜め息を吐いてアンジュに確認すると、アンジュは少しニヤニヤと笑った後、一枚の依頼書を差し出してきた。
うん…これならまぁ大丈夫だろう。
「それでももしもの事があったらあれだし…そうね、誰か一人でも連れて行ったら?」
「……なら私が…」
「メリアは駄目。いくら大丈夫だからって、何かあったら大変だから。んー…」
「――んじゃ、俺がついてくよ」
アンジュの提案にそう言い合いながら考えていると、不意に後ろから声が聞こえ見ると――アルヴィンが軽く手を上げて立っていた。
「アルヴィン…いいの?」
「おう。久々に優等生二号君と一緒に依頼したいからなー」
そう言って此方に歩み寄り、僕の肩に組んでニッ笑うアルヴィン。
うん…久しぶりでも相変わらずだなー…。
「…ならこの依頼は二人に任せたわ。二人とも、簡単だからって手を抜かないでよ」
「うん、分かった」
「へーい」
「…………むー」
アンジュの言葉に、僕とアルヴィンはそれぞれ返事をすると不満気なメリアの頭を僕は撫で、準備の為に自室へと向かった。
―――――――――――――
「――あら、衛司。動けるようになったのね」
「――あ、ジュディスさん。えぇ、まぁなんとか」
自室へと向かう途中、ジュディスさんと会いそう言葉を交わせた。
ジュディスさんは僕を見ると、何か思い出したように口を開いた。
「そうそう、ちょうど良かったわ。衛司、あなたに話があった。…故郷とディセンダーの為に肉体を捨て、機械に宿った異世界の賢人達…そのニアタの欠片を一時的に持っていて、それにあった情報を読んでみたんだけど…聞きたい、かしら?」
そう切り出したジュディスさんの…笑みを浮かべながらもどこか真剣な表情に、僕は頷いた。
「…じゃあ、あなたに話しておくわ。一応メリアにも話したんだけど……欠片を読んでみたら、ニアタの故郷のディセンダーの姿が見えたわ」
ニアタの故郷のディセンダーの姿……それはきっと、今までの『マイソロ』のストーリー上間違いなく…。
「そのディセンダーが、カノンノにそっくりなの。信じられなかったわ。名も…カノンノと言うらしいから」
「…そう、か」
ジュディスさんの出した言葉に、僕は内心やっぱり…と思ってしまう。
多分…ジュディスさんが見たカノンノは…『パスカ』の子だろうか?
「欠片からずっと伝わってきた…故郷の世界を守り抜いた固い絆…ニアタは、ディセンダーを愛していたようよ。…偶然なのかしらね。私達の仲間のカノンノが、彼のディセンダーと、とても似たヒト、そして同じ名前だったのは…。彼自身は『この世界は、故郷パスカの情報因子を受け継いでいない』って言ってたんだけど…でも、カノンノは存在するのよ。まるで世界の記憶が受け継がれていた様に、ね」
「それは……僕には分からないよ。それにしても…なんでこの話を僕に…?」
そう淡々としたジュディスさんの説明を聞き、僕は首を振って応える。僕は確かに『マイソロ2』までの世界の成り立ちは分かっているけど…この『マイソロ3』の世界の成り立ちは分からない為、正直な話僕自身にも分からないのだ。
というかぶっちゃけた正直な話、今回の話や設定…色々と複雑過ぎて僕の頭で理解しきれていないのも原因の一つだったりする。
そして…僕の質問に対しジュディスさんはクスクスと笑って口を開いた。
「あら、だってアナタはよくカノンノの事を心配してたじゃない?だからもし、カノンノに不安が出来た時は、と思ってアナタに話してみたんだけど…」
「ぅぐ…。まぁ…そうですけども…」
クスクスと笑ってそう言ってきたジュディスさんに思わず口ごもる。
うぅ…アンジュといいジュディスさんといい…なんで僕の事って軽く筒抜けなんだろう…。
「ふふ…まぁ、頑張りなさいね。…依頼もあるみたいだし、長々とさせて悪かったわね」
「うぅ…。いえ、大丈夫ですよ。…お話、ありがとうございました」
クスクスと笑った後そう言ったジュディスさんに一礼して再び自室へと向けて歩き出そうとした時だった。
「――言い忘れてたけど…アルヴィン。彼には気をつけた方がいいわよ?」
「……へ……?」
ジュディスさんの言葉に振り返ってしまうも、既にジュディスさんは歩いて行ってしまった。
……アルヴィンに気をつけるって…一体…。
―――――――――――――
――あの後、ジュディスさんの言葉に疑問を感じながらも準備を終え…僕とアルヴィンはコンフェイト大森林の依頼書に書かれてた採取場まで来た。
「――っと、これが依頼の品だったか?」
「――ぁ、うん。依頼書に書いてある位置も此処だし…多分それだよ」
入口に入って少し奥に進んだ所で、僕達は依頼されていたものを見つけ、採取を始めた。
「大量大量、と…。にしても、復帰できてよかったな、優等生二号君」
「はは…。うん、ありがとうアルヴィン…」
採取をしながらそう、僕を見てニッと笑って言ってきたアルヴィンに、少し苦笑してそう返す。
…駄目だ、やっぱりジュディスさんが言ってた事が気になってしまっている。
ただこの事をアルヴィン本人から聞くのはなー…。
そう、思っていた時だった。
「っ!衛司、避けろっ!!」
「え!?うわぁっ!!」
突然アルヴィンがそう声を上げ僕を押し飛ばすと、先程まで僕が居た場所を、風の刃が突き抜けた。
「っ…これは…」
「――おやおや、避けられちゃったか」
風の刃が飛んできた方向を見ていると、そんな言葉を出しながら青白い顔の男……見間違えなく、『リバース』のサレが居た。
「お前は……サレっ!どうして…」
「おや、君とは初対面な筈だけど……あぁ、そういえばヴェイグが居たんだっけね」
僕の疑問にサレは答える事無くそう言うと不気味に笑みを浮かべた。
サレのさっきの攻撃に…剣を抜いている状態。間違いなく戦闘態勢だろう。
此方は僕にヴォルトにアルヴィン……正直微妙な状況だ。
『(――主、どうします…?――)』
「(…ヴォルト、お願いがあるんだけど…僕の身体を抜けて助けを呼びに行ってくれない?正直この状況…勝てる見込みは少ないけど…僕とアルヴィンで持ちこたえるから、少なくとも救援を呼んできて欲しいんだ)」
『(――それは……了解しました。私が戻るまで、無事でいてくださいね――)』
僕の言葉にヴォルトは一瞬止まるも、僕の説明に納得したのかそう言うと僕の身体から小さな光となって抜け…空へと飛んでいった。
「――……優等生二号、どうすんだ?」
「――…今さっきヴォルトに救援を頼んだから…出来る限り時間稼ぎ、だね」
「――了解、と」
僕の説明を聞いてアルヴィンが頷いたのを確認すると、僕たちは武器を構える。
サレは僕たちのその様子を見て依然と不気味な笑みを浮かべていた。
「へぇ、逃げないんだ。なかなか優秀だね」
「それはどうも。…それにしても、あなたも暇なんですね。目的のヴェイグじゃなくて、僕達を見つけて喧嘩ふっかけるなんて」
「ヴェイグが目的…フフッ、残念。僕の今回の目的は…今目の前にいるから」
僕の言葉に、サレは不気味に笑ったままそう言った。
目的はヴェイグじゃなくて……僕かアルヴィン…?
「今回の目的って……」
「おやおや、いいのかい。僕ばかり気にして。後ろにも気をつけないと…」
「一体…何を…――」
笑みを浮かべたまま出したサレの言葉に僕は思わず後ろを向いてしまう。
その時だった……――
――僕の額に、『銃口』が向けられた。
「――ぇ……なん…で……?」
「―――――――」
――銃口を突き付けた相手は僕の言葉に、答える事はなく……
――――ドンッ!!
――引き金を……引いた。
―――――――――――――
――その後、ヴォルトの報告を受け、駆けつけたアドリビトムのメンバー達が見たものは……
――数量の地面に落ちた血と……
――その血の中心に…地面に突き立てられた『木刀』であった。
―――この日、『乾 衛司』と『アルヴィン』は……行方不明となった…――
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