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渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
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三十七 『  』

 
前書き
今回、ナルトの過去に若干触れます。
カブトとナルトの出会い編。
ナルトの幼少期の雰囲気が、今と結構違いますが、ご容赦ください。

 

 
名は体を表す。
そのモノの性質・実体を表すものだ。

名とは、自分は何者かというアイデンティティに非常に深くかかわる。
アイデンティティとは、同一性の確率の拠り所となるモノ。

自分は自分であるという自己認識の確立。それは状況や時期によって変わることのない問題だ。
されど。

「自分は何者であるのか」という問いに、薬師カブトはずっと苛まれてきた。

戦災孤児として保護される以前の記憶がないカブトは、親の顔も名も、そうして自分の名前すら思い出すことができなかった。
だから、縋った。

薬師カブトという仮の名に。

けれど、どうあっても現状、名乗っている名でさえ、孤児であった自分に与えてもらったモノ。
ただの、借りものだ。

親を知らず、自分の名すら知らない。
はじめから、自分は何者でも無い。最初から、僕には何も無い。

「自分は何者かわからない」と常に焦燥感を募らせ、彼はひたすらアイデンティティの確立を望んだ。

そんな悲嘆に明け暮れる日々を変えたのは、モノクロだらけの人生に色を取り戻させてくれたのは。



────己の本当の名を。
思い出させてくれた、救世主だった。


















里の名の通り、ゴツゴツとした岩場。
巨大な岩々が聳え立つ静まり返った荒野で、カブトは焦燥感を募らせていた。

その額に巻かれているのは、岩隠れの忍びの証たる額宛て。
だが、現在彼をつけ狙い、襲ってくる連中も、同じ岩隠れの忍び達だ。

それもそのはず。
岩隠れの忍びとは仮の姿。

所属する”根”に従い、九歳頃から五大国を渡り歩くスパイとして活動するカブトは、実際は木ノ葉隠れの里の忍びだ。
己がスパイだとバレてしまったカブトは今や、一時は仲間として過ごしてきた岩隠れの忍び達に追われる立場となっていた。


暗闇に乗じて己を亡き者にしようと狙う岩隠れの忍び達を窺いながら、カブトは時計を眺めた。
時計の針が指し示す時刻は夜の9時をとうに越えている。

「ヘマをしなければ、もうとっくに寝てるはずだったのに…」

21時は、昔、カブトを保護してくれた孤児院の就寝時間。
厳しく定められた孤児院の規則を思い出し、カブトはくつり、笑う。

今や、岩隠れの忍び達に囲まれているという危機的状況だというのに笑みを浮かべるカブトの脳裏には、若くして、今までの己の人生が走馬灯の如く過っていた。







カブトには何も無い。スパイという仮の姿を気取る彼にとって、カブトという名すら仮のモノ。

だが、それでいいと思えた。
なんせこの身は、自分に居場所を与え、眼鏡を与え、名を与えてくれた孤児院の──そしてマザーである薬師ノノウの助けになるのだから。

戦争孤児となり、記憶喪失となった己を助けてくれたノノウは、穏やかで優しい孤児院のマザー。
だが彼女は、その実、かつて『歩きの巫女』という異名で知られる木ノ葉の“根”の諜報部一の暗部であった。

“根”の長であるダンゾウはノノウに岩隠れの里への長期任務を要請し、断れば今後、孤児院に援助金を入れず、更には院に忍び込んで金どころか子どもを盗むと暗に告げられる。
ダンゾウの傍らにいた長い黒髪の男が蛇のような眼差しで、逡巡するノノウを舐めるように眺めているのを、幼きカブトは窓の隙間から覗き見ていた。

あの男を知っていた。
蛇のような男は、以前、ノノウに教わった医療忍術でカブト自身が手当てした張本人だった。

まさか“根”に属しており、こうして再会するとは思ってもみなかったが、とノノウからもらった眼鏡の奥でカブトは眼を細める。
窓の隙間から、会話を盗み聞きしていたカブトは「孤児院の子どもをひとり、“根”に差し出せ」と更に要請してくるダンゾウに思案顔を浮かべた。
外した眼鏡を、じっと見る。


どうせ、この身は何も無い。
与えられたカブトという名とこの眼鏡。


記憶を失った身よりのない自分の居場所になってくれたノノウの、そして孤児院を守る為に、カブトは唇をきつく噛み締める。
その瞳には既に決意の色が濃く宿っていた。



自ら“根”に立候補したカブトの人生はそれから目まぐるしく変わった。
当時、まだ9歳ほどであった彼は“根”のスパイとして五大国を渡り歩き、諜報の才能を発揮してゆく。


五大国の内、水の国に潜伏していたカブトは霧隠れの忍びとして、濃い霧の中、木陰に潜む。

当時、“血霧の里”と呼ばれていた危険な里に潜入捜査していたカブトは、視線の先にいる要注意人物に眉を顰めた。

(あれが…霧隠れの鬼人────桃地再不斬か)

忍者学校卒業試験で同級生の皆殺しという凶行を仕出かし、その時から頭角を現していた鬼人・再不斬。
なるほど遠目から見てもわかる。アレは並みの忍びではない。

口を包帯で覆っていながらも、覆い隠せない再不斬の残忍な表情を濃霧の中で認め、カブトは身震いした。
命が惜しければ彼には近づかないほうが身の為だな、と判断したところで、肩を叩かれる。

反射的に振り返ったカブトは、いつの間にか自分の背後にいた人物に顔を青褪めた。


霧隠れには、尊敬と畏怖を込めてその称号を贈られる実力者がいる。
霧隠れの里に存在する特殊な能力を宿す七本の忍刀を使いこなす忍び。
他国の忍びにも知れ渡っているその名は、“忍刀七人衆”。

その内のひとりである無梨甚八、その人に背後を取られたと知り、カブトは愕然とする。
よもやスパイだとバレたか、と戦々恐々とする中、無梨甚八はカブトを静かな眼差しで見やった。


「も、申し遅れました。あの、この度、医療忍者としてこの部隊に配属されたカブトと申します」

慌てて名乗るカブトを、無梨甚八はどこか値踏みするように見つめると、やにわに口を開いた。

「それは…本当の名、か?」
「……ッ、」

忍びであるが故に偽名を使うことは大いにある。
故の質問だったのだろうが、カブトはその問いに咄嗟に答えられなかった。

何故なら、カブトという名は借り物。
本当の名は、記憶喪失が原因で失ってしまったのだから。


「あ、当たり前じゃないですか」

ハッとして慌てて答えるも、奇妙な間を置いてしまった。怪しまれたのではないかと冷汗をかく。

カブトをじっと見下ろしていた無梨甚八は、眼帯で隠されていない瞳を細めた。
その眼はどこか、青みがかっていた。


結局、無梨甚八は再不斬に呼ばれて、カブトから離れて行ったが、あの瞳の色を、カブトは忘れられなかった。
それから他の国に渡り、岩隠れの里で諜報活動をしていた現在も。





















孤児院を出て五年。
もう一度、マザーに会いたかったな。

スパイだとバレて、岩隠れの忍びに囲まれている絶体絶命の状況で、カブトは切に思う。
荒い息遣いを整えながら、そう願ったカブトはこの時、頭上から迫る人物に気がつかなかった。


「…がッ」

クナイが刺さる。
頭上の岩崖から降ってきた岩隠れの忍び。そいつが放ったクナイを避けられず、カブトは苦悶の表情を浮かべる。
振り返り様にチャクラを帯びた手刀で反撃しようとしたカブトは、直後、動きを止めた。

「…えッ、」

厚い雲間から月が覗く。
月光射し込む中で、カブトは眼を見張った。

「そんな…」

己を殺そうとしている岩隠れの忍び。
その顔は今まさに会いたいと思っていた相手だった。

「ま、マザー…!?」

致命傷を負いながら、カブトは叫ぶ。
己に名を、眼鏡を、居場所を与えてくれた孤児院のマザーである薬師ノノウ。
しかしながら会いたかった人物は、非情にもカブトへクナイを振り上げた。

「マザー!僕だよ、カブトだ!!」

襲い掛かってくるノノウへ、カブトは声を張り上げた。
カブトに与えた眼鏡の代わりに新しい眼鏡をかけているノノウは、カブトという名にピクッと反応する。

動きが止まった彼女にホッとしたのも束の間、カブトはノノウの次の言葉に衝撃を受けた。



「────誰なの?」


カブトの顔が見えているはずなのに、ノノウは眼鏡の奥の瞳を冷ややかに細める。
その視線は明らかにカブトを敵視していた。

「カブトの名を騙るなんて…!」

自分をカブトだと認識してくれていない。
呆然と立ち竦むカブトは、敬愛するマザーが襲撃してくる光景を信じられない面持ちで見やった。顔を見てしまった手前、彼は反撃できない。隙だらけのカブトを訝しげに睨みながら、好機とばかりにノノウは一気に相手の懐に飛び込んだ。


ノノウの敵意が込められたクナイがカブトの身体に吸い込まれるように刺さる。
同時にその刃物は、否、ノノウの言葉はカブトの存在の根幹を突き崩してしまった。


「ど、うし…て…」

自分に名を与えてくれた人。眼鏡を与えてくれた人。居場所を与えてくれた人。
恩人であるノノウ本人に名を問われ、“自分が何者か”というアイデンティティをカブトは完全に見失う。


彼の悲痛の叫びが、聳え立つ岩々の間でむなしく響き渡った。




















「これで…カブトは“根”から解放される…」

致命傷を与え、虫の息であるカブトを見下ろしながら、ノノウはゆらり、立ち上がる。

岩隠れの里への潜入任務。
長期に渡り、“根”からカブトの成長過程を写真で知らされていたノノウは、目の前で倒れ伏す男を見下ろす。

その写真が途中から別人にすげ替えられていることに気づかず、自分とカブトの共倒れを狙う“根”の策略だとも知らず、ノノウは安堵の息を吐く。

これで、カブトは自由だ。孤児院の為を思って“根”に入った優しいあの子は解放される。

カブトを解放する条件として暗殺するようにダンゾウに命令されていた任務。
それを、今、やり遂げたのだ。

今しがたクナイで突き刺したその人物こそがカブト本人だと知らず、岩隠れの忍びとしてナニガシという偽名を長期に渡って使っていたノノウはその場を離れる。


倒れ伏したカブトに音も気配も無く、近寄った存在に気づかずに。


















「…う…」

呻き声をあげながら、カブトは眼を開けた。

ぼんやりとする視界。ぼやける光景に眼を細める。
スッと差し出された己の眼鏡を何の疑いもなく、朦朧とする頭で受け取ったカブトは、やがてハッと飛び起きた。


「────起きたか」

誰かが傍にいる。
警戒態勢を取ったカブトは、やがて己の身体に傷が無いことを理解した。

「…馬鹿な…致命傷だったはず…」

医療忍者だからこそ、わかる。
ノノウから受けたクナイは確実に致命傷だった。

岩陰で見えない人物が、動揺するカブトに素っ気なく答える。

「安心しろ。確かに致命傷だった」

どこも安心できない肯定の返答に、カブトは顔を顰めた。改めて己の身体を見下ろす。
やはり、傷は無い。

「もしかして…貴方が治してくださったんですか?」
「………」

沈黙は肯定。
寡黙な人物に戸惑いつつも、カブトはひとまずお礼を述べた。

「あ、ありがとうございます。ですが、見ず知らずの人がどうして、わざわざ…」

ただでさえ、岩隠れの忍びに追われている身。
今や岩隠れの里のお尋ね者である自分を助けた理由が思い当らず眉を顰めたカブトは、相手の次の言葉に益々困惑した。

「いや…見知っているから助けた。それだけだ」
「…以前、僕と会ったことが?」

カブトの問いに、岩壁に背を預けていた人物がゆっくりと身を起こす。
眼には捉えられない速度で印を結んだその者は、カブトには気づかれずに変化の術をその身に施した。


「そうだな…この姿なら、見覚えがあるだろう」

暗がりから月明りの下に現れた存在。
岩隠れの忍びでもなく、この場にはいないはずの人物に、カブトの瞳の色が驚愕に彩られる。

「霧隠れの里で、一度、会ったな」


霧隠れの七人衆のひとり、無梨甚八。
以前、僅かの時間ではあったが、確かに出会っていた相手の出現に、カブトは言葉を失う。


「何故…貴方が此処に…」
「その質問、そっくりそのまま返す。霧隠れの忍びだったお前が何故、岩隠れの忍びに?」

無梨甚八の問いに、カブトはハッと己の額宛てを咄嗟に隠した。
岩隠れの忍びである証の額宛てを握りしめるカブトを、無梨甚八は暫し見下ろしていたが、やがて「まぁ、俺も同じ穴の狢だがな」と苦笑する。

「どういう…意味ですか?」
「俺もまた、霧隠れの忍びでも無い」

片目を覆い隠す眼帯をそっと外しながら、無梨甚八は────否、得体の知れない誰かは衝撃発言をしれっと答えた。


「無梨甚八ではないからな」









警戒態勢を取りつつも、無梨甚八その人に見える人物を、カブトはまじまじと見やる。

眼帯で覆われていた瞳。
無梨甚八本人なら失っているはずの眼がまっすぐカブトを射抜く。

その青みがかった瞳はどこか、紫色にも赤色にも見えた。


「……無梨甚八でも霧隠れの忍びでもないのなら、貴方は一体誰なんです?」
「そういうお前こそ、誰なんだ?」
「…ッ、僕は───…」

今までカブトという名を支えに生きてきたカブトは、無梨甚八に見えるその誰かからの問いに、ひゅっと息を呑む。
今しがた、自分に名を与えてくれた張本人から、己の存在の根幹を突き崩されてしまったところだ。

もはや、カブトだと名乗ることも出来ない。


「ぼ、ぼくは……」

名前も眼鏡さえも、居場所でさえも、見失ったカブトは、わなわなと唇を震わせる。
血を吐き出すように、彼はボソリと、己自身に問うた。


「ぼくは…いったい…だれ…なんだ…」


自分が何者かわからない。
支えであったノノウからの襲撃は、カブトの最後の砦を崩してしまう。

完全に己を見失っているカブトを、怪訝な視線で見ていた彼が何の気もなく、答えた。


「お前の名は『 』だろう」


は…、とカブトは顔を上げた。
岩壁に再び背を預けている人物は、カブトを静かに見下ろしている。
その表情からは何も窺えないが、確固たる自信が其処には確かにあった。

「なにを…根拠に…」

初めて聞いたはずなのに、得体の知れない誰かが告げた名は、確かにカブトの胸を強かに打った。
懐かしいとさえ感じる。
その名はカブトという名よりも己にしっくりと合っていた。

「ど、どうして…何故!!そんなことを言える!?どこでその名を…!?」
「先ほど、お前の傷を治した際、勝手ながら記憶を覗かせてもらった。お前自身は憶えていなくとも、その脳には確かに思い出として残っているものだ」

どうしても思い出せなかった名をあっさり答えた存在に、カブトは詰め寄った。
だが相手は飄々とした雰囲気で、取り去った眼帯を手持ち無沙汰に手のひらでもてあそぶ。

「お前の記憶は確かに、六歳以前は曖昧だった。記憶喪失は大きなショックが大半の原因。名前がわからないとなれば幼少期、何かの災害か人災に巻き込まれたのだと推測される。家族を失ったか、街を失ったか…もしくは両方か。それを考えれば、自ずと見えてくる。“桔梗峠の戦い”だ」

理路整然としているようで、矛盾している相手の言葉をカブトは呆然と聞いていた。


あの時、戦災孤児はたくさんいた。
その中で自分の名を引き当てるなんて、砂漠から一粒の米を探し当てるようなモノ。
それをあっさり看破してみせた男を、カブトは呆けながら見やった。

(まぁ、名前がわかったのは、本当は別の理由があるがな)

心の中の呟きは口には出さず、無梨甚八の姿をした人物はカブトを見つめる。

「信じる・信じないはお前の判断に任せる────ああ、そうか」

不意に、視線を虚空へ向けた人物を、カブトは胡乱な目つきで見上げた。

「…なんです?」
「念の為に、先ほどお前をクナイで刺した相手を影分身に監視させていたんだが…その報告が今、届いた」
「…マザー、を…?」

ビクリと肩を跳ね上げるカブトを、男は無表情で見返す。

「自害した」
「な、なんだって…!?」

得体の知れない誰かにもかかわらず、カブトは相手の胸倉につかみかかる。
その必死の形相を、何の感情も窺えない青い瞳で見返しながら、男は更に続けた。


「影分身が聞いた話では…お前と、お前が言うマザーというくノ一は、“根”に嵌められたようだ。お前とあの忍びをずっと監視していた“根”の忍び…大蛇丸が最期の土産にと、くノ一に真実を語って聞かせていたらしい」


ノノウとカブトは“根”にとって危険人物と見なされ、最初から共倒れするよう仕組まれていたのだ。
カブトを“根”から解放する条件として、ある男の暗殺をダンゾウから命じられたが、その男こそカブト自身。
写真でカブトの成長過程を知らされていたノノウは途中からその写真が別人にすげ替えられていることに気付かずに、カブト本人を狙い、そして息の根こそ止めなかったものの致命傷を与えたのだ。

暗殺対象を倒し、ようやくカブトを解放できると安堵しながら潜伏している岩隠れの里へ戻ったノノウの許に、“根”の命令でカブトとノノウをずっと監視していた大蛇丸が現れる。

そこで無情にも、大蛇丸は彼女に真実を告げたのだ。
名と眼鏡と居場所を与えた相手に、今しがたお前は致命傷を与えたのだと。


カブトの才能をもったいなく思っていた大蛇丸は、彼女を糾弾し、ノノウ自身は自責の念からその場で自ら命を絶った。



それが、ノノウを監視していた影分身からの報告だ、と得体の知れない誰かはカブトに淡々と語った。

「スパイも、優秀過ぎると考えものだな…」
「………」

ノノウが自分を憶えていなかった理由も、自身を狙った原因も、“根”が自分とノノウを処理しようと企んでいた事実も、カブトは理解できた。
理解はできたが、納得はできなかった。

「里の為に長い間、命がけで情報を集めさせておいて…ッ、その結果がこれか…!」


情報は時として、強力な武器や術よりも強い力を持つ。
スパイとして知り過ぎたノノウとカブトは、“根”の企みにより共倒れするように最初から仕組まれていた。
そうして、万が一生き残ったほうを始末する為に“根”より遣わされた忍びが大蛇丸だったのだ。


「何があっても僕の姿を忘れない親がマザーのはずだったのに…!“根”のアイツらのせいで、何もかも無茶苦茶じゃないか…!!」

激昂するカブトを、男は静かに眺めている。
やがて、無梨甚八に似た誰かは、怒りで肩を震わせるカブトへ、ただ一言、述べた。


「俺はお前を憶えている」
「……っ、」
「霧隠れの里で一度しか会わなかったが、それでも憶えていたからこそ、お前を助けた」


顔を伏せていたカブトはゆっくりと視線を男に向けた。
だが、その時、目の前に佇んでいるのは、無梨甚八でも、それに似た姿の男でも無かった。


「あなたは…いや、君は…」

眼鏡の奥の瞳を大きく見張り、カブトは食い入るように、寸前まで己と話していた誰かを凝視する。
射し込んでくる天からの月の光が、カブトよりずっと背が低い相手の姿をぼんやりと浮き上がらせた。


両頬に髭のような三本の痣があるが、それすら愛嬌に見えるほどの愛らしい顔立ち。
月光に照らされ、さらさらとなびく眩い金の髪。

そして、赤色にも紫色にも角度によって変わる、青の瞳。


「君は、いったい…」

己よりずっと若く、幼く、小さな子どもへ、カブトはおそるおそる問いかけた。


「何者…なんです…?」


カブトの質問に、金の髪の小さな幼子は何の感情も窺えない声音で淡々と答える。
その物言いは、確かに、先ほどまで其処で佇んでいた無梨甚八と同じものだった。





「ただの…───忍びだ」


無梨甚八に変化していたうずまきナルトは、知らず知らずのうちに畏敬の念を抱くカブトの前で、ただ一言、そう口にした。
 
 

 
後書き
タイトルはカブトの本当の名前です。
カブトとナルトの出会い編は次回まで続きます。本当は一話にまとめたかったんですが、いつもの一話の文字数にしては長すぎるので…

無梨甚八の姿に変化している理由は、また後ほど…

突然ですが、やむを得ない諸事情により、改名し、Twitterも削除致しました。
大変ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願い致します。


 
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