提督はBarにいる。
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春を味わう筍料理・1
「親父の奴、ま~た大量に送ってきやがったな……」
山積みされた段ボールの前で、溜め息を吐く俺。送り主は俺の親父。大工の棟梁を辞めてからは悠々自適な老後を過ごしてるんだが、親戚の持ってた管理する者が居なくなった山やら竹林やらを一手に引き受けて、色々獲ってきては食ってるらしい。そんで、今年は筍が獲れまくっているらしくてな。近所の人達にも要らんと言われてるとの事で、食い手の多いウチに送ってきやがったらしい。
「ありがたい事ですけど……」
「流石に多すぎますねぇ」
一緒に溜め息を吐いているのは間宮と伊良湖。流石にこの量の下処理は一人じゃ大変なんでな。早々に援軍を要請した。
「まぁ、獲れ立てでもねぇから生食は無理だろうからな。米糠かき集めて纏めて茹でちまおう」
「それしかないですね」
「が、頑張りますっ!」
そうして下拵えをしたのが今日の昼間。当然ウチの飲兵衛共がそんな作業をしていて感付かないワケがなく……
「提督、今夜は筍尽くしですよね!」
「さぁ、大人しくちゃっちゃと出してください!」
「ホントこういう時の索敵能力と素早さだけはハンパねぇなお前ら」
執務終了5分前から部屋の前に待機してやがったのは、ウチの腹ペコ二航戦。
「あははは、私らこの為に生きてるトコあるからね!」
「そうそう!美味しいお酒とご飯は今日のご褒美であり明日への活力源なんだよ!」
「ホンットぶれねぇなお前ら……ってかお前ら、今日は他の鎮守府との演習当番じゃなかったか?」
「あぁ、演習?軽い軽い」
「1人頭3人吹っ飛ばせば良いんでしょ~?それくらい出来なきゃ多聞丸に笑われちゃうって」
普段やる気がねぇくせに、飯と酒が絡むと大和型でさえワンパンしかねないからなぁコイツら。それ知ってるから加賀の奴も注意しない……ってか諦めてるし。
「その動機が飯と酒の為だって聞いたら、草葉の陰で泣いてるぞ多聞丸……で?注文はどうすんだ。いつも通りビールか?」
「う~ん、それもいいけど……」
「折角の筍尽くしでしょ?お通しが何か見てから決めようかなって」
成る程、お通しから美味しく酒を楽しみたいと。
「あいよ、今日のお通しは『豚肉と筍と油麩の煮物』か『筍とスペアリブの香味煮込み』だ。油麩の方が和風、スペアリブの方が中華風だな」
「ど、どっちも捨て難い……!」
「○っちの料理ショー並に悩むよコレ!」
懐かしいなどっ○の料理ショー。まぁ、2人が悩んでる間にレシピを書き出しとくか。
《味が染み染み!豚肉と筍と油麩の煮物》※分量:2人前
・筍(水煮):1/2本(100g)
・豚バラ肉(ブロック):100g
・油麩:1本
・だし汁:200cc※かつおでも昆布でも合わせでもOK!
・醤油:大さじ1.5
・砂糖:大さじ1.5
・サラダ油:少々
・しょうが:少々※おろししょうがでもOK!
・万能ネギ:適量
まずは油麩から。油麩ってのは宮城の北部と岩手の南部地域で作られてるお麩の1種でな。油で揚げて作るお麩なんだ。焼き麩よりもよく煮汁を吸うし、煮込むと生地の中に入ってた油が染み出していい塩梅に煮物にコクが出る。これが美味いんだよ。そんな油麩を2cm幅の輪切りにして、ぬるま湯に10分程浸けて戻す。軽く絞ったら、キッチンペーパーで拭いて水気を取っておく。
お次は筍。水煮の半分を更に縦に半分にして食べやすい大きさにカット。そしたら鍋に水と共に入れて火に掛ける。強火で加熱して沸騰したら、そのまま1~2分茹でる。その後ザルにあける。この作業を『茹でこぼす』といい、灰汁抜きや臭み取り、ヌメリ取りの為にやる下準備だ。
豚肉は1cm幅に切っておき、丸の生姜を使う場合は千切りかスライスしておく。
下準備が終わった所で本格的な調理に移るぞ。金属製の鍋にサラダ油を敷き、筍と豚肉を中火で炒めていく。全体に油が回ったらだし汁を加えて強火にして、沸騰してきたらアク取りをして弱火にする。砂糖、醤油、生姜を加えて更に煮る。
豚肉に竹串を刺して火の通りを確認したら、油麩を加えて弱火でじっくり煮込む。弱火で30分位煮ると、油麩に味がしっかり染み込みつつトロリと蕩けるような食感になるぞ。
器に盛り付けて、小口切りにした万能ネギをちらせば完成。お次は中華風煮込みの方だ。
《五香粉薫る!スペアリブと筍の香味煮込み》※分量:2人前
・スペアリブ:4本
・筍:小さめの2本※無ければ水煮1本
・醤油:大さじ1.5
・砂糖:大さじ1.5
・水:500cc
・葱の青い部分:少々
・ニンニク:1/2片
・生姜:少々
・酒:大さじ1
・五香粉:少々
・クレソン:適量
さて、作っていこう。まずはスペアリブに酒と醤油を振り(分量外)、揉み込んで暫く置いておく。その間に筍を櫛切りにして茹でこぼしておく。
フライパンに油を熱し、中火でスペアリブに焼き色を付ける。焼き色を付けたら鍋に移し、水、酒、葱、ニンニク、生姜を加えて火に掛ける。
沸騰してきたらアクを取り、五香粉を振って中弱火にして20~30分煮込む。砂糖と醤油を加えて更に5分程煮込んだら、筍を加えて煮汁が1/3位になるまで煮詰める。
皿に盛り付け、クレソンを添えたら出来上がり。
「あ、じゃあさぁ2人で違うの頼んで半分ずつ交換しよう!」
「やっぱそれしかないか~……」
たっぷり5分は悩んだ後、そう結論付ける2人。いや、速攻で思い付きそうな案だけどな?それ。
「あいよ、酒はどうする?」
「あ、それもあった!」
「どどど、どうしよう飛龍!?」
そういう時こそ、『店員さんに聞け』ってのが鉄板だろうに。
「あ~……今日のお通しならビールか焼酎だな」
仕方なくアドバイスしてやる。日本のビールは和食にも合うように作られてるし、焼酎なら中華でも和食でも上手くマッチする。
「じゃあ焼酎ロックで!」
「アタシもアタシも!」
「銘柄は何にしますか?」
すかさず尋ねる早霜。仕事にソツがない。
「ん~……お任せで!」
「では、大分の麦焼酎『兼八』等如何でしょう?甘く香ばしい麦の香りが良いですよ……♪」
「「じゃあそれで」」
「ふふふ……承知しました」
手際よく支度された2つのロックグラスに、トクトクトクトクと注がれていく澄んだ液体。しかし芳醇な香りが水でない事を確信させる。
「ホントだ……甘い匂い」
「ちょっと麦チョコっぽいね」
ただし匂いに騙される事無かれ。2人に出してやった『兼八』の原酒のアルコール度数は42度。冷凍庫でも凍らない強烈な酒だ。甘い香りにそそられて、一気に煽るとクラっと来ちまうからな。
「ハイよ、お通しお待ち」
「ではでは……」
「今日も1日お疲れ様!」
「「かんぱ~い♪」」
ロックグラスがカチンと小気味よい音を立てる。一気に行くかと思いきや、そこはベテランの飲兵衛。匂いでアルコール度数の高さを嗅ぎ付けたか、チビリと舐めるように啜る。
「くぅ~っ!喉と内臓に染み渡るぅ!」
「これよね!これが無くちゃ始まらないわ!」
そして口を湿らせた2人は、早速とばかりにお通しに襲いかかる。
「油麩うんまっ!」
「スペアリブ柔らかっ!」
「いやお前ら、筍はどうしたよ筍は」
あくまでも今日のメインは筍なんだが。
「解ってるよぉ提督ぅ~」
「私達お楽しみは後に取っとくタイプなのです!」
そして漸くメインに取りかかる。醤油で仄かに茶色に染まった筍にかじりつけば、シャキ、シャキ、コリッ、コリッと聞いていて気持ちいい位の音がする。そして、
「「春だねぇ~……♪」」
2人から揃いの感想が漏れる。
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