ロックマンZXO~破壊神のロックマン~
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第九話 エリアG
前書き
漫画版キャラを出します。
それにしてもプレリーの部屋のベッドを占領しているぬいぐるみはでかいな…。
数日後、エリアGの港に補給に立ち寄ったガーディアンベース。
エールとジルウェはヴァンへのお土産も含めての買い出しに出掛ける準備をしていた。
「来たわよエリアG!ここの中華料理店の餡まんは絶品だから来る度に楽しみにしてるんだから」
ホカホカモチモチの生地の中にしっとりとして口の中で蕩けるような熱々の餡を思い出して涎を垂らすエール。
「本当に俺が奢るのか?」
「勿論」
ジルウェの問いに即答するエール。
ヴァンとエールの育ち盛りの二人が満足する量となると、かなりの額になるだろうと落ち込むジルウェであった。
一方でヴァンは使わなくなった機材を置いてある倉庫をライブメタル達の協力を得ながら整理をしていた。
と言っても、エールのようにダブルロックオンが出来るような体ではないのでただ指示を出してもらっているだけだ。
「ヴァン、それはここに置いた方が良いよ」
「それなりの大きさの物は下の方に置いた方が良いだろう。出す時に苦労するぞ」
「小さめの物は一纏めにした方が良い。場所を取らずに済む」
「了解」
モデルXもモデルZもモデルHも適切な指示を出してくれたので、初めて来た時は汚かった倉庫も大分整理がついたようだ。
「少し休憩するか」
倉庫を出てガーディアンベースの休憩スペースに向かうと、そこに見覚えのあるぬいぐるみがあった。
「これはプレリーのぬいぐるみ…?忘れたのか?」
「なら、届けてあげよう。それは彼女が先代の司令官…お姉さんから貰った物らしいから」
「お姉さん…か…確か、プレリーのお姉さんは行方不明なんだったな…」
大切な人がいなくなる寂しさを自分は良く知っている。
そんな人から貰った物を忘れるとはプレリーも疲れているのかもしれない。
「確か、プレリーは休憩の時以外はブリッジにいるんだったな」
届けてやろうとブリッジに足を運ぶヴァン。
「あら、ヴァンさん。どうしたんですか?」
オペレーターの一人がヴァンに気付いて振り返った。
「プレリーが休憩室にぬいぐるみを忘れてたんだ。届けに来たんだよ」
「プレリー様なら自室にいますけど…」
「そうか」
目的の人物が自室にいることを聞いたヴァンは扉を開けようとするが、もう一人のオペレーターが声をかける。
「あ、ヴァンさん。プレリー様の部屋はフルーブさん以外は入室出来ないんです」
「何でだ?」
「さあ、私達もガーディアンに入って大分経ちますけど…」
どうやら常にブリッジにいるオペレーター達もプレリーの部屋のことを知らないらしい。
「なら、まずはノックをしよう。部屋にいるプレリーにぬいぐるみのことを教えないと…」
モデルXがヴァンにノックをするように言うと、ヴァンは扉をノックした。
「おい、プレリー。忘れ物だぞ、おーい……返事がない…寝てるのか?」
「ならば扉の前に置けば良いだろう」
「そうだな」
モデルZの言葉にヴァンも同意してぬいぐるみを扉の前に置こうとした時であった。
「う…うう…」
「プレリー!?」
「「「どうしました!?」」」
部屋から微かに聞こえてきた呻き声にヴァンは部屋の中にいるプレリーの名前を呼んだ。
ただ事ではない様子にオペレーター達も振り返る。
「部屋の中からプレリーの苦しそうな声が聞こえたんだ…まさか何かあったのか?」
「え?いや、そんなはずは…!?」
不審者がこのガーディアンベースにいるはずなどないし、自分達は常にベース内を監視しているからそんなことはあり得ない。
「とにかく、プレリーに何かあったのは確かだ。扉をぶち破るぞ!」
「「「お、お願いします!」」」
扉を殴ってぶち破った直後にヴァン達の視界に入ったのは、色とりどりのふわふわした物体であった。
「は?」
「「「え?」」」
次の瞬間、それによる雪崩が起きてヴァンとオペレーター達はそれに押し流されてしまう。
「ヴァン、大丈夫かい?」
ライブメタル達は空中に避難していたから無事であった。
「これはぬいぐるみ…だな…」
「何故、司令官の部屋に大量のぬいぐるみがあるんだ…」
モデルZとモデルHが物体の正体を告げると、ヴァン達も起き上がってフルーブ以外見たことがないというプレリーの部屋を覗いた。
そこはぬいぐるみで埋め尽くされていると言っても過言ではない状態であった。
プレリーの自室はぬいぐるみで一杯であり、全て妖精シリーズと呼ばれる女子に大人気なぬいぐるみしかない。
エールも同じようなぬいぐるみをいくつか部屋に飾っていたが、部屋が埋め尽くされる程のものではない。
小さいサイズやそれなりに大きいサイズ、そしてプレリーが押し潰されている目が隠れた犬のぬいぐるみに至っては自分の倍くらいかそれ以上の大きさだ。
ここまででかいとどうやってこの部屋にこのぬいぐるみを入れたのかが気になるところだ。
「大丈夫か?」
「ええ、ありがとう…」
しばらくしてぬいぐるみを掻き分けて押し潰しているぬいぐるみからプレリーを救出したヴァン。
「それにしても凄い量のぬいぐるみだな。普通雪崩が起きるまで部屋に飾るか?」
「コホン、これは私が初代司令官だったお姉ちゃんのお手伝いをしていた時にお世話をしていたサイバーエルフ達にそっくりなぬいぐるみ達だったから、あの子達を忘れないように飾っているの…」
「………嘘だな」
女の子と言う生き物はエールや運び屋の後輩達で良く分かっているからだ。
「う、嘘じゃないの!本当に嘘じゃないの!この子達は本当に私がお世話をしていたサイバーエルフにそっくりなんだから、証拠ならこのエルフのファイルに…」
「悪いなんて一言も言ってないだろ?寧ろプレリーにもそういうところがあるんだって分かってホッとしてる。」
「…どういうこと?」
「俺は運び屋だったからな。引っ越しの手伝いなんて良くやったし、お前のようにぬいぐるみを沢山ある家に行ったこともあるんだぜ?まあ、ここ程じゃないけどな…ぬいぐるみだけじゃなくて部屋に飾ってある写真とか、古い服とかを見てると、プレリーが大切にしてる物だってことくらい分かるさ…」
足元に転がっている魔法使いのぬいぐるみを拾う。
「お、このぬいぐるみは俺がまだ小さい頃にエールにプレゼントした奴と同じ奴だな…懐かしいな」
昔の…ジルウェに引き取られてからしばらく経ってようやく母の死から立ち直ったヴァンはまだ母の死から立ち直れていなかったエールにジルウェから貰った小遣いで買ったぬいぐるみと同じ物だ。
流石に子供だった頃の小遣いでは限定品ではなくて安物が精々だったが、渡した時のエールは少し元気を取り戻してくれた。
行方不明になる前から部屋に飾っていてくれていたので、多分今でも飾られていると思う。
「………」
「俺が言えたことじゃないけど、プレリーのこと少し心配だったんだ。初めて会った時からいつも真面目な顔ばかりしてガーディアンのみんなことを考えていて行方不明のお姉さんのこととか色々あるのにプレリーは何もないように振る舞ってるじゃないか…だからこういう女の子らしいところがあるって分かってホッとしてるんだよ……プレリーも少しは肩の力を抜けよ。大丈夫だ、セルパンを必ず倒してモデルVも壊してみせる」
「ありがとう、ヴァン…」
心配をかけていたことに申し訳ないと思う反面、ヴァンの優しさに心地よさを感じた。
「さて、プレリー。これからお前がやるべきことは分かってるよな?イレギュラーやセルパン、モデルVのことよりも大切なことだぞ」
「え?」
「部屋の整理だよ整理。ぬいぐるみが好きなのは分かったけど流石にこれは集め過ぎだって、もし俺達が気付かなかったらお前生き埋めになったままだったんだぞ?ガーディアンの司令官の死因がぬいぐるみの雪崩で圧死だなんて笑えないぞ。押し入れとか空いているロッカーとかないのか?」
「ええ!?そんな、この子達を暗い場所に押し込めるなんて可哀想…」
足元のぬいぐるみをギュッと抱き締めるプレリーにヴァンは困り顔になる。
「……そういうもんか?女の子って分からないな……じゃあ、せめて雪崩が起きないようにするか。」
とりあえずオペレーター達も巻き込んでのぬいぐるみの整理をするヴァンの後ろ姿に、プレリーは昔の出来事を思い出す。
“お姉ちゃん”は研究者で研究に没頭すると面倒臭がって身の回りのことが雑になって研究室でもある部屋は散らかり放題。
それは基本的に実害がなければ気にしないはずの兄のように慕っていた“あの人”も見かねる程だったので、時々自分と一緒に部屋を片付けてくれていた。
幼かった自分は二人と一緒にいられるのが何よりも楽しくて幸せだったことを今でも覚えている。
「(ヴァンはあの人じゃないのに…私ったら…駄目だなぁ…お姉ちゃんみたいに強くならなきゃいけないのに…)」
「なあ、プレリー」
「え!?何?」
思い出と思考に浸っていたプレリーをヴァンの声が呼び戻す。
「ロッカーや押し入れに押し込むのが駄目なら空き部屋をコレクション部屋にして入れたらどうだ?空き部屋がないなら新しく作ればいいし、司令官なんだから部屋の一つや二つ自由に使えるくらいの権限はあるだろ?」
「コレクション部屋…でも…すぐにもふもふ出来なくなるし…」
「別に全部入れろとは言ってないし、自分の部屋に飾るのは一つか二つでいいだろ」
ヴァンの正論にプレリーは苦渋の決断を迫られることになるのであった。
一方、エリアGの中華料理店に直行したエールとジルウェ。
そしてエールは瞳をキラキラと輝かせながらお目当ての湯気が立っている餡まんを口にした。
「はふはふ…ん~っ!美味し~っ!!」
ホカホカモチモチの生地の食感に、口の中で蕩けるようなこし餡にエールは頬に手を添えながらご満悦だ。
「(ヴァンが加わってから元気になったようだな…)」
ヴァンのお土産の肉まんと、エールが食べたい分の餡まんの紙袋を受け取ったジルウェは微笑む。
自分の財布の中身は悲惨なことになっているが。
「おいエール!」
「むぐっ!?」
背中を叩かれて餡まんを喉に詰まらせたエールは水を一気飲みして窮地を脱した。
「ケホッケホッ…誰!?今、背中を叩いたの!?」
「俺だよエール!久しぶりだな」
「あんたはシュウ!?何であんたがここにいるの!?」
犯人はエールとヴァンが働いているジルウェ・エクスプレスの従業員であった。
「ふっ、俺も同じさ…ここの中華を食いに仕事をサボって…」
「その話、俺に詳しく聞かせてもらおうか?」
背後からシュウの肩を叩くジルウェ。
優しい声色だが、眼鏡が光を反射してジルウェの表情を隠しているので恐ろしく怖い。
「ジルウェさん!?冗談です冗談!ちゃんと有給手続きしました!ほらっ!」
有給休暇手続きの書類を渡すと、ジルウェの雰囲気は穏やかなものに戻った。
「確かに…あまり変なことを言うなよ?後で酷い目に遭うのはお前なんだからな」
「はーい…それにしてもエール、ジルウェさんとここでデートか?」
「デ、デート!?そ、そんなわけないじゃない!」
デートの単語に過剰に反応して否定するが、それはからかう理由を増やすだけである。
「そーかそーか、お前ずっとジルウェさんに片想いしてたもんな。良かった良かった。きっとヴァンも空の上で安心してるぞ」
「そんなんじゃないって言ってるでしょ!それからヴァンを殺すな!ヴァンは…」
生きてガーディアンベースにいると叫びたかったが、今のヴァンのことを言って良いのだろうかと口を閉ざす。
「…何だよ?」
「べ、別に…」
不自然に黙ったエールにシュウは訝しげな表情を浮かべるが、ジルウェの紙袋を見た瞬間に飛び付いた。
「おっ、ここの肉まんと餡まん!?これどっちも美味いんだよな~一個貰…」
「ふんっ!」
「ごふっ!?何すんだよエール…」
「意地汚いことするんじゃないわよ!」
肉まんと餡まんを取ろうとしたシュウの脇腹に肘打ちを喰らわせたエールは怒鳴る。
「そんなにあるんだから一個くらい良いだろ…もしかしてお前それ一人で食う気か?そんなに食ったら太るぞ~」
「…………」
次の瞬間、店内はシュウの失言によって怒り狂ったエールによって人々の悲鳴が迸る阿鼻叫喚の地獄絵図となった。
「ひぃっ!ジルウェさん助けて!」
怒り狂うエールにボコボコにされて泣きながらジルウェに縋りつくシュウ。
「待て、落ち着けエール!シュウを殺す気か!後、お前も余計なこと言うな!」
「ジルウェ、退いて…それ潰すから」
「嫌だーっ!!」
イレギュラーよりも恐ろしい存在と化したエールに、シュウは泣き叫び、ジルウェは最終手段を取る。
「エール!シュウを許してくれたら、ここの杏仁豆腐を奢ってやる!」
「分かった♪」
「早っ!?むぐっ!?」
「頼むから余計なこと言わないでくれ…」
これ以上エールを暴れさせないで欲しいとジルウェが思った直後であった。
付近の建物が吹き飛び、人々の悲鳴が聞こえてきたのは。
「な、何!?」
エール達が外に出ると、大量のイレギュラーが現れて人々を襲い始めたのであった。
後書き
怒り狂った女子はイレギュラーよりも怖し。
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