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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘とスイーツと提督と・43

     ~ポーラ:ヌガーグラッセ~

「ん~♪冷たくてお酒の香りもして、美味しいです~」

 ポーラが頬を抑えて身体をくねらせている。季節は初夏、常夏のブルネイも長い夏の始まりに差し掛かって来た頃。ポーラの奴がチケットを持ってきた。リクエストは『酒を使ったお菓子。冷たい物ならなおよし』という、何とも曖昧な物だった。日本酒を使ったゼリーなんかも考えたが、折角だから洋風の物にチャレンジしたいと選んだのは『ヌガーグラッセ』。メレンゲにナッツやドライフルーツを入れて固めるフランス発祥のお菓子『ヌガー』をグラセ(フランス語で凍らせた、の意味)した物を言う。今回はコイツをポーラのリクエストに合わせて酒をたっぷり使った飲兵衛仕様で作ってみた。

《下戸にはキツい!?ラムレーズンのヌガーグラッセ》※分量14×8×7cmのパウンド型1本分

(キャラメルアーモンド)

・グラニュー糖:50g

・水:10g

・アーモンドスライス(ロースト済の物):40g

(イタリアンメレンゲ)

・卵白:1個分

・はちみつ:50g

(アングレーズソース)

・卵黄:1個分

・グラニュー糖:10g

・牛乳:大さじ2

(その他)

・生クリーム:130g

・ピスタチオ:25g

・ラムレーズン:60g

・ラム酒:小さじ1



 まずはキャラメルアーモンドを作る。フライパンでグラニュー糖と水を混ぜて加熱し、キャラメルを作る。火を止めてスライスアーモンドを加えてよく絡めたらオーブンシートに広げて冷ましておく。

 お次はイタリアンメレンゲを作る。実はメレンゲってのは大まかに分けて作り方が3種類あり、それぞれフレンチ・イタリアン・スイスと分別されている。解りやすい違いはその気泡の堅さで、一般的な砂糖を加えて泡立てたメレンゲ……フレンチメレンゲよりもイタリアンメレンゲの方がしっかりとした泡が特徴だ。作り方は卵白をハンドミキサーで泡立てつつ、はちみつを鍋に入れて加熱。※はちみつが無ければグラニュー糖と水でもいいぞ!

 はちみつを焦がさないように加熱して、約115℃まで温める。温度計が無くて温度がわからない場合は、はちみつが沸騰してから中火で20秒くらい加熱した位が丁度いいぞ。はちみつが温まったら泡立てているメレンゲのボウルに少しずつ加えていく。この時、ミキサーにはちみつが当たって飛び散らない様に注意。かなり熱いから火傷するぞ?はちみつが全て入ったら細かい泡のメレンゲになるまでしっかり泡立てて常温まで冷ます。熱いはちみつ(またはシロップ)を加える事で卵白を凝固させてフレンチメレンゲよりも堅いメレンゲに仕上がるわけだ。メレンゲが出来たら冷蔵庫で冷やしておく。

 お次はアングレーズソースを作る。まぁ、分かりやすく言うならカスタードのソースだ。本来のヌガーグラッセのレシピだと使わないんだが、卵白だけ使って卵黄だけ取っておくのも勿体無いんでな。それに、アングレーズが入るとヌガーグラッセにコクが出て酒をたっぷり入れるにゃこっちの方が都合がいい。卵黄とグラニュー糖、牛乳を鍋に入れて混ぜ、とろみが出るまで加熱しながらかき混ぜる。とろみが出て来たら火から降ろし、粗熱をとる。

 さて、いよいよヌガーグラッセ作りだ。生クリームを8分立てまで泡立てたら、さっき作ったアングレーズソースを加えて混ぜる。そこにイタリアンメレンゲを加えて混ぜ、更にピスタチオ、ラムレーズン、刻んだキャラメルアーモンド、ラム酒を加えてざっくりと混ぜる。ここでも飲兵衛のポーラ向けのアレンジ。普段なら香り付けに小さじ1程度しか入れないラム酒を、どばっと大さじ2投入。少し生地が弛くなるが……まぁ問題ないだろう。

 ラップかクッキングシートを敷き詰めたパウンドケーキ型に生地を詰めて表面を均す。後は冷凍庫で一晩凍らせれば完成だ。型から抜いて、カットして頂く。






「それにしても、ほんと提督さんて多彩ですねぇ」

「あん?何がだよ」

「料理のレパートリーですよぅ。だってポーラ、ほとんどイタリアンかフレンチしか作れませんし」

「いやいや、そんだけ作れれば十分だろ。ってか、俺の料理の源は家庭料理スタートだぞ?」

「えぇ~?家庭料理ってレベルじゃないと思うんですケド」

「誰が何と言おうが、俺の料理の始まりは家庭料理からだ。それも趣味というより必要に迫られてだったしな」

 俺がまだガキの頃、親父とお袋は共働きで特にお袋は夜遅くまで仕事だったから爺ちゃんと婆ちゃんに育てられた。

「ところが婆ちゃんがとんでもなく料理が下手でな。ハンバーグを焼けば外は黒焦げ中は生とか、カレーを作ると何故だか鍋が噴火した事もあったし、まぁ……よく親父も含め3人も育て上げたなぁって感心したよ」

「うわぁ」

 ポーラが珍しく酒の飲みすぎ以外で血の気が引いている。自分が料理上手なだけに、筆舌に尽くしがたい物があったんだろう。

「それで、自分で作らねぇと命の危機だって思ってな。最初は目玉焼きとか簡単な所から始めたっけな」

 そこから徐々に難しい物を覚えていく内、段々と料理する事自体が楽しくなってきてな。

「んで、高校入ったらバイトで料理関係の店を曜日毎に掛け持ちしてな?色んなジャンルの料理を覚えたのさ」

 喫茶店、ホテルの厨房、中華料理店、インドカレー専門店に、イタリアンレストラン。こうしてみると色々やってんなぁ俺。

「えへへ~、そのお陰でポーラ達はこうして美味しい物が食べられるんですねぇ。じゃあ、提督のnonna(お婆ちゃん)には感謝しないとですね~♪」

 いや、婆ちゃんもメシマズ褒められて喜ぶとは思えねぇんだが。




「提督~、お代わり……もらえますぅ?」

「勿論いいぞ?今度はちょっと味を変えてみるか」

 そう言って俺は席を立ち、給湯室へと向かう。そこの冷凍庫にヌガーグラッセの残りがしまってあるからだ。それを取り出してカットし、皿に置いたら上から赤いソースをかける。

「ほらよ」

「あれぇ~?さっきはかかってなかったソースがかかってますねぇ?」

「いいイチゴが手に入ったんでな。赤ワインで煮詰めてソースを作ってみた」

 アイスクリームよりもさっぱりとした口どけのヌガーグラッセは、意外とフルーツなんかを使ったソースとの相性がいい。特に酸味の利いた甘酸っぱいソースは、ヌガーグラッセのさっぱりとした味わいを引き立てつつ、フルーツの味も感じられてよく合うと個人的には思う。

「ん~♪これまたBuono!サイコーですねぇ♪」

「うん、これは確かに美味い」

 と、2人でヌガーグラッセを堪能していると執務室に置かれていた時計が5時を告げる。ウチは夜勤を除き基本的には5時で業務終了。アフター5はお酒解禁の合図だ。

『……ポーラの奴、業務終了に託つけて酒を要求してきたりせんだろうな?』

「……あ、提督」

『来た!』

「な、なんだ?ポーラ」

「口直ししたいので……コーヒー、もらえます?ブラックで」

 意外っ!それはコーヒー!……なんてバカな心の声は無視しつつ。リクエスト通りにコーヒーをブラックで淹れてやる。

「はぁ……美味しいですぅ♪」

「何というか……珍しいな?」

「んぇ?何がですかぁ?」

「いや、もう5時過ぎたのにポーラが酒を飲みたいって言わないなんて」

「あ~、今日はポーラ休肝日なんですよぉ。だから今日は飲みませ~ん」

 ん?いまなんつった?休刊日?休館日?

「休館日って、どこか休みなのか?」

「違いますよぉ。お酒を飲まないで、身体を休める休肝日ですよぉ」

「な……なん、だと…………!?」

 ポーラの口からまさか、休肝日という言葉を聞くとは。酒と言えばポーラ、ポーラと言えば酒。そのくらいポーラと言えば飲兵衛のイメージを持っていたのだが。

「ポーラ、お前熱でもあんのか?」

「むぅ、幾ら提督でも怒りますよぉ~?ポーラ実はやれば出来る娘なんですよぉ?」

「いや、それにしたってよぉ……」

「えへ、実は半分位なっち~のお陰なんですよぉ」

「なっち~?って、那智の事か」

「そうで~す。おんなじ重巡で、お酒も好きだから仲良しさんなんですよ~」

「……で、那智とお前の減酒に何の関係があるんだ?」

 と尋ねると、ポーラは酒を飲んでいた時よりも真っ赤になり、

「な、内緒で~す……////」

 と言って顔を隠してしまった。こりゃ後で那智に事情聴取だな。
 
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