提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・44
~白雪:アップルクーヘン~
「悪い継母に騙され、毒りんごを食べさせられて眠ってしまった白雪姫は、王子様のキスで目を覚まし、幸せに暮らしましたとさ」
「いきなり何言ってんですか司令官」
リクエストしたケーキを食べながら、ジト目で此方を睨んでくる白雪。リクエストは『旬のりんごを使ったケーキ』……そこで俺がチョイスしたのがドイツの伝統的なりんごを使ったケーキ・アップルクーヘンだった。
「いや、だってよぉ。白雪って名前にりんごと来たら、そら誰だってイメージしちまうだろ?『白雪姫』」
「はぁ……やっぱりそうですよね、そうなっちゃいますよねぇ」
盛大な溜め息を吐く白雪。どうやら姉妹達にも同じ様なからかわれ方をしたらしい。
「お陰で寮の部屋でも好きな時にりんごが食べられないし、間宮さんの所に行ってもりんごのお菓子を頼もうとすると意識しちゃって、最悪ですよもう」
「気にしすぎだって。いちいち周りの目なんざ気にしてたら、息苦しくっていけねぇや」
「そりゃあ、司令官はそういうの気にしない質かも知れませんけど……」
「オイオイ、ひでぇ言い草だな。ところで白雪、アップルクーヘンのお味はどうだ?」
「へ?美味しいですよ、普通に」
「そうか……いや、それを聞いて一安心だ」
「?……どうかしたんですか、司令官」
「いや実はな……」
白雪からりんごのケーキ、というお題をもらって真っ先に思い浮かんだのがアップルクーヘンだった。ただ、俺も名前を聞いたり土産物として買った事はあったんだが、作った事は無かった。ただ、ドイツ生まれのお菓子らしいという事は名前の響きで解っていたんでな。試作を重ねて納得のいく物が出来た時に、ドイツ組に試食を依頼したんだが……食べる前に『こんなのはアプフェルクーヘンじゃない!』と総ツッコミを喰らってな。
「ええぇ!?何でそんな事になっちゃったんですか!?」
「あ~、それには重大な見落としがあってな。実は日本でアップルクーヘンは2種類存在するんだ。見た目も作り方も違うのに、同じ名前のお菓子がな」
「へっ?そんな事有り得るんですか」
「まぁ、その辺は魔改造大好き日本人らしいやらかしっちゃあやらかしなんだが」
ドイツ組の言うアプフェルクーヘン……伝統的なアップルクーヘンってのは、メレンゲとアーモンドの粉をベースにレーズンやクルミ、すりおろしたりんごなんかを加えた生地にスライスしたりんごを並べて焼き上げた、りんごタルトとパウンドケーキを足して2で割ったようなお菓子だった。白雪に出したのもこっちだな。
対して、元々俺が知っていたアップルクーヘンは、小ぶりのりんごを丸ごとコンポートにして、その周辺を覆うようにバウムクーヘンの生地で何層にも包んで焼き上げた、見た目はボールの様なインパクトのあるお菓子だった。青森土産に何回か貰って食べた事もあった。
「あ、りんご入りのバウムクーヘンだからアップルクーヘンって訳ですか」
「そういう事らしいな。全く紛らわしいというか何というか……」
「でも、何だか日本人ぽくて面白いじゃないですか」
白雪がその話を聞いてケラケラと笑う。どうやら、さっきまでの不満はどこかへすっ飛んでったらしい。
「さてと、まだアップルクーヘンは残ってるが……お代わりはどうだ?白雪」
「はいっ、いただきます!」
白雪は満面の笑みでそう答えた。
「そう言えば、白雪姫の物語もこのアップルクーヘンと同じドイツ生まれなんだよな」
「へぇ、そうなんですか」
白雪姫はグリム童話……ドイツの作家グリム兄弟がドイツに昔から口伝で伝わる昔話を編纂して出版した物だ。ドイツも内陸国でりんごがよく採れる土地柄だからな、白雪姫にりんごが出てくるのはその辺が関係してるんだろう。
「まぁ、今の白雪姫の話はかなりマイルドになってるんだけどな」
「え、そうなんですか?」
「あぁ、昔白雪姫の初版本を読んだ事があるが……チビッ子が聞いたらトラウマになりかねない内容だった」
「例えばどんな内容ですか?」
「そうだな……白雪、白雪姫を殺そうとするのは誰だ?」
「え、白雪姫の継母ですよね?白雪姫の美しさに嫉妬した」
「だよな。今の白雪姫だとそうなってる。だが、本来の白雪姫だと白雪姫を殺そうとするのは実母なんだよ」
「ええぇ!?実のお母さんが殺そうとするんですか!娘が美人過ぎるから!?」
「そうだ。しかも毒りんごを食べさせて殺すのも含めて合計4回、白雪姫を殺そうとするんだ」
「殺意高すぎません?」
「1度目は白雪姫が7歳の時。既に王妃を凌ぐ程の美人になっていた白雪姫を、狩人と共に森に行かせてその狩人に殺させようとした……その証拠に白雪姫の肝臓と肺を持って帰る様に言ってな」
「何でそんな物を?」
「塩茹でにして食おうとしてたらしい」
「サイコパスじゃないですか……」
「でも、狩人も白雪姫の命乞いとその美しさに殺すのが惜しくなって結局見逃して、代わりに猪の肺と肝臓を持ち帰った」
「どう見てもロリコンです。本当に(ry」
「その後、白雪姫は7人の小人に助けられて森の中で暮らし始める」
「あ、その辺は今と変わらないんですね」
「だが、所詮は世間知らずなお姫様。母親が変装した物売りを何度も家に招き入れてその度に殺されそうになるんだ。7人の小人も何度も注意するんだがな」
「えぇ……白雪姫アホ過ぎません?」
「2度目はシルクの紐で絞め殺されそうになり、3度目は毒の塗られた櫛を刺されそうになり。4度目で漸く毒りんごだ」
「自分でやらないと気が気じゃなかったんですかね?王妃は」
「さぁな。それより毒りんごだ。流石の白雪姫も何度も殺されかけて少しは学んだんだろうな、毒りんごを中々受け取ろうとしなかった」
「当たり前ですよね?それ」
「だが、王妃も間抜けじゃない。予め、りんごの半分にだけ毒を塗っておき、半分をその場で食べてみせて白雪姫を安心させて毒りんごを食べさせる事に成功した」
「おぉ!推理小説によくあるパターンですね!」
「死んでしまった白雪姫を蘇生させようと7人の小人も努力したらしいがどうにもならず、ガラスの棺に納めて保管する事にした」
「あ、その辺も今と同じなんですね」
「そして、そこに現れるのが王子様だ」
「王子様のキスで目覚めるんですよね!」
「……いや?」
「ち、違うんですか?」
「違うなぁ」
「じゃあどうなるんです!?」
「それはお前、本読んで確かめろよ」
瞬間、白雪がずっこけそうになる。だが、こういうのは全て話として聞くよりも自分の目で確かめた方が面白いんだよ。
「しかし白雪、お前ツッコミ属性だったんだな」
「そりゃあそうですよ。吹雪ちゃんをはじめウチの姉妹だけじゃなくボケ倒してる人とかぶっ飛んだ人が多すぎるんですよ、この鎮守府」
「ははは、言えてらぁ」
「一番ぶっ飛んでる人が何言ってんですか!」
「オイオイ、褒めるなよ。照れる」
「褒めてませんよ!?」
うんうん、キレのあるいいツッコミだ。
「しかし……地味だけれどツッコミとして自分の立ち位置を確立してるとか、銀○の新八ポジだな!」
「地味って言わないで下さいよ地味って!気にしてるんですから!あと眼鏡が本体じゃないですからね!?」
「お、おぅ」
というか白雪知ってんのか、○魂。恐らくは初雪か深雪辺りの影響だろうが。こんなに騒がしいオヤツの時間も珍しいが、たまには悪くねぇな。
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