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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘とスイーツと提督と・42

        ~羽黒:パウンドケーキ~

「どうだ?お味の方は」

「は、はいっ!とっても美味しいです!ただ……」

「ただ?」

「ちょ、ちょっとお酒がキツいかなって……」

「あぁそうか、そういや羽黒は下戸だったな。スマンスマン」

 今回のチケット当選者は羽黒。リクエストはパウンドケーキ、だったんだが……何とも妙な注文をされた。

「お前の姉ちゃん達は皆酒強いからな、そのつもりで作ってたわ。しかし妙な注文だな?『パウンドケーキの真ん中が食べたい』って」

「あの、私達姉妹でよくお茶会をするんです。仲の良い他の娘達も誘ったりして」

「良いじゃないか、普段からのコミュニケーションは大事だぞ?」

「それで、お茶菓子はよく姉さん達が手作りの物を持ってきてくれるんです」

「あ~、那智はともかく妙高と足柄は普通に上手いからなぁ。料理」

 最近オトコが出来た事で漸く料理を勉強し始めた那智に比べて、妙高と足柄は昔から好きで料理をしていた。その上今では2人とも人妻だ。自然と料理のスキルも上がっている事だろう。

「そうなんです!特に足柄姉さんが毎回作って持ってきてくれるパウンドケーキはもう絶品で!」

「あ~、パウンドケーキは割と作りやすいからな」

 パウンドケーキはその名前の通り、薄力粉・卵・砂糖・バターの4つの材料を1ポンドずつ使って生地を作り焼き上げる事からその名が付いている。とは言え1ポンドは約450g。4つ合わせれば約1.8kgにもなる。そんな馬鹿デカいケーキを家庭で作る、なんて事は滅多にやらないだろう。まぁ、『4つの材料を同じ量混ぜ合わせて作れるケーキ』と思っておけばいい。

「中に入っている物も毎回違って、レーズンやドライフルーツ、チョコや抹茶味なんかもあって毎回飽きないんですよ!」

「ほぉ~、そんなに美味いのか。なら、今度あいつが秘書艦の時にでも作ってきてもらうかな?」

「はい、是非オススメします!……あ、ご、ごめんなさいっ!話が脱線しちゃいました!」

「気にしてねぇから気にすんな」

 真っ赤になってワタワタする羽黒、大変可愛かった。ご馳走さまです。




「で、まだパウンドケーキの真ん中が食べたい理由を聞いてないんだが?」

「そ、そうでしたねっ!?私いつもお茶会の時はパウンドケーキの端を頂いているので……」

「たまには真ん中を食べてみたくなった、と?」

「は、はい……」

「で、どうだった?改めて聞くが真ん中の味は」

「美味しいです。けど……」

「けど?」

「やっぱり皆で食べた方が美味しく感じますね」

 そう言って羽黒は、はにかむ様に笑った。





「大体、羽黒は普段から我慢しすぎなんだよ」

「そ、そうですか……?私は出来るだけ姉さん達に迷惑をかけないようにと」

「あ~、これは4人兄弟の長男である俺の個人的な意見だ。そう思って聞いてくれよ?」

「は、はぁ」

「兄貴とか姉貴ってのはな、下の弟妹に頼られたいんだよ。あんまり頼りにされ過ぎても自立しろ!って言いたくなるが、全く頼りにされないのも寂しいモンなんだよ」

「そ、そうなんですか?」

「あくまで俺個人の意見だぞ?でも、全く頼られないと俺ってそんなに頼りないか?と悩んじまうんだよ」

 意外と面倒臭い生き物なのだ、兄貴とか姉貴というのは。

「だからな?もう少し姉ちゃん達に隙を見せて甘えてやれ。それとも、お前の姉ちゃん達はそんなに頼りないか?」

「いえ、そんな事は!でも……」

「でも?」

「妙高姉さん足柄姉さんはもう艦娘寮には居ませんし、近々那智姉さんも退寮するって」

「なにぃ!?聞いてねぇぞ俺ぁ」

「……あ!これ、まだ司令官さんには内緒なんでした!どうしましょう?」

「どうしましょう?ったってなぁ……」

 どうやら、那智の奴も例のゲロ引っ掛けた彼氏と身を固める決心がついたらしい。こりゃ青葉の記事と高雄の酒の量が増えるぞ~?って、今はそこじゃねぇな大事なのは。

「まぁ、勤務時間中の休憩時間とか、飯の時間とかでももう少し姉ちゃん達に甘えるようにしてみればいいんじゃねぇか?」

「あ、はい。それと……」

「それと?」

「あ、甘えるのは姉さん達だけじゃなくても……いい、ですよね?」

 そう言うと羽黒は向かい合わせに座っていたソファから徐に立ち上がり、顔を真っ赤にしながら俺の隣にぽすん、と収まった。勿論、俺は大歓迎だ。

「はぁ……司令官さんの近くって、色んな匂いがします」

 ゆっくりと匂いを堪能する様に深呼吸を繰り返す羽黒。

「あ?そんなに臭うか?」

 スンスンと嗅いでみるが、自覚できるような臭いは無い。普段から臭いには気を遣っているし……まさか加齢臭か!?

「い、いえ!司令官さんはクサく無いです!いい匂いがするんです!」

「なんだ……臭うって聞いて焦っちまったぜ」

「コーヒーの香ばしい香りに、煙草……でしょうか?少し煙と甘い香料の匂いがします」

「あ~、俺の吸ってる煙草は香り付きなんでな。洗っても制服に染み着いてるんだ」

 一部の嫁艦からは煙草臭いと嫌がられていたりするが、殆どの艦娘からは好意的に受け取られている。どうしてもコーヒー飲んで一服してると吸いたくなるんだよな、煙草は。

「それに、今日はお酒とケーキの匂いも混じって……複雑だけど嫌な臭いじゃないです」

「まぁ、今日のパウンドケーキっつーかブランデーケーキの匂いだろ」

 というか羽黒、お前実は匂いフェチか?

「ん?羽黒、お前もいい匂いするなぁ。シャンプー……いや、香水か?」

 密着しているせいか、羽黒からもふわりと香りが香ってくる。

「は、はい。潮風に当たってるとちょっと気になっちゃって。毎晩寝る時に付けるんです。そうすると、朝起きた時には残り香位で匂いもキツくないので」

「へぇ……でも、嗅いだ事ある匂いだな。甘い花みたいな…でも、飲み物の匂いでこんなのが……」

「ジャ、ジャスミンの香りの香水を付けてるので……って、あんまり嗅がないでください!」

 何の匂いか当てようと、嗅いでいたら顔を更に真っ赤にした羽黒に突き飛ばされた。自分からすり寄ってきたクセに、解せぬ。

「もう、恥ずかしいんですから!」

「いや、人の匂いを嗅ぎ始めたのは羽黒が先だろ?」

「そ、そうですけどっ!恥ずかしいものは恥ずかしいんです!」





「もう、知りませんっ!」

 拗ねてしまった羽黒は、テーブルの上にあったケーキを切り分けてパクパクと食べている。自棄食いという奴だろうか、食べ進めるスピードが早い。

「おい羽黒、少し落ち着けって。な?」

「知りませんっ!」

「だから、お前そのケーキは……」

「はれ……?何だか、きゅうにめまいがーー」

 羽黒の呂律が回らなくなり、フラフラしたかと思ったらケーキの取り皿を落としそうになる。寸での所で俺がキャッチしたが、ギリギリセーフってトコだな。

「だから言ったろ?このケーキ、お前には少し酒がキツすぎたって」

 ケーキを焼く時にも生地にブランデーを練り込んだが、焼き上がった後にもブランデーを振り掛けて染み込ませてある。お陰でケーキはしっとりとしていたが、下戸の羽黒にゃキツかった。というか自分でキツいって言ってたハズなんだがな。

「さぁて、どうすっかねコレ……」

 羽黒はすぅすぅと寝息を立てていて、ちょっとやそっとじゃ起きそうもない。その上両腕はしっかりと俺の首に抱き着くような形になっている。簡単には引き剥がせそうも無い。

「仕形ねぇか。よ……っと」

 俺は羽黒をお姫様だっこの形に抱き抱えて、羽黒の部屋まで送ってやる事にした。

「おっと、忘れ物忘れ物……」

 途中、俺の執務机に寄って引き出しの中にしまってあった黒い小箱を羽黒の上着ポケットにそっとしまう。実は昨日、羽黒の錬度が99になってたんだよな……本当はケーキ食べてる最中に渡そうと思ったんだが、悪い事しちまったな。

「お休み眠り姫、良い夢を」

 翌日、起きてポケットに入っていた物に気付いた羽黒が号泣し、勘違いして怒った妙高達3人の姉達に俺が襲撃されたのはまた別の話。







 
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