その日、全てが始まった
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第2章:奔走
第9話 『散りゆく想い』
前書き
第9話です。
「……え、えっとそれは、どう言う意味ですか?」
硬直していた洸夜は、なんとか言葉を紡ぎ緒方へと尋ねた。
「そのままの意味です。その演奏力なら、間違い無く芸能界でやっていけます」
緒方の答えになるほどと納得する洸夜であったが、即座に言葉を返した。
「申し訳ありませんがその話、お断りさせていただきます」
その言葉に、一同は再び驚愕した。
「その理由を聞かせてもらっても?」
「簡単な事ですよ。自分が単にやる気が無いからです」
緒方の問い掛けに洸夜はそう答えつつ、それにと言って続ける。
「そんな奴が、本当にやる気のある奴の出番を奪うなんてことになったら嫌ですし」
そう言って彼は、手にしていたギターをスタンドへと戻す。
「と言う訳です」
「そうですか……。ですが、貴方のような才能をお持ちの方を世間に広めないままでいるのはやはり勿体ないです」
洸夜の言葉に対して緒方は食い下がる。
「……そういう事は、先ほども申した通り本当にやりたいと思う奴が本当にやりたいと思う場所でやらないとですよ。現に俺のやってるギターやキーボードだって、そういう舞台じゃなくて仲間達と共に立つ舞台でやりたいですし」
洸夜は真っ直ぐと告げる。
「そうですか。残念です」
ですが、と言って緒方は続ける。
「また誘わせて貰いますよ」
「マジですか……」
その言葉を聞いた洸夜は、溜息をつくのだった。
そんな洸夜の傍ら、彩が緒方へと尋ねる。
「えっと緒方さん、何かあったんですか?」
「ああ、忘れていました。レッスンの時間になったので呼びに来たんです」
「緒方さん、彼にそのレッスンを見学してもらっても良いですか?」
彩の言葉に答えた緒方に千聖が問い掛ける。
「彼をですか?」
「ええ。ここまで案内して頂いたのだけれど、彼の予定を潰してしまいまして……その代わり、と言った感じなんですが」
「なるほど……少し待って下さい」
そう言って緒方は、部屋を出ていく。
「なんか無理な事頼ませてる気分だな……」
そう誰にとなく呟く洸夜。
そんな洸夜に千聖が声をかける。
「気にする必要はないわ。私が好きでお願いした事だから」
「……その、ありがとう。白鷺」
「千聖、で構わないわ」
「あ、ああ。分かった千聖」
洸夜は反射的に、お礼を言うのだった。
その直後、スタジオの扉が開かれる。
「許可が降りました」
扉から顔を覗かせた緒方が一同にそう告げる。
「というわけですので案内致しますので、向こうでお待ちください」
「はい」
「じゃあ、お兄ちゃん後でね」
「ん」
言葉を返した洸夜は、緒方と共に部屋を出るのだった———
日が沈みかけている時間帯。
洸夜は日菜と共に帰路に着いていた。
そんな洸夜は、徐に携帯を開く。
すると、そこには不在着信の通知が出ていた。
「おっと……?」
「ねえ?」
洸夜は折り返しで電話をしようとした時、日菜が突然洸夜へと尋ねる。
「なんだ?」
「どうだった?」
「……何がだ?」
「私達の演奏」
そうだな、と言って洸夜は口を開く。
「悪くはないんだが……何か足りない感じがしたな」
「足りない?」
首を傾げる日菜に対し、洸夜はゆっくりと頷く。
「ああ。なんだろう、その音楽に対する熱意みたいなのが足りない気がした……」
「そっか〜」
「まあ、そんなところ。あとの部分に関しては、殆ど初心者だって言うなら文句はないね」
そんな会話をしているうちに、2人は家の前に到着していた。
「「ただいま」」
中へ入った2人は、声を揃えてそう告げる。
「———こんな時間まで何してたのかしら?」
「……おま、ここで待ってたのか?」
間髪入れずに現れた紗夜に、洸夜は思わずそんなことを尋ねる。
「それはどうでもいいでしょ。で、何してたの?」
「俺は人助けを……」
「私はちょっと知り合いと……」
ふーん、と紗夜は怪訝そうに2人を見た後踵を返す。
「……早く夕飯を食べなさい。お母さんが困ってたわ」
「はいよ……」
リビングに入る紗夜の背中を見送った洸夜は、靴を脱ぐと階段へと向かう。
日菜もまた、靴を脱ぎ彼に続いて階段へと向かう。
階段を登っていると、日菜が洸夜にこんな提案をする。
「お兄ちゃん、一緒にご飯食べよ!」
「はいはい。なら、俺は少しやることがあるからちょっとしたら呼びに来てくれ」
「はーい」
自室に入った洸夜は、荷物を置くと携帯を取り出し電話をかける。
言葉を交わすと、2人は互いに自室へと入る。
「さてと……」
自室に入った洸夜は、荷物を置くと携帯を取り出し電話をかける。
数コールの後、電話が繋がる。
『……もしもし?』
「もしもし。祐治?」
洸夜が電話を掛けたのは、祐治だった。
『当たり前だ……って、電話してか理由は』
「お前から入ってた電話の折り返し」
『やっぱりか』
分かり切っていた、と言う様子で祐治は言葉を返す。
「で、何の用だ?」
『ああ。明日練習あるから来いよってことを伝えたくてな』
「OK。何時から何処?」
『9時にCiRCLEだ』
「お兄ちゃーん!」
祐治が答えた直後、部屋の外から日菜の呼ぶ声が届く。
「おっと。呼ばれてしまったみたいだ」
『早く行ってやれよ』
「ん、ああ。じゃあな」
『また明日』
そう言って通話を終えると、洸夜は部屋扉を開く。
「行く?」
「うん!」
満面の笑みで頷く日菜。
そんな彼女に対して軽く微笑み返した洸夜は、日菜と共にリビングへと向かうのだった———
翌日、CiRCLEを訪れた洸夜はBスタジオへと入る。
「……はよざいまーす」
「おはよう」
中にいたのは、祐治1人だけだった。
「1人か?」
「ああ。もう少ししたら来ると思うぞ」
「……そうか」
そう呟いた洸夜は、キーボードの用意に取り掛かる。
「よいしょっと……」
「相変わらず行動が早いな」
「癖……みたいなものなんだよ」
苦笑しながら答えた洸夜は、用意し終えたキーボードの前に立つ。
「ところで、今日は何するんだ?」
「普通に合わせて練習するつもりなんだが……」
「まだ面子が揃ってない……と?」
「そう言うことだ」
「じゃあ、軽く弾いててもいいか?」
「いいぞ」
了承を得た洸夜は、高音から低音へと鍵盤を走らせる。
「じゃあ、弾いて行きますか。なんかリクエストある?」
「そうだな……じゃあ、ベートーベンの交響曲第9番———『歓喜』で」
「OK」
そう言った洸夜は、近場にあった椅子を掴むとキーボードの前まで運び、腰を下ろす。
そして、ピアノを弾く様に演奏を始めるのだった。
その演奏に、祐治は耳を傾ける。
その傍らで、洸夜は演奏を続けていく。
「〜〜〜〜♪」
自身も体で音をとりながら、洸夜は演奏を続ける。
そして、最終小節を引き終えた洸夜は、その余韻を味わった後にそっと鍵盤から手を離す。
直後、4人分の拍手が鳴り始める。
「……え?」
予想外の状況に、洸夜は思わず顔を上げた。
「凄かったよ、氷川君」
「見事だった」
「流石だな洸夜」
「すげぇよ、ほんと」
いつの間にか揃っていたCrescendoのメンバーが、そう告げるのであった。
「あ、ありがとう」
少し恥ずかしそうにしながらも、洸夜はお礼を言うのであった。
「でも、雅人が褒めてくれるのは意外だな」
「なんだよその、俺が冷たい奴みたいな言い方は」
「そんなこと言ってないよ。寧ろ雅人は仲間思いの優しい奴だと思うが?」
「な……それは、その……ありがとう」
「「「「やっぱりツンデレじゃないか(だな)(だよね?)(だ)」」」」
「なんでそうなるんだよ!?」
雅人のツッコミに笑う一同。
そんな感じで笑った後、改まった雅人が祐治へと尋ねる。
「……コホン。で祐治、やるのか?」
「ん、ああ。勿論だ」
「……やるって、何を?」
「それはだな———」
「氷川君の歓迎会だよ」
「……かん……げいかい?」
突然の事に、洸夜は思わず首を傾げる。
「そうだ。なんだかんだでお前の歓迎会やってないからやろうって事になったんだ」
「祐治君が提案してくれたんだよね」
「おま、それ言うなって……」
「祐治が?」
「……ああ」
気恥ずかしそうに、祐治は頷く。
対して洸夜は、一同を改めて見る。
「じゃあ、今日は練習じゃなくて———」
「洸夜の歓迎会だ」
大樹がそう答える。
「え、マジで?」
「マジだ。なんだ、普通に練習の方が良かったか?」
やや皮肉気味に、雅人がそう尋ねる。
「まあ、それもあるけど———素直に嬉しい」
「なら良かったよ。と言うわけだ、改めて洸夜———ようこそCrescendoへ」
そう言って手を差し出す祐治。
洸夜は迷うことなくその手を取る。
「歓迎してくれてありがとう祐治。俺も、Crescendoのキーボードになった以上その自覚を持って取り組ませてもらう」
「ああ。頼んだぜ」
そう言って、互いに微笑む。
「改めて、宜しくね氷川君」
「宜しく頼むぞ、洸夜」
「せいぜい頑張ってくれ」
「ああ。3人も宜しくな」
「じゃ、パーっとやりますか」
祐治がそう言うと、雅人が手にしていたビニール袋を祐治に手渡す。
「ほらよ」
「ありがとう」
「それは?」
「飲み物と、菓子」
「わーお。用意周到ですね」
そう言った洸夜は苦笑する。
「今さっき3人で買ってきたんだよね」
「だから遅れたのか」
結弦の言葉に、洸夜は頷くのだった。
その横で、祐治が紙コップを取り出し全員に手渡す。
そして、その中に飲み物を注いでいく。
「じゃあ、洸夜加入を祝って乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「いきなり過ぎない?!」
突っ込みを入れながらも、洸夜は周囲と同調する。
こうして、練習と称した洸夜の歓迎会が始まった。
因みに歓迎会の後、普通にセッションもするのであった———
その後、Roseliaの練習に呼び出された洸夜はCiRCLEで待機していた。
「……洸夜?」
「あ、紗夜」
ロビーで待機していた洸夜の元に、紗夜が現れる。
「早いわね」
「先にCiRCLEにいたからな」
「そう」
そう答えた紗夜は、洸夜の前の席に座る。
そして、互いに何かすることもなく座っていると、リサが現れる。
「あ、紗夜。それに洸夜も」
「うーすっ」
「早いわね。今井さん」
「うん。長めに練習したくてね」
「なるほど。あ、取り敢えずスタジオ入るか?」
「そうね」
そう言って、3人はスタジオ内に移動する。
そして、楽器類を準備していると練習開始時間を迎える。
しかし、友希那、燐子、あこの3人が未だに到着していなかった。
「遅いな……3人とも」
「……何かあったのかな?」
洸夜の言葉に、リサが不安そうに答える。
そして、予定開始時刻の15分後に友希那がスタジオ入りした。
「ごめんなさい……遅くなってしまったわ」
「いえ。しかし湊さんが遅刻なんて珍しいですね」
そう言葉を交わす2人の横で、洸夜は何か違和感を感じていた。
「……?」
「どうかしたの?」
「いや……なんでもない」
リサに尋ねられた洸夜だったが、即座にはぐらかす。
そんな感じで友希那の到着から15分後、燐子とあこがスタジオ入りした。
「遅くなりました!」
「2人とも、遅過ぎます」
息を切らせながら入ってくる2人。
そんな2人に対して紗夜が注意する。
「……30分の遅刻よ、やる気あるの?」
「「ごめんなさいっ!」」
謝罪する2人の傍らで、リサは笑う。
「いや~珍しいこともあるもんだねっ」
「いいから早く準備してください。ロスした分を取り戻さなくては」
茶々を入れるリサの横で、紗夜が2人に指示を出す。
(友希那さん……)
(この感じだと……皆にはさっきのこと……話してない?)
「……?」
何やらソワソワしている2人に、洸夜は違和感を覚える。
(りんりん……これって———)
「……なんかあったのか?」
そんな2人を見て、洸夜は思わず呟くのだった。
「なーに辛気くさい顔していんのっ? 紗夜せんせいが怒るなんていつものことじゃーん!」
「もうっ! 今井さん!」
「紗夜、取り敢えず落ち着こう」
紗夜を制する洸夜は、流し目で2人の方を見る。
「ええ……兎に角、まじめにやってコンテストは刻一刻と近づいてるよ」
「はあ~い」
紗夜の言葉に返事を返すリサ。
「……りんりん」
「……あこちゃん」
未だに困っている2人を残し、他の3人は演奏の準備を終える。
「「…………」」
周囲がその状態になっても、2人は準備にすら取りかからなかった。
「どうしたの二人とも? ……?」
そんな2人に、リサが問い掛ける。
「やる気がないなら帰———」
「あ、あのっ! あこ……見ちゃったの!」
注意しかけた友希那を遮り、あこがそう告げた。
「……何をですか?」
「あ、あこちゃん……」
対して紗夜は、少し呆れた様子で耳を傾け、燐子は不安そうな声をあげるのだった。
「友希那さんが……スーツの女の人とホテルで……話してて……」
「……!?」
その言葉を書いた友希那は、目に見える程に驚いた。
「……それがどうしたって言うの? 湊さんにだってプライベートはあるでしょう」
「でも……」
「あこちゃん……今は練習を……」
「そ……そうだけど……でも……気になるんだもん!」
燐子に制されるあこだが、それを振り切って言葉を続ける。
「取り敢えず落ち着け。あこ———何を見たんだ?」
「コウ兄……あこにとってRoselia6人だけの……『自分だけのカッコイイ』のために頑張ってきました……」
あこは震えながらも、言葉を続ける。
「だから……コンテストに、出られないなんてぜったいイヤなんだもん!」
「……どういうこと?」
その一言に、紗夜も食いつく。
「今日……りんりんと待ち合わせしてて……そしたら……友希那さんを見かけて—————友希那さん、フェスのメインステージに出ないかって言われてて……」
その一言を聞いた洸夜は、そっと友希那の方を向く。
その傍らで、あこは続けて言う。
「Roseliaで生真面目にコンテストに、出る必要なんて無いって……!」
「……」
その言葉に、友希那は何も答えなかった。
「……宇田川さんの言い分はわかったわ。湊さん、認識に相違はないんですか?」
そう言って拳を握った紗夜は、友希那に詰め寄る。
「私達とコンテストになんか出場せずに自分1人……本番のステージに立てればいい……そういうことですか?」
「……っ!」
それでも友希那は沈黙し続ける。
「湊……本当なのか?」
「……」
何も答えずにいる友希那に、紗夜はこう告げる。
「……否定しないんですね……だったら———」
「ちょ……ちょっと待って! そう言った訳じゃないじゃん!」
リサは慌てて紗夜を止めに入る。
「友希那の言い分だってちゃんと聞こうよ! ねっ友希那!」
「……」
「沈黙って事は……肯定……か?」
黙りを貫き通す友希那に、洸夜はそう問い掛ける。
「……友希那……っ! ねぇ何か———」
「『私達なら音楽の頂点を目指せる』なんて言って……『自分達の音楽を』なんてメンバーをたきつけて……」
紗夜は言葉を続ける。
「フェスに出られればなんでも……誰でもよかった……そういうことじゃないですか」
「……あこ達、そのためだけに集められたってこと?」
紗夜の言葉に、あこが反応する。
「あこちゃん……っ! なにもそうとは……」
「あこ達の技術を認めてくれてたのも……Roseliaに全部賭けるってはなしも……みんな……フェスに出るための……?」
あこを説得する燐子。
その傍らで、あこは泣いていた。
「友希那さんひどいよ……っ!!」
「あこちゃん待って!」
「ちょっ二人とも!」
リサの制止も虚しく、2人は部屋から出て行ってしまう。
「……湊さん、私は本当にあなたの信念を尊敬していました……だからこそ私も——————とても失望したわ」
紗夜はギターケースを背負い、退出の準備をする。
「紗夜お願い! 少しは友希那の話を……」
紗夜は扉の前で立ち止まり振り返る。
「答えないことが最大の答えだわ」
「……じゃあこれから先アタシ達、どうするつもり……?」
瞳に涙浮かべたリサが、紗夜へと問い掛ける。
「あなたと湊さんは『幼なじみ』……何も変わらないでしょうね」
「そういうことじゃなくて……! 洸夜も何か言って!」
「……悪いな。こればっかりは……答えない人間を擁護する事はできない」
そう言った洸夜は俯く。
そんな彼の隣の紗夜は、扉に手をかける。
「私はまた時間を無駄にしたことで少し苛立っているの……申し訳ないけど失礼するわ。洸夜」
洸夜を呼ぶ紗夜。
しかし洸夜は、こう答える。
「悪いな。俺にはまだやることがある。先に外出ててくれ」
「紗夜……っ」
洸夜の言葉を聞くなり、紗夜は部屋を出ていく。
残されたのリサ、友希那、洸夜。
「んで、結局のところどうなんだ?」
「……」
3人だけになっても尚、友希那は口を開かない。
「友希那! ねぇ、皆んなが言う様に全部本当なの?!」
「……本当だったらなに?」
「友希那はそれでいいの? 本当はメンバーに何か言いたいことがあるんじゃ……」
直後、友希那は顔を上げた。
「……っ! ———知らないっ! 私はお父さんの為にフェスに出るの! 昔からそれだけって言ってきたでしょ!」
「友希那……」
「———それが答えか」
洸夜は言葉を溢す。
「で、お前はこの後どうする気だ?」
「……帰るわ」
洸夜の問いかけに、友希那はそう返す。
「か、帰ってどうするつもり……?」
「フェスに向けた準備をするだけよ」
「友希那!!」
それだけ言い残すと、友希那も部屋から出て行く。
「……洸夜……アタシはどうしたら良かったの……」
涙声のリサが、そう尋ねる。
「そうだな……正解なんて、今の場面は存在していなかった、とだけ伝えておく」
そう言って洸夜は、リサの横を通り過ぎる。
「上がっていいよ。片付けはやっておくから」
その言葉に頷いたリサは、ゆっくりと退出する。
その際、洸夜は彼女の瞳から雫が溢れるのを見逃さなかった。
「———想いだけじゃ、何も変えられないんだよ。何事も」
誰もいない空間の中で、洸夜はそう呟くのだった———
片付けを終えた洸夜は、CiRCLEの外へと出る。
すると、外のカフェテラスに紗夜の姿を見つける。
「……ごめん。待たせた……」
「良いのよ……」
そう言って、紗夜は立ち上がる。
2人は言葉を交わすことなく、帰路に着く。
そしてCiRCLEからある程度歩いたところで、洸夜が紗夜に問い掛ける。
「結局のところ……紗夜はどうなんだ?」
「……何が?」
「———バンドの件」
それを聞いた紗夜は、思わず前を見据えたまま尋ねる洸夜の方を向く。
「……湊さんには……失望したわ!」
「それは分かった。そうじゃなくて、お前はあの場所———Roseliaでバンドを続けたいかどうかだ」
そう言った洸夜は、Roseliaの練習を記したノートを取り出す。
「短期間とは言え、ここまで伸びるのは凄いんだがな……」
開いたノートをパッと閉じながら、洸夜は呟く。
「でも、あの人は私達のことを……洸夜を含めて道具としてしか見ていなかったじゃない」
「ああ、残念ながら。本人もそれをどことなく肯定することを発っしちまってる」
「……やっぱり」
「だが———」
そう言って、洸夜は言葉を続ける。
「あいつがあのバンド……Roseliaにかけていた情熱もまた本物だった」
俯いた洸夜は、右の平を固く握る。
「だから、俺はあのバンドを解散させたくなかった……」
「洸夜……」
「分かってる……湊の奴があの調子なんじゃ、再建は不可能だってことは」
でも、と言って洸夜は続ける。
「俺は、皆んなの意思を聞きたい。皆んながどう思っているのか」
そう言って、洸夜は立ち止まる。
「だから紗夜、答えてくれ。お前が本当はどうしたいのか」
「私は———」
後書き
今回はここまで。
次回もお楽しみに。
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