その日、全てが始まった
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第2章:奔走
第10話 『集いし想い』
前書き
第10話です。
「私は———」
そう言って、俯く紗夜。
洸夜は、次に発せられる言葉をじっと待ち続ける。
「やっぱり……すぐには出せないわ」
「……冷静に考えるとそうだな。悪い」
「謝らないで。兄さんは……悪くないから……」
「ありがとう紗夜……。取り敢えず、帰ろう」
「ええ……」
並んで歩き出す2人。
黙々と歩いていると、突如紗夜が指を絡めるようにして洸夜の手を握る。
「……紗夜?」
突然の事に、洸夜は思わず紗夜の方を見る。
そこにあったのは、俯き震える紗夜の姿だった。
「私は……やっぱり……あのメンバーで……」
そう言ったところで、紗夜の瞳からは涙が溢れる。
同時に握られていた手に込められる力が強くなる。
「私は……諦めたくない……」
直後、紗夜は洸夜の胸に顔を埋め涙を流し始める。
「紗夜……」
そんな紗夜を、洸夜はそっと抱きしめ頭を撫でる。
「……それが、紗夜の本心なんだね」
紗夜を慰める洸夜は、2度とあの様な過ちを繰り返させまい心の奥底で固く決心するのだった———
その翌日、7時45分頃に教室内に入った祐治。
普段なら誰も居ない時間だが、本日は先客がいた。
「おはよう洸夜」
「……祐治。おはよう」
「珍しいな。お前がこの時間に居るなんて」
「まあ、ね……」
祐治の言葉に歯切れ悪く答える洸夜。
その直後、教室の後方の扉が開かれる。
「祐治おはよう……って、お前もいたのかよ」
「おはよう雅人」
教室に入ってきた雅人に挨拶を返す祐治。
「あれ雅人、お前ってこのクラスなの?」
「いやいや、始業式の日に自己紹介したじゃん」
「そん時こいつ、生徒会の仕事に駆り出されてていなかったぞ」
「なん……だと……」
祐治の言葉に驚愕する雅人。
そんな雅人に対して洸夜はこう続ける。
「というか同じ学校だったんだな……」
「そうだよ……。まさか同じ空間にいるのに認識されていないとは……」
「なんか……ごめん……」
申し訳なさそうに、言葉を返す洸夜。
「その……気にするな」
「うん……ありがとう……」
雅人のことばに歯切れ悪く返答する洸夜。
そんな洸夜に、祐治が洸夜に問い掛ける。
「因み、結弦と大樹がどこの学校かは聞いてるか?」
「いや……まだ聞けてない……」
首を横に振りながら答える洸夜。
なら、と言って雅人が言葉を紡ぐ。
「教えておくが、あの2人は倉本だ」
「え、倉本って全く真逆じゃん……」
意外な事実に驚く洸夜。
それもそのはず。倉本高校は、ここ倉中第一から見ると洸夜の家を挟んで真反対に位置している。
普通に過ごしていればほぼ関わることもゼロに等しい。
「2人って、結構遠いところに通ってるんだな……」
「ああ」
洸夜の言葉に返答した祐治は、続けざまに洸夜へと問い掛ける。
「……で、大分話が逸れたが、何を悩んでたんだ?」
「実はな……」
そう切り出した洸夜は、昨日起こった出来事を2人に打ち明けた。
「なるほど……。それでどうしたらいいのか悩んでいたってわけか」
「うん……」
そう答え俯く洸夜。
「普通に1人1人に会って話すのが1番じゃないか?」
「やっぱりか……でも、それをやるとしたらバンドの練習時間が無くなっちまうんだよ」
雅人の提案にそう返す洸夜。
すると、ここまで黙って聞いていた祐治が口を開く。
「なら———そっちに専念しろ」
「な……祐治!?」
予想外の言葉に驚愕する雅人。
その傍らで、雅人同様に驚く洸夜が口を開く。
「……いいのか祐治?」
「ああ。その代わり、その問題が解決するまで練習に顔出すなよ」
「祐治……そこまで言わなくても」
「……分かった」
祐治の言葉に頷く洸夜。
「おま……正気かよ?」
「ああ。祐治、その代わり……って言ったらアレかも知れないが、練習曲の譜面とデータ送っといて。自主練しとくから」
「はいよ。いつ送ればいい?」
「今日の昼休みにでも」
「ん」
洸夜の言葉に短く返答する祐治。
対する洸夜は、机の上の物を片付け始める。
「どっかいくのか?」
「ああ。この後用事があるんでちょっくら失礼」
2人にそう告げた洸夜は、筆箱のみを掴むとそのまま教室を出て行く。
そんな洸夜を見送った直後、焦った様子で雅人が口を開く。
「お、おい……」
「どうした?」
「いいのか……アイツを練習に来させなくて? いくら自主練するたって、技術が落ちちまうだろ……?」
「なあ雅人、この学年の入学時の首席って誰だか知ってるか?」
「え、なんだよ急に?」
祐治の突然の問い掛けに戸惑う雅人。
「知ってるか?」
「いや……知らない」
「洸夜だ、って言ったら信じるか?」
「いやいや……冗談だろ?」
苦笑しながら言葉を返す雅人だが、真剣な表情のままでいる祐治を見て、先程の彼の発言が事実である事を察する。
「マジ……なのか」
「ああ。入学式の時新入生代表の言葉をやってたぞ」
「あいつそんなに頭良かったのか……」
「あいつは、様々な事に於いて才能がある人間なんだ。音楽に関しては特に」
過去を振り返る様に語る祐治。
そんな祐治に雅人はこう尋ねる。
「祐治はそれを分かっていたからあんな事を……?」
「ああ」
雅人の言葉に頷く祐治。
「というわけさ」
「なるほど」
「ああ。さて」
そう言って立ち上がる祐治。
「自販機行こうぜ。喉渇いてきた」
「ん。その代わり、なんか奢ってくれよ?」
「ま、考えとく」
「そこは素直に肯けよ」
そんな風に会話を繰り広げながら、2人も教室を後にしていくのだった———
その日の晩、暗い浴室の中で湯船に浸かる洸夜はひたすら考えていた。
「果たして……俺のやっていることは正解なのだろうか」
そんな言葉を零しながら、窓から僅かに差し込む月明かりによって照らし出された天井を眺める。
今日の昼休み、彼は燐子に『明日あこと共にCiRCLEに併設されたカフェテラスに来て欲しい』と言った趣旨のメールを送った。
だがしかし、彼は未だにそれが本当に正しかったのかが分からないままでいた。
「取り敢えず……今はできることを……だな」
自身の中の不安を振り払いそう意気込む洸夜。
その直後、風呂の温度故か急激な睡魔に襲われる。
「んん……眠い……」
そして勢いに負けた彼は、その両瞼を閉じる。
湯船から伝ってくる温もり。
それに加え、意識があるまま眠っているようなあの独特な感覚に洸夜は安らぎを感じる。
「ああ……」
そんな風に微睡んでいると、突然浴室の明かりがつけられる。
「……んん?」
何事か、と思いながら瞳を開き周囲を見渡す洸夜。
すると彼の視線が、浴室の扉の先に人影を捉える。
「……へ?」
見間違いかと思いながらも、一度瞬きし再度そちらをみる。
直後、浴室の扉が開かれ一糸纏わぬ姿の日菜が現れる。
「「あ……」」
目があった2人は、暫しの間硬直する。
硬直の後、静寂を突き破るかのように洸夜が湯船の中へと自身を沈める。
「ご、ごめんね!」
硬直が解けた日菜は、謝罪の言葉を述べると慌てて扉を閉める。
しかしながら、この時の日菜の声は水中にいた洸夜の耳には届いていなかった。
その数分後、湯船に身を沈めていた彼は浴槽から這い出て脱衣場へと向かう。
「マジかよ……」
先程のことで溜め息を吐く洸夜。
「まさか妹とはいえ……裸見る羽目になるとか……」
彼の脳裏には局部こそ湯気により映らなかったが、日菜の姿がはっきりと焼き付けられている。
それを思い出した途端、彼は壁に頭を打ち付ける。
「なに考えているんだ俺は!」
痛みの余り涙を滲ませながら額を摩る彼は、足早に着替えると脱衣所を後にする。
その後彼は逆上せてしまっていたようで、リビングに移動したところで突然倒れてしまい日菜によって部屋に運ばれるのであった———
翌日、あこと共にCiRCLEのカフェテラスを訪れる燐子。
そこには、2人をここへ呼び出した洸夜の姿が既にあった。
そんな洸夜はやってきた2人に気がつき、2人に手を振る。
「コウ兄……どうしたの?」
洸夜の向かい側に座りながら、あこは尋ねる。
「悪いな……急に呼び出したりして」
「それは……全然……」
「で、呼んだ理由だが……」
一つ目を瞑り、呼吸を整えた洸夜は再度口を開く。
「2人の……意思を聞かせて欲しい」
「あこ達の……」
「意思……」
「ああ。2人が……Roseliaを続けたいかどうか」
真っ直ぐな瞳で2人を見据える洸夜に対し、あこがすぐさま口を開く。
「あこは続けたい! だって、あのあことりんりんを含めた5人で『カッコいい』を目指すって決めたから!」
「あこちゃん……」
そう呟き俯いた燐子は、僅かの後に顔を上げる。
「わ、私も……Roseliaを……続けたいです……」
「それが……2人の意思なんだな」
洸夜の言葉に頷く2人。
それを見た洸夜は、大きく息を吐く。
「分かった。それだけわかれば十分」
「十分ってどういうこと?」
首を傾げるあこに洸夜は答える。
「俺がしっかりと動く理由ができたってこと」
「無かったら動かなかったの?」
「ああ。やるのは俺じゃなくて、5人次第なわけだからな」
そこで言葉を切った洸夜は、『で』と告げて話を進める。
「その上で、あこにこれを渡しておく」
「あこに……?」
「ああ」
そう言って、トークアプリのあことのトーク画面に1つの動画を送る。
「これは……多分……5人が進むために必要なもの。タイミングとかは全部あこに任せる」
「どうしてあこに……」
「どうしてかって?」
ニッ、と笑った洸夜はあこに告げる。
「あの時、真っ先に続けたいって言ったのは紛れもなくあこだからだよ。だからこうして、あこに頼んでるんだ。やってくれるか?」
少し考え込んだ後、顔をあげたあこは頷く。
「うん。わかった」
「宜しくな。燐子、あこを手伝ってあげて」
「はい……!」
そう告げて、席を立つ洸夜。
「この後、まだ用事があるから失礼するよ」
そう言い残し、洸夜はその場を後にする。
「さて……帰って考えるか……」
この後の動きをどうするかを家に戻り考えることにした洸夜。
そう思い踵を返した瞬間だった。
「「……あ」」
リサと鉢合わせるのだった———
場所は変わってファーストフード店。
そこには、同じ席に座る洸夜とリサの姿があった。
だが、何か話すと言ったこともなく、お互いに無言のままである。
そんな空気を打ち壊すかのように、洸夜が口を開く。
「その……なんか買ってくるわ」
「う、うん……」
そう言って席を立った洸夜は、俯いたままレジへと向かう。
「こちらどうぞ〜」
店員に呼ばれレジへと向かう。
「いらっしゃいませ……あ」
店員の言動に疑問を覚えた彼は、即座に顔を上げる。
「日菜ちゃんの……お兄さんの……洸夜君だよね?」
「えっと君は確か……丸山……だったっけ?」
レジにいたのは、日菜の所属するPastel*Palettesのボーカル担当である彩。
「うん。こんなところで奇遇だね」
「あ、ああ……丸山はバイト?」
「そうだよ。後、私の事は『彩』で構わないよ〜」
「お、おう……わかったよ彩」
「ありがとう! それで、ご注文は?」
「あ、え、あー……ポテトのLサイズ2つで」
しどろもどろになりながらも注文した洸夜は、代金を払う。
「出来上がるまで少々お待ち下さい」
こくりと頷いた洸夜は、レジを離れ近くの壁に寄りかかる。
「さて……どうしたものかね……」
呟いた彼は、大きく溜息を吐く。
そんな調子でいること数分後。
「お待たせしましたー!」
受け取り口で、ポテトの乗ったトレーを持った彩が洸夜を呼ぶ。
「ありがとう」
トレーを受け取った洸夜は彩にお礼を言い、席へと戻る。
「お待たせ」
トレイをテーブルの上に置いた洸夜は、再びリサの向かい側に腰掛ける。
「何頼んできたの……?」
「ポテトのLサイズを2つ」
答えた洸夜は、改まってリサの方へと向き直る。
「で……いきなりで申し訳ないけど、リサはどうしたい?」
「え、どういうこと?」
「……悪い、主語が飛んだ。Roseliaのことでリサはどうしたいか教えてくれ」
洸夜の言葉を聞いたリサは俯く。
そんなリサを洸夜はただただ見つめていたが、そっと言葉を紡ぐ。
「今すぐに……とは言わない。自分の意思が固まってから———」
「……たい」
「……え?」
「私は……Roseliaで……あの4人と……続けたい!」
真っ直ぐな視線で洸夜を見つめながら、リサはそう答える。
「嘘偽りは、無いな?」
「うん」
洸夜の問い掛けに、ゆっくりと頷くリサ。
それを見た洸夜は、微笑む。
「良かった。リサも続けたいと思ってくれてて」
「つまり洸夜も……?」
「ああ。俺は、リサ達5人が奏でる“音”が好きだからな。だからこそ、Roseliaにはバラバラになって欲しくない」
「洸夜……」
「そして何よりも……俺みたいに……なって欲しくない……」
そう告げた洸夜は俯く。
そんな洸夜に、リサが問い掛ける。
「洸夜みたいに……?」
「……うん。俺みたいに、夢を諦めて欲しくないんだ。Roseliaとしての“夢”を」
「Roseliaの……の夢……」
繰り返すように呟くリサの言葉に頷く洸夜。
「高み……『FWF』という舞台に立つ。俺は5人のその夢を本気で応援したいと思った。だから、コーチの件も引き受けた」
でも、と言って洸夜は続ける。
「俺は夢を見ることを諦めた。だから、Roseliaの夢に自分の夢を託してる部分もあるかもしれない。でも、これだけははっきりと言える。夢を諦めたものなりに夢を叶える手伝いをしたい。これだけは、紛れもない本音だ」
そう言い切った後、要するにと補足する。
「一緒に、あの舞台に行きたいんだ」
「ねぇ、洸夜」
補足した直後、リサに呼ばれる洸夜。
「なに?」
「友希那と、話してくれない?」
「湊……と?」
「うん……もちろん、私も一緒に行くよ?」
「お、おう。でも、なんで俺なんだ?」
洸夜の問いかけに、『それは……』と言ってリサは答える。
「今バラバラになったRoseliaをまとめ直せるのは友希那しかいない。そして、今の友希那と話せるのは洸夜しかいないよ」
「俺が……?」
意外な言葉に驚く洸夜。
そんな彼に対して、リサは頷く。
「うん……だから、友希那がどうしたいのかを洸夜に聞いて欲しいの」
「そう言うことか……分かった」
「ありがとう」
「良いって事。それに……湊ともいずれ話さないととは思ってたしな」
「そうなの?」
「うん……っと、ポテトが冷めそう」
呟いた洸夜は、ポテトに手を伸ばす。
「あ……リサも食べる?」
「いいの?」
「ああ。俺の奢り」
「それじゃあ、遠慮なく☆」
普段と同じ調子に戻ったリサは、トレーの上に乗っているポテトを手に取り口へと運ぶ。
「奢りとは言ったけど程々にしてよ……」
「えー、どうしようかな」
そんな具合の会話をしながら、2人はポテトを食べ進めて行くのだった———
ポテトを食べ終えファーストフード店を後にした2人は、帰路に着いていた。
既に日は傾き始め、空は茜色に染まりつつある。
「取り敢えず……どうやって湊にコンタクトするかが問題だな」
「だね……」
友希那と話すためにはどうしたら良いかを相談する2人。
だがしかし、これと言っていい案が浮かばないままであった。
「まあ、今はどうこうならないだろうから家帰ってからもう1回考えてみるわ……あ」
「ん? どうかし……友希那?!」
2人は友希那と鉢合わせる。
そのことに唖然とする洸夜だったが、すぐ我に帰り口を開く。
「湊……」
「……ッ」
洸夜が声をかけた瞬間、友希那は踵を返し逃げ出す。
「あ、おい!」
「友希那!」
リサと洸夜は、遠ざかる友希那のの背を追いかけ走り出す。
そんな2人は、住宅街を走り抜け大通に出る。
「湊……は……?」
息を切らしながら、洸夜は周囲を見渡す。
「洸夜……あそこ……」
リサの指差す先には、走る友希那の姿があった。
再び2人は友希那を追いかける。
そして、大きめの横断歩道を渡る友希那。
それに続いて渡ろうとする2人であったが、信号が赤に変わってしまい渡ることができなかった。
「ヤバイ……日が落ち切る……」
荒い息を整えながら、呟やく洸夜。
その数秒後、リサの方に向き直った洸夜はこう告げる。
「リサ、先に帰ってくれ」
「え……なんで?」
「これ以上暗くなると危ない……」
洸夜の言う通り、既に陽は沈んでおりあたりは暗くなっていた。
「でも……」
「———リサは、友希那と幼馴染みだったよね?」
「え、そうだけど……」
突然の言葉に戸惑うリサ。
それを理解しながら、洸夜は続ける。
「なら、家で待っていてあげて。友希那が戻るのを」
「でも……」
「もし、危険な目にあったりしてバンド続けられなくなったら元も子もないだろ? だから、家で待ってて欲しいんだ。必ず、湊とは話をつけて来る」
「本当に……?」
「ああ」
リサの目を見ながら頷く洸夜。
それを見たリサが口を開く。
「気をつけてね」
「うん」
返答した洸夜は、踵を返す。
それと同時に信号が変わったため、走って横断歩道を渡っていく。
そして横断歩道を渡り、しばらく進んだところで足を止める洸夜。
そんな彼の視線の先には、十字路が待ち構えている。
「どこに……行ったんだ……」
友希那がどの方向に進んでいったのかを考えながら呟く洸夜。
「早く見つけねぇと……」
自身の焦る気持ちを抑えながら、彼は目を瞑る。
そして、逃げるように走る人間———友希那の行動について深く考える。
「今のあいつなら……恐らくだが……」
目処を付けた洸夜は、正面の道へと踏み出す。
「変なことに……巻き込まれないでくれよ……」
本音を零しながら、走り出す洸夜。
そんな感じです正面の道をしばらく進んだ時、彼の視線はとある場所に止まる。
「公園……?」
普段ならば絶対に気にならないであるはずだが、その時の洸夜は何故だかその公園がとても気になっていた。
「なんでこんなに気になるんだ……まさか?」
何かあるに違いない。
そう確信した洸夜は、公園の中に入る。
辺りを見渡しながら公園の並木道を歩く洸夜だが、不意に足を止める。
「そっちか……?」
呟くと道を外れ、茂みの中へと踏み込んでいく。
そして、茂みを抜けた先で洸夜は友希那を見つける。
「湊……」
木の根本に蹲る友希那に声をかける洸夜。
だが、友希那からの返答はない。
「湊、教えてくれ……」
片膝立ちになりながら友希那へと問い掛ける洸夜。
「お前が……どうしたいのか……」
「決まってるじゃない……どんな事しても……『FWF』に出ることよ!」
「……だろうな」
答えた友希那に分かり切っている、と言った具合に答える洸夜。
「じゃあ……なんで聞いたのよ……!」
「お前の……本当の思いかどうかを確かめるためだよ」
そう言って背を向ける洸夜。
「でも……今のはお前の本当の気持ちじゃない」
「私の……本心じゃない?」
「そうだ」
友希那の言葉に頷く洸夜。
そんな洸夜に、友希那は噛みつく。
「貴方に……何がわかるのよ……」
「正直なところ分からない。ただ、目の前の物事から背を向けて逃げようとしてるのはわかる」
そう言った洸夜は、友希那の方へと振り向く。
「だから教えてくれ———湊の……いや、友希那の本当の気持ちを」
登り始めた月を背に、洸夜はそう告げるのだった。
後書き
今回はここまで。
次回もお楽しみに。
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