なんかポケモンの世界に転生したっぽいんだけど質問ある?
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トレーナー とうろくを しよう!
「あ、ようやく来た。遅いぞキョウヘイ!」
「悪い悪い、荷造りに手間取っちゃってさ」
家を出て道路標識の通りに進むと、1番道路入口と書かれた看板の下で3人が待ち構えていた。
「ほら、さっさと行きましょ?陽が暮れちゃうわよ」
ブルーがすたすたと歩き始め、慌ててそのケツを追いかける男3人。いやぁ、俺前世ではロリコンの気は無かったんだけど、ブルーさんは可愛いと思う。出来たらお付き合いなんて出来ると……なんて考えながら歩いていると、
「ちょっとキョウヘイ!何ニヤついてんのよ」
「ファっ!?べべべ、べっつにぃ?」
視線を気取られたのか、ブルーさんがジト目で睨んでくる。
「気を抜くなよ?2人共。もうどこから野生のポケモンが襲ってきてもおかしくないんだぞ?」
と、真面目な顔で注意を促してくるグリーン。ゲームとリアルが違うのは当然の話だが、ゲームでのマサラタウンとトキワシティを繋ぐ1番道路は、ほとんど草むらとちょっとした段差があるだけの開けた道路だった。しかし現実では道の両サイドは鬱蒼とした森が拡がっており、奥の方からはポケモンの鳴き声であろう生き物の鳴き声が断続的に響いてくる。並木道というより、森を切り開いて作られた道、といった風情だ。当然の如く、舗装はされていない。というかゲームでも道が舗装されていたのなんてカントーだとマップ全体の2割にも満たないんじゃないだろうか?ゲーム的にはポケモンを出現させるための草むらを増やすための措置なんだろうけど、リアルになってもここはポケモンの世界。自然との調和を大事にするってのが基本スタンスらしい。車もほとんど見たこと無いし、あってもゴッツいRV車とかトラック的なのばっかりだった。そもそも、野生のポケモンに荒らされるから道路工事とか無意味らしい。せいぜい地面を踏み固めて道路っぽい体裁を整えるってのが、この世界の道路工事なんだとか。
「いやぁ、悪い悪い。親と一緒にじゃないと街の外に出るなんて事は無いからテンション上がっちゃってさぁ」
「どうせキョウスケは私のおっぱいとかお尻見てニヤついてたんでしょ?キョウスケのエッチ!スケベ!変態!!」
「だからお前ら……静かに………」
「ん」
騒がしいのを嫌ったのか、レッドさんがスタスタと歩き出す。
「あぁコラ紅、一人で先行くなって!」
グリーンさんの胃壁と毛根へのダメージパねぇ。マイペースなレッド、勝ち気なブルー、そしてツッコミ役兼常識人枠のグリーン。頑張れグリーン、超頑張れ。将来ハゲるかも知れんけど。俺は心の中でグリーンにエールを送りつつ、3人の後を追う。
隣街であるトキワシティまでの道程は、概ね順調だった。叢とか木立の中からは確かに生き物の、ポケモンの気配がする。そりゃもうビンビンに感じる。でも俺達に襲い掛かって来ることはない。俺達人間が野生のポケモンを警戒しているように、ポケモンも人間を警戒しているからだ。せいぜい、警戒心の薄い生まれたて(Lvの低い)の奴か、気性の粗い奴にさえ気を付けて置けばそこまで危なくも無いだろう。
「案外アッサリ着いちゃったわね」
「ん」
「とりあえずさっさとトレーナー登録しに行くぞ。そうしないとリーグにも出られんからな」
そうだよ、ポケモンバトルの頂点・ポケモンリーグ。ゲーム『ポケットモンスター』のシナリオの終着点とも言える場所。ポケモンを闘わせるのが大好きで大好きで大好きな負けず嫌いの変態共の集まる戦場。画面越しでしか味わえなかったあの空気を、俺はリアルに感じられる世界に立って居るんだと改めて感じたら、感動と興奮でウッカリチビりそうになっちまったぜ。外側は10歳とは言え中身は30過ぎのオッサン、流石にチビるのは勘弁だ。
「早く来いよキョウヘイ!置いてくぞ~!」
「あ、コラ待てや!」
マサラタウンよりかは都会っぽい街中を歩いていくと、前世の免許センターみたいな建物に体育館らしき物がくっついた施設があった。
「ここがトレーナーセンター、ポケモントレーナーの資格登録とポケモンについての講習をやってる場所だ」
「詳しいな緑郎」
「本名で呼ぶんじゃねぇよキョウヘイ。ま、俺のもおじいちゃんの受け売りだけどな」
なんだよ、オーキド博士の受け売りか。なら詳しいわな。
「さっさと行きましょ?」
「うし、行くか」
ドキドキしながら4人でトレーナーセンターのドアをくぐった。
「トレーナーセンターへようこそ!本日はどの様なご用件ですか?」
「トレーナー登録です」
「ではこちらの登録用紙に記入を。皆さん身分証明書は持っていますか?」
「いえ、全員10歳になったばかりなので」
「では、お名前と住所の欄にも間違えない様に記入してください」
受付のお姉さんとやり取りをしているのはグリーンだ。どういう手続きが必要なのか聞いてるんだろうから、ここは任せた方が無難だろう。……にしてもすげぇシステマチックだ、本当に前世の免許センターみてぇ。
「……はい、生年月日と住所の確認が取れました。トレーナー名はどうしますか?」
「トレーナー名?」
「ポケモントレーナーとしての名前です。本名をそのまま使われる方もいますが、中には自分で考えたトレーナー名を使う人もおられます」
ほーん、リングネームとかペンネームみたいなもんか。
「お前らどうするー?」
「俺様は『グリーン』だな。流石に呼び出しで本名呼ばれるのはキツい」
「私も『ブルー』にするわ。そっちの方がカッコいいもの!」
「……………『レッド』」
「んじゃ俺もーー」
「「「キョウヘイはキョウヘイだろ」」」
なんでやっ!?
トレーナー資格の証明カードの発行には暫くかかるらしく、待合室で待たされる。ボケ~っとテレビを眺めていたが、次第に俺はその映像に飲まれていく。そこに映っていたのはグリーン曰く、昨年のポケモンリーグ決勝戦。対戦カードはディフェンディングチャンピオンの『司霊のキクコ』VS新進気鋭のトレーナー『ドラゴン使いのワタル』。そう、初代ポケモンをプレイしていた人にはお馴染みの四天王の2人が優勝を争って激突していたのだ。
「あ~、去年の決勝ね。ワタルさんが新チャンピオンになった奴」
おいおいおいブルーさんや、どうして人が結果を知らずに楽しんどる所に結果をバラしやがりますかこの野郎!?
「だって去年一緒に見たじゃない、生中継で」
「あ、そ~だっけ?忘れちったよ俺」
「全く、どうすりゃあんな白熱した決勝を忘れられるんだか……」
呆れた様に語るグリーンと隣で頷くレッド。どうやら4人で観たらしい。それも生で。
『俺も生で観たかったっ…………!』
ガチで凹みつつもそのバトルを観ている内に、違和感を感じ始める俺。確かにバトルは大迫力でどれだか観ていても飽きない。でも、『それだけ』だ。良くも悪くも力と力のぶつかり合いで、迫力はあるが『それだけ』なのだ。
「…………違う」
思わず口からボソリと溢れる。俺の求める『ポケモンバトル』ってのはこうじゃない。確かにポケモンを強く鍛え上げるのは大前提だ、基本のキだ。でもそこからトレーナー同士の戦略の組み立てや、ヒリ付くようなお互いの思考の読み合いや技の構成、持たせる道具や特性による戦術。それらが合わさってポケモンバトルは成り立っている。だが、これじゃあただの力任せな殴り合いだ。場末のヤンキー同士の喧嘩と大差ない。俺はあのプロスポーツに負けるとも劣らない様な、楽しいバトルがしたいんだ。
「…………決めた」
「何を?」
「俺、チャンピオンになるわ」
「はぁ?」
「俺、ポケモンリーグのチャンピオンになるわ」
「また始まったよ、『クレイジーキョウヘイ』のとんでも発言」
グリーンがやれやれだぜ、って呆れてるが構うもんか。俺がチャンピオンになって、この世界に『本当のポケモンバトル』を教えてやる!
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