曇天に哭く修羅
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第一部
札を切る
前書き
_〆(。。)
【音隼/双式】で背中から金色の魔晄粒子を翼のように噴出。
《立華紫闇》は相手と自分が閉じ込められている結界の壁を足場の代わりにして天井に飛ぶと今度は天井を蹴り違う位置に下りた。
手を離れたボールのようにランダムで跳ねる動きで結界の内部を縦横無尽に巡りながら高速でフェイントを仕掛けることで反応を伺う。
「対処としては正しいのだろうな」
翔は紫闇が考えるより速く消えると何時の間にか紫闇の前に現れ左腕を奔らせていた。
「!?」
天井へ逃げる紫闇を翔が追う。
(またジャブだと思ったのに……!)
当てて直ぐに引く牽制のような撃ではない。
翔は紫闇の肘をエルボーのように下に曲げ、ニーキックのように膝を上に曲げて噛み合うように作られたガードを勢い良く弾き飛ばす左のボディーブローで胴体を突く。
拳が紫闇の体に触れた状態で自分の体を回し引っ掛けたまま勢いを付けた。
(またかよこん畜生!)
触れたところから魔晄が侵入して体調を崩した紫闇は天井付近から地上に投げ落とされる。
床は砕け砂煙が上がった。
魔晄防壁を張っていなければ立てなかったかもしれないと冷や汗をかく紫闇はゆっくりと起き上がって動く為の態勢を整える。
「立ったか。なら続きだ」
振り下ろされる左拳を皮一枚で避けるが休ませることの無い切り裂くような連続ジャブが紫闇の魔晄防壁をひたすら刻む。
翔のジャブは素の状態でも人間の肌を切るくらいわけが無い鋭さなので、今の切れ味なら並みの防壁くらい魔術師ごと殺傷する切断力。
「なん……つー速さ……だ!」
紫闇には見えない。
【打心終天】を修得する際に覚えた『瞬間思考』と研ぎ澄まされた『反射神経』に音隼/双式が有ることで何とか対応しているが、ひたすら躱すだけしか出来ていなかった。
翔は気にせず攻める。
また速くなったかもしれない。
(違うな)
(あれは錯覚だね)
観客席から眺める《永遠レイア》と《黒鋼焔/くろがねほむら》は翔と紫闇の間に何が起きているのかを掴み取っていた。
「速さは変わっとらん」
「立華紫闇の動作や心理を分析していたのだ。この状況になる前に」
《黒鋼弥以覇》や《江神全司》も見抜く。
翔は紫闇に合わせて対応し、攻撃の角度やパターンを最適にすることで実際よりも速く見せているのだがそれは証明でもある。
「素の力。基本スペックが違う」
「ポテンシャルの差が開きすぎだ」
「しかもまともにやっとらんじゃろ」
「我が孫の春斗より上やもしれんな」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
紫闇はわざと攻撃を受けた。
そして後ろへ跳ぶ。
彼が着地すると翔は既に目前まで踏み込みながらジャブを放っている最中。
だが紫闇は慌てない。
足に魔晄を集め【禍孔雀】を発動。
直線のジャブに合わせた後ろ回し蹴り。
が、翔はバックステップしながら左腕を引き、カウンターの後ろ回し蹴りを回避。
着地直後に紫闇の正面から外れ横へ跳ぶ。
空振りした紫闇の足が床へ落ちると通常の禍孔雀と同じで爆発が起きた。
黄金の魔晄粒子が結界内に飛散。
爆煙と輝きが立ち込め視界を防ぐ。
(無駄なことを)
翔の全身から魔晄が噴射され煙が晴れる。
上空からは音隼/双式の推進力で急速降下してくる紫闇が足刀を放っていた。
当然のように反応した翔は迎撃の左。
足刀とジャブが衝突する直前。
(あんがとよ。反応してくれて)
不敵な笑みの紫闇は『それ』を出す。
【盾梟/丸魔】と音隼/双式。
二つの同時発動。
盾梟に強化された魔晄防壁が球状に。
翔の左が防壁に激突。
その隙に紫闇は音隼の空中移動。
両足が開きシザースロー(蟹挟み)へ。
翔の腰辺りを挟んだ紫闇は体を捻って無理やり彼を引き倒そうとする。
しかし大木のように動かない。
地面に根を張っているようだ。
紫闇は冷や汗を掻く。
「成る程な」
翔は自分に【夏期龍帝祭】への出場を依頼した生徒会長の《島崎向子》から聞いていた。
【黒鋼流】の技[三羽鳥]
音隼・盾梟・禍孔雀の三つ。
これらは同時に出来ない技だと。
「お前は特別なのか立華」
翔は笑みを浮かべ問うが紫闇は青ざめた顔で蟹挟みを極めたまま固まる。
「……そうだ。一羽が羽撃く時に他の二羽は翼を広げられない。黒鋼流では常識だよ。俺は三羽とも飛ばせるけどな……」
しかし切り札とも言える秘密を明かしたにも関わらず紫闇は寝技に入れない。
《江神春斗》へ用意していた対策は翔のフィジカルによって破られた。
「今は弱いが確信した。立華は強くなる。だからもう暫く付き合わせてくれ。成長する為の糧となろう。それを以て江神に挑んでみろ。俺に勝てたらの話だけどな」
翔は魔晄で強化された単純な筋力で紫闇の拘束を外し互いの体術が届かぬ位置へ。
そこで第1ラウンドが終了した。
後書き
原作でも焔や弥以覇は三羽鳥を同時に使うことが出来ない設定です。
ここの焔は特殊ですが。
_〆(。。)
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