ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!
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第百三十二話 決戦!!ヴァーミリオン星域会戦です その5
「いい気味ですわね、バーバラ。最後のあがきを見せてもらいますわよ・・・・」
カトレーナが嫣然と微笑む。彼女はアンジェの旗艦に搭乗して戦況を見守っていた。嫌な奴だと内心アンジェは思っていた。シャロンが監視につけたのか、はたまたカトレーナの独断か。いずれにしても気分の良いものではない。
アンジェは目の前の戦況に目を移した。前方の敵は次々と減っていくが、まだ抵抗をやめない。
「最後のあがきだといいのだけれど」
アンジェが前方をにらんだまま、腕組みを解かない。その予感は、的中した。自由惑星同盟艦艇が一部帝国軍に加勢するかのようにこちらに砲撃を仕掛けてきたのだ。例のウランフ、ビュコック、クブルスリ―3提督に違いない。
アンジェは舌打ちし、フォーメーションをチェンジしてこれらに対応した。敵もこちらも4万隻程度と戦力が一気に拮抗した。
「・・・・・・・・?」
「どうかしましたの?アンジェ」
「いえ、閣下が最後の仕上げに入ったのだと思って。少し艦隊の位置をずらすことにするわ」
カトレーナが微笑を浮かべた。それを見たアンジェはなぜか気分がいらだつのを感じた。
* * * * *
「ラインハルト・フォン・ローエングラム・・・・」
ティファニーは自艦隊の旗艦艦橋にあってその名前をつぶやいていた。彼女の統率する艦艇総数15,000余隻。しかも今まで戦線に参加していない無傷新鋭の艦艇群であり、さらにティファニー指揮下の将兵たちはシャロンのオーラの影響を受けていない。
というよりも、彼女自身が気力を振り絞ってオーラを断ち切ったのである。今までの死闘が彼女を弱らせていた。
しかし、ここで休んでいるわけにはいかない。
「副官、全艦隊に通信を解放して」
一筋の汗を拭うと、ティファニーは通信機器を手に取った。気を利かせた副官が飲み物を持ってくる。彼女はそれを一息に飲み干して短く礼を言った。
ティファニーは眼を閉じ、短く息を吸うと、落ち着いた声で、平板に、そして一気に話し出した。
「全艦隊に告ぐ。今目の前で起こっている光景は、決して自由惑星同盟軍の、そして自由惑星同盟市民の総意ではない。その真意はただ一人、シャロン・イーリス最高評議会議長の私怨によるものである。まさに、銀河帝国のルドルフ・フォン・ゴールデンバウムと同等それ以上の悪行に他ならない。これより我が艦隊はシャロン・イーリス最高評議会議長と決別し、自由惑星同盟の一員・・・・いや、銀河に生きる人類としての責務を果たす。銀河帝国と共同戦線をはり、もってシャロン・イーリスを追い落とす。異論があるものは離脱してもらって構わない。私はそれを追いはしない」
ティファニーは眼前のクルーたちを見まわした。オーラの影響を脱した瞬間、彼らは目の前の光景を信じられない様子で血の気の引いた表情で見つめていた。けれど――。
ティファニーは5分間まった。
誰一人として逃げるものも、異論を唱えるものも、存在しなかった。
短くうなずいた彼女は号令をかける。
「全艦隊、撤退中の銀河帝国軍を攻撃中の敵艦隊に向けて、主砲斉射!!」
* * * * *
バーバラの旗艦はティルヴィングという。滑らかな流線形をしたこの艦はニュルンベルク級の流れを汲みつつも、装甲は厚い。
けれど、度重なる戦闘で、限界に達しつつあった。
「直撃、来ます!!」
バーバラはオーラを展開させて、致命傷となる砲撃を防いでいた。戦艦級の砲撃程度ならば、彼女のオーラで充分に対抗可能である。さすがに艦隊全体を覆いつくすほどのオーラを展開しつづければ体力が持たない。だからこそ彼女は最小限度のオーラを瞬間展開させることを繰り返し、できるだけ被害を少なくさせ続けていた。
「フィオーナ艦隊の位置は?」
「既にミュラー艦隊と合流し、敵と交戦状態に入りました!」
「これで・・・私の役割は終わった。後は合流するために生き残ろう」
一人つぶやいたバーバラは、周りを見まわした。ずいぶん減ってしまっている。自分の艦隊だけで何十万という将兵が犠牲になった。じゃあ、全体的には――。
バーバラは首を振った。こんなところでこんなことを考えていても仕方がない。まずは生き残ることだ。すべてはそれからなのだ。
「し、信じられない!!自由惑星同盟艦艇が、自由惑星同盟艦艇を攻撃してきています!!」
オペレーターが絶叫する。バーバラはディスプレイを見た。自由惑星同盟艦艇3個艦隊が自分と敵との間に割り込んで、攻撃を仕掛けている。
さらに、遥か後方、すなわりイゼルローン要塞方面では、自由惑星同盟艦艇群2個艦隊が押し寄せる同軍に対して主砲斉射を行い、一斉突撃を行っていた。
さらに、やや遅れてローエングラム本隊の下方においても、新たに出現した自由惑星同盟艦艇1個艦隊が帝国軍本隊を支援をする体制に入ったのだ。
「どういうこと?まさか、ヤン・ウェンリーが・・・・」
「我が軍と敵軍との間に割り込んだ3個艦隊のうち、1個艦隊旗艦から通信が入っています!!」
「つなげて!!」
ディスプレイ上に映ったのは、3提督である。
『自由惑星同盟・・・いや、旧自由惑星同盟所属のウランフだ。そしてビュコック、クブルスリ―である』
「・・・・・・・」
『先ほどまで交戦していた我々がどうして、と思うかもしれんが、今はこの戦いを乗り切ることを目的としよう。手を貸す』
「あ、ありがとうございます・・・・・」
バーバラは信じられない思いだった。自由惑星同盟の人間たちはシャロンの洗脳にすべてかかっているものだと思っていたが、どういうわけかそうではないらしい。
『ここは我々が引き受ける。貴官は速やかに後退し、帝国軍に合流されたい』
「駄目です!!あなた方にだけ負担をかけるなんて!私はそんな卑怯者にはなりたくはない!」
『卑怯者かどうかはわからんが、少なくとも選手交代の時期であると儂は思うがね、お嬢さん。どう見てもそのボロボロな状態では満足な戦いもできん。まぁここは儂らに任せて、いったん引いた方が良いと思うが。引くことを覚えるのも指揮官の務めではないかな?』
「・・・・・・・・・」
『我々の事は気にするな、貴官は貴官の職責を全うするのだ』
うなだれていたバーバラは決断した。敬礼をささげると、3提督は敬礼を返してきた。
「私、思い違いをしていたかな・・・・・全艦隊、急速後退!!!」
後退速度を上げるべく、バーバラは指示したその時――。
「前方のアーレ・ハイネセンから急速なエネルギー反応が・・・・きゃあっ!!」
女性オペレーターの悲鳴が上がった。アラームが鳴り響き、測定不能のエラーが出てきたのだ。
時空帯が歪んでいるとバーバラは思った。こんなとてつもないエネルギーを発射できるのは――。
「全艦隊、射線上から、回避!!!」
「間に合いません!!」
「・・・・・・・っ!!」
バーバラは一瞬祈るように両手を組み合わせると、最大出力で自分のオーラを解放した。
* * * * *
アーレ・ハイネセンの要塞の北極点上にシャロンは佇んでいる。その手にはかつてフェザーンを塵に変えたあのオーラが纏われている。
「自由惑星同盟からいくつかが離反したか・・・・けれど、そんなものは些末時にすぎないわ」
シャロンは微笑を浮かべる。今までの戦いはすべてシャロンが楽しむためのものだった。敵味方がいくら死のうが知ったことではない。
その気になれば瞬間転移して、ラインハルトらを瞬く間に殺すこともできるのだから。
けれど、シャロンは止めを刺す方法としてこの方法を選んだ。かつて惑星フェザーンを木端微塵に粉砕したあの方法を。
「まずは・・・・一撃目ね」
無造作にエネルギーを解放した。赤黒いエネルギーはらせん状の渦を纏いながら、一直線に突進した。敵味方を薙ぎ払い、ローエングラム本隊に到達する。無数の点の中に大きな穴ができた。
「続いて・・・二撃目」
先ほどの攻撃よりも大きなオーラが到達し、数千の艦艇が粉みじんになる。
「最後・・・・・三撃目」
シャロンのオーラはそれまでとはけた違いになった。上空に手をかざすと、アーレ・ハイネセンの数十倍に匹敵する大きさの巨大な禍々しい赤色の球体が出現する。それだけの質量が急に出現すれば周りに干渉しないはずはないが、シャロンはその干渉波を別空間に意図的に逃がす作業を並行的にやってのけていた。
「では、御機嫌よう。イルーナ、フィオーナ、ティアナ、アレーナ、そしてラインハルト、キルヒアイス。私の名前をその魂に刻み付けながら、地獄の底で未来永劫苦しむがいい」
* * * * *
「後方より、エネルギー急速上昇反応!!!」
「何?」
ラインハルトは振り返った。漆黒の球体、アーレ・ハイネセンの頭上に禍々しい塊がある。
「全転生者たちに告げる!!オーラを全開に展開!!ブリュンヒルトを守れ!!!」
イルーナが叫んだ。今はこの意味をくみ取ろうとする人間はラインハルトを除いていない。それだけ皆必死だったのだ。
「ロ、ロイエンタール艦隊旗艦トリスタン撃破されました!!」
またしても衝撃の報告が飛び込んでくる。右翼を守っていたロイエンタール艦隊の旗艦は敵の無数の波状攻撃を受け、最後は体当たりを受け、爆散したという。
「ロイエンタールはどうしたか!?」
「脱出したシャトルの確認はできません!!」
ラインハルトは一瞬アイスブルーの瞳を見開いた。だが、この状況下ではどうしようもできない。
ズシィィィン!!
旗艦が震動し、皆がはね飛ばされるのをこらえた。第一撃が来たのだ。球体上部、ちょうどケンプ艦隊が位置していた部分を敵の砲撃がすり抜けていった。
「第二撃、来ます!!」
今度は、下部、ビッテンフェルト艦隊が位置していた部分だ。ラインハルトは無力さを覚えていた。今になって初めて分かった。あの敵は、シャロンという存在は、自分たちでは到底かなわないほどの力を持っているという事を。帝都オーディンのシャロンの宣戦布告の時、何故自分とキルヒアイスをイルーナたちが止めたのかわかった。
あれは手を出してはいけない相手だったのだ。
だが、とラインハルトは思う。手を出さなければこちらがじりじりとやられていた。それを座してみていることなど自分には出来ない。では一体どうすればよかったのだろうか。策は・・・策はなかったのか。
「ラインハルト」
イルーナの声がした。彼女の身体から淡いグリーンのオーラが噴出している。
「怖がることはないわ。心配することはないわ。私があなたを守るから」
噴出するオーラの中、彼女が笑いかけるのがラインハルトに見えた。それはあの幼少期、自分、キルヒアイス、そしてアンネローゼに見せたあの笑顔だった。一瞬ラインハルトの心はあの幼少期に飛んでいた。
「約束したものね。私はアンネローゼと約束した。あなたをこの命に代えても守り切るって」
「待ってください、姉上――」
「砲撃、来ます!!先ほどの砲撃よりも規模が・・・規模が・・・・そんな・・・・・」
オペレーターが絶句する。背後、アーレ・ハイネセンの球体よりもずっとずっと巨大な禍々しい赤い物体が存在していた。幾筋もの閃光がその物体から解放されて突進してくる。
白い光が脳裏にはじけ、ラインハルトの意識は消滅した。
* * * * *
「では、御機嫌よう。イルーナ、フィオーナ、ティアナ、アレーナ、そしてラインハルト、キルヒアイス。私の名前をその魂に刻み付けながら、地獄の底で未来永劫苦しむがいい」
シャロンは無造作にエネルギーを解放した。いくつもの巨大なフレアのような物が巨大球体から放出され、大奔流となってはるか先のローエングラム本隊とその周りの自由惑星同盟艦艇を飲み込んでいく。
あたり一面が漆黒の状態に戻った時、射線上には時折イナズマのように走るエネルギーの残滓以外には何も残っていなかった。そう、一隻残らず。
「ククク・・・・・・」
シャロンの肩が震えている。
やった、ついにやったのだ。
自分に仇成す者を塵クズに変えてやったのだ。まだ残党はいるが、そんなものは意に介さない。いつでも潰せるのだ。
「ククク・・・・ハハハ・・・・アハハハハ・・・・・」
おかしい。おかしくておかしくてどうにかなってしまいそうなほどおかしい。そうだ、やったのだ。ついに、ついに――。
「アハハハハハ!!!!!!アハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!アハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!」
シャロンのオーラを纏った狂気な笑いはいつ果てるともなく鳴りやむことがなかった。
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