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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第百三十一話 決戦!!ヴァーミリオン星域会戦です その4

「ファーレンハイト、シュタインメッツ!!」

 カロリーネ皇女殿下は艦橋で思わず叫んだ。不思議そうな顔をするコーデリア・シンフォニー中将に、

「お願い!ファーレンハイト、シュタインメッツを救って!!第二十八、第二十九艦隊よ。あの2個艦隊の司令官は私の知り合いなの!!」
「皇女殿下の知り合い・・・・?あのファーレンハイト、シュタインメッツがですか?」
「ええ、そうよ!!」
「てっきりシャロンが引き抜いたものかと・・・しかし、遅かったようです」
「どうして!?今からでもまだ間に合うわ。2個艦隊を仲間に引きずり込んで、あなたがさっきやったように洗脳を解除すれば、きっと仲間になる!そうすれば4個艦隊になるわ。そしてビュコック提督たちも――」
「無駄です」

 カロリーネ皇女殿下の声をコーデリアは遮った。

「どうして?」
「彼らは戦死しました。第二十八、第二十九艦隊の旗艦の反応はありませんから」
「どう・・・して?」

 カロリーネ皇女殿下の声はかすれた。嘘だ、嘘だ、嘘だ・・・・。あのファーレンハイト、シュタインメッツが、死んだなんて――。

「嘘、嘘よ――」
「嘘ではありません。いいですか、皇女殿下、時間がありません。今はローエングラム本隊を救う事を優先するのです!!」

 押し出そうになった悲鳴と叫びをカロリーネ皇女殿下は懸命に押し殺した。



* * * * *
「おのれ・・・・何という事を・・・・・」
 
 ウランフは艦橋で歯噛みした。目の前で行われているのは、一方的な虐殺である。自分たちが命を賭して戦ってきたことをまるで無意味にする所業だった。民間船団が敵艦隊に突入しているのだ。狂奔な喊声と共に。

「これはどういう事だ!?最高評議会議長につなげ!!」
「・・・・駄目です!無線の応答はありません!!」
「では、ビュコック、クブルスリー両提督につなげ」
「はっ!」

 ウランフ、そしてビュコック、クブルスリー艦隊の洗脳をシャロンは意図的に解いていた。もはや用済みの人間は敵味方もろとも処分しにかかるつもりだったのである。
 むろんそれを3提督ともに知ることはなかった。
 両提督がディスプレイ上に姿を現した。

「ご覧になっておりますか、自由惑星同盟の帝国に対する所業を」
『所業、と言ったかね。そうじゃな、確かに戦いと表現するにはあまりにもむごたらしいものじゃからな』
『私も同感だ。これでは虐殺ではないか。いや、虐殺よりも始末が悪い。人間をまるでゴミのように処理するなど――』

 クブルスリー大将は口をつぐんだ。それ以上の言葉が見つからなかったようだった。

「もう、我慢なりません。我々は、いや、少なくとも私はこのような所業に連なるために軍人になったのではない。軍人として本分を尽くすのみです」
『つまり、貴官は戦うのじゃな。あの者と』
「そうです。つきましては、どうか我が艦隊の将兵たちの事を――」
『それはいらぬ世話ではないかね?ウランフ提督』
「は?」

 ウランフはビュコックの言った言葉を理解できなかった。

『見たまえ、皆貴官についていこうとしている』

 振り返ると、クルーたちが一人残らず立ち上がってこちらを見ている。のみならず、麾下の各艦隊からもウランフを支持する声が、万雷のごとく通信を介して聞こえてきている。

『そして我々も貴官らだけに荷を背負わせることはしない。協力させてもらおう』
「なんと!?」
『驚くふりはやめたまえ、貴官はそれを見越して我々に通信してきたのだろう?そうでなければ、とっくに貴官だけであの者の元に向かっているはずだ』

 ウランフは苦笑した。バレていたのか、と。

「申し訳ございません。」
『なに、年寄り、それも老いた軍人ばかり生き残っても仕方ないでな。こうなれば一刻も早く体形を整えて帝国軍を掩護しなくてはならんな』
『しかし、帝国軍が承知をしてくれるでしょうか?ビュコック提督』
『するしないにかかわらず、じゃ。帝国軍も防戦に必死じゃから、此方を攻撃する余裕などありはせん。まずは行動で示し、しかる後に通信を行えばよいじゃろう』

 3提督はうなずき合った。覚悟は決まった。

「聞いてくれ、皆!!!」

 ウランフは大音声を張り上げた。

「見てのとおり、自由惑星同盟の最高評議会議長は帝国軍に対し我が自由惑星同盟の民を人間爆弾として投じている。これはもはや戦いではない。そしてそのような所業をする人間の指示を受けるべき言われもない!!あれは自由惑星同盟の人間ではない!!!」

 ウランフは階級章をむしり取って捨てた。

「私は私の本分を、自由惑星同盟の軍人として果たすべき役割を・・・・・いや」

 ウランフは一瞬苦笑し、そして顔を引き締めた。

「もはや自由惑星同盟などという呼称は存在しない!それはあの者の傀儡の名称にすぎない!我々は我々らしく戦い、我々の誇りを取り戻そうではないか!!」
『おおうっ!!』
『ウランフ提督!!!』
『私たちもついていきます!!』

 万雷の喊声が上がった。ウランフはそれに大きくうなずき、そして背後のディスプレイを振り向き、うなずいて見せた。

 覚悟は決まった。

「全艦隊、全速前進!!帝国軍と共同し、包囲網を切り崩せ!!!」

 ウランフが叫んだ。

* * * * *
 自由惑星同盟のうち、第二、第五、第十艦隊が奇妙な動きを見せたことをシャロンはすぐに察知した。
 ククク・・・と、シャロンは笑みを漏らした。潰すにしても少しは潰しがいのある戦いになってほしい。ビュコック、ウランフ、クブルスリーが造反することも計算に入れていた。むしろこうなることを待ち望んでいたのだ。

「3提督は、私に対して反逆なさるのかしら?」

 シャロンは無理やり通信を3提督の旗艦につなげた。ディスプレイ上に3提督の顔が並んだ。一様にこちらをにらみつけている。そう、その顔だとシャロンは思った。反抗的な顔色を恐怖で塗りつぶすことこそ、此方の望み。

『反逆?違うだろう?そちらが自由惑星同盟に対して反逆したのだ。同盟市民を捨て駒のように特攻させるなど、常軌を逸脱している!!』
「あら、それは違うのでは?彼らは『自発的に』『私を崇拝して』行っているのです。私はやめろと言ったのですけれどね。自らの『意志』を止めることはできません。人が人の意志を表現できる制度、それが民主主義ではなくて?」
『ふざけるな!貴様に洗脳されたのだろう!?』
「そう思うのでしたら、それで結構。問題なのは彼らが『幸福』であるかどうかなのですから。そして私はその点において十分に職責を果たしたつもりですわ」
『詭弁はやめてもらおう』

 ビュコック提督が低い声で言った。

「あら、詭弁とは?」
『言葉通りの意味じゃ。貴官は少々『オイタ』が過ぎたようじゃな。ここら辺でちと再教育を施す必要があるじゃろうて』
「あらあら、これは手厳しいですわ」

 シャロンは笑った。見た目は自分は20代であるが、ビュコック提督のそれこそ何百、何千、何万・・・・何十兆倍という時を過ごしてきたのだ。そう、永遠に近いほどの。

「では、お望みどおり私に挑んできなさい。すぐその言葉を後悔する時が来ますわ」
『どうかな?最高評議会議長閣下、随分とこちらを軽く見ておられるだろうが、果たして最後までそう見続けられるかな?』

 クブルスリー大将の言葉を聞いたシャロンは、

「すぐにわかりますわ。では、あなた方もヤン・ウェンリー同様に自由惑星同盟の軍階級を剥奪することを最高評議会議長の名において宣言します。旧3提督、御機嫌よう」

 といい、通信を切った。

『閣下、どうされますか?』

 常に通信を開いているアンジェが尋ねてきた。

「こちらには麾下がいくらでもいる。適当に割いて適当に相手をさせてやればいいわ。希望の芽を発芽させ、それを種子もろとも打ち砕いてあげる」

 シャロンは無造作にそう言った。

* * * * *
自由惑星同盟側の艦艇総数はもはや計り知れない。何十万隻という艦艇が帝国軍の周囲に群がってきている。

 後退の先頭をルッツ艦隊がとり、その後ろをローエングラム本隊、そして、右翼をメックリンガー艦隊が固め、左翼をロイエンタール艦隊が固め、殿をミュラーが務め、各艦隊は死力を尽くして戦った。
 そこに、外周から援軍として参戦したビッテンフェルト艦隊、ケンプ艦隊、バイエルン候エーバルトの艦隊が加わり、ラインハルトの旗艦を中心点として方円陣形を構築し、徹底抗戦を展開した。
 まるで餓狼のように、散開しては突撃し、何十という波状攻撃を仕掛け続けた。その様子は猫が鼠をいたぶる様子に似ている。鼠共はただ逃げることしかできなかった。戦艦、駆逐艦、巡航艦、艦長、提督、兵卒、従卒・・・・すべてが関係なしに命も物も宇宙の塵と化していく。

「鼠共が・・・・逃がしはしないわ」

 シャロンは指を鳴らした。すると、図ったかのように、彼らの前方に10万隻近い艦艇が出現し、体当たりを仕掛けてきた。次々と明滅する光球。シャロンの名前を叫び続ける狂信者たち。そしてそれに呼応する悲鳴が通信越しに聞こえ、途絶えていく。

 不意にシャロンの微笑が固まった。グリーンの艦艇群の一部が帝国軍を支援する動きを見せ始めたのだ。ほんの一時前は『味方』だった同色の艦艇群にビームの驟雨を浴びせかける。帝国軍は戸惑っていたようだったが、彼らと協力し、猛反撃を開始した。


* * * * *
 ラインハルトは緩急自在な指揮を執りながらも、内心焦燥感で一杯だった。敵側がとった策は残虐さという点であまりにも彼の想像を越えていたものだった。こちらは無人艦艇を敵にぶつける策を取ったが、敵は「有人艦艇」を狂信者たちを乗せた艦艇を恐怖と共にぶつけてきたのだから。
 いや、その所業に差異はないのかもしれないとラインハルトは思った。結局のところ、先ほど自分がとった策の意趣返しをやられているような気がしてならなかった。
 自由惑星同盟艦艇が協力を申し出たときには驚いた。ヤン・ウェンリーというかつて惑星イオン・ファゼガスであったあの男が、そしてもう一人女性指揮官が協力を申し出てきたのだ。
 彼らと合体し、死力を尽くして戦い、これで脱出できるかと思ったのもつかの間。戦況は一気に急転する。

「ケンプ提督が戦死!!!」

 衝撃が飛び込んできた。ケンプ艦隊は敵を相手取り縦横無尽に戦ったが、一瞬の隙をつかれ、旗艦に狂信者たちの船が突っ込んできたのだという。
 脱出者ゼロ。それほど一瞬で勝負が決まった。
 ケンプ艦隊は四分後裂したが、後任の副提督である女性士官学校出身のアーダリチェ・ノエルケット中将が指揮権を代行して奮闘した。

『シャロンシャロンシャロンシャロンシャロン!!』

 声は絶え間なく聞こえてくる。シャロンが無理やりに通信をこじ開けて流しているのだ。ラインハルト以下将兵は気が狂いそうだった。自軍の指揮官の声を押し分けて、聞こえる声。熱狂的な声。

『シャロンシャロンシャロンシャロンシャロン!!』

 左翼メックリンガー艦隊が集中攻撃を受け、その穴から敵戦艦と艦艇が飛び込んできた。一目散にブリュンヒルトを目指してくる。

「全艦隊、応射!!」

 ラインハルト死守の使命を受けたアレット・ディーティリアが奮戦する。次々と特攻してくる敵を相手に彼女はどれだけ奮戦し続けただろう。ロワール・ルークレティアがウルヴァシー守備の指令を受けていた以上、彼女一人で奮戦するほかなかった。
 ルグニカ・ウェーゼルは既にいない。絶えず襲い掛かってくる敵艦隊の強襲を受けて、最後は体当たりを受け、乗艦もろとも四散していた。
 イルーナもアレット同様だった。彼女もラインハルトと手分けして声をからして緩急自在な指揮を見せ、直属艦隊を指揮していた。戦局全体をラインハルトが見、直属艦隊をイルーナが指揮する。こんな場面が以前あったとラインハルトは思い出した。
 そう、帝都オーディンにおいて10万隻以上の正規艦隊に待ち伏せされたときだ。あの時も――。
 死んだ。フロイレイン・ジェニファーが死んだ。
 そして今度もケンプが戦死している。ルグニカも戦死した。死者はさらに増えるかもしれない。けれど、足を止めることはできない。今止めれば全滅は確実だ。

「危ない!!上方から艦艇多数!!突っ込んできます!!」

 オペレーターが叫んだ。

「応射、間に合わない!!」

 瞬く間に無数の点が無数の艦に化けた。それも民間船と戦闘艦が入り乱れてブリュンヒルトに突っ込んでくる。

『シャロンシャロンシャロンシャロン!!』
「撃ち返せ!!」

 イルーナが叫んだ。同時に彼女はオーラを展開し始めた。だが、一隻の戦闘艦が彼らの行く手を阻んだ。

「ローエングラム公の元に行かせるものですか!!」

 大音声がイルーナの脳裏に聞こえた。アレットの乗艦が黄色のオーラに包まれながら、彼らの射線上に立ちふさがる。

「主砲斉射、敵、射線上、角度、+2度、照準合わせ、テ~ッ!!」

 アレットの乗艦はスキールニル同様、一門ごとの口径が大きく、さらにそこに彼女のオーラを込めて撃ち出すことで一斉射で敵艦を木端微塵に粉砕した。アレットは身を挺してブリュンヒルト上方の敵を排除し続けたが、一隻の敵艦が弾雨をかいくぐって突入してくるのに対応が遅れた。
 
「アレット!!」

 直後、敵側とアレットの乗艦とがぶつかり合い、光球が明滅した。

* * * * *
 シャロンは目の前の戦況を眺めている。ここまでは予定通りだ。邪魔者が集結し、手を組むことも意図していた。敵の戦力はある程度分散されてしまっているが、それは仕方がない。完璧な状態を望むことは如何に自分でもできないのだから。
 後は仕上げだ。

「さて・・・そろそろ私も動くときが来たようね」

 シャロンは微笑を浮かべながら部屋を出ていく。行先もやることも決まっていた。

* * * * *
ミュラー艦隊のさらに後衛をフィオーナ、バーバラの2個艦隊が務めていた。その2個艦隊と相対するのは、アンジェの指揮する正規艦隊群である。これは当初戦っていなかった艦隊であり、余力と気力を持て余している精鋭たちであった。
 如何に、フィオーナとバーバラが緩急自在な指揮ができるといっても、手ぐすね引いて待っていた予備兵力と連戦続きの自軍とでは勝負は明らかだった。

「もう駄目・・・・・」

 開戦前2万余隻を数えたフィオーナ艦隊、そして開戦前15,000隻を数えたバーバラ艦隊は既に半数近くまで減っている。それでも何とか持ちこたえているのは両将の指揮と統制力だったが、それも限界に近づいてきていた。

「あっ・・・・!!」

 フィオーナが叫んだ。ミュラー艦隊に対し、別の自由惑星同盟艦艇が体当たりで襲い掛かってきている。いつの間にかワープアウトしてきたのか、それとも手いっぱいの自分たちをしり目に悠々と通過していった正面艦艇の一部なのか、わからない。
 ミュラー艦隊は応戦を始めるが、敵の勢いは尋常ではない。

『フィオーナ!!』
「どうしたの!?」
『行って!!ここは私が抑えるから、行って!!ミュラーを助けてあげて!!』
「駄目!!そんなことをすればあなた一人になるわ!!」
『構わない!!』
「私がミュラーのことを心配しているのだったら――」
『違うわよ!!ミュラー艦隊が消滅すれば、ラインハルトの本隊にもろに攻撃が来る!!それでは遅いのよ!!』

 フィオーナは迷った。だったらバーバラが行けばいいとも思った。数の上ではまだ自分の艦隊の方が多い。1万を割り込んだバーバラ艦隊では4万隻を数える正面の敵を抑えることはできない。

『行って!!フィオーナ、行って!!』
「・・・・・・」
『私の代わりに・・・・ラインハルトを守って・・・・!!』

 フィオーナはミュラー艦隊の方を見た。オーラを通して感じられるのは、次々と打ち減らされ、鉄壁と呼ばれるミュラーが崩されていく姿だった。もうぐずぐずしてはいられない。

「バーバラ・・・ごめんなさい!!」
『主砲、斉射、3連!!』

 答える代わりに、凛とした声が聞こえてきた。バーバラはまだ抵抗をあきらめていない。

「全艦隊、ミュラー艦隊の援護をすべく、この戦闘宙域を離脱します!最大戦速!!」

 離脱するフィオーナ艦隊をバーバラ艦隊が掩護する。敵が攻勢をかけてくるが、バーバラは奮闘した。彼女は艦橋にあって、大音声で麾下たちに叫んだ。

「最後の最後まで、絶対に、抜かせない!!フィオーナ艦隊が離脱するまで、何としてもこの場を死守する!!」


 
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