クラディールに憑依しました
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好き勝手やったツケが回ってきました
第九層がクリアされて第十層の街にて、俺はリズベットを探していた。
中央の転移門広場では、早速職人達が商品を広げてバザーを開始している。
その中で髪飾りが特徴的な女の子を見つけた――居た、リズベットだ。
「すいません、剣が欲しいのですが」
「あ、はい――いらっしゃヒっ!?」
「……」
「……」
「変わった挨拶ですね」
「あの、いえ、すいません……いらっしゃいませ」
俺ってそんなに強面かなー。
「それで、剣が欲しいのですが」
「は、はい、ウチで扱ってる剣はこちらです」
「――この両手剣のデザインが良いですね、十二本程売って貰えますか?」
「え?」
「十二本、売って下さい」
「あの――そんなに、何に使うんですか?」
「モンスターを狩るんですけど、何か?」
話が噛み合ってない様だ。
「ほ、本当に? お一人で?」
「素材メニュー見ます?」
俺はこれまで狩ったモンスターの素材のごく一部、倉庫にしまう前の素材を表示してリズベットに見せた。
「す、凄い数と種類ですね……レアドロップまで……各階層の素材が全部ありそう」
「流石にコンプしてる訳じゃないですけど、大体夜だと狩場が空くんですよねー、あ、コッチの武器も研いで貰えますか?」
両手剣が二種類、十二本ずつで計二十四本、耐久度がギリギリまで減った状態で放置してある。
「ち、力持ちなんですね、そんなに武器や道具を持てるなんて」
「俊敏に振るのは最後の予定です――まだ攻撃を当てられるのでギリギリ付いて行けますし……あ、コイツ等まだ強化して無いので限界値まで強化やって貰えますか?」
「え? え? 全部ですか?」
「ええ、成功率を限界まで上げる強化素材も本数分、全部有りますし――全部重量と耐久度強化でお願いします」
「ふ、普通は命中補正とか俊敏補正をお願いされるんですけど……」
「狩場では出来るだけ長く持って居たいので」
「……お金は大丈夫なんですか?」
「八層で一度は散財したんですけど……九層で頑張って稼ぎ直しました」
グッと親指を立ててメニューの中からコルを表示――始まりの街で安い家なら買えてしまえる程の額がある。
「い、家とか家具とか買ったりしないんですか? こ、恋人さんに何か買ってあげたりとか」
「家具でモンスター倒せるなら、ソファーやベットを背負って角で倒すんですけどね……残念ながら恋人を作る予定はありません――ええ、残念です」
「…………あの、強化に凄い時間掛かると思うんですけど」
「とりあえず、そこの剣さえ売って貰えれば、三日後ぐらいに取りに来ますよ?」
「え? でも……」
「…………んー。 なら良いです。 この素材は全部NPCに店売りにしてコルに変えます。 縁が無かったと言う事で……失礼します」
お辞儀をして去る…………。
…………あーぁ。 どうするかなー。 リズベットの鍛冶スキルを早めに上げようと思ったけど――あの態度は間違いなく裏があるよな。
近くにNPCが出してる露店を見つけて売却可能か確認する、NPCに雑魚から集めた素材、レアな物もいくつか有ったが纏めて範囲指定して売――――。
「ちょっと待ったッ!?」
OKボタンを押す寸前にリズベットに肩を捕まれた。
「あんた何してんの!?」
「……要らない素材を売る所ですけど? 重いだけだし――何故此処に? 露店は良いんですか?」
「あんたが『素材を全部NPCに店売りする』なんて言うから、まさかと思って付いて来たのよッ!! それだけの素材を店売り!? それでどれだけの武器や防具が作れると思ってるの!?」
「要らないんで」
リズベットが俺の襟首を思いっきり引っ張った――ハラスメントコードが表示される。
NPCに素材を売ると言う事は、その素材は市場に流通する事無く、完全消滅する事を意味する。
「もういっぺん言って見なさいッ!!」
「要らない」
リズベットの鍛冶ハンマーが俺の頭に振り下ろされ、ノックバックが発動する。
圏内だからノーダメージなのだが――怖いものは怖いな、特に女の子が怒った時の雰囲気は、正面に立つ事さえ勇気が要る。
「ふざけるなッ!! このゲームはただのゲームじゃないのよッ!? それだけの素材と同じ量を集めるのにッ! ――どれだけの人が命を掛けると思ってるのッ!?」
リズベットが涙を浮かべながら訴えてくる…………だが、俺はリズベットの手を握り返し、逃げられない様にしてから――こう言ってしまった。
「俺がさっき立ち寄った鍛冶屋の子にも、同じ台詞を言ってやってくれ」
「――――――――――ッ!!」
大粒の涙を流しながらリズベットはその場に座り込んだ――――先生っ!! 周辺からの視線が物凄く痛いですッ!!
とりあえず、『場所を変えよう』とリズベットを宥め、露店の商品を片付けさせてからバザーを去った。
――そして現在、リズベットの借りた部屋にお邪魔している。
「……客を選んだりして悪かったわ」
「いや、俺も相当無茶な要求をしたし」
リズベットはまだ涙目だ、時折頬に涙が零れたりしている。
「……違うの……友達がね……教えてくれたの、あんたに良く似た人に毒を飲まされたり、倫理コードがメニューの中にあるって勝手に解除されたりしたって」
――物凄く身に覚えのある話だったッ!!
「……それで、アルゴに本当にそんな危険人物が要るのか聞いて見たんだけど――」
……アレは第一層でアスナと別れた後の事だ――迷宮区のセーフティーゾーンで会ったアルゴに、カルマ回復クエストの情報を買いながら――笑顔で毒を盛った。
薬剤調合スキルで作った毒の成功率が見たくてな、思わず盛ってしまった――反省はしてない。
「アルゴも――『同じ手口で被害にあった事があル』って……涙を流しながら話してくれて」
――どうなんだ!? その涙とやらはフェイクか!? それともマジで悔しかったのか?
レアアイテムっぽいドロップを十五個選ばせてくれてやったじゃねーか、まだ不満だったのかよ。
「他にも睡眠PKをやってる連中に混ざって――小さな女の子に悪戯したとか……」
――あぁ、混ざったな、確かに混ざったよ? 全員麻痺させてコリドーで牢獄送りにしてやったし、小さな女の子をからかったりしたな。
「『その子がどうなったのかは――想像にお任せすル』って……きっと酷い事をされて――うぅ……」
任せるな、そこを想像に任せるなよッ!! そしてアルゴもそこで話を切って想像させるなよッ!! ――狙ったなッ!? 一番想像させちゃ駄目な所だろッ!!
「オレンジプレイヤーになっても直ぐにカルマ回復クエストを受けて――街中で次の獲物を探してるって」
「そりゃ不便だからな!? 転移門が設置されてる街に入れなくなったらどうやって生活するんだよ!? 高い転移結晶を使うかボスの部屋を通らなきゃ階層移動も出来ないんだぞ!?」
「えッ!?」
「――ん?」
ガタガタとリズベットの肩が震えだした、入り口とは逆の壁に背中を貼り付けてこちらを凝視している――何なんだ?
「――ま、まさか……本物っ!? あんたが……そうなの!?」
「ちょっと待て!?」
「……アスナが気を付けなさいって――アルゴが次に狙われる可能性が高いのは鍛冶スキルが高い――あたしみたいな女だって……うぅ……」
「待ってくれッ!! 誤解だッ!! 一部事実だが真実ではないッ!! 真実じゃないんだッ!! 今から当事者全員を呼ぶからッ!! 直ぐ来てもらうからー!?」
『マジで助けてくれッ!! 謝りたいから今直ぐ来てくれッ!!』
――そのメッセージをアスナ、アルゴ、シリカの三人に送り……俺はみんなからの返信を待った。
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